Mag-log inそして、私たちは園内にあるレストランに来た。
「美味しそうなのいっぱい!」 食品サンプルを見て気分が高揚する。ガラスに張り付くように、食品サンプルに見入ってしまった。 「決まったか?」 「……」 集中していると蓮から声をかけられる。私は蓮の言葉に反応することなく、ジーッとメニューを眺めていた。隣からクスッとした笑い声が聞こえて顔を上げる。蓮は優しく微笑んで私の頭に軽く手を置いた。 「ゆっくり決めろ」 「……うん!」 そう返事をして、もう一度ショーケースに視線を落とす。どれもこれも美味しそうで、なかなか決められない。しばらく無言でショーケースを眺めていたが、やがて一つに絞り、券売機へ向かった。 券売機の前には長蛇の列が出来ていた。長時間立っていたため足が棒になりそうだったが、蓮と会話をするだけでその疲れも忘れさせてくれた。私たちの番が来て食券を購入する。列の流れに合わせて商品を受け取りあれから私たちはホテルに戻ってきていた。部屋に入った瞬間、私は勢いよくベッドに跳び込む。志織もゆっくりとベッドに腰を掛けた。「陽菜」「ん?」 私は横になりながら枕を抱いて、顔を志織の方に向けた。「翠と何話してたの?」「んー……」 志織は小さく眉を寄せている。私は枕に顔を埋めて今日の光景を思い出した。「明日の朝、滝見に行こうって話してた」「滝?」 志織は少し目を見開いて首を傾げる。私は体を起こして志織と向かい合う。「うん。この近くにあるんだって」「へー。よく知ってるね」「翠のことだから、たくさん調べたんだろうなぁ」 私はその光景を思い浮かべて思わず笑みがこぼれる。いないはずの翠の影が浮かんだ。「陽菜ってさ……」「うん」 志織が少し言いづらそうに言葉をつぶやく。「翠のこと、まだ好きなの?」「……」 私は一瞬黙った。聞かれたくないわけではなかったが、自分の気持ちに答えを出せていない。志織は微笑んで、私の手に志織の手を重ねる。「別に無理やり聞くことはしないけどさ。陽菜の気持ちが気になる」「私は……」 志織が息を呑んだ。私は一度目を瞑って深呼吸し、ゆっくりと目を開いた。「正直、分からない。確かに最近までは翠が好きだった。でもそれ以上に蓮が大切な存在になってて……」「うん」 志織は頷いて話を促す。私は考えながら一生懸命言葉にした。「少し前までは蓮と付き合ってるのに、翠といると緊張してしまう自分が許せなかった。でも今はなんか違うんだよね。翠と話しているとなぜか翠に対して申し訳ない気持ちになる。だから、この気持ちを確かめたい」 そして真っ直ぐに志織を見つめる。志織の重なった手に力が入ったような気がした。「そんな感じかな」「……そっか」 志織は一度下を向く。そして、柔らかい笑みを浮かべて顔を上げた。「強くなったね」「そうかも」 私は小さく頷いて笑みを浮かべる。志織はパチンと手を叩いた。「よし! じゃあ、今日もいっぱい食べて最終日楽しもう!」
二日目は自分たちで作ったプランをもとに、自由に周ることになっていた。私たちの班はお寺巡りをする予定である。「陽菜ー速いよ」「だって!楽しみなんだもん!」 軽やかに歩く私の後ろで、志織は肩を上下させながら息を吸っていた。「朝から元気だな」 志織の横で眠そうにしている蓮が目を擦っている。「いっぱい寝たからね」「そりゃ良かった」 蓮はいつもよりも柔らかい笑みで私を見つめる。「ほら、早く行こ!」 私は志織の手を引いて歩き出した。「あ、陽菜待ってよー」「俺らも行くぞー」 蓮と直宏が笑いながら後ろをついてくる。 まずやってきたお寺は京都の街を一望することができるお寺だった。「わぁ!綺麗……」 思わず言葉がこぼれてしまうほど、圧巻の景色だった。「ねぇ!ここでも写真撮ろうよ!」 私は三人に声をかける。三人とも笑顔で頷いた。志織がスマホを用意して構える。「はい、チーズ」 カシャっというシャッター音と同時にピースをする。志織は写真アプリを開いて写りを確認していた。「うん、いい感じ」「見せて!」 私は左側から志織のスマホを覗き込む。京都の街を背景に笑っている四人の姿が写っていた。「ね、綺麗に撮れたでしょ?」「うん! 上手!」 私たちの笑顔は今日の天気に負けないぐらい明るかった。 二つ目のお寺で私たちは別行動をしていた。「蓮、眠い?」「ちょっとだけな」 蓮は目をこすり瞬かせている。そんな蓮が可愛くて私はクスッと笑ってしまった。「ここ、最近改修されたらしいよ」「そうなのか?」「うん、さっきガイドブックで見た」 私は柵に肘をついてお寺を眺めている。少し離れたところで志織と直宏が写真撮影をしていた。私はポツリと言葉をこぼす。「建物も当時のままじゃいられないって思うと少し寂しいね」「まぁ劣化するからな」 蓮も柵に体を預けている。風で髪が靡いて前が見えなくなった。首を振って髪をどかす。小さくため息をついて言葉
今日は待ちに待った修学旅行の日だ。待ち合わせ場所の駅まで蓮と別々で来ていた。なんと、私はこんな大事な日に寝坊してしまったからだ。「おはよー!」「おはよう陽菜」 蓮を見つけて駆け寄る。肩で呼吸をしながら挨拶をした。そんな私の肩に蓮が優しく手を置く。「そんな走らなくてもまだ大丈夫だ」「う、うん」 蓮の優しい笑顔に心が温かくなった。呼吸を整えて私も笑顔を浮かべる。「陽菜、おっはよー!」 すると後ろから勢いよく抱きつかれた。「志織、おはよう!」 私は少し後ろを向いてニコッと微笑む。「早く着きすぎちゃったね」「そうだね」 志織は私から離れて、私の隣に来た。「そういえば蓮、翠は?」「あー……」 なぜか不機嫌そうな表情になる。唇を尖らせてプイッと顔を逸らした。唇を尖らせる蓮を見て、少しだけ子どもみたいだと思った。「美咲と来るって言ってたから置いてきた」「なるほどね」 もしかしたら翠と一緒に来れなかったことが少し寂しいのかもしれない。私も約束していた当日に、他の人と行くと言われたら嫌な気持ちになる。そういうことだろう。 その後、クラスメイト全員が集まり、集合時間を過ぎてから新幹線に乗った。「ワクワクするー!」「ふふっ、そうだね」 私は志織と隣同士で座っていた。通路を挟んで隣に蓮が座っている。「そうだ!お菓子持ってきたよ」「私も!」 そう言って私たちはお菓子をカバンから取り出した。「おい、あんまり食べ過ぎんなよ」 はしゃいでいると、隣で蓮が言葉をこぼす。お母さんみたいなことを言うので特に反応もしなかった。「て、聞いてないし」「聞いてる聞いてる」「雑な返事だな」 蓮は私のお菓子を取ると、パクッと口に入れる。「翠も同じクラスだったら良かったなー……」 思わず本音がこぼれてしまい、アッと口を押さえる。隣で志織が目を丸くした。「ごめん、忘れて」「う、うん」 少し気まずい沈黙が流れた。私はそれを誤魔化すように元気
「陽菜ちゃんちょっといい?」 志織と二人で片付けをしていたら、絵里香に呼び止められた。「……何?」 志織は低い声で尋ねる。絵里香はビクッとしたが、すぐに口を開いた。「陽菜ちゃんに用事があるの。少しだけ二人にさせてくれない?」「陽菜に何かしたら許さないから」 志織は絵里香を見て目を細める。私は志織の前に立ち、絵里香との間に入った。「大丈夫だよ、志織。ちょっと片付け任せてもいい?」「それは全然いいけど……」 志織はまだ不安そうに私を見ていたが、私は安心させるように微笑みを向ける。絵里香の視線からはあまり感情が読み取れなかった。 私は静かに絵里香の後ろをついていった。やがてあまり使われていない空き教室に辿り着いた。「絵里香ちゃん、どうしたの?」「……はぁ」 そこで絵里香は大きくため息をつく。「絵里香ちゃん?」「ほんと、うざいよね」「え?」 私は目を大きく見開く。すると絵里香は私の肩を強めに押した。その拍子に机に腰をぶつけてしまう。「痛っ」「蓮くんたちと仲良くして! 私たちに見せびらかして!」「なっ……」「ほんとにうざい! 私だって蓮くんと仲良くしたいのに!」「そんなの……」「うるさい!」 私が喋る隙間もなく絵里香は大きな声で話し続ける。ぶつけた腰が今更になって痛くなった。そして、もう一度私の肩を押す。先ほどよりも強い力で、床に転んでしまった。「っ……」 絵里香は声のトーンを落として言葉を続ける。「どんだけ嫌がらせしても、蓮くんから離れないし」「え?」「気づかなかった?ロッカーとか教科書とか」「もしかして……」「そう。嫌がらせの犯人は全部私。あんなことすれば蓮くんから離れると思ったのに」 絵里香の視線からは色んな感情が読み取れた。寂しさ、羨ましさ、怒り――そんな感情が混ざり合って、聞いていて複雑な気持ちになった。「だったら、もう率直に言うわ」「……なに?」「蓮くんに近づかないで」 そこで沈黙が流れる。絵里
「ありがとうございました〜!」 料理を食べ終えて、私たちは教室を後にする。「次どこ行く?」「あのさ」「ん?」 私が尋ねると、蓮が口を開く。少し申し訳なさそうにしていて、なんとなく予想がついてしまった。私は身震いをする。「お化け屋敷行きたい」 私たちはお化け屋敷の列に並んで待っている。「蓮……」「どした?」 私は瞳に涙を浮かべたまま言った。「武器って持っていっていいのかな?」「いや、何する気だよ」 蓮にツッコミを入れられるが、今は相手にする余裕もない。一人肩に力を入れていると、蓮の反対側からトントン、と肩を叩かれた。「陽菜、怖いなら辞めとく?」「んーん、大丈夫。行こ」 そう言って教室の中に足を踏み入れた。一歩進んだところで蓮がついて来ていないことに気づく。「蓮?」「……怖いくせに」 私が首を傾げると、蓮は首を横に振った。そして、私の頭に手を置く。「ほら行くぞ」「う、うん」 私は蓮の後ろをついていった。「きゃっ!」 BGMが怖くて、一歩踏み出すたびに震えていると、隣からクスッと笑う声が聞こえた。「ふふっ、やっぱ怖いの苦手なんだね」「覚えてたの?」「うん。ずっと気になってたから」「何が?」 私が首を傾げると、翠は首を横に振る。「なんでもないよ」「そう?」 いくら学校の出し物だとはいえ、怖いものが大の苦手な私を驚かせるには十分だった。「うわぁ!」 仕掛けが発動するたびに大きな声を上げる。「陽菜、可愛い」「えっ」 急に翠から放たれた言葉に、さっきとは別の意味で驚いてしまった。胸を押さえていると後ろから腕を引っ張られる。「わっ、びっくりしたぁ。急に引っ張らないでよ」「悪い。怖いかと思って」「まぁそれはそうだけど……」 腕を引っ張ったのは蓮だった。抱き締められたまま、視線を蓮に向ける。蓮の視線は、獲物を守るような鋭い目をしていた。「蓮?」
文化祭当日、私たちは完成した舞台の道具を見ていた。「わぁ、いい感じだね」 体育館に準備された背景や小道具を見て、心が引き締まる思いだった。「ちゃんと準備してただけあるな」「本番頑張らないと」 私の体は無意識に強張っていたみたいだ。蓮が私の肩にそっと手を置く。「そんな緊張すんなって」「でも……」「練習通りやれば大丈夫だから」 蓮が優しく微笑んでくれて、心の奥から温もりが広がり、ふっと体の力が抜けた。「うん、頑張る」 私も笑顔で見つめ返す。蓮の目を見ると、安心感で心が満たされた。 教室に戻ると、衣装を持って志織が待っていた。「陽菜!衣装着てみて」「はーい」 別の教室に行き、着替えを手伝ってもらいながら、衣装を着る。水色のドレス生地にキラキラした宝石のシールが付いた衣装だった。鏡に映った自分を見て思わず笑みがこぼれる。「うん、陽菜可愛いよ」「すごい! この衣装可愛いね」「でしょー! 自信作!」 そう言って志織は胸を張る。私は「おー」と言いながら拍手をしていた。「サイズもぴったり」「ほんとだ。ありがとう」 笑顔でお礼を言って軽く頭を下げる。志織は私の肩を二回叩いて、ニコッと微笑んだ。そんな笑顔に背中を押される。心臓の高鳴りを抑えきれず、走って蓮の前に向かった。「見て、蓮」 私は「じゃーん」と言うように両手を広げた。嬉しさが溢れて、思わずその場でくるりと回る。蓮は少し目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべた。私は首を傾げる。「どう?」「可愛いな」 ふわりとした笑みを向けられて思わず胸が跳ねる。恥ずかしくて視線を逸らした。「あ、ありがとう」 少しの沈黙を誤魔化すように言葉をこぼす。「蓮も着てきたら?」「おう、そうだな」「いってらっしゃい」 私は手を振って蓮を送り出した。 クラスメイトと雑談をしていたらあっという間に蓮が戻ってきた。「どうだ?」「か、かっこいいよ」 私の方が照れてしまい、すぐに視線を逸
「蓮、ちょっと来て」 翠の言葉に蓮は黙って頷いて後ろを着いていく。翠の部屋の扉を開けたところで蓮は目を見開いた。「これは……」 天井から水滴がぽつりと落ちてくる。布団の上に、深緑のシミがじわっと広がった。「これじゃ、寝れないな」「そうなんだよ……」 翠は肩を落とし、背中を丸めた。蓮は仕方なさそうに笑い、言葉をこぼす。「俺の部屋で寝るか」「じゃあ電気消すぞ」「うん」 来客用の敷布団を蓮の布団の隣に並べて寝ることになった。翠は落ち着かない様子で蓮に背中を向けて布団の中で丸まっている。
「蓮、お疲れ」 帰ろうとしていた蓮の後ろから翠が声をかける。「おう、お疲れ。翠も今終わったのか?」「うん。これから帰ろうと思ってたところだよ」「じゃあ一緒に帰るか」 そう言って蓮は翠の隣に並ぶ。二人は同じ速度で足を進めた。「もう真っ暗だね」「日が落ちるの速くなってきたな」 蓮の言葉に翠が頷く。二人が空を見上げると、三日月が浮かんでいて、夜の寂しさを感じさせた。「ていうか、翠がリレーやるのは意外だったわ」「そう?」 翠が蓮の方に視線を向けて首を傾げる。蓮は空を見上げたまま
体育祭当日、いつもよりも早く起きて、身支度を整える。グラウンドと応援席の準備があるため、三十分登校時間が早いのだ。 カバンを手に取り、扉を開ける。「陽菜、おはよう」 階段の下から蓮の声が聞こえて、思わず体が跳ねた。「びっくりした……蓮、待ってたの?」「俺もいるよ」 蓮の後ろからヒョコッと翠が顔を出す。私は階段の途中で止まり、目を丸くした。穏やかな笑みを浮かべた翠を見て頬が緩む。階段を降り、蓮と視線を合わせる。蓮は優しく微笑んで言葉をこぼした。「一緒に行こうぜ」「うん」 私が頷くと蓮は歩き出す。その
今日から体育祭に向けてリレーの練習が始まったようだ。遅くなるから先に帰って良いと言われて、帰ろうと一人で下駄箱に向かう。 靴箱を開けると、久しぶりに丸められた紙が出てきた。大きなため息をついて無造作にそれを開く。目に入った文字に私は思わず声を出してしまった。 「え……」 以前は暴言だけだった紙にはっきりと「男たらし」と書かれている。 ――どういうことだろう? 私が話す男の人といえば