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21話 正面突破の覚悟

last update publish date: 2026-11-04 13:23:21
​「……私自身が、一番にあなたと向き合い、戦わなければいけないのよ!」

​神崎家の書斎に響いた葵の声には、今まで一度も見せたことのない強い響きが宿っていた。

​玲司の眉根がピクリと跳ね上がる。

かつて自分の顔色を伺い、冷たい言葉に傷ついては静かに涙を飲んでいた「扱いやすい妻」の面影は、そこには微塵もなかった。

​「戦う、だと……?」

​玲司は冷笑を浮かべ、葵との距離をさらに詰めた。

圧倒的な体格差と圧迫感。だが、葵はもう一歩も後退しなかった。

​「ええ。橘さんや結衣に迷惑をかけ、彼らの陰に隠れて逃げ回っていれば済むと思っていた。……でも、それは間違いだったわ。あなたのその歪んだ執着と卑劣なやり方に、最初から私自身が正面から立ち向かうべきだったのよ」

​「……卑劣?」

玲司の黒い瞳に、暗い不快感が渦巻く。

​「俺は神崎の当主として、所有物を正しく管理しているだけだ。……橘の会社を潰すのも、お前の親友を追い詰めるのも、すべてはお前が身の程を弁えず俺から逃げ出そうとしたからだ」

​「所有物」という単語を何のアレルギーもなく口にする夫。

葵の胸の
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    買い出しのために、葵は大きめの帽子を目深に被り、マスクで顔を半分隠した変装姿でマンションのエントランスを出た。弁護士を通して接触禁止を申し立ててはいるものの、玲司がいつ動き出すか分からないという警戒心から、ここ数日は最低限の外出以外を控えていたのだ。​秋の冷たい風を肌に感じながら、近くのスーパーへ急ごうと角を曲がったその瞬間——。​「……お探しいたしましたよ、奥様」​目の前に、ピシッとしたスーツに身を包んだ見覚えのある男が立ち塞がった。玲司の側近である秘書だった。その背後には、黒塗りの高級セダンが音もなく控えている。​「っ……!」​葵が息を呑んで後ろに下がろうとしたが、すでに退路は断たれていた。「お一人でこのような場所に出歩かれては、旦那様がご心配なさいます。……さあ、車にお乗りください」​「いやです! 私はもう神崎家に戻るつもりはありません。弁護士を通してください!」​必死に声を張り上げて拒絶したが、秘書は冷徹に首を振った。「お一人で抵抗なさらぬ方がよろしいかと。……どうしてもと言われるなら、あなたの周囲の大切な方々に、それなりの『ご迷惑』をおかけすることになりますが」​その言葉に含まれた冷酷な脅しに、葵の身体が凍りついた。​◇​連れ戻されたのは、神崎本邸の重厚な書斎だった。ガチャン、と背後で重くドアが閉ざされ、鍵がかけられる音が響く。​部屋の中央のデスクの前に立っていたのは、何日も寝ていないのか、目の下に薄っすらとクマを浮かべながらも、底知れない狂気を湛えた瞳をした神崎玲司だった。​「……ようやく、戻ってきたな。葵」​低く這うような声。葵は恐怖で足がすくみそうになりながらも、必死に背筋を伸ばし、玲司をまっすぐに見据えた。​「勝手に連れ戻すなんて、そんなこと許されないわ……! 私たちはすでに離婚調停に入っているのよ!」​「離婚?」玲司は冷笑を浮かべ、ゆっくりと葵に近づいてきた。その圧倒的な圧迫感に、葵は一歩、また一歩と後じさる。​「裁判所を使おうが、弁護士を盾にしようが、俺の許可なくお前が俺から逃げられると本気で思っていたのか? ……甘いな、葵」​「っ……!」​「お前が隠れている間、周囲がどうなっているか知っているか?」​玲司は冷酷な響きを帯びた声で、次々と残酷な現実を突きつけた。​「お前を匿っているあの男—

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  • 「愛されてない」と諦めた私と、「愛している」と言えなかったあなた〜妻をやめて人生を取り戻した途端に後悔されても遅いです〜   18話 動き出す歯車と、密かなる反撃の準備

    ​総合病院の特別室。 点滴の処置が続けられる静かな病室で、目を覚ました葵は、結衣と橘に支えられながら少しずつ気力を取り戻していなかった。 ​「葵、お医者様からの許可が出れば、退院は明後日でも大丈夫よ。マンションの手続きはもう済ませてあるから、退院したらそのまま私の車で直行しましょう」 ​ベッドの傍らに座る結衣が、心配そうに葵の顔を覗き込みながら言った。 葵は青白い顔のまま、ゆっくりと首を縦に振った。 ​「……ありがとう、結衣。迷惑かけてごめんね……」 「バカね、迷惑だなんて思ってないわよ。私たちは相棒でしょ」 ​結衣が優しく微笑み、葵の手を握る。その温もりに包まれながら、葵は自分のお腹へとそっと視線を落とした。 (よかった……この子は、無事だった……) 夫である玲司に知られれば、間違いなく冷酷な檻に再び閉じ込められ、この子の未来まで奪われてしまう。そうならなかったことへの安堵と、これからは絶対に守り抜くという強い決意が、葵の胸の奥で静かに炎を灯していた。 ​「僕の方からも、法的な手続きの準備を進めています」 ​窓際に立っていた橘蓮が、静かなトーンで話し始めた。 「相沢さんが手配してくれた離婚専門の弁護士とはすでにオンラインで初期面談を済ませました。葵さんが退院し、アパートへ入居したその日に、正式な接近禁止命令と離婚調停の申し立て書類を神崎家へ送達できるように段取りをつけています」 ​橘の迅速かつ的確なサポートに、葵は驚きと感謝の入り混じった瞳で彼を見上げた。 「橘さん……そこまで、本当にありがとうございます。私、どうお礼を言えばいいか……」 ​「お礼なんていりません。それに、僕にとってもこれは『優秀な研究パートナー』を理不尽な害悪から守るための正当な防衛ですから」 橘は少し照れくさそうに笑い、それから真剣な表情に戻って付け加えた。 ​「ただ、一つだけ注意しなければならないのは、神崎玲司の動きです。彼は一筋縄ではいかない男だ。病院を引き下がったとはいえ、すでに水面下であらゆる手段を使って葵さんの居場所を探しているはずです」 ​その言葉通り、神崎本邸の書斎では、冷酷なまでの執念を燃やす男が動いていた。 ​◇ ​漆黒の闇に包まれた神崎家の書斎。 デスクの前に座る玲司の目の前には、数枚のタブレット端末と書類が広げられていた。 ​

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