「その厄介なクエストとはどんなものなのですか?」
ルイが思うのも最もだ。皆思うだろう。
「あー、郊外にドラゴンが3匹現れてだなぁ。それが既存のドラゴンとは一線を画していて、古代から生きているドラゴンという事かな?その討伐というか最終的にはテイムしてほしい。というクエストだ」
「そうねぇ、討伐だけならどうにでもなりそうね」
「ドラゴンをテイムってどうするんだ?」
「強者に従うのか?」
「よくわかってないから、その調査もかねてのクエストという事だ。クエストの依頼料は破格だ。『この10年、『寄せ集め』パーティの邸の使用人の給金を支払う』というものだ。どうする?」
「「「受けた!」」」
我ながら現金だと思う。
使用人の給金って結構かかるんだよね。それを支払ってくれるなら。
最近はダンジョンがチョロく感じて来ていたし、丁度いい。
「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様方」」」」」
ここにいる使用人達の給金を支払ってくれるクエストかぁ。美味しい話だなぁ。
テイムした後のドラゴンが休めるだけの広さの庭がある邸でよかった。
「あー、明後日にはクエストで出かけるから、主のいない邸を頼んだ」
俺は邸の執事長に話した。
執事長が厨房に美味い保存食の手配などをしてくれるだろう。
「しまった!場所を聞き忘れた!」
「相変わらず目先しか見てないわね。聞いたわよ。なんでも、北の渓谷らしいわ」
「防寒の装備……」
「そんなの必要ないわよ、私が防寒の魔法をかけるからそれで済むでしょ?」
心強い。ミナミありがとう!
防寒着でダルマのようになるかと思った。最強賢者万歳‼
それにしても……目的の場所が‘北の渓谷’としか俺達は知らない。
やみくもに北に進むのは自殺行為では?
「でもさぁ、それしか方法なくない?」
うーん、にしても……。
「とりあえず、うちの料理長特製の保存食食べようぜ!」
「「おー!!」」
こんなところで一致団結。いいのか?
ぐきゅるるるるるるるぅぅぅぅぅ
ものすごいお腹の音(?)が聞こえた。
その音の主は3人の男の子。
お腹の音が重なったらしい。
「ヒトの子よ、美味なものを食べているのだな」
「なんですか?食べ物を分け与えいるのに、態度が大きいですよ!」
ミナミは男の子の頭を小突いて言った。
ヒトの子?
「君達はヒトじゃないの?」
「うむ。我らは尊きドラゴンである」
その尊い存在がお腹なるほどの空腹だったんだな。
「ドラゴンならば、そこらのモンスターなんかを食べたりできるんじゃないか?」
「なっ、馬鹿を言うな!モンスターの肉なんぞ食えたもんじゃない。マズくて」
「我らは菜食!」
「そうだな、木の実なんかを食べとる。それにしても…ヒトの子が持ってるこの食べ物は美味いな」
ベジタリアンなのか?肉だけどいいのかな?
「うちの料理長特製の保存食だ。肉も使ってるけど、いいのか?菜食なんだろ?」
「やむを得ず菜食なだけで、何も肉は食べないとは言ってないだろう?」
俺達のクエストを説明したら、どんな反応をするだろう?
「これが依頼達成の証だ『大樹の葉』。エルフにもらった。鑑定でもなんでもしてくれ」「絶対その辺の落ち葉だよなぁ?」などの声が聞こえる。 想定内なので気にならない。「こちらは確かに『大樹の葉』に間違いありません。依頼達成です」「よう、おめでとさん。Sランクに昇格だな。ところで、『大樹の葉』はギルドにくれないか?」 こっちも想定内。「エルフの村長が言うには、「所有者がワーグから変わると『大樹の葉』は枯れてなくなる」だそうです。信じるも信じないもギルドマスターの自由です。ギルド所有になると、『大樹の葉』は枯れてなくなります」「フンッ、そんなのは渡したくないから口から出まかせだろう?」 親父に聞いた話と同じだな。 どこのギルドマスターも同じ動きをするのか? 『大樹の葉』をギルドマスターに手渡すと、『大樹の葉』は粉々になって散ってしまった。「予め言ったから、私に悪気は全くないですよ。魔法も使えませんし」 今まで俺は何をしてきたのだろう? ランクを上げるために冒険者をしてきた? そのために家庭を犠牲にしていた。 Sランク…になることが目標だったのか?親父を超えることか? なんかもういい。 家族と生活をしようと思う。 俺は家に帰ることにした。「何奴ッ」親父が斬りかかってきた。 想定内だけど、いい加減本気で俺の気配を覚えてほしいところだ。「あら、おかえりなさい。あなた」「父さん、おかえり~!剣術♪剣術♪」 うん、それもいいな。「あぁ、Sランクになってなぁ。目的がわからなくなって休息って感じだ。しばらくあいてができるぞぉ!」 俺はまだ小さな息子の頭をガシガシ撫でた。「燃え尽き症候群ってやつかー。わかるぞ、息子よ」 脳筋親父に言われたくない。「Sランクになったことだし、本格的に息子を鍛えようかなぁ?と」「あなた!本気で言ってるの?あの子は女の子よ?」 え?「だって、名前がビルって」「「愛称よ!!」」「本名は?」「「ルビー」」「っていうか、知らなかったのか?馬鹿じゃないのか?」 脳筋に言われたくない。 衝撃のあまり、俺の頭は真っ白になった。「女の子なら魔法使いの方が……。ミナミさんに教えてもらった方が」「私は剣術をやりたいの!」「これが血筋ってやつなのか?っていうか、ミナミに教わるのか?怖いなぁ」
「へぇ、お前はソロで今はAランクの冒険者をしてるのか。俺はなぁ、ミナミとルイがいなかったらSSランカーにはなれなかっただろうな。あのパーティの形が最高だったんだよ。あの形がSSランクなんじゃないか?ソロだったら、俺は自分で回復できないし、強化魔法はないし、恐らく罠に引っかかりまくりで、ボロボロだろうな」 そうだろうな。と、思う。 ポーションで回復しなきゃだし、持ち物が結構多い。「お前もさぁ、少なくとも回復魔法がつかえる奴がいると荷物が減って楽だけど?」 とはいえ、そんな人材どこで見つけるんだ?「そんじゃあ、次の依頼があるからまあ行ってくる」「気を付けて下さいね!」「父さん、今度剣術教えてよ!」 そこの脳筋爺さんに教わればいいじゃないか?二刀流だぞ?「ああ、行ってきます!」 親父は何もナシだな。まぁいいけど。 ミナミさんとルイさんが暮らす『寄せ集め』の邸でドラゴン達を拾って行くことにした。 俺のイメージではもっと子供だったんだけど、ドラゴン達もなんだか成長している。 見た目が青年って感じだ。 一緒にいると俺が老けたオッサンに見えることだろう…。「それじゃあ、ドラゴン達はお借りしますね!」「あの『エルフの村』を目指すのか?」「食事が…デビーの保存食は持ったのか?」「それが重要だよな。歓待されているのはわかるが、あの木の実はもういいだけ食べたからな」 余程食べたのだろう。何年食べ続けたんだ? ミナミさん(爆笑中)から聞いた森を進むこと数時間。 結構疲れた。「なんだ?最近の冒険者というのは軟弱だな」「昔のミナミでもこのくらい平気だったのに」「大丈夫なのか?」 などと言われたが、こっちは腐ってもAランカーというプライドがある! ムキになって歩いているといきなり森が開けた。「なにやらドラゴン様の気配を感じましたら、やはりあなた様たちでしたか!どうぞ、村の方へお入りください!」 招待されるように俺とドラゴン達は村の中へ入って行った。 エルフの村は大樹を中心として全体的に自然だけど、その中で美麗なエルフたちが生活をしている。 なるほど、誰でもここに来ることができるなら、森が破壊せれる事間違いなし!レアアイテムと言われる『大樹の葉』も取り尽くされ、大樹そのものの生存が危ぶまれる。 それで選ばれた人間しか来れないのか。「
「あら、久し振り。大きくなったわね。私も年かぁ。嫌だなぁ」「ミナミさんはまだまだお若いですよ(同年代の中では)」「あら♪ルイ~!ワーグ君よ~‼なんか成長してる」 そりゃあ、しばらく会わなければ成長もする。「ミナミさん…俺はこれでも子供いるんス。4才だったか5才?6才?そのくらい」「あぁ、ちょっとショックだけど……。でもそれよりも、あのマコトがお爺さんてかなり笑えるんだけど?アーハッハッハッ。ヒーッ苦しーっ」 そこまで?「ルイさん、ミナミさんが超笑ってるんですけど、俺が子供いるって話から、『マコトがお爺さんて笑える』とかって……」「うん、それはじわじわと面白いな……」 本題に入りたいんだけど、笑うのおさまってから?時間かかりそうだな。俺を指さして笑い始めるし。 邸の使用人が心配そうに見てるけど大丈夫かな? ミナミさんが笑いおさまったので、本題を話すことにした。「ギルドで「エルフの村からの依頼」を受けました。内容は「エルフの村を助けてほしい」です。抽象的過ぎてわからないけど、とりあえず行ってみようと思います。どこですか?」「「それは教えない約束だからなぁ」」「あ、依頼実行中はドラゴン達貸してください‼‼」「構わない。しかしだ。マコトがお爺さんというのはあいつらに内緒にしといた方が無難だ。もし、あいつらが爆笑したとしよう。ドラゴンのブレスだらけだ。地獄絵図だな」 俺はルイさんの注意は絶対に守ろうと思った。「うーん、エルフの村と繋がってる森は教える。行けるかどうかはあなた、ワーグ君次第よ。っく」「我慢せずにどうぞ大爆笑してください」 その日、『寄せ集め』の邸は爆笑の渦に巻き込まれた。ドラゴン達を除いて。 俺は久しぶりに我が家へと足を踏み入れた。 当然覚悟はしていた。「何奴(なにやつ)っ?」親父は知らない人間の気配を感じると斬りかかる。 うちに来る郵便屋さんが不憫だ。 って言うか、実の息子の気配もわかんなくなったのか?本気か?「わーい!父さん、おかえりなさい!」「おかえりなさい。あなた」 これが正常なお出迎えというやつだろう。 俺は久しぶりに愛する妻・ソフィアと息子・ビルの顔を見た。満足。「待てよ?ビル、ちょっと見ない間に成長が著しいぞ!一体今何才だよ?」「ヤダなぁ。5才だよ、父さん」「ちょっと見ない間って、2・
愛する妻と息子と離れる事、幾年月。俺は俺なりに努力をし、Aランクの冒険者として一目置かれるようになった。 ―――しかし。「やっぱ、親父さんがあの伝説のSSランカーだもんなぁ。羨ましいぜ」 等の言葉も飽きる程聞いた。 俺の心の中では、親父は親父。俺は俺。と割り切っているというのに、どうしてなんだかんだと俺と親父を結び付けるんだろう? 俺は実力でAランクになった。それが事実だろう?そうだろう? 俺はごく普通に受付嬢のところに今回の依頼を求めていく。「あの…これ、エルフの村からの依頼なんですよね。ワーグさんならマコトさんの息子さんですし、ドラゴン様達とも連絡をとれるでしょう?」「可能だが、その依頼内容は?」「『エルフの村を助けてほしい』というだけで、具体的には何のことかサッパリ。資料で見た昔のエルフの村からの依頼と同じですね。それによると、エルフというのは、ドラゴン様を神聖視しているようで」 ゴホッゲホゲホッ。あいつらが神聖視?なんか世も末か?「失礼。むせてしまったようだ。続けてくれ」「ワーグさんならドラゴン様達ともアクセスできますし、エルフの村に行く方法もともすればマコトさんに教えてもらえるんじゃないかなぁ?とのギルドとしての思惑です」 ドラゴン達にアクセスするのは構わないが、親父に教えてもらうのは……ミナミさんやルイさんでもいいだろう?ドラゴン達と一緒に暮らしているし。 セイムスの方に戻るんだし、愛しの妻と息子に元気な顔を見せよう。親父はどうせ元気なんだろう。「この依頼を達成すればワーグさんもついにSランクですねっ」 俺は驚いて目を見開いてしまった。そういうことなんだろう。そうかぁ。 ちょっと、頑張ってみようかな? ふぅ、久し振りのセイムスの町並み。 まぁ、たいして昔と変わらないけど。変わったところは全体的に年老いた?「なんだよ?ワーグ坊か?生意気そうな顔は相変わらずだね。実家に戻るのかい?」「ちょっと用事にな。あと、愛しの妻と息子の顔を見にな」「全くあんたは昔から一途だねぇ。家族のところに戻るなら、上がったばかりの魚でもと思ったけど、強情だし、他に用があるみたいだからやめとくよ」 そんなところも昔から変わらない。 『全体的に年老いた』の中には建物の老朽化もあるけど、人の高齢化もある。 「はぁ、ここはけっこう変わ
「母さんは父さんのために料理をたくさん作るのは苦じゃないけど、父さん以外はちょっと苦痛ね」 そういえば、俺は結婚してすぐに『寄せ集め』の邸を出ていったけど、しばらくはデビーの料理を食べてたじゃないかなぁ? というより、あの邸はどうしたんだ?「アラ、お義父さんご存じなかったんですか?ミナミさんとルイさんが暮らしてるって聞きましたよ。同時にドラゴン達も暮らしているんじゃないかしら?」 あの邸なら、庭も広くてドラゴンもたまに元の姿に戻れてストレスが溜まらないだろう。 でも、維持費……。と、ドラゴン達の食費。「それがですね。ミナミさんはいろんな魔法学校から教師をしてくれとか講師をしてくれって引っ張りだこ!その講演料やら指導料でかなりの収入があるようですよ!」 なんてこと?俺がパーティのリーダーなのにミナミの方が大人気?いや確かに、ブツリヌスにとどめを刺したりしたのはミナミの手柄だが。ミナミを見出した俺については?ミナミからちっとも聞かないのだが? 気持ち的には海に向かって「バカヤロー!」と叫びたい。「ん?ミナミとルイには子供とか孫とかいないのか?邸が無駄に広いぞ?」「お二人の選択ですからねぇ。子供は持たないという選択をしたのでしょう。腐っても平民ですし、貴族様のように跡継ぎが必ず必要!ってわけでもないでしょう?」 まあそうなんだけど、自分が今の生活で幸せ感じているから、あいつらもと思う。「それに、ドラゴン達がヒト型だと子供の姿なのでしょう?」 そういえばそうだった。忘れてることが多いなぁ。「そういうのもあるから、子供が必要だとは思わなかったのでしょうね。後は夫婦のことですから」 そうだよな。 俺の幸せの形があいつらにも当てはまるかというとよくわからないしな。あいつらはあいつらで幸せならそれでいい。 夫婦喧嘩がコワイ。ミナミに逆らいたくない。ルイ、よく生きているな。その処世術で本を書けばベストセラーになるんじゃないか?「ミナミさんは普段は魔封じの腕輪をしているらしいです。亭主関白に憧れているのかしら?ただの普通の女性になっているって聞きました」 寝言で魔法をぶっ放したりしてたらコワイ。少なくとも俺はコワイ。「おじいちゃん、怖いの?俺は平気だもん!」 ミナミと旅してないから言えるんだよ……。「ワーグのやつは今どこで冒険をしているのか
しばらくすると、ブツリヌスは消滅した。「この場合、依頼主って誰?そして報償は?」「ここに監禁されているギルドマスターがいるだろ!俺が依頼主になろう。そして、報酬も払う」 当然、俺達の目の色が変わる。「いくらですか?」「っていうか、お前ら誰だ?」 そうか、そう言えばこの人が監禁された後に俺達のパーティができたのか。「俺達は『寄せ集め』という名で活動しているSSランクの冒険者のパーティです」「はぁっ?SSランク⁈そんなもんいつできたんだ?」「このあいだ。ドラゴンをテイムしてからかなぁ?エルフの村に行ってからだっけ?」「……どっちもスゲーことしてんだなぁ。SSランク、なるほどだ。で、報酬だけど。どうしよう?そんなにランクが高い連中だと思わなかった」 しょぼいやつにブツリヌスが消滅できるだろうか? 報酬はギルドマスターの給金の中から少しづつ支払われるという事になった。 主にというか全部かな?ドラゴンの食費となる。 こうしてセイムスのギルドは良くなった。と思う。******「おじいちゃーん、もうその話は何回も聞いたよぉ!」「そうだったか?」 ―――お義父さん、私は耳にタコが…。もう足が生えそろうほど聞きましたよ…。 俺は平和に親子3世代で生活している。 風のウワサで聞いたのだが、ルイとミナミが結婚したらしい。今はあいつらも爺と婆か? ミナミに婆とか言ったらいきなり殺されそうだけど。「おじいちゃん、他の話はないの?」「お義父さん、私も他の話を聞きたいです」 これは困った。「ところで、俺の息子は何してるんだ?」「お義父さんと同じで冒険者をしてるんですよ!そして名前を忘れないで下さい。ワーグですよ!」 そうだった…。年を取ると忘れっぽくてかなわん。「確かセイムスは俺とミナミとルイがほぼ踏破してるから、他のところに行ってるのか。なんだか申し訳ない。俺達のせいで夫や親父と離れて暮らすことになってしまったみたいで」「覚悟してたことですよ」「俺だって将来は強い冒険者になってSSランクとか言われるんだ!」「へぇ、頑張れよ」 俺だって努力はしたんだからな。 ドラゴン達はミナミに懐いてるから、ミナミとルイの方について行った。 このことについて俺はそれこそ耳からタコが生えては漏れ出るんじゃないか?ってくらい孫に責められる。「