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◇相馬綺世の艱難 68

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-14 07:42:48

68

 この日、花は自分と一緒に仕事をすることになった相馬綺世という人物がどう

やら異性を惹きつけるフェロモンを出している所謂モテ男だということを知った。

 顔立ちは言われてみればそこそこ整っていた……よね、と相馬の顔の造形を

思い返してみる。

 あっ、背も高かったっけ。

『親しくなったら一緒に話せるように誘うね』って言ったものの、自分も

仕事で係わるから業務内容のことで話を交わしているだけなので

遠野や小暮の立ち位置とさほど変わりないことに気付いた。

 あぁ、安請け合いしたことが今更ながらに恥ずかしい。

 でもまぁ、彼女たちの願いは付き合いたいとかっていう大きな野望じゃ

ないので急がなくてもいいだろうし、とにかく自分は仕事面でちゃんと

補佐できるよう頑張ろう。

 その内仕事を通して少しは親しくなれるだろう。

 そうなったときに彼女たちに楽しく話せるよう、相馬との時間を

セッティングすればいいだろうと花は考えた。

          ◇ ◇ ◇ ◇

◇相馬綺世の艱難《かんなん》

 当時、29才で若手現場監督になり、事務仕事の補佐する人員を付けて

もらえるようになった相馬の元へ派遣先からやって来たのは同じく29才

の槇村笙子《まきむらしょうこ》だった。

 同じ学年ということでほっとしたのを記憶している。

 仕事をする分には年齢の差はさほど重要ではない。

 だが仕事を離れてちょっとした会話をするとなるとそこはやはり

共通の話題を振りやすいことにこしたことはないからだ。
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    106     「そういうことなら相原さんはやっぱり掛居さんにお願いしたいわ。 実は……掛居さんだから話すけど、私はカッコイイ男性《ひと》は緊張しちゃって駄目なのよー。 おばさんが何言ってんだーって笑われそうだけど。 そんなだからこの年になっても未だ独身なんだけどね」「芦田さん、私は笑いません。 私も相手が素敵な男性《ひと》だと同じです。 緊張しますもん」 相手に合わせて?  調子のいいことを言いながら自分自身に問いかけてみる。 私は匠吾だけを見て生きてきたので素敵な男性なんて他の人に対して思ったことがないんだよね~。 多少いたのかもしれないけど、私にとっては普通の男性《ひと》としてしか接してないと思われ、素敵な男性だと緊張するという経験は……なかったわっ。 ただ相原さんの場合は特殊というか、かみ合わなくてあまり接触したくないのよね。 だけど芦田さんの乙女チックな気持ちもよく分かるのでしようがないなぁ~。「ありがと、掛居さん。 私がいい年をしてこんな恥ずかしいこと話したの初めて。 共感してもらえてうれしいっていうか……。 じゃあ、今回の相原さんのお宅訪問の詳細はメールで送らせてもらっていいかしら」「はい、大丈夫です」「メールで説明してある項目以外は本人の意向を聞いてもらってお手伝い進めてもらえばいいです」「はい、分かりました」 電話を切り、メールをチェック。 凛ちゃんのことが気に掛かり、私は大慌てで出掛ける準備をした。 訪問する前に頼まれているモノをどこかで買わなきゃ。 さて、Let’s go.

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇ 付き合ってません 105 

    105「お待たせしました、掛居です」「休日でお休みのところ、ごめんなさいね」「いえ、大丈夫です。自宅訪問の件ですが行けます。 伺う時間とサポート内容、場所、それから滞在時間の目安など教えていただけますか」「有難いわ、助かります。 詳細は後からメールで送るわね。 掛居さんに担当してもらうのは相原さんなの。 場所は……」 私は『相原』という名前を聞いた途端、頭やら耳の機能が停止してしまったようで、芦田さんの話してる言葉が何も入ってこなかった。 いゃあ~、人を差別するというか、この場合自分の好き嫌いで選別してはいけないこととは分かっているものの、先月の彼とのエレベーターでの出来事を思えば、どんな顔をしてサポートに入れるというのだ。「もしもし?」「あの、芦田さん、できれば他の人と……つまり芦田さんが訪問する予定のお宅と替わっていただけないでしょうか」「……」「掛居さんは私が受け持つ人とは面識がないし、というのもあるし、ちょっと恥ずかしいんだけど言っちゃうわね。 私、独身でしょ、だから男性のお宅へ伺ってサポートっていうのは恥ずかしくて」 それを言うなら私も独身、しかも花も恥じらう? まだ20代ですってば。「あ、掛居さんも独身だけど相馬さんとも親しくしているって聞いてるし、男性に耐性あるんじゃないかと思って」 そんなこと誰に聞いたんですかぁ~、保育所勤務なのにぃ~、噂って怖いぃ~。「付き合ってるのよね?」「いえ、付き合ってません」 えっ、私ってばそんなことになってるの、知らなかったー。 相馬さんは知ってるのかしら。「でも親しくしてるのはほんとよね?」「個人的に親しくしてないつもりですが……。 そうですね、彼の仕事を手伝ってるので職場では親しくさせてもらってます」

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