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〜恋愛ゲームのラスボス転生〜
〜恋愛ゲームのラスボス転生〜
Auteur: おまゆた

第一話

Auteur: おまゆた
last update Date de publication: 2025-01-27 02:40:11

「──思い出したッ!」

 この男──ジセル・エリナスは『雷に打たれた衝撃』でとか『転んだ拍子に!』などではなく、普通に生活して普通に寝て、ある朝──目が覚めたその瞬間に突然、前世の記憶を思い出した”瑠璃川 眞”として生きていた頃の記憶を。

「そうだ……俺は、あの時死んだはず……」

 彼、眞は──日頃から通っている本屋で好きなエロ本を買った後にルンルン気分で自宅向かっている道中、急にトラックが突っ込んできてそのまま轢かれて死んだはずだった。

「っつーかジセル・エリナスって……ラスボスじゃんッ!!」

 ジセル・エリナス──前世で話題になっていた恋愛ゲーム『プリンセス・ジ・グランドハーツ』に登場するキャラクターだ。自身が保有しているその力による恐怖であらゆる人間を操り、世界を混沌に陥れようとする。

 光を反射するほどに美しい白髪に加え、逞しく鍛え抜かれた肉体を持つ彼は、男性向けゲームでありながらも数々の女性プレイヤーを虜にした。

 史上最悪の犯罪者となったジセルだが、最終的に主人公である勇者の力によって魂に存在する力と共に消滅する事となる。まるで救いようのない悪であるかのように見えるが、その実情は『好きになった子を片っ端からかっさらう勇者にイラついたジセルが、ちょっとやり過ぎて世界を滅茶苦茶にしちゃった☆』というモノだ。

「……マジか」

 基本的には勇者がヒロインの内の誰かと恋に落ちた場合、ジセルは力を暴走させてしまい勇者によって討伐される。逆に勇者が誰とも結ばれなかった場合──ジセル自身が保有している力はラスボスという宿命によるものなのか、何らかの理由で必ず暴走してしまうため討伐される。

「──いやだ」

 だが『プリンセス・ジ・グランドハーツ』には唯一、ジセル・エリナスが生存するエンドが存在するッ!

「BLエンドはいやだッ!!」

 BLエンド──主人公である勇者がジセル・エリナス以外の全てのヒロインの好感度をMAXにした場合のみ、何故か自動的にジセルと勇者がイチャイチャし始める。その結果、暴走するはずであったジセルの力は主人公である勇者の力と共にあり続けることで抑制され、史上最悪の犯罪者へと堕ちない代わりに勇者と恋に落ちるという謎エンドに到達できるのだ。

 そして『プリンセス・ジ・グランドハーツ』は男性向けゲームな為、主人公の人間的なパラメータも高い。昨今の異世界チートモノと同様、数々の男性プレイヤー達はイケメンかつ男性的な肉体でヒロイン達を攻略する勇者へと精神をダイブさせることで楽しんでいたッ!

「──クソッ、勇者テメェ! ガタイが良すぎるんだよッ!」

 つまり、ジセル・エリナスは──主人公であるイケメン勇者とBLエンドを迎えなければ死ぬ!

「俺は女性が好きだ……でも」

 もう一度言おう、ジセル・エリナスは──主人公であるイケメン勇者とBLエンドを迎えなければ死ぬ! そう決まっているのだ!

「BLエンドを迎えなければ俺は死ぬ……BLエンドを迎えなければ俺は死ぬ……BLエンドを迎えなければ俺は死ぬッ!!」

 そこまでが前世で恋愛ゲーム『プリンセス・ジ・グランドハーツ』をプレイした”瑠璃川 眞”こと”ジセル・エリナス”が持つ原作知識である。

「……ふぅ、覚悟は決まった。BLがなんだ? 死を選ぶくらいなら俺は──喜んで男を選ぶッ!」

 彼はそう宣言する。まるで、そう在らなければならないと自分に言い聞かせるように。

「でも、具体的にはどうすればいいんだろうか? これといって特別な力とかは感じないな。人を操る力とか使える片鱗すらない。なんだよ魂に存在する力って……最初から自由自在に使えるやつにしてくれよ! ……それか無難に膨大な魔力とかにしておけよッ! ……ん、いや待てよ?」

 ここは魔法も魔物も存在するファンタジーのような世界。そこで弱小ではあるが貴族の家庭に生まれ、前世の知識──死ぬ程読みまくった異世界系小説のモノや、無駄に蓄えられたありとあらゆる雑学、そしてエロ知識ッッ!! そう、特に身体能力が凄いとか、魔力が多いとか、特別なスキルが発現しているとか、そんな物はないが彼には──前世の記憶という、立派な知識チートが備わっていた!

「遂に来てしまったのか、俺の時代ってやつが……」

 何かを悟ったような表情で、部屋の窓から青い空を見上げるジセル。その青い空を見上げるという行為には何の意味も含まれていないが、とりあえず雰囲気を出す為にやっていた。別に出す必要もないのだが、まぁ良いだろう。

「しかしなぁ、前世の記憶が生えてきたからって……今すぐ何か出来る事ってあるか? 別にこの世界って、ステータスを数値化する~みたいな奴ないし……今から魔法の修行ッ!! とか言ってやってみても、成長を感じなくてやる気無くなるだろう」

 一応魔物という生物は存在するが、率先して戦いに行かなくても街には現れないようになっている為、その辺の冒険者にでも任せておけばいい。

「後は……一応俺は貴族だし、領主の息子だし……蓄えた雑学で産業革命でも起こしてみるか……?」

  と考えたものの、この世界は割と文明や化学が進んでいる。先程の魔物が街に現れない事の理由は、化学によって魔物が出現する原因である『魔素集合』という現象を解明し発明された装置が置かれた──周囲一定範囲内の魔素を常にバラバラに散りばめる事で……とかそんな感じで、割と彼の前世の知識が介入する余地がなさそうなレベルなのだ。つまり、雑学知識ももはやほとんど役に立たないであろう。残っているのは──

「──エロ知識だッッ!!」

 そう、エロ知識!! 彼女いない歴=年齢、学生時代は女友達が居た。しかし、社会人になってからはほぼ女性との接点など無く、あったとしても彼氏持ちか既婚女性。その為、不定期に家へと勝手に上がり込んでくる妹を警戒しながらも日々性欲をエロアニメ、エロ小説からエロ漫画まで、様々なジャンルを制覇する事で消化していた。

 それ程にまで体内に燻っていた彼の性欲は今の所、恐らくはあまり無い。だが、大人になったら──なってしまったらきっと! 彼はそれと戦わなければ、闘わなければならないのだろうッ!

 しかし、ここは異世界──化学や文明が発達していると言っても、アニメ文化やネット文化は無い! つまり、このままだと彼はその性欲を消化できずに、最悪犯罪者にでもなってしまう。そうなれば主人公に会うことさえ出来ずに牢屋にぶち込まれ、終身刑やら処刑やらの処罰を受ける羽目になる可能性はそう低くない。

 ジセルはそこまで熟考した後、ふと思う。

 ──ん? 俺は今、何を考えている……その夢は捨てたはずだろ。

 と。

「いや、まだだ……考えろ、俺ッ! 勇者を攻略してBLエンドを迎える為には、勇者がヒロイン達とくっつくことを阻止しなければならないッ!」

 全てヒロイン達による猛攻を阻止したとしても、勇者と恋仲になる可能性のある女性は続々と現れる。

「ならば俺は! この世界に存在する勇者の恋人候補達を……全部まるっと攻略しきってかっさらってやるッ!!」

 これが無い頭で精一杯ひねり出した──天国と地獄を唯一共存させる方法である。

「そう言えば、ウチの領内を回ってた時……平民の家付近で可愛い子を見かけたなぁ。俺じゃなくて前のジセルが……だけど」

 彼は今、|BLというハッピーエンド《バッドエンド》へ向けての|最初の一歩《ナンパ》を踏み出そうとしていた。

「……可愛い? 俺は今何を……相手は子供だろ」

 決して私欲によるものではない。例え魔法や剣術の修行をしたところで性欲を発散する事などできやしないとか、モテる可能性はあるかもしれないが確実性は無いとかでもない断じてないのだッ!

「幼い内に仲良くなって、成長するのを待……勇者の恋人候補は予め潰しておいた方が良い。……これは仕方のないことなんだッ!」

 などとアホ過ぎる結論を出してしまったこの男は、その目的を達成する為の作戦を練り始めた。

「勇者の周りに女性を寄せ付けないようにする為には、そのコミュニティに参加できる女性の仲間が必要不可欠だ」

 ──だが、どうやって?

「計画的に幼馴染になる訳か。幼馴染幼馴染……そういや一時期、幼馴染を依存させちゃう系の漫画とかよく読んでたな。それと同じ事をすれば……これから俺がやる事に全面協力してくれるんじゃないか!? 俺が前世で良く見ていたのは、ハグやら頭ナデナデ等の大変軽めのモノだが……現実でそんなんに惹かれる女性が居るとは思えない」

 ──ならば! 

 そう大袈裟に身体をクねらせながら叫ぶ。これを一人でやっているという事を考えると、ジセルは恐らく世間一般から見て──かなり変人の部類に入るだろう。

 ジセルは再び熟考する。

 ──失敗はあってはならない。合理的に、確実に、相手を惚れさせる手法を、

「ヨシッ! 『べろちゅー』して依存させて、俺無しじゃ生きられない身体にしてしまおう!」

 否──彼は欲望まみれであった。

「そうすれば、魂に存在するとかいう何の役にも立たない力を扱えなくても……ゴホンッ、使わずとも! 仲間に手伝って貰うことで無事|勇者と結ばれるハッピーエンド《バッドエンド》を迎えられるって寸法よっ!」

 そんなことを白目になりながらも宣い切るジセル。最初に思い付いた作戦モノこんなんべろちゅーである彼は果たして正気なのだろうか。

 ──この時のジセルはまだ気付かない。依存というジャンルはフィクションだからこそ良くて、現実で再現しようと試みるのは悪手であるという事に。

***********************

「確かこの辺だったと思うんだけどなぁ……」

 現在ジセルは領主の家じたく付近の民家横に存在する、遊具も何も無い──ただ木や芝が生えているだけの公園のような場所をゆっくりと歩いていた。

 この身体のジセルが前世を思い出す前の記憶にある『めちゃ可愛い子』を見かけた場所を重点的に歩き回っているのだが、全く見つかる気配がない。

「まぁ、毎日ここに居るって訳でもないだろうし……そりゃそうか。もしかしたら、もう引っ越したりしてるかも」

 そもそも──その『めちゃ可愛い子』を初めて見たのがここだからと言って、ここの近くに住んでいるとは限らない。ここはかなり広大な庭園だ。交流の為に領地の端から家族でたまたま遠出していたのかも知れない。

「また明日来ようっと……ん?」

 帰宅しようとしたジセルは、視線の先に一人の少女っぽい人間が居るという事に気付く。茶色がかった黒髪が肩に掛からない程度まで伸びていて、明らかに女性物の服装をしているその人間を注意深く見てみると──どうやら例の『めちゃ可愛い子』の様であった。

(──お? チャンスだッッ! ……いや、チャンスだから何だ? 俺は今から一体何をすればいいんだ!? ──エロ知識とか、んなもんッ! 職場や学校でもない場所で知らん人に話し掛ける時に使える知識じゃねェ!)

 身に残る唯一のエロ知識チートが、クソ程も役に立たない事を理解して頭を抱えるジセル。すると──割と距離があるのにも関わらず、この男の様子がおかしい事に気付いた少女は、下を向いた状態で悩み倒しているジセルの方へと向かった。

「……ん?」

 足元を見ていた彼の視界に、自身のモノとは違う靴が映り込む。その時点で何か色々察してしまったジセルが、恐る恐る顔を上げると──激マブの女の子にガチ恋距離でガン見されていた。

「領主様の……息子?」

 あまりの近さで少女の瞳孔が開いているのが分かり、そのちょこっとホラーな光景に心の準備などしていなかったジセルの心臓がきゅっと縮む。

(──まっずい! 向こうから話し掛けてキタァァァァァァ!!)

 そして無慈悲にも首に死神の鎌がセットされ、いつでも斬首OK状態となってしまったジセルは内心で叫んだ。

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