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67.旧敵Ⅱ

Author: 美桜
last update Last Updated: 2025-08-06 16:04:11

確かに、自分は否定しなかった。でも、肯定だってしていないのだ。

それなのに、この人は自分に一切の罪を被せようとしている…。

七海は猛烈な怒りが湧き上がるのを感じた。

「私が悪いって仰るんですか!?」

「な…!」

なんですって!?当たり前じゃない!他に誰が悪いって言うの!?まさか、私!?

英恵も怒りに顔を染めた。

「自分が〝優秀者〟かどうかはわかるでしょう!?だったら、私が勘違いしてる時点で言いなさいよ!」

「なによ!〝怜士も紹介するわ〜〟て猫なで声で近づいて来たくせに!」

「……」「……」

呆れた…。

彼女たちにかかったら、真田怜士ですら取引材料になるらしい…。

尚と聖人はその恐ろしい発想に、互いに顔を見合わせて唇を捻じ曲げた。

だが尚は、更に言った。

「大学に問い合わせれば、彼女の成績と評価は教えてもらえたはずですけどね?」

つまりは、どっちもどっち…ということだ。

「!?」

知らなかった…。

英恵は自分の軽率さに顔を赤らめた。

「まぁ、問い合わせたところで、彼女の成績は知らないけど、評価はほぼゼロだと思うわ」

「え!?な、なぜ??」

評価がゼロ!?そんな事ある!?

英恵は愕然とした。

七海も驚きながらも、訝しげに尚を見た。

「どういうこと?どうして私の評価がゼロなのよ!?」

「あら、覚えてないの?」

尚はククッと可笑しそうに目を細めた。

それは、どこか獲物を狙う肉食獣のようで、聖人ですらゾクッと震えた。

尚は楽しそうに口を開いた。

「あなた、4年生の時、1年の美月に何をした?」

「!!」

そう言われて、七海は一気に青褪めた。

呼吸も速くなって、気分も悪そうだ。

尚は続けた。

「あの年、美月が【発表会】に出れなかったのは、あなた達のせいじゃない。あなたと、他の3人?だったかしら。美月の才能に期待してた大学側が、彼女個人にレッスン室を用意したのを聞いたんでしょう?」

「あ……」

七海は、無意識のうちに後退っていた。

そうだった。自分たちは彼女に…。

「思い出した?本当、卑怯よね。自分たちに才能がないからって、僻んじゃって!」

「やめて……」

力なくイヤイヤと頭を振る七海を無視して、尚は続けた。

「あの頃、美月のレッスン室のピアノ、いつも調律が狂ってたの。調律してもしても、またすぐに狂っちゃうの。……あなた達の仕業よね?」

「ち、違う…!」

「あらあら、惚けちゃって
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