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2話

Penulis: 籘裏美馬
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-05 21:41:51

とぼとぼ、と歩く。

会社から出て、車を停めている駐車場に向かっている私は、俯きながら歩いていた。

しっかり前を見ないまま歩いていたせいだろうか。

駐車場の角から人が出てきて、その人と私はぶつかってしまった。

「──っ!」

「すみません!」

ガシャン!と私の手の中にあったお弁当を入れていた袋が落ちる。

私にぶつかってしまった人は、男性のようで。ふらついてしまった私を咄嗟に支えてくれて、すぐに地面に落ちてしまった袋を拾ってくれた。

袋に伸びる、白くて筋張った手が視界に入る。

袋を拾ってくれる動作が凄くゆっくりに見えるほど、私は呆然としてしまったいたようで。

「あの…?大丈夫ですか?」

男性が袋を差し出してくれながら、声をかけてくれる。

その声にはっとした私は、慌てて男性から袋を受け取り、頭を下げてお礼を告げて逃げるように男性から離れた。

「す、すみませんでした…!」

ぶつかってしまった事も、落としてしまったお弁当を拾わせてしまった事も申し訳なくって、私は男性の顔を見る事なくそそくさと車に逃げてしまった。

バタン、と車のドアを閉めて、顔を上げて前を向くと、ぶつかってしまった男性であろう人物の後ろ姿が見えた。

背筋を伸ばし、真っ直ぐ凛と前を向いて歩いて行く後ろ姿が、何故か御影さんと重なった。

御影さんより、男性の方が若干背が高いように見えるけれど、私は男性の後ろ姿を見て御影さんを思い出し、先程の彼の会社の専務室から聞こえた会話を思い出して辛くなってしまう。

「御影さん…凄く楽しそうで…優しい声で話してた…」

私には、あんなに優しく、穏やかな声で話してくれた事は、ほとんど無い。

まだ学生だった頃は、今よりは多少優しかったけれど、御影さんが涼子と会った後で機嫌が良い時に優しく接してもらった事が数回あるだけ。

「御影さん…」

ハンドルに額を押し付け、小さく彼の名前を呟く。

せっかく、彼の会社に来たのに。

私は冷たく言われ、会社を出てきた。

私とは違い、涼子は御影さんの会社で、彼の仕事をする部屋で、一緒に過ごしている。しかも、あんなに親しげに。

私は、暫くの時間車内で声を殺して泣いてから、自宅に戻った。

御影さんのご実家、御影ホールディングスと私の実家である藤堂家は、昔から交流があった。

お互いの祖父が、旧友だったらしく幼い頃から御影家に足を運んでいた私は、1歳年上の御影直寛さんにとても懐いていた。

格好よくて、頭も良くて、礼儀正しい。

まるで物語に出てくる王子様のようだった。

頻繁に遊びに行く事はなかったけれど、時々遊びに行った私を、御影さんは嫌な顔1つせず、私の遊びに付き合ってくれた。

その頃までは、私と御影さんはとっても仲が良かったと思う。

幼子心に、優しいお兄ちゃん、と思っていたから。

けれど、いつからか御影さんの家に遊びに行くと、御影さんの様子が少しおかしくなっていった事に気づいた。

1年、2年、と時間が経つごとに、御影さんは冷たくなっていき、私が遊びに行くと私を避けるようになっていった。

しまいには、私が遊びに行く日は御影さんが不在という日々が続いて、疎遠になってしまったのだ。

後から気づいたのだが、御影さんの様子がおかしくなった頃。

彼は速水商事の娘、涼子と初めて顔を合わせた。

そして、涼子と過ごす時間が増えていき、私と遊ぶ時間を涼子と一緒に遊ぶ時間に変えたのだ。

私ではなく、涼子を優先する。

その頃から、御影さんは涼子を可愛がっていた。

御影さんを好きになったのは、中学生の時。

小学校では御影さんとほとんど交流はなかったけれど、中学に上がり、彼と1学年しか変わらない私は、彼の行動範囲と自分の行動範囲が被っていた。

そして、彼が子供の頃に遊んでくれた優しいお兄さんだった、というのを思い出した私は、彼に挨拶をした。

最初は、少し冷たいくらいで私と話をしてくれていた御影さんだったけれど、涼子が中学に入学すると、少なかった私と御影さんのほんの数分の交流も全てなくなってしまったんだ。

どうして、彼が急に冷たくなってしまったのかも分からない。

子供の頃はあんなに優しくて、一緒に遊んでくれるような人だったのに。

また、子供の頃のように笑いかけて欲しくて。

優しく笑って、楽しい会話をしたくて。

私は御影さんに会いに行く事が増えた。

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