LOGIN私には天野亮太という幼馴染みがいる。家が隣同士で、両親同士も仲が良く、ほぼ毎日のようにどちらかの家に遊びに行くか来てもらったりしていた。
ー幼馴染みというよりは家族に近い存在 私の母親はフランス人でその血を濃く継いでしまった私は、幼い頃から髪の色とか目のこととかで、色々悩まされた時期もあった。 そんな時でも亮太は私を忌み嫌うなんてことはせず、何度も助けてくれるヒーローになってくれた。 「亮太は私のこと嫌いじゃないの?」 一度だけ彼にそんなことを聞いたことがある、すると亮太は何の躊躇もせずにこう言ってのけた。 「嫌いになんてなるわけないだろ? 周りになんと言われたって、俺は華のことを嫌いになんてならない、絶対に」 その言葉を聞いたとき、自分の胸が一瞬だけドキッとしたのを覚えている。 亮太だけは私の側から離れないでいてくれる。 それなら私は亮太の前だけはありのままの私でいたい 学校でどんな人に対しても冷たい態度を取ってしまうのは、他人を遠ざけたいと言う気持ちがあるからだった。 (亮太は気づいていないのかもしれないけど、私は亮太のそういう言葉に何度も救われてきたんだよ。だから私にとって亮太はヒーロー) そんなヒーローに私は......。 2 「偽物の彼氏作戦?」 「そうですよ、先輩に本物の彼氏がいると分かれば例のストーカーも諦めてくれますよきっと」 ある日の部活終わり。バドミントン部に所属している私は、一つ下の後輩にストーカーのことを相談してみたところ、そんな提案をしてきた。 「確かに効果はあるかもしれないけれど、偽物カップルなんてすぐにバレたりしない?」 「確かにリスクは高いと思いますが、そこまでしなければならないところまで来てしまっているじゃないですか」 「それは、そうかもしれないけれど......」 でもその相手がいないと伝えようとしたとき、私の頭の中にたった一人だけ協力してくれる人物が思い浮かんだ。 (亮太なら、もしかしたら協力してくれるかもしれない) 無茶苦茶なお願いなのも承知だけど、頼める人間が亮太くらいしかいないのも確かだった。 「どうやら意思は決まったみたいですね。協力してくれる相手もいるみたいですが」 「一人だけ協力してくれる人がいる。その人とならこの作戦を成功させられるかもしれない」 「また次いつ相手が動いてくるかわかりませんし、さっそく行動しましょう」 「今度の休日に話をしてみる。ありがとう榛名」 3 そして週末、部活の休みの日に私は亮太の家にいつものように行って、彼に今回の件を話した。 「俺が華の彼氏に?」 亮太は当然のように驚いていた。当然といえば当然の反応ではあるけれど、その顔からは決して拒絶や嫌悪の感情は見られない (私が彼女になってもいいってことなのかな) いくら幼馴染とはいえ、偽物のカップルになってほしいと言われたら最初は誰だって躊躇する感情が生まれてくるはずだ。 男女の幼馴染だからと言って必ずしもそういう関係になるとは限らないのを私は理解している むしろ私だって榛名からこの話を聞いた時点で、嫌悪感を抱いたっておかしくなかった。 (だから私が亮太に抱いているこの気持ちは本物なの?) 「本当に俺でいいのか?」 「私は亮太以外に適任はいないと思っている。亮太は嫌なの?」 その答えを知るよりも先に、亮太の本音を知ってみたかった私は、そのままの言葉を亮太に尋ねてみた。 「嫌な......わけないだろ」 すると亮太は少しだけ恥ずかしそうに答えてみせた。 「ほ、本当に?」 私はその答えをまるで待ち望んでいたかのように少し上ずった声で前に乗り出してしまう。亮太はというと何故か私から目線を逸らしながら言葉を続けた。 「ほ、本当だよ」 たった一言のその言葉だけでもあの時と同じように私の心臓は高鳴った。 (こんなに嬉しいと思える言葉なんて、今まであったかな私......) 「でも......俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、華も忘れていないだろ? 中学生の時に俺が華にしてしまったことを」 けど私のその高鳴りとは真逆に、亮太は暗そうに更にそう言葉を繋げた。 亮太にとっても私にとっても忘れることができない中学生の時に起こった事件 亮太がその責任を今日までずっと背負い続けているのを私はよく知っている。 そしてそれが亮太は何も悪くないってことも、むしろ亮太がヒーローになってくれたことも知っている。 それでも自分に責任があると言い続けている彼に、私が掛けてあげれる言葉はもう既に尽くしてしまっていた。 「今はその話はなし。亮太がなんて言おうと、どう思っていようともうこれは決定事項なの。だからお願い亮太、私に協力して」 だから私はこういう言葉しか言ってあげられなかった。しかもそれはただの私のお願いであり、ただの我儘。 「......ったく、どれだけ強引なお願いなんだよ」 それでも亮太は文句は言いつつも、私のお願いを聞いてくれることになった。 「これからよろしくね、亮太」 「ああ、よろしくな華」 こうして私たちは今日この日から、自分の身を護るために亮太と偽物のカップルになったのだった。 4 亮太のことを少しずつ意識しだしたのがいつからかと考えると、具体的には思い出せない。彼と出会ったのは大体幼稚園くらいの頃だったことくらいしか覚えていないし、どういうキッカケで遊びに行くようになったのかも分からない。 (亮太は私にとっては家族に近い存在。それ以上でも以下にもならないと思っていた) それは今も変わっていない、かもしれない。でももし偽物の関係を続けていく中で答えが出るならば、私はその気持ちに正直になってみたい。 私は本当に亮太のことが好きなのか 「亮太、ありがとう。私の我儘を聞いてくれて」 「別にいいよ。華が困っているなら力になる、当然のことだろ?」 「よく......そんな恥ずかしいセリフ言えるわね」 「それはお互い様だ」 その答えを知るための長い旅が始まった。「お邪魔します」 偽装カップル二日目にして華が提案してきたおうちデートを、断れずに受け入れることにした俺は彼女をそのままリビングに通す。「いきなりおうちデートとかハードル高いって思ったけど、よく考えたらいつも通りの俺達なんだよなこれ......」「何か言った?」「いや、何でもない」 放課後のこの時間に華が遊びに来ることは殆どなかったが、家に来ること自体は日常茶飯事なので特別なことではないのは分かっている。「それで何かやるのか? いつも来ているから知っているだろうけど、俺の家はゲーム以外何もないぞ」「ゲームはいつもしているから今日はいいわ。亮太との時間を過ごしたいし」「そ、そうか」 サラッといつもの調子で恥ずかしくなるセリフを言ってきて思わず俺は口ごもってしまう。当の華は何にも気にしていない様子で荷物を置くとキッチンへと向かった。「けどその前にお腹が減ったわ。何か作るけど材料借りていいかしら」「いいけど、華って料理できたっけ?」「これでも毎日自分のお弁当を作っているんだけど?」「そうなのか? 弁当持ってきているのは知っていたけど、てっきりソフィーヤさんが作っているのかと思った」「最初の頃はお母さんが作ってくれていたんだけど、私も自分で作ってみたくて教えてもらったのよ。それより調理器具とかどこにあるのか教えてくれる?」「華だけに作らせるのも悪いし俺も手伝うよ」 俺もキッチンに入り華の隣に立つと、調理器具を棚から取り出す。華はそれを見て何故か少しだけ驚いた様子を見せる。「どうしたんだ、こっちを見て」「亮太も料理するの?」「お前も人のこと言えないな!」 さっきの仕返しと言わんばかりに俺は華に言い返してやった。 2「そういえば華に聞き忘れていたことがあるんだけど」 料理をしながら俺はあることを思い出して、料理しながら華に尋ねる。
「おはよう亮太ぁ。今日は随分と早いわね」 翌日。 俺は約束した通り華を迎えに行くために、いつもより早起きし、学校へ向かう支度をしていると、寝室から大きなあくびをしながら母親の天野良子が出てきた。「今日も朝帰りだったのか、母さん。身体を壊さないでくれよ」「もう何年この生活していると思っているのよ。息子に心配されるほど母さんは落ちぶれていないわ」「こっちは本気で心配しているんだけどな」 俺の両親は二人とももう四十代後半の年齢なので、息子としては本気で心配はしている。本人たちはそんなこと気にしていない様子だが、いつ倒れるか分からないのが本当に怖い。 「それで何でこんなに早くに起きているのかしら。何か用事でもあるの?」「用事っていうか、その......彼女が出来たんだよ」「え?」「だーかーら、彼女ができたんだって!」 自分たちの両親には真っ先に報告すると華と決めていたにも関わらず、面と向かって報告するのも恥ずかしいので準備をしつつ報告をする。「亮太に彼女? 本当に?」 その報告を聞いた母さんは、さっきまでの眠そうな顔が嘘だったかのように、バタバタと俺に詰め寄ってきた。「本当に本当だよ」「相手は誰なの?」「華だよ」「華ちゃん?! 嘘でしょ?!」 更にその相手を聞いた母さんは驚きのあまり口をあんぐりとさせている。「そんなに驚くことかよ」「当たり前でしょ? 生まれてから昨日までそんな様子を見せなかったのに、いきなり付き合うなんて言い出したら、誰だってビックリするわよ!」「それは、まあ、その通りだけどさ」「これは非常事態よ。あとで挨拶しに行かないと駄目ね」「挨拶って気が早いから! それに俺は今から学校だからな!」 俺の報告のせいで、我が家は朝から大騒ぎの朝になってしまった。 2「という
「この公園、昔からよく遊んでいたわよね。懐かしい」 華の誘いをそのまま受けることにした俺は、華と一緒に自宅近くに公園に立ち寄った。この場所なら何かあったらすぐに家に帰れるだろうし、多少遅くなっても問題ないはずだ。「小学生の頃は毎日のように来ていたもんな」「亮太が無理やり外に連れ出したんでしょ? 私は家で遊びたかったのに」「毎日家で遊んでいたら体が鈍るだろ? 少しでも外で体を動かさないとダメだって思っていたんだよ」「今とは大違いね」「うるせえ」 二人で公園にあるブランコに腰掛ける。幸いこの時間この辺は人通りが少なく、静かで話をするにはもってこいだ。「こういう時間に二人で公園にいるって何か新鮮だな」「しかも亮太と一緒というのが少し新鮮かな」「それも恋人同士になって、な」 昨日までの自分は果たして想像できただろうか。華が恋人になって、今こうして同じ時間を過ごすことになることを。「昼間、私にそういう関係になってほしいって言われたとき、偽物とかそういうの抜きにして亮太はどう思った? やっぱり嫌だった?」「さっきも言ったと思うけど、別に嫌とか思ったりはしなかったよ。華とそういう関係になるのも悪くないと思ったし、何よりそんなことは二度とないと思っていたから」「それは......あの事があるから?」 俺はその質問には答えずに、ブランコを漕ぎ始める。「前からずっと言っているけれど、亮太は何も悪くないのよ? お父さんだって過剰に反応しすぎだし、何より私はもう立ち直れている。だから亮太だけが気を負う必要なんて」「それでも俺は自分が許せないからいいんだよ。むしろ華の方が俺のことで気を遣う必要ないし、今はストーカーの方の問題を解決しないと駄目だろ?」「それはそうかもしれない、けど」「それにさっき華が言ったように今は過去のことは気にせずに華に協力する。今はそれでいい」「亮太......」
華と偽物のカップルを演じることになるにあたり、具体的にどうやってストーカーに俺たちの関係を認識させるか、そこから考えることから話が始まった。「その相手は同じ学校の人間なんだよな?」「そうよ。同じ学校の一つ上の先輩」「相手は先輩、か。となると学校でも目立つ行動をしないとダメって事か」「勿論それもあるけれど、学校以外にでもやれることがあるでしょ?」「学校以外で?」 華がそう前置きして、作戦の最初の 段階として提案してきたのが、「まさか付き合って初日からデートに行くことになるとは」 いきなりの初デートだった。 ただプランとかは一切なく、とりあえず映画館へ二人で向かい映画を見る。ただそれだけのどちらかと言えばお出かけに近いデートだ。 でも、そんなデートでも、「亮太、手を繋いでくれる?」「あ、ああ。勿論」 ただ手をつなぐという行為だけでもやはりドキドキしてしまう。俺が華に手を差し出すと、彼女はごく自然に手を繋いできた。「やっぱり少しだけ恥ずかしいなこれ」「何か言った?」「いや、何でもない」 俺と華は手をしっかり繋ぐと目的地の映画館へ向けて歩き出す。「こうやって華と手を繋ぐなんて何年ぶりだろうな」「さあ? でもこうしてまた手を繋げて私は嬉しいわよ。もうそんな機会なんてないだろうって思ったから」「それは俺も同感だ。成長していくにつれてそういうのって恥ずかしくなるんだよな。そういうのが大人になるってことなんだろうけど」「大人と言えるほどの年齢ではまだないけど、私達」「ちょっと言ってみたかっただけだから、冷めた目で言わないでくれ」 付き合い出しても俺たちの会話はいつも通り。でも手はしっかり繋がれていて、むしろ華の方が離したくないと言わんばかりに強く握っていた。(無意識なのかそれとも、意図的なのか分からないけどつくづ
私には天野亮太という幼馴染みがいる。家が隣同士で、両親同士も仲が良く、ほぼ毎日のようにどちらかの家に遊びに行くか来てもらったりしていた。 ー幼馴染みというよりは家族に近い存在 私の母親はフランス人でその血を濃く継いでしまった私は、幼い頃から髪の色とか目のこととかで、色々悩まされた時期もあった。 そんな時でも亮太は私を忌み嫌うなんてことはせず、何度も助けてくれるヒーローになってくれた。「亮太は私のこと嫌いじゃないの?」 一度だけ彼にそんなことを聞いたことがある、すると亮太は何の躊躇もせずにこう言ってのけた。「嫌いになんてなるわけないだろ? 周りになんと言われたって、俺は華のことを嫌いになんてならない、絶対に」 その言葉を聞いたとき、自分の胸が一瞬だけドキッとしたのを覚えている。 亮太だけは私の側から離れないでいてくれる。 それなら私は亮太の前だけはありのままの私でいたい 学校でどんな人に対しても冷たい態度を取ってしまうのは、他人を遠ざけたいと言う気持ちがあるからだった。(亮太は気づいていないのかもしれないけど、私は亮太のそういう言葉に何度も救われてきたんだよ。だから私にとって亮太はヒーロー) そんなヒーローに私は......。 2「偽物の彼氏作戦?」「そうですよ、先輩に本物の彼氏がいると分かれば例のストーカーも諦めてくれますよきっと」 ある日の部活終わり。バドミントン部に所属している私は、一つ下の後輩にストーカーのことを相談してみたところ、そんな提案をしてきた。「確かに効果はあるかもしれないけれど、偽物カップルなんてすぐにバレたりしない?」「確かにリスクは高いと思いますが、そこまでしなければならないところまで来てしまっているじゃないですか」「それは、そうかもしれないけれど......」 でもその相手がいないと伝えようとしたとき、私の頭の中にたった一人だけ協力してくれる人物が思い浮かんだ。(亮太なら、もしかしたら協力してくれるかもしれない) 無茶苦茶なお願いなのも承知だけど、頼める人間が亮太くらいしかいないのも確かだった。「どうやら意思は決まったみたいですね。協力してくれる相手もいるみたいですが」「一人だけ協力してくれる人がいる。その人とならこの作戦を成功させられるかもしれない」「また次いつ相手が動いてくるかわかりま
俺には氷室華《ひむろはな》という同じ年の幼馴染がいる。「りょうた、きょうも家にあそびにきたわよ」 家が隣同士というだけで昔から彼女は俺の家に来ては、日が暮れるまで遊んでいき帰っていく。 「亮太、来たわよ」「おう、いらっしゃい」 それは高校生になってからも続いていて、休日である今日ですら遊びにやってきていた。(男女二人が、同じ屋根の下で二人きり。シチュエーションとしては最高なんだけどなぁ) よく読むラノベとかだったらこういうのにもドキドキさせられる展開ではあるのだが、何だかんだでそれが十年以上続いているとなればそれもすっかり慣れてくる。「またアニメ見てたの? よくもまあ、毎日飽きないわよね」 華は何の抵抗もなくリビングに上がってきては、俺が直前まで観ていたアニメが流れているテレビを見て呆れたように呟く。「別にいいだろう。俺が自分の休日をどう使おうか」「自由だけどこんなので貴重な一日を潰していたら勿体ないと思わないの?」「余計なお世話だし、勿体ないなんて思っていないからいいだろ?」 俺は冷蔵庫からお茶を取り出し、それをコップに入れると、華にそれを渡す。彼女は「ありがとう」と受け取った。「それで今日は何をするんだ?」 華が家に来る時の目的は大概テレビゲームなどの遊びで、今日もてっきりそれが目的だと思っていたのだが、今日の華はどこか神妙な面持ちだった。「亮太、今日はあなたに頼みがあってきたの」 そして彼女は麦茶を一口飲んだ後に、俺をまっすぐ見つめてそう口を開いた。「頼みごと?」 これまで一緒に過ごしてきた中で彼女が俺に頼みごとをしてきたことなんて数少ないので、俺もつい重めの口調で答えてしまう。「こんな事急に頼まれても困ると思うし、私としても少し恥ずかしいというかあまり人に頼めるようなことではないのだけど......」 華は何か言おうとしているが、躊躇っているらしくずっとゴニョゴニョしている。俺は敢えて何も言わずに彼女の言葉を待っていると、「私の......になってほしいの」「ん? 聞き取れなかったんだけど」「だから、その、私の、か、か、かっ」「か?」 華はさっきの真剣な面持ちとは裏腹に顔を真っ赤にしながら、家中に聞こえるように叫んだ。「私の彼氏になってほしいの!」 俺は一瞬彼女が何を言っているか理解できずに頭が真っ