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プロローグⅡ

Author: りょう
last update Last Updated: 2025-10-11 09:22:13

 私には天野亮太という幼馴染みがいる。家が隣同士で、両親同士も仲が良く、ほぼ毎日のようにどちらかの家に遊びに行くか来てもらったりしていた。

 ー幼馴染みというよりは家族に近い存在

 私の母親はフランス人でその血を濃く継いでしまった私は、幼い頃から髪の色とか目のこととかで、色々悩まされた時期もあった。

 そんな時でも亮太は私を忌み嫌うなんてことはせず、何度も助けてくれるヒーローになってくれた。

「亮太は私のこと嫌いじゃないの?」

 一度だけ彼にそんなことを聞いたことがある、すると亮太は何の躊躇もせずにこう言ってのけた。

「嫌いになんてなるわけないだろ? 周りになんと言われたって、俺は華のことを嫌いになんてならない、絶対に」

 その言葉を聞いたとき、自分の胸が一瞬だけドキッとしたのを覚えている。

 亮太だけは私の側から離れないでいてくれる。

 それなら私は亮太の前だけはありのままの私でいたい

 学校でどんな人に対しても冷たい態度を取ってしまうのは、他人を遠ざけたいと言う気持ちがあるからだった。

(亮太は気づいていないのかもしれないけど、私は亮太のそういう言葉に何度も救われてきたんだよ。だから私にとって亮太はヒーロー)

 そんなヒーローに私は......。

 2

「偽物の彼氏作戦?」

「そうですよ、先輩に本物の彼氏がいると分かれば例のストーカーも諦めてくれますよきっと」

 ある日の部活終わり。バドミントン部に所属している私は、一つ下の後輩にストーカーのことを相談してみたところ、そんな提案をしてきた。

「確かに効果はあるかもしれないけれど、偽物カップルなんてすぐにバレたりしない?」

「確かにリスクは高いと思いますが、そこまでしなければならないところまで来てしまっているじゃないですか」

「それは、そうかもしれないけれど......」

 でもその相手がいないと伝えようとしたとき、私の頭の中にたった一人だけ協力してくれる人物が思い浮かんだ。

(亮太なら、もしかしたら協力してくれるかもしれない)

 無茶苦茶なお願いなのも承知だけど、頼める人間が亮太くらいしかいないのも確かだった。

「どうやら意思は決まったみたいですね。協力してくれる相手もいるみたいですが」

「一人だけ協力してくれる人がいる。その人とならこの作戦を成功させられるかもしれない」

「また次いつ相手が動いてくるかわかりませんし、さっそく行動しましょう」

「今度の休日に話をしてみる。ありがとう榛名」

 3

 そして週末、部活の休みの日に私は亮太の家にいつものように行って、彼に今回の件を話した。

「俺が華の彼氏に?」

 亮太は当然のように驚いていた。当然といえば当然の反応ではあるけれど、その顔からは決して拒絶や嫌悪の感情は見られない

(私が彼女になってもいいってことなのかな)

 いくら幼馴染とはいえ、偽物のカップルになってほしいと言われたら最初は誰だって躊躇する感情が生まれてくるはずだ。

 男女の幼馴染だからと言って必ずしもそういう関係になるとは限らないのを私は理解している

 むしろ私だって榛名からこの話を聞いた時点で、嫌悪感を抱いたっておかしくなかった。

(だから私が亮太に抱いているこの気持ちは本物なの?)

「本当に俺でいいのか?」

「私は亮太以外に適任はいないと思っている。亮太は嫌なの?」

 その答えを知るよりも先に、亮太の本音を知ってみたかった私は、そのままの言葉を亮太に尋ねてみた。

「嫌な......わけないだろ」

 すると亮太は少しだけ恥ずかしそうに答えてみせた。

「ほ、本当に?」

 私はその答えをまるで待ち望んでいたかのように少し上ずった声で前に乗り出してしまう。亮太はというと何故か私から目線を逸らしながら言葉を続けた。

「ほ、本当だよ」

 たった一言のその言葉だけでもあの時と同じように私の心臓は高鳴った。

(こんなに嬉しいと思える言葉なんて、今まであったかな私......)

「でも......俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、華も忘れていないだろ? 中学生の時に俺が華にしてしまったことを」

 けど私のその高鳴りとは真逆に、亮太は暗そうに更にそう言葉を繋げた。

 亮太にとっても私にとっても忘れることができない中学生の時に起こった事件

 亮太がその責任を今日までずっと背負い続けているのを私はよく知っている。

 そしてそれが亮太は何も悪くないってことも、むしろ亮太がヒーローになってくれたことも知っている。

 それでも自分に責任があると言い続けている彼に、私が掛けてあげれる言葉はもう既に尽くしてしまっていた。

「今はその話はなし。亮太がなんて言おうと、どう思っていようともうこれは決定事項なの。だからお願い亮太、私に協力して」

 だから私はこういう言葉しか言ってあげられなかった。しかもそれはただの私のお願いであり、ただの我儘。

「......ったく、どれだけ強引なお願いなんだよ」

 それでも亮太は文句は言いつつも、私のお願いを聞いてくれることになった。

「これからよろしくね、亮太」

「ああ、よろしくな華」

 こうして私たちは今日この日から、自分の身を護るために亮太と偽物のカップルになったのだった。

 4

 亮太のことを少しずつ意識しだしたのがいつからかと考えると、具体的には思い出せない。彼と出会ったのは大体幼稚園くらいの頃だったことくらいしか覚えていないし、どういうキッカケで遊びに行くようになったのかも分からない。

(亮太は私にとっては家族に近い存在。それ以上でも以下にもならないと思っていた)

 それは今も変わっていない、かもしれない。でももし偽物の関係を続けていく中で答えが出るならば、私はその気持ちに正直になってみたい。

 私は本当に亮太のことが好きなのか

「亮太、ありがとう。私の我儘を聞いてくれて」

「別にいいよ。華が困っているなら力になる、当然のことだろ?」

「よく......そんな恥ずかしいセリフ言えるわね」

「それはお互い様だ」

 その答えを知るための長い旅が始まった。

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