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第4話華やかな夜に 前編

Auteur: りょう
last update Date de publication: 2025-10-24 11:00:11

「お邪魔します」

 偽装カップル二日目にして華が提案してきたおうちデートを、断れずに受け入れることにした俺は彼女をそのままリビングに通す。

「いきなりおうちデートとかハードル高いって思ったけど、よく考えたらいつも通りの俺達なんだよなこれ......」

「何か言った?」

「いや、何でもない」

 放課後のこの時間に華が遊びに来ることは殆どなかったが、家に来ること自体は日常茶飯事なので特別なことではないのは分かっている。

「それで何かやるのか? いつも来ているから知っているだろうけど、俺の家はゲーム以外何もないぞ」

「ゲームはいつもしているから今日はいいわ。亮太との時間を過ごしたいし」

「そ、そうか」

 サラッといつもの調子で恥ずかしくなるセリフを言ってきて思わず俺は口ごもってしまう。当の華は何にも気にしていない様子で荷物を置くとキッチンへと向かった。

「けどその前にお腹が減ったわ。何か作るけど材料借りていいかしら」

「いいけど、華って料理できたっけ?」

「これでも毎日自分のお弁当を作っているんだけど?」

「そうなのか? 弁当持ってきているのは知っていたけど、てっきりソフィーヤさんが作っているのかと思った」

「最初の頃はお母さんが作ってくれていたんだけど、私も自分で作ってみたくて教えてもらったのよ。それより調理器具とかどこにあるのか教えてくれる?」

「華だけに作らせるのも悪いし俺も手伝うよ」

 俺もキッチンに入り華の隣に立つと、調理器具を棚から取り出す。華はそれを見て何故か少しだけ驚いた様子を見せる。

「どうしたんだ、こっちを見て」

「亮太も料理するの?」

「お前も人のこと言えないな!」

 さっきの仕返しと言わんばかりに俺は華に言い返してやった。

 2

「そういえば華に聞き忘れていたことがあるんだけど」

 料理をしながら俺はあることを思い出して、料理しながら華に尋ねる。

「聞きたいこと?」

「昨日はあったから色々詳しく聞かなかったけど、華のストーカーをしている相手ってどういう人なんだ? 先輩が相手って事だけは昨日聞いていたけど」

「そういえば亮太には何も話していなかったわね。すっかり忘れていたわ」

「肝心なことを忘れるなよ」

 華は料理をしながら今回の一件の詳細を語りだした。

「事の発端は今から四ヶ月前に遡って、私の先輩の代、つまり三年生の最後の大会が終わった日。私は先輩......矢田和久《やだかずひさ》先輩に付き合ってほしいって告白されたの」

 華はそれをいつも通り断って、その日は何事もなく先輩も諦めてくれたと思っていたらしい。

「私がどういう人間なのかは亮太も知っての通りだし、矢田先輩も勿論そのことを知っているはずだから簡単に引き下がると思っていた。けど」

「諦めるどころか粘着するようになったんだな」

「そうなの。バドミントン部を引退したから用もないはずなのに体育館の入口から私を覗いたり、亮太と一緒に帰れなかった日には少し離れたところで私の後をつけてきたりもしてきた。しかも私の家の前まで」

「顧問の先生とかには相談したのか?」

「一応して注意もしてくれたらしいんだけどそれでも効果はなくて......。私も貴重な練習時間とかを奪われたくなかったから、警察とかにも相談しないでただ我慢することしかできなかった」

 料理をする手が震えているのを見てその恐怖がかなりのものだったことが俺にも伝わってくる。少し前まで同じ部活の先輩だった人間が急に自分をストーカーしてくるなんて、どう考えても恐怖でしかない。

 でもそれな猶更俺は華にこう言わざる得ない。

「ならどうして、もっと早くにそのことを俺に相談してくれなかったんだ? 華個人でどうにかできるような問題のレベルじゃないのは分かるだろ?」

「亮太にだけは迷惑かけたくなかったっていう気持ちがあったんだと思う。私が我慢すればいつかはほとぼりも冷めるだろうし、亮太は何も知らないままでいてくれる。それで全部解決できると思っていた」

「......結局それができなかったから、こうなっているんだろう。遅すぎるんだよ。それじゃああの時と同じことを繰り返すだけだろ」

「......」

 華は何も答えない。

(何でこういうところだけ頑固なんだよ)

「とにかく事の経緯は分かったよ。でもそこまでしつこいとこの作戦が先輩の神経を逆撫でするんじゃないのか?」

「その可能性は高いと思う。だからそのうち先輩ともう一度話をしてそこで決着をつけないといけない。先輩が高校を卒業する前に必ず」

「そしてその時がこの関係の終わりの日ってことか」

 終わりが見えている関係って考えると少し寂しい気持ちにもなるが、まずは俺と華がちゃんとした恋人同士ということを定着させなければならない。

「今日ほどではないかもしれないけど、しばらくは学校生活も大変なことになるだろうな」

「頑張ってね亮太。踏ん張りどころよ」

「何で他人事のように言えるんだお前は」

 当事者からの応援に俺はため息をつきながらも料理を続けるのだった。

 それから三十分後には料理も完成し、テーブルに料理を並び終えると二人で向かい合わせに座り料理を食べ始めた。

「それじゃあ」

「いただきます」

 二人で作った今日の夕食は、冷蔵庫に余っていた豚肉を使った生姜焼きと、サラダ、そして味噌汁という少し高校生には物足りないかもしれない品数だった。

「何で亮太の家は食材があんなにも少ないの?」

「基本家にいるのは俺一人だけだから、そんなに入れていないんだよ。保存していても使わなかったら腐るだろうし」

「次からは私の家からも食材を持ってきた方がいいわね」

「次もあるのかよ」

「当たり前でしょ? 何のための恋人同士よ」

「別に料理をするための関係でもないからな!」

 そんな言い合いもしながらも二人ともあっという間に料理を完食。食器を洗い終わったころには20時を過ぎていた。

「それで今日はいつまでいるつもりなんだ?」

 時計で時間を確認した俺は、テレビを見ながらすっかりくつろいでいる華に尋ねる。

「いつまでって、泊っていくわよ、今日は」

「そうか、泊っていくのか......は?」

 テレビを見続けながらまたサラッと言う華に、俺は一瞬思考が停止する。そしてすぐに戻ってくると、俺は思わず大きな声を出してしまった。

「いやいや、待て待て。そんなこと一言も聞いていないんだけど?!」

「今日家は私一人って言ったでしょ? だからものすごく心細いの」

「いや、何をいまさら言っているんだよ。そんなの今までだって」

 あっただろうと言おうとしたとき、華は急にテレビの電源を消すと立ち上がり俺の目の前までやってきて、

「な、何だよ、何を言われてもお泊り会だなんてそんな急にはできないからな。おまけに明日だって学校はあるし、着替えだってないだろ?」

「大丈夫、今から家に帰って荷物を置いて着替えを持ってくるから。それとも......私と二人きりなのは嫌なの?」

「そ、そうじゃなくて」

 俺より若干背が低い華は上目遣いで目を潤ませながら誘惑の言葉を続ける。

「私は亮太と......」

 あぁ、もうこれは......。

「今夜は一緒にいたい、な」

 絶対に断ることなんてできない。

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