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第3話偽装カップル学校へ

Author: りょう
last update Huling Na-update: 2025-10-23 11:00:06

「おはよう亮太ぁ。今日は随分と早いわね」

 翌日。

 俺は約束した通り華を迎えに行くために、いつもより早起きし、学校へ向かう支度をしていると、寝室から大きなあくびをしながら母親の天野良子が出てきた。

「今日も朝帰りだったのか、母さん。身体を壊さないでくれよ」

「もう何年この生活していると思っているのよ。息子に心配されるほど母さんは落ちぶれていないわ」

「こっちは本気で心配しているんだけどな」

 俺の両親は二人とももう四十代後半の年齢なので、息子としては本気で心配はしている。本人たちはそんなこと気にしていない様子だが、いつ倒れるか分からないのが本当に怖い。

「それで何でこんなに早くに起きているのかしら。何か用事でもあるの?」

「用事っていうか、その......彼女が出来たんだよ」

「え?」

「だーかーら、彼女ができたんだって!」

 自分たちの両親には真っ先に報告すると華と決めていたにも関わらず、面と向かって報告するのも恥ずかしいので準備をしつつ報告をする。

「亮太に彼女? 本当に?」

 その報告を聞いた母さんは、さっきまでの眠そうな顔が嘘だったかのように、バタバタと俺に詰め寄ってきた。

「本当に本当だよ」

「相手は誰なの?」

「華だよ」

「華ちゃん?! 嘘でしょ?!」

 更にその相手を聞いた母さんは驚きのあまり口をあんぐりとさせている。

「そんなに驚くことかよ」

「当たり前でしょ? 生まれてから昨日までそんな様子を見せなかったのに、いきなり付き合うなんて言い出したら、誰だってビックリするわよ!」

「それは、まあ、その通りだけどさ」

「これは非常事態よ。あとで挨拶しに行かないと駄目ね」

「挨拶って気が早いから! それに俺は今から学校だからな!」

 俺の報告のせいで、我が家は朝から大騒ぎの朝になってしまった。

 2

「という事が朝かあってさ」

「突然決まったことだから当然の反応と言えば当然だけど、朝から大変だったわね」

 その後大騒ぎの母を何とか黙らせてから家を出てきた俺は、その顛末を登校しながら華に話した。

「他人事だと思って......。そういう華の方こそどうだったんだよ」

「お母さんにだけは報告した。すごく喜んでいた」

「ソフィーヤさんはそういう人だからな。問題は泰介さんに報告した時だな」

 想像するだけでも地獄絵図が浮かんでくるくらいには、俺と泰介さんとの関係は最悪だ。

「暴力沙汰も避けられない運命かもな」

「人の父親に対して随分な言われようだけど、否定できないのよね......」

 実の娘にまでここまで言われるくらいの人間なのだから、今から何かしらの対策をしておかなければならないかもしれない。

「お母さんにも頼んですぐにはお父さんの耳に届かないようにしてもらうけれど、長くはもたないと思う」

「つまりそれまでに覚悟を決めておけってことか」

 朝からそんな物騒な会話をしているうちに、気が付けば学校が見えてくる。

 「華、そろそろ一度手を」

「いやっ」

 離してほしいと言おうとしたところで、華に食い気味に断られてしまった。

「嫌ってお前、このまま学校の中に入るつもりか?」

「問題ないでしょ? それも作戦の一つなんだから」

「いや、そうかもしれないけど。さすがに大胆すぎるだろ」

 俺達がやっていることは、見せつけるどころかストーカーへの明らかな挑発行為だ。下手をすれば別の事件が生まれる可能性があるので、露骨すぎるのは避けたかったのだが華はどうあっても離したくないらしく、俺の手をしっかりと握っていた。

「どうなっても知らないからな」

「元より私の方は覚悟が決まってる」

「その気持ちの強さ、俺にも分けてほしいよ」

 こうして俺達はそのまま包み隠さず校内、および自分たちの教室へ向かったのだが、

『ちょっとあれ、氷室さんよね』

『あの氷華が誰かと手を繋いでるぞ』

『確か同じ学年の生徒の』

 何度も説明している通り華は別の意味で学校では有名人なので、校門を通っただけで既に周囲がざわつき始めた。

「なあ華、これはいくら何でも悪目立ちすぎじゃないか?」

「堂々と歩けば大丈夫。そうしないと嘘だってバレる」

「何でそこまで肝が据わっているだよ」

 これが狙いとはいえ、周囲の視線に晒されるのはどうも苦手だ。さっきからそこらじゅうでひそひそ話が聞こえてくるし、俺への恨み言すら聞こえてくる。

 こんな状態で教室に入りようものなら、

「ちょっとあれ、どういうこと」

「確か隣にいるのって天野君だよね? 普段仲良しにはみえなかったけど」

「天野に先を越されたぁ」

 教室中が阿鼻叫喚に包まれるのは簡単に想像できた。

「じゃあ亮太、お昼に」

 そんなクラスの雰囲気を無視して、ようやく繋いでいた手を離した華は、何事もなかったように自分の席へと向かった。

「おい天野、今のどういうことだよ!」

「お前抜け駆けなんて聞いてないぞ!」

「いつからなんだ!」

 そしてそれとほぼ同じタイミングで、俺はクラスの男子から一斉に質問責めに合う。

「成り行きで色々あったんだよ。付き合いだしたのは昨日から。それ以外は答えられることはないからな」

 俺は予め考えておいたセリフで、それらを受け流しながら華の方を見る。

(華は......あっちもいつも通りか)

 あっちは俺とは正反対で、誰も彼女に近寄るような人間はいなかった。

 そう、あれが俺の幼馴染の学校での姿。

 彼女が氷華と呼ばれている理由、その物だった。

(あれで一切本人は気にしていないんだから、驚きだよな)

 俺だったらあんな学校生活、すぐ嫌になってしまいそうなのに華はそれを気にも留めない。それがもう当たり前のように佇んでいる。

(俺も幼馴染という立場がなかったら、関わることなんてなかったのかな)

 質問を受け流しながら俺は、そんなありもしないもしもの話を考えてしまうのだった。

 3

 その日はほぼ質問責めの対応やヒソヒソ話のスルーなどで精神を殆どすり減らし、肉体的にも精神的にもかなり疲弊した一日になった。

「お疲れ様亮太」

「本当に疲れたよ。何で俺だけがこんな目に合わないといけないんだ」

「私に話しかけてくれる人なんていないから、仕方ないわよ」

「それ自分で言っていて悲しくならないか」

 色々とボロボロになりながらの帰り道。華の部活が終わるのを待ったこともあって、家の前に到着するころには既に19時を過ぎていた。

「これ明日からも続くんだろ? こんなの毎日のようにやられたら俺の心が持たないって」

「人の噂も七十五日って言うし、少し我慢すればいつもの日常に戻るって」

「その期間我慢できる気がしないんだって」

 深いため息を吐きながら俺は家のドアノブを回すと、鍵が掛かっている。どうやら今日も両親は家に帰っていないようだった。

「今日も良子さん達帰ってないの?」

「多分また朝帰りだろうな。どれだけ仕事好きなんだよ」

 それを見ていた華がそう聞いてきたので答えながら家の鍵を開けると、何故かドアノブを彼女が回した。

「何してるんだ?」

「私も今日家で一人きりなの」

「だから何だよ」

「昨日は映画館デート、今日はおうちデート、ってどう?」

「......へ?」

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