Mag-log in「依那ちゃん。ありがとう……。慧を好きになってくれて……。それだけの想いをしていた慧が、依那ちゃんのことは信じられたってことね……」「そうだと嬉しいです。でも、最初はあたしの好きと同じになるまで時間かかりました。誰かを信じること、愛することも怖かったって……、とても恋愛にもお付き合いすることにも慎重でした」あたしが知らなかった過去の慧さんを初めて知った今、どれだけ愛や人に裏切られて信じられなくなったのかがようやくわかる。自分が信じようと思っていた人に、どんどん裏切られて離れられていく現実。女将さんはこんなに愛していると知らないまま、慧さんはきっとその現実だけでずっと一人苦しんできた。女将さんのこの愛情も意図的に奪われ、慧さんにもその愛情が届かなくて。その新しい家族からもいつの間にか愛情を向けられなくなって……。あたしが好きだと伝えた時に、どうしてあんなにもすぐに好きになろうとしなかったのかがよくわかった。好きになるのが怖い、信じるのが怖い。幼いながらにその現実と向き合っていた慧さんの心は、どれほど傷ついていただろう。叶うのなら今すぐその頃の慧さんに会いに行って、抱き締めてあげたい。"あなたはホントはとてもお母さんに愛されている人なんだよ"と。"大人になったあなたは、ある女性からとても愛される人生になるんだよ"と。お母さんである女将さんのことも、今の自分のことも、どれだけ愛されているのかをちゃんと伝えてあげたい。そして……、今の慧さんにも、この女将さんの気持ちをちゃんと伝えてあげたい。いや、伝えなきゃいけない。慧さんはまだこの女将さんの……、お母さんのこんなに愛されているという事実を知らない。きっとそれを知らない限り、いくらあたしが好きだと伝えても、慧さんにホントの意味であたしを好きになってもらえてない。もしかしたら、きっとまたあたしの愛も不安になったり心配になっているような気がするから。あたしがどれだけ離れないと伝えても、きっと慧さんの中で、この過去が残り続けてる限りは、慧さんの中できっとどこか不安が続いてしまう。こんなにもあたしはずっと慧さんへの想いを愛を伝えているのに、どこかしらまだ信じられていないような、そんな気がするから。例え女将さんと慧さんと二人の昔の時間は取り戻せなくても、これからの二人の時間はいくらでも作るこ
「今の慧さんの会社は、その本村さんと作った会社なんですよ?」「その方と二人で?」「はい。慧さんが社長で、本村さんは副社長兼秘書で。本村さんはすごく頭が冴えて気を回せて、とても優秀な方です。その本村さんとは、食べ物や考え方とかすごく気が合うし、お互いの得意なことをそれぞれ活かして支え合いながら共に人生を過ごして、そしてお二人でこの会社大きくされてきました」「そう……」「慧さんがされてる仕事ってホントすごいんです。いろんな飲食店プロデュースしてる会社なんですけど、慧さんは普通社長がやらないところまで全部チェックして把握していたり、プロデュースが終わったお店ともその後もずっと関わり続けてサポートされてます。とにかく慧さんは人と向き合うこの仕事をとても大切に思われていて、人として常に気持ちを向けて返してる人なんです」「人間不信になっていた慧が……?」「だからだと思います」「え……?」「そこまで人に敏感になったからこそ、慧さんは向き合えているんだと思います。きっとどこかで誰より人を信じたいと思ってるんじゃないかなって……」「信じたい……」女将さんはその言葉の意味を確かめるように、その言葉を繰り返して呟く。「慧さんは結局関わった人たちのことを信じて仕事をしているんです。その人たちの才能やそこからの可能性や人柄。すべてを信じたいと思っているからこそ、どこまでも慧さんは向き合おうとしてるんじゃないかな……」あたしはそれを女将さんに伝えることで、改めてその慧さんの人柄や素敵なところを実感する。そういう人だったんだと、また改めて確信して、やっぱり慧さんが素敵な人で、そういうところが好きなんだと気づき直して、また嬉しくなる。「あたしも亡くなった母と行った素敵なカフェみたいなお店を、いつか自分もプロデュースしたくて、慧さんの会社に入りました」「あぁ、依那ちゃんは慧の会社で働いてたんだったわね」「はい。慧さんはあたしにとって、憧れの人です。仕事に対しての志も、それを実現させる力も、すべてがすごい人なんです」「そう……」「そんな人の元で今働けて夢に向かって頑張れていること、そして、そんな慧さんとお付き合い出来ていること。ホント自分にとってはすべてが奇跡で、毎日夢のようです」あたしの言葉に、穏やかに微笑みながら耳を傾け、少しの言葉だけで反応してる女将さんを
「あの……。これ以上事実を聞くのは辛いとは思うのですが……。でも、こんなにも慧さんを愛されているお母さんには、慧さんの想いを知ってもらいたいです……。だから、もし女将さんが大丈夫なら、あたしが聞いた慧さんのことお話したいです……」だから……、あたしはその想いを、そのまま女将さんに伝えた。「依那ちゃん、ありがとう……。えぇ……。依那ちゃんが知ってること全部教えてちょうだい……」そして涙を拭いながら、女将さんは笑ってそうあたしに告げる。「大丈夫、ですか……?」「大丈夫よ。あの子の今まで感じてきた苦しみを、ちゃんと私は知る権利があるもの」「女将さん……」そう伝えてくれる女将さんは、母親として強い意志を感じるような……。その言葉にも、その表情にも、そんな力強さが、今度は存在していた。「女将さんは、慧さんのこと手放されてから、その後のこととかいろいろ聞かれたりしてたんですか?」「いいえ……。向こうは一切そういうのは教えてくれなかったわ。だから、正直ビックリしたの。あの子が父親の事業を継がず、自分の会社を経営してるってこの前知ったから」「やっぱりそういうことだったんですね……。じゃあどうしてそうなったかは何も……?」「えぇ……。あの人はそれが目的で慧を引き取ったはずなのに……」「慧さんが引き取られた時は、自分の家の子供のように可愛がってもらってたそうです。だけど、いつからか母親をいなくなったものと思えと言われて、なんの説明もなく会えなくなったって言ってました」「やっぱり、なんの説明もしなかったってことね……」「はい……。その時慧さんが、自分を一番愛してくれていたお母さんが何も言わずにいなくなったことで、他に大事なモノが出来て自分は捨てられたんだと、そう思ってしまったって……」「あぁ……。やっぱり自分の言葉でちゃんと伝えるべきだったのね……。今更後悔したって遅いけれど……。例え離れることになっても、あの子に "私はあなたを愛している" と伝えられていたのなら、あの子にそんな辛い想いさせなくてよかったはずなのに……」女将さんのその言葉に、その当時に女将さんが抱いていた想いと決意がどれほどだったのかがわかる。本当は心からその言葉を一番伝えたかったはずなのに、それを伝えられなかった辛さ。ホントはちゃんと愛はそこに存在していたはずなのに、その想いを
「依那ちゃん……。一つ、聞いていいかしら……?」「あっ、はい」「慧が……。どうして捨てられたと思っていたのかわからなくて……。実は、私たちは慧を手放す条件として、ある条件をお互い決めたの」「条件……」「えぇ。まず向こうの条件として、慧があたしに想いを残すことを向こうは不本意に思ってたから、慧とは別れをハッキリさせず自然に離れるということ。そして、私はその条件を受け入れる代わりに、すぐじゃなくてもいいから慧がその状況を理解出来る年齢や環境になった時でいいから、私が離れたのは決して慧を嫌になって離れたわけではなく、慧を愛しているからこそ離れたのだと伝えてほしいと……。私は離れていても、あなたのことをずっと愛していると、それだけを私はあの人にお願いしたの」「そんな条件を……」「なのに、どうして、慧は捨てられただなんて……」女将さんの慧さんの愛の大きさや深さを感じて泣きそうになる。こんなにも慧さんを愛していた人だったのに、慧さんはその想いを知らず、誰にも愛されない自分だと思い込んで、今まで過ごしてきた。そんな悲しい現実……。悔しい。悔しい。もしその女将さんの想いを知っていたら、慧さんはもっと愛というモノを信じることが出来ていたのに……。だけど、慧さんの話を思い出せば、女将さんが約束したその条件は、きっと守られていない……。慧さんはそれどころか引き取られた実の父親にも愛されているか確信を持てなくて、その家で幸せにしてもらうことはなく居場所がなくなってしまった。もしかしたら、新しく自分たちの子どもが出来るまではそうしていたのかもしれない。幸せにするはずだったのに、どこからか、きっと何かが狂ってしまった。きっとその奥さんも実の血の繋がっている子供が出来れば、そりゃそっちに愛情を注いでしまうのだろう。それなら、せめて実の父親は、慧さんを最後まで愛し続けてほしかった。そこまでして二人を引き離した責任があるのだから、途中で手を離さないでほしかった……。「きっと、慧さんは……。その女将さんが伝えてほしいという想いを、知らないんだと思います……」「えっ……? それは、どういう……」「慧さん。人を好きになるのが怖いって言ってました」「え……?」「誰かを信じて愛すことが自分には出来ないって……」「でも依那ちゃんは……?」「はい。あたしと出会
「慧の未来を保証してくれると約束してくれたの」「保証……?」「父親としての認知はもちろん、会社の跡継ぎになるまでの全面サポート。慧が望む学業に金銭面、すべてにおいて面倒見てくれると約束してくれたの」「それで……?」「もしそれをこちらが受け入れなければ、向こうの奥様から不貞行為の相手として慰謝料を請求すると言われたの」「えっ?」「それも……向こうの手口よ……」「手口……?」「当然私と慧は二人だけでギリギリの生活をしていたから、余分に払えるそんな大金あるはずなくて……。ホントに随分悩んだわ。どうすればいいか……」「…………」あたしはそんな胸を締め付けられるような酷い選択を聞いて、何も言えなくなる。そんなあからさまに無理やりな選択……。「そんな選択を迫らされて、正直決めるのは困難だった……。私が慧と一緒にいる幸せを選ぶか、慧が幸せになれる未来を選ぶか……。それで、私は慧のこの先の幸せを選んだ……」そういうことだったんだ……。ただ女将さんは慧さんと一種にいたかっただけなのに。慧さんといるだけで幸せだったはずなのに。だけど、そんな幸せを願うことさえも許されなかったなんて……。「慧が向こうの家の息子として可愛がってもらえて幸せにしてもらえるなら、どれだけ私は辛くて寂しくてもそれでいいと思った……」「女将さん……」「誰より大切で誰より愛しているのは自分だけれど、慧が幸せになれるのなら……、私の代わりに、あの二人が慧をめいっぱい愛してくれると約束してくれたから……」涙をこらえながら、そう語る女将さんを見ると、どれだけその時慧さんと離れるのが辛くて、どれだけ愛しているのかが伝わってくる。女将さんは慧さんの幸せを選んだってことだったんだ……。母親としては、そうするしかなかったかもしれない。慰謝料も払えないのも明らかで、だけど、慧さん自身を幸せにしてくれるという保証をしてくれると約束してくれるのなら……。きっとホントは、女将さんも、慧さんも、二人でいることが一番幸せだったはずなのに……。だけど、きっと実際はそんな約束も守られていなくて。慧さんは一人頑張って……。今の慧さんがあるのは、慧さんが自分でその辛い現実を乗り越えて頑張ったからだ。それを考えると、とても胸が痛い……。どこまで慧さんは辛い状況で耐えきたんだろうと……。「そし
「ビックリしました……。女将さんがまさか慧さんのお母さんだったなんて……」今でもなんだかまだ二人が親子だなんて信じられないけど、慧さんも女将さんも同じように気を落としてる姿や雰囲気が、なんだか似ている感じがするのは、やっぱり親子だからなのかな……。その真実を知ってからは、当然女将さんも慧さんのお母さんとして見てしまう。だけど、それは軽蔑とか不信感とかそういうのじゃ全然なくて。今は、慧さんのお母さんとして、今までとはまた近い存在として感じるというか……。勝手に、親近感みたいなそんな感覚を持ってしまう。「彼から、私のことは聞いた……?」「はい……」「そう……。あの子、あたしのこと恨んでるんでしょうね……」女将さんが目を伏せて寂しそうに呟く。その言葉に女将さんの今までの想いがすべて詰まってるような気がして……。そんな女将さんを見て胸が苦しくなるけど、なんとか気持ちを奮い立たせる。「あたしは、慧さんの言葉が、どこまでが本音なのかはわかりません……。だけど……、慧さんはとても傷ついて悲しい時間は過ごされてきたんだと思います」「そうよね。いきなり母親がいなくなるなんて、どんな理由であれ本当はあの子にそんな想いさせたくなかった……」「なら……どうして慧さんを捨てたりなんか……」「……え? 捨てた……?」女将さんは顔を上げて、あたしが言ったその言葉に、すぐ反応をする。そして、なぜか怪訝そうな表情をしている。「あの子が……、慧が……、そう言ってたの……?」「そうです……。あの……もしかして……。違うんですか……?」女将さんはあたしのその言葉を聞いて、さらに泣きそうな表情になっている。「捨てたんじゃないわ……。あの人に……、慧の父親に、慧は奪い取られたのよ……」「え……? 奪い取られたって、どういうことですか……?」「慧は……、あの子の父親に黙って一人で産んだの」「そう、なんですか……?」「ええ。あの人には家庭があったし、決して向こうの家族を壊す気はなかった。私は早くに両親を亡くしていたから、慧がお腹にいるとわかった時、私にまた家族が出来たんだってホントに嬉しかった……。あたしにとってあの子は何よりも宝物だった。あの子の為ならなんだって出来たし頑張れたわ」女将さんは少し目を潤ませながら想いを伝える。「だけどどこかであの人が慧の存
「なんかお前いつでも全力だよな(笑)」「それがあたしの取り柄ですから!」「確かに。それなかったらお前じゃねえしな」「だから。あたし。仕事でも認めてもらえるような人間になろうと思って」「ん? それはオレにってこと?」「もちろんです。あたし。仕事でもちゃんと頑張ってる姿見てもらって、中途半端な気持ちじゃないってこと、慧さんとしても社長としても知ってもらいたいです」「んなの言わなくてもわかってるよ」「でも。あたしの仕事ぶりはまだ社長には見てもらったことないですし、会社の人間としては、まだ全然役に立ててなくて……」「そんなのお前の年齢と経験では普通だし」「だけど。あたし、ホントに社
それから、飲み物や少しずつ食事が来て少し落ち着いた頃に。「さっ。話。始めようか」社長が口を開いた。「驚かせて悪かったな、河野」「いえ……。でも、すいません。まったく状況が把握出来なくて……」「うん。そうだろうな。ホントは逢沢が事前に話してればこんな戸惑うこともなかったんだろうけど、そこはオレに気を遣って逢沢が誰にも話さないでいてくれたから」「あっ、そうだったんですね……」「だけど。親友の河野には、ちゃんと全部話しておきたいからって逢沢に相談されて。お前らの間に行き違いや勘違いが生じないように、ちゃんとオレからも状況説明する必要があると思ったから、今回オレらも同席させてもらった」
「え、ヤバッ。依那、あんた社長の前ではそんな感じなんだ!?(笑)」「あっ……」「なんだ、心配することないじゃん(笑)」「え?」「ちゃんとあんたはあんたらしくいれてんじゃん。社長と初めて会った時も、そうやって同じように威勢よく立ち向かってたし(笑)」「いや、あれは……!」「あ~そっか。そういえば、あの時もそんな感じだったね。ほら、あたしが言った通りになってんじゃん」「え? なんて言ってたっけ?」「人生何が起きるかわかんないよって」「あ~、そういえばなんかそんなこと言ってたかも」「あの時、そうやって話してる二人の雰囲気いい感じだな~と思ってたんだよね」「あ~。確かに。あの時
「心して彼女役務めさせていただきます」そして、その気持ちを忘れないように、しっかり声に出して自分に言い聞かせる。「何、どした、いきなり」「いや。大事な仕事先の方なら失礼にならないようにしないとなと思って」「あぁ~。うん。そこがな、難しいとこなんだけど。この前お願いした相手は別にあれ以上仕事に影響なかったからあれでよかったんだけどさ。今回はこれからもまだ仕事で付き合っていく人だから、そこはまぁあんま揉めないように上手くやってほしいっていうのはある」「ですよね。なんか簡単そうに思えてちょっと責任重大ですよね」「まぁ普通の状況の彼女役とかじゃないからな。結局オレは仕事にも関わってること







