LOGIN「ねぇ、依那。何やってんの(笑)」
「あっ……。桜子……」
気付くと少し離れたところで一部始終を見てたであろう桜子が少し笑いながら話しかけてくる。
「いや、ビックリするわ。社長と何対等に話してんの」
「えっ! どこが!? てか、あたし何話してた!?」
「えっ、自分で話したこと覚えてないの?」
「いや、なんか流れで、言わなくてもいいこと言ったような気がしてならないんだけど……」
こんな状況想像すらもしていなかった。
社長と直接話す機会なんて今までなかったしこの先もないと思ってた。 それくらいこの会社は社員も多いし社長と一社員との線引きがハッキリしている。 ある意味それくらい社長は遠い存在の人だった。 なのに今はとにかくクビにだけはならないように必死だったことしか記憶にない……。「まぁ、そうね。依那、社長に向かって堂々とタイプじゃないとか言って、ちょっとビックリしたけどね」
「だよね!? あたしはただ社長目当てじゃないってこと伝えたかっただけなのに、なんか言葉のチョイス間違ったかなって、話してるうちにどんどんわかんなくなってた」
「そうなんだ(笑) 確かにあの社長のオーラ目の前にすると、何話していいかわかんなくなるかも」
「でしょ!?」
「でも社長って、もっとクールな感じかと思ってたし、あんな風に結構喋る人だとは思ってなかった」
「だよね」
「うん。でもあの本村さんもなんか実は砕けた感じの人でビックリだった」
「ねー」
「あの人も出来る秘書さんで有名だしね~」
「そうなんだ?」
「社長はまぁダントツで人気だけどさ。案外あの本村さんも、あのビジュアルだから、会社の中でも密かにファン多いんだよね」
「へ~あの人もなんだ」
「社長よりもあの本村さんは、少し優しくて甘い感じの雰囲気があるから、隣同士二人でいると、社長との違いがまた目立つっていうかさ」
「確かに」
改めてさっき社長と本村さん見たけど、確かにあの二人が一緒にいる姿は、すごく目を引いた。
お互い背が高くて、誰が見てもカッコいい二人。 社長がクールなカッコいい感じなら本村さんは少し温かみを感じるような爽やかさというか。 そしてそのバランスがそれぞれの魅力を引き出し合っている。「でもあの二人元々仲良さそうな感じだったね。そういえばうちの社長よく取材されるけど、その時に、ここはビジネスパートナーと始めた会社で、その存在は今でも大きくて頼りになるって答えてたな~。それあの本村さんのことだったんだね」
「そっか。あたし今までは好きなカフェの仕事に関われるってことが一番重視することだったし、個人的な社長のこととか気にしてなかったというか」
「あ~、依那はそんな感じだったよね」
「確かにそこそこ若い社長だとは思ってたけど、でもこの仕事からしたら社長みたいな人だから、ここまでこの会社もすごくなってるんだろうなぁって思うし」
「それはそうかもね。社長の若さと柔軟で独創的なアイデアがあるからこそ、ここまでいろんなプロデュース出来て、いろいろ広がっていってるんだろうしね」
「うん。やっぱそこは社長尊敬出来る人かも」
「タイプじゃないけど(笑)?」
「あっ、うん。そうだね(笑) でも元々あたしは社長のそういう外見だとかスペックだとかに惹かれてここ入った訳でもないし、それは入社しても変わらないな」
「確かに、依那そこはブレないよね」
「うん。あのカフェみたいな場所自分でも作りたいっていうのが今のあたしの夢というか、ここに入ってやりたいことだし」
「そだね。依那はそれ叶えるために、ここに入ったんだもんね」
「うん。さっきはルイルイと比べてあんな感じでは話してたけどさ。実際は社長はずっと尊敬する人っていうか憧れてる人っていうか」
「なら、それさっき言えばよかったのに」
「いや、多分そういうのあの時言ったところで特に社長は何も思わないんじゃない? そんなの普段から言われ慣れてるだろうし」
「そうかな~。逆に依那みたいに社長の仕事に憧れて純粋にこの会社に入社した人って少ないと思うし、嬉しいんじゃないかな~」
「そうかな~」
「うん。あたしもたまたまタイミングよくこの会社の求人見つけてオシャレな仕事っぽいな~って思って始めただけだし」
「そんなもんなんだ」
「うん。あたしはそんな感じの理由だけど、現に社長狙いの人は最初っからこの社長の会社だってわかって入ってきた人もいるだろうしさ」
「そっか」
あたしは純粋にこの会社のこの仕事に惹かれて働きたいと思った。
それは社長がカッコいいとかそういうのじゃなく社長が手掛けるこの仕事に憧れて、そんな社長の元で働きたかったから。 社長の前ではタイプじゃないとか散々言ったりしたけどそれは単純に恋愛とかそういう意識を持っていないという意味で。 実際はあたしが理想とする仕事をしている社長は上司として純粋にそういう意味で憧れて尊敬している。「ただいま」「えっ? あれ? 今日も仕事で遅くなるって言ってませんでした!?」リビングのソファで、一人くつろいでいると、思ってたより早い時間に社長が帰ってきて、思わず驚いて反応する。「あぁ。その予定だったんだけど、今日はちょっと新しい仕事の打合せでずっと出先でさ。今日はキリついたから早めにもう家帰ってきた」「そうなんですね! うわー今日も遅くなると思ってたんで嬉しいです! なら、ちょっとお話出来たりしますか?」「あぁ、いいよ。今日はもう家で仕事する予定してないし」「よかった」そしてソファーに座りながら、社長が着替えて落ち着くのを待っていたら、着替えを終えて戻ってきた社長が、ソファーのすぐ隣にドカッと座る。「あ~疲れた」そう言って、後ろに首を倒しながら、ソファーにもたれかかってリラックスしている社長。「今日は一日外出されてたんですか?」「そう。新しいプロジェクトの打合せだったり、新規の顧客との顔合わせだったり。さすがに今日はずっと気ぃ遣う一日だったから疲れた」「一日お疲れ様でした」「やっぱ家だと落ち着くわ」「あっ、なんか飲みます? また、柚子茶とか……」と、何か作ろうと席を立とうとしたら。「いい」そう言って、立ち上がったあたしの腕を引っ張って制止する。「このままここにいろ」「あっ、はい……」そう言って、そのまま元のように座り直す。社長に引っ張られた腕が、久々の社長のぬくもりを感じて、やけに緊張する。こんな少しだけ握られた感触だけでも、社長を感じられて嬉しくなる。「どした? なんか嬉しいことでもあった?」あたしがつい嬉しくなってにやけてしまった表情に気付いて社長が声をかけてくる。「なんか、嬉しいなと思って」「ん?」「相変わらず毎日忙しくされてて、さっき帰ってきた時は、仕事してた社長モードで。それもカッコよくて素敵なんですけど。でも、今はこうやって隣でくつろいでくれている慧さんを感じられるのが、なんか嬉しくて」「そっか」「はい」こうやってただ隣にいれるだけで幸せになる。「こういう素でくつろいでる姿、誰も知らないんだなって思ったら、社長独り占めしてるんだなって、更に嬉しいっていうか」「なら……いいよ。もっとオレを独り占めして」そう言って甘く微笑みながら、素早く隣から、手を伸ばしてそのままあたしの腰を引き寄せ
「逢沢」「あぁヨッシー」「社内メール見た?」仕事中、ヨッシーがいきなり声をかけてきた。「ん? メール?」「まだ見てないのかよ。これ印刷したやつ持ってきた」「ん? 何これ」そう言ってヨッシーが印刷した紙を差し出す。「社長が最近立ち上げたプロジェクト」「あぁ。前に言ってたね。で、それがどうしたの?」「よく見てみろよ。そのプロジェクト。プロジェクトメンバー今から募集するらしいんだけど。それ社内の人間なら誰でも応募出来るらしいぞ」「えっ! そうなの!? 今それって、なんでもないあたしらでも出来るってこと?」「おぉ。社内の人間なら誰でも応募可能書いてある。プロジェクト未経験者でもいい企画を出せばメンバー入れる可能性あるってさ」「えっ、それめちゃ興味ある」「だろ? 基本プロジェクトなんて、そこそこ経験積んだ人間じゃないと選ばれないんだけどさ。今回のプロジェクトは、社長が直々に立ち上げたモノだから、特別にそういうカタチになったらしい」「そうなんだ! じゃあ、それって絶対チャンスだよね!」「だろ!?」「これ選ばれたら社長と直接仕事出来るかも!」「で、これ一人でも何人かでも人数とかも関係なく申し込めるらしくてさ」「へ~。とりあえずいい企画出したらいいってことだよね」「そう。でさ。逢沢、オレと組まねぇ?」「え!? ヨッシーと?」「あぁ。社長の仕事に純粋に憧れて尊敬してるオレらが組めばさ。絶対いい企画出来そうな気しねぇ?」「確かに! それってありかもね」「ってか、社長の仕事憧れてめちゃくちゃ勉強してるオレとお前なら、絶対負ける気しねぇんだよな」「うん。それは負けたくない」「しかも、企画通ってそのメンバーに選ばれたら、社長と一緒に仕事出来んだぞ? 多分一緒に会議とかも出れんじゃね?」「えっ、それマジで魅力的すぎる」社長と一緒に仕事……。え、何その最高な状況。もしプロジェクトメンバーに選ばれたら、社長と会社でも会えるってことだよね!社長の元で勉強出来るとか……あぁ絶対そんなの幸せに決まってる!絶対選ばれたい!大好きな人っていうのもあるけど、何より仕事でもホントに憧れてる人だし、絶対あたし以上にそこに参加したい人はいない!「ヨッシー! これからよろしく!」すっかりその気になったあたしは、ほぼ同志といえるヨッシーに、手を出して
「よしっ。じゃあ、お前はもうそろそろ寝ていいぞ?」「あっ、もうこんな時間。大丈夫ですか?」「ん? 何が?」「少しでもちゃんと寝てくださいね?」「あぁ、うん。お前の作ってくれた柚子茶とマッサージで随分リラックス出来た気するから大丈夫」「よかった……!」「ありがとな」「いえ」よかった……。今日から少しでも社長寝れるようになってくれるといいな。そんなあたしはこんなこと急に起こって興奮して目ギンギンなっちゃったし、絶対寝れる気しないですけどね!「あの……慧……さん」「ん?」「最後。寝る前に、もう一度……好き……って言ってもらってもいいですか?」「えっ!? 散々さっき言ったろ」「だって……。ホントに、好きって言ってもらうの夢だったんです。ずっと慧さんに、好きって言ってほしかったんです……」「そうなんだ? いいよ。いくらでも言ってやる」「……優しい」「は?」「いつもなら絶対そんなすんなりいかないもん……」「んなの、もうお前が好きなんだからいくらでも言えるけど」「そんな……急に変わります?」「何が」「そんな急に……甘い……感じになるんですか……?」「これ甘いの?」「あたしにとっちゃ、甘いです//」「ふ~ん。チョロいな(笑)」「へ!? チョロい!? え!? え!? 何がですか!?」「お前こんなんで満足してんだ?(笑)」「いや、だってそんなん経験全然ないですし……。あたしは慧さんしかこんなの知らないですし……。何言われたって嬉しいですし」「オレだってお前しかこんなんなったことねぇよ」「は!? 嘘!? 今までめちゃめちゃ女の人と遊んでたじゃないですか!?」「別に好きでそうしてた訳じゃねぇよ。そもそも遊んでた訳じゃねぇ」「でも。慧さんは、こんなの……慣れっこでしょうけど、あたしはもう好きだって言ってもらえるだけで、いっぱいいっぱいで」「いや、それにしたら、お前好きって言えってねだってんじゃん(笑)」「それ……は……! なら。もういいです……」「何? 拗ねてんの?(笑)」「拗ねてません~! もう諦めただけです~!」「フッ。諦めたんだ。はやっ(笑)」「意地悪……」「そうしたのお前だから」「え?」「こんな誰かに自分から構いたいって思うことなんて今までなかったし、こんなに一人の女の気持ち知りたいって思ったの初め
優しく囁いてくれるその言葉に、こんなにハッキリ言われると思ってない現実が、嬉しくて、夢のようで涙が溢れてくる。「ハハ。何泣いてんだよ」涙が溢れてきてるあたしに気付いて、笑いながら手で涙を拭いてくれる社長。「だって~! 夢みたいで~! ホントにこれ現実ですか!?」「現実だから(笑)」「その好きは、あたしの好きと同じってことですか……? あたしをちゃんと恋愛対象として彼女として……ホントに好きになってくれたってことですか?」「そうだよ」「うぅ……夢みたいでなんか信じられないです~」泣きながらまだ受け入れられない現実を伝える。「しょうがねぇなぁ~」社長がそうやって笑ったと思ったら。触れていた頬を後頭部まで回し、そのまま顔を近づけられ、社長の唇が触れた。…………!!!!あたしはその甘い出来事にパニックになりながらも、引き寄せてくれたその手が、優しく愛しそうに触れてくれて、その感触を感じる。そして社長が触れるその唇の感触に、心臓が壊れそうになる。あの時の酔った事故のキスみたいなんかじゃなく、優しく大切そうにしてくれるキス。ちゃんとあたしだと意識して、してくれるキス。気持ちがあるキスって、こんなに幸せに感じるんだ……。あたしはその初めて感じた想いの込められたキスで胸がいっぱいになる。「これで信じた?」「はい……」「お前が好きで、お前が愛しくてキスしたって、ちゃんと伝わった?」「はい……。伝わりました……」確かに言葉よりもそのキスで、その想いが伝わってきた。全然雑なんかじゃなく、ちゃんと大切にされていると感じられた。その表情から、その触れた手から、その唇から、全部でそれを感じることが出来るキスだった。「でもまぁ、こんなのキスの中に入んねぇけど」「えっ? 入んないんですか!?」「そりゃそうだろ。こんな子供だましのキス。物足りねぇし、初心者のお前には刺激強いから、これくらいで加減しただけ」「えっ……。もっとすごいレベルになっていくってことですか……?」「そりゃ好きな女前にしたら、こんなんで収まるわけねえし」「好きな……女……」「自分の気持ちこうやって認めたら、なんかすげぇ抑えらんなくなってきたわ。もっと濃厚なやつこれからするから、ちゃんと今から覚悟しとけよ」「へっ!? いや、えっ!? 覚悟!?」えっ、もっと濃厚って
「なぁ……。いつまでそうしてんの?」「えっ! あっ、すいません! つい嬉しくて想い溢れちゃって……」「なら、そろそろ顔見せろ」「えっ?」「マッサージしてくれたのは気持ちよかったけど、それだと全然お前の顔見えないんだけど」「えっ、顔見たいってことですか……?」「だからそう言ってんだろ」そう言って、あたしが離れたタイミングで社長がこちらへと向き直す。「フッ。ようやく顔見れた」そう言いながら、優しく微笑んで、同じようにそっと大切なモノを触れるかのように優しくあたしの頬に社長が手で触れる。えっ……!?今、社長あたしの頬に触れてるよね!?しかも、なんでそんな顔で優しく見つめてくれるの……?そんな表情……あたしのこと好きだって思ってくれてるかと勘違いしてしまいそうになるじゃん……。「社長……?」そして微笑んで触れたままでいる社長。その表情と、その触れた手から、あたしの頬はどんどん熱を帯びて心臓もどんどん激しくなっていく。「そうじゃないだろ?」「え……?」「ちゃんと名前で呼んで」そして社長もなぜかいつもと違う色気が帯びてくる。「慧……さん……」「ん」そして満足そうに社長が微笑んで。「依那……」え……名前呼んだ……?演技してた時に呼ばれたみたいなあんな感じじゃなくて、あたしが気持ちを伝えてから呼ばれたその名前は、甘く、優しく、響く。「はい……」あたしは、ドキドキしながらそう返事するだけで精一杯で。「依那……。好きだよ」「へ……?」まさか言われるなんて思ってもない言葉が飛び出して、あたしは色気ない間の抜けた声で反応してしまう。「そうやって全然オレの気持ちわかってないとこも、オレの為になんでもしてくれようとするとこも、まっすぐオレだけ見つめて好きだって伝えてくれるとこも……。全部好きだよ」
「ホントですか!?」「あぁ。オレのためにいろいろ考えてくれてたんだな」「でも、あたしの出来ることなんて、こんな風に家で出来ることくらいしか考えつかなかったんですけどね」「十分だよ……。ホントに……」「ならよかったです」「お前がこうやって家にいてくれて、いろいろしてくれることが嬉しい。オレが家に帰りたいって思う理由が出来た」「あたしが理由になってるってことですか?」「もちろん。今まで仕事遅くなったらさ、会社で仮眠室も作ってるから会社で寝泊まりすることも多かったんだよ」「そうなんですか?」「あぁ。その方が仕事もはかどったし、次の日も楽だし。着替えとかもそれなりに置いてる。だから寝泊まりしたことで不自由ないんだよ」「確かに……。それだと問題ないですよね……」「だけど。今はお前が家にいてくれるから。どんなに遅くても家に帰りたいって思う。その日顔見れなくても、翌日一緒に朝食えるだけで、オレ的にはちゃんとした理由になってる」「そうなんですね……。そこまでちゃんと考えくれてるなんて思ってなかったです」「お前に気を遣わせたくないから遠慮してたけど……。でもこれからは、こうやって帰ってからもお前と一緒に過ごせんなら、オレもまた帰りたい理由や帰る意味が強くなったっていうかさ」「それは、社長の中であたしの存在が少しづつ大きくなってるって思ってもいいってことですか?」「あぁ。もう十分大きいから安心しろ」「フフ。やった! 嬉しいです!」「おわっ!」社長の言葉に思わず嬉しくなってマッサージしてたのを忘れ、思わず背中から抱きついてしまって、その衝撃で社長が驚く。「慧さん……。大好きです……」そしてそのまま抱きつきながら、溢れてきた想いをこっそり背中越しに伝える。これくらいの声なら聞こえないかな。でも、聞こえてほしい気もする。多分あたしはこんな風に何度も社長のことを知るたびに、想いが溢れて口から零れてしまう。だけど、まだ社長はあたしを好きになってくれてるかもわからないから。あんまり言いすぎると逆効果なのかなとかも考えてしまったり。でもやっぱりこの気持ちも隠したくないし、伝え続けたいとも思うから。