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3-7【ロントゥーサ沖の決戦】

Penulis: 蕪菁
last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-20 15:50:10

 上空で、二匹の怪物が爆散する。

 アデーレは爆炎の中から飛び出し、そのまま埠頭近くの倉庫の屋根に着地した。

 埠頭の方を見ると、怪物達に囲まれた兵隊たちが苦戦を強いられているようだ。

「数が、増えてる?」

 最初は二十匹ほどだったはずの怪物は、四十近くまでに増加している。

 一体どこから現れたのか。アデーレが港の周囲を見渡す。

「アデーレ、海だ!」

 アンロックンの言葉に促され、アデーレが埠頭から沖の方へと視線を向ける。

 港から百メートルほど離れた位置にある深場だろうか。

 青黒い海面を更に黒く染める、長く巨大な影が海中を潜行しているようだ。

 茂る海藻を見間違えたかとアデーレが目を凝らすが、それは間違いなく港に向けて少しずつ移動している。

「あれは……」

 影の正体を見極めようとアデーレが目を細める。

 その瞬間、影の上部から水柱が立ち、空中に巻貝らしきものが射出される。

 数は五つ。殻は放物線を描きながら、港の方へと飛んでくる。

「まずいっ」

 屋根を蹴り、飛来する殻めがけて再び跳躍するアデーレ。

 構えた大剣の刃が、赤く燃え盛る炎をまとう。

 炎の光は軌跡となり、アデーレと貝殻の距離が一気に縮まっていく。

 その瞬間、纏う炎が十数メートルほどの炎の刃となる。

 それを空中の殻に向けて、アデーレは全力で振り抜く。

「吹っ飛べっ!」

 炎の刃は五つの殻を飲み込み、殻は火の玉となって海に撃ち返される。

 遥か彼方の水平線に五つの水柱が立つ。

 だがその直後、再び影の方から殻が発射される。

 今度は十個以上飛来するのが確認できた。

「ちょっ、多いって!」

 火炎の刃を二、三度振り、同じように殻を打ち返す。

 しかし、射出される勢いに収まる気配はない。

 アデーレは地上に殻が落ちてこないよう、何度も殻を打ち返していく。

「何度も何度も! アレ何なのっ!?」

 空に向けてアデーレが声を荒げる。

 だが焦燥を隠せないアデーレに対し、アンロックンは冷静に言葉を返す。

「侵攻型の魔獣だろうね。ああやって兵隊をどんどん送り込んで、敵の領地を奪うって寸法さ」

「送り込むって、さすがに吐き出すにも限界があるんじゃないのッ?」

「数百数千を抱えて奇襲してくる奴もいるから、期待しない方がいいよ」

 無慈悲なアンロックンの言葉に眉をひそめるアデーレ。

 そうこうしているうちに、次々と巻貝の怪物がロントゥーサの港に向けて発射される。

「こんなのキリがないって……」

 空中で剣を振り続けるアデーレ。

 その姿は、地上にいる人々にはどう映るだろうか。

 これ以上目立つのは、今後の活動にも支障が出るかもしれない。

 それに、アデーレ自身の体力にも限界がある。

 被害を抑える意味でも、この場は早期の決着を求められるだろう。

「アンロックン」

「なんだい?」

「この剣、水中でも使える?」

「フラムディウスは火竜の力の片鱗だよ。多少能力は制限されるけど、水程度では消えないさ」

 この剣がフラムディウスという名前だったことを、アデーレはここで初めて聞かされた。

 だが、それは大した問題ではない。

 炎の大剣が水中でも使えるのならば、アデーレがやるべきことは一つだ。

 フラムディウスを両手で構え、軍艦の煙突に着地するアデーレ。

 その場で膝を曲げ、両脚に力を込める。

「なら……」

 アデーレの体が水面めがけ、放たれた銃弾の如く真っ直ぐ跳躍する。

 纏うオーラが彼女の後ろに光の軌跡を残し、空気の焼ける匂いが漂う。

「大本を叩く!」

 踏み込みの反動で、船が大きく揺れる。

 甲板にいた兵士達が振り落とされぬようその場にかがみ、何が起きたかと周囲を見渡している。

 だが跳び出したアデーレを常人の目では追いかけることも叶わず、彼女は誰の目にも止まらぬ速さで怪物の本体であろう影の方へ真っすぐ進む。

 アデーレの目に、水面下に潜む怪物の姿が映る。

 瞬間、わずかな水柱だけを立てて彼女の体が水面を貫いた。

 アデーレの体が、一気に海底間近へと沈む。

 体にかかる水の抵抗は炎の力により軽減され、呼吸や会話にも問題はないようだ。

 だが、見上げた先に映る光景に、アデーレは声を漏らす。

「うわ……」

 海中に沈む影の正体は、五十メートルはあろうかという円錐状の貝だった。

 赤褐色の表面には等間隔に五メートルほどのとげが並び、一部は穴の開いた煙突状になっている。

 魚雷でも発射しそうなその煙突からは、地上に向けて射出されていた小型魔獣の先端が確認できる。

 アンロックンの言う通り、この規格外の魔獣は兵隊を運ぶ潜水艦だ。

 その時、目の前の巨大な魔獣が、アデーレを迎え撃つように鋭い先端部を海面に向けて立ち上がる。

 蓋を開いた底部からは、巻貝の本体である軟体生物が姿を現した。

「来るよ、アデーレ!」

 叫ぶアンロックン。

 直後、巨大な貝殻がアデーレにめがけて倒れ掛かってくる。

 アデーレは貝殻を冷静に剣で受け、渾身の力で左側へと飛び退き回避。

 しかし殻から伸びる煙突状の筒が、狙いすましたかのようにアデーレの方を向く。

 直後その穴から表面が滑らかな大量の触手が出現し、アデーレ目掛けて襲い掛かった。

「うっ!」

 両手で剣を構えた姿勢のまま、手足や体、首を触手で拘束されるアデーレ。

 アデーレの自由を奪った触手は、彼女を引きずり込もうと穴の中に戻っていく。

 彼女が睨む穴の奥には、無数の歯の生えた口のような部分が確認できる。

「そんなところに口あるの!?」

「言ってる場合じゃないよ、アデーレっ」

 剣が赤く輝き、オーラが推進力となり放出される。

 何とか捕食されぬよう抵抗するが、触手の引き込もうとする力は強く、徐々に引き込まれていく。

 これが能力の制限かと、アデーレは内心舌打ちをする。

「アデーレ、剣に鍵を差し込めそうかい?」

「くっ……な、何とか」

「それじゃあ、この鍵を剣に。急いでッ!」

 アンロックンに促され、剣から左手を離す。

 その直後、左手の中で光が放たれ、それは鍵の形へと変化する。

 変身の時に使う鍵とは違い、黄金色の雷雲を象ったものだ。

 同時に竜紋の口が開き、鍔に隠された鍵穴が出現した。

「僕の上司の旦那から借りた力さ。変身には使えないけど、力の解放が出来るよ!」

「神様の序列を職場みたいに……ああ、もうっ!」

 見た目や上司発言から、アデーレにはこの鍵の力が何なのか、大体理解が出来た。出来てしまった。

 確かに現状打破には最適な判断だが、この力を使うことで自分にダメージが来るのではという心配が頭を過ぎる。

 しかし、今は化け物に食い殺される寸前。

 よもや痛みを恐れてまごついている訳にもいかないのだ。

 アデーレは覚悟を決め、かろうじて動く左手で鍵を鍵穴に差し込む。

 そして強く目をつむり、わずかに震える手で鍵を回した。

 その瞬間、剣から伝わる電気の感触。

 電撃は一瞬にして全身を巡り、剣を持つアデーレの手が小刻みに震える。

 まるで電気がアデーレの体中に蓄えられているかのような感覚だ。

 しかし体はすぐさま限界を迎え、そして……。

 重い爆発音がロントゥーサ沖の海中に響き渡る。

 同時に、落雷を思わせる金色の閃光がアデーレを中心に放出。

 その衝撃は拘束していた触手全てを吹き飛ばし、怪物の強固な殻の一部を砕いて大穴を開ける。

 開かれた穴の中には、触手か内臓かも分からぬ肉塊がうごめいていた。

「やっぱり電気だ……」

「解放されたからいいでしょ。それよりほら、今すぐトドメを!」

 全身にしびれを感じ、回らぬ舌で愚痴をこぼすアデーレ。

 手にする剣を見ると、いつもの赤いオーラではなく金色の光が刃から放たれている。

 アデーレは不自由な体を無理やり動かし、切っ先を中身が露出する殻に向けて構える。

「これで……」

 両手で強く柄を握りしめたその瞬間、剣から強烈な衝撃が放たれる。

 それは前進の為の推進力となり、剣を手にするアデーレが目の前の肉塊めがけて放たれる。

「終わらせる!!」

 その切っ先は彼女が瞬きする間もなく、グロテスクな肉塊に突き刺さる。

 それでもアデーレの身体は止まらない。

 切っ先からは肉を裂き、硬い物を破壊する感触が手に伝わり、固い壁を打ち砕いた後は反対側の海中へと彼女の体が投げ出される。

 雷撃の力を得たフラムディウスが、巨大な怪物の身体を一直線に貫いたのだ。

 アデーレの背後で複数の重々しい爆発音が響き、水圧が彼女の背中を押す。

 魔獣の本体各所から金色の光あふれ出し、その体が膨張を始める。

 今にも魔獣が爆発しそうな状況に気付き、目を見開いたアデーレは慌てて海底を蹴り上げ浮上していく。

 わずかな水柱を立てながら、アデーレの体が海面へと飛び出す。

 今日一番の水柱が立ち上ったのは、アデーレが空中へと脱出した直後の事だった。

「……ふぅ」

 落下の最中に一息つき、剣を下ろすアデーレ。

 そして自らの頭に手を伸ばすと、帽子の感触が手袋越しに伝わってくる。

 今更になって、これほどまで派手に動いても帽子が脱げていないことに気付くのだった。

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