ログイン《side 聖女アリスティア》 教国の外に出るのは、久しぶりのことです。 今回の公国行きは、教皇から「危険かもしれない」と釘を刺されていました。 ですが、そんなことは関係ないのです。 なぜならば、私はとうとうお会いできるのです。 教国は中立な国であり、戒律が厳しく、世界の平和のために存在しております。 そして、そのためには各国の情報を収集し、現状を把握しなければならないわけですが、情報を集めることで、世界の様々な人々を知るのも仕事の一環になります。 その中で、この世界の指導者たちの動向を日々、観察し続けているのです。 そして、世界の指導者たちについて学ぶうちに、私は指導者がどんどんと様変わりする今の世界をとても興味深く見ています。 さて、今回の結婚式では、世界の主要人物の一人であるフライ・エルトール様がご結婚なさいます。 それも、お相手は公国の次期指導者になられると思われていたセシリア様です。 これほど面白い! もとい、素晴らしい結婚の場にお呼ばれするなど最高の誉れです。 そうです。私にとって、これはまさに歴史的な集まりです。 私の興奮は最高潮であると言えるでしょう。 ですが、聖女たるもの、表情に出すわけにはいきません。 私はあくまで優雅に微笑みながら、内心で全力の解説を繰り広げていました。 式が始まる前に、参列者である指導者たちが集まり、次々と席に着いていかれるのです。 もうもうもうもうもう!!!! ◇ 推し①: ブライド・スレイヤー・ハーケンス様(帝国皇帝) 現在、最も世界の覇権を握る可能性が高い人物として、教国でも最大の注目を集める御方です。 帝国で起きた大虐殺は、まだ記憶に新しい事件でしょう。 私の推しポイントは、まずそのお名前でしょう。「スレイヤー」という名に恥じない、ヤバいオーラが満載の破滅型皇帝です。 見つめているだけで涎が出てしまいそうですね。
《side ミシェ》 私は、小さな村で生まれた。 ホビットとして。 私の種族は、背が低く、手足も短い。 体はひ弱で、戦う力もない。 それを卑下するつもりはない。 ホビットは長寿の種族だが、そのぶん成長が遅く、成人するまでに長い時間がかかる。 そして、人間からは「亜人」として扱われ、見下されることが多かった。「ホビットの子は働きが悪い」「知恵だけつけても役には立たない」「可愛らしい見た目をしているが、所詮は亜人だ」 そんな言葉を、幼い頃からずっと聞かされてきた。 だが、私は賢くなることを諦めなかった。 長い時間をかけて学び、知識を蓄えることが好きだった。 本を読み、古い文献を漁り、誰よりも物事を深く考えた。 だが、知識を持っていても、それを生かす場所がなかった。 誰もホビットの言葉に耳を傾けない。 どれほど理論的に話しても、「亜人風情が」と一蹴されるだけだった。「頭のいいホビット? 笑わせるなよ。そんなものが役に立つか?」 私は、ずっと世界から拒絶されていた。◇ そんな私に、手を差し伸べてくれたのが――アイスだった。 彼は王国の王子でありながら、生まれつき体が弱かった。貴族や臣下たちからは「頼りない王子」とさえ囁かれ、病床に伏すことも多かった。 そして、彼は知識を求めていた。 より良い未来を築くための知識を。 戦わずして国を動かすための知識を。 私は、彼の病を治すために、ありとあらゆる書物を調べた。 ホビットは長寿ゆえに、古い知識を受け継ぐ者も多い。 私は薬草学や治癒術を学び、王城に出入りできる立場を得た。 王子の病を癒すことで、私は初めて「自分の知識が役に立つ」ことを実感した。 そして、アイスは、私の言葉を真剣に聞いてくれた。「ミシェ、君の知識は素晴らしいよ」 成長し
ドカーン!!! 炸裂する爆音とともに、結婚式の大聖堂が激しく揺れた。 ステンドグラスが砕け、色とりどりの破片が宙を舞う。 突然の衝撃に、貴族たちは悲鳴を上げ、混乱が広がる。 だが、僕は重力魔法でガラスの破片を元の位置へ集め、無属性の修復魔法でステンドグラスを元通りにした。「……始まったね」 天井の一部が崩れ落ちる中、僕は素早く手をかざし、魔力を練る。 結界発動。 透明な防御壁が周囲を覆い、瓦礫が床に落ちる前にすべて無害化される。瓦礫は空中で静止し、そのままゆっくりと元の位置へ戻っていく。「ギャアアアアッ!!」 外からは、武装した暴徒たちの叫び声が響いてくる。 公国の街全体に襲撃者が現れ、大聖堂を取り囲むようにこちらへ向かってきた。 異様な気配と魔力を帯びた者たちが、いくつもの呪文を詠唱し、巨大な魔法陣を発動させていた。「帝国も王国も滅びるべきだ!」「貴族どもに正義の裁きを!!」「革命万歳!!」 どうやら転移系の魔法陣を使って、人員を送り込んでいるようだ。そんな高等技術があったんだね。 様々な場所からの侵入を警戒していたけど、突然現れることまでは想定していなかった。「確か、古代の技術で、まだ確立されていないと思っていたけど」 小説の後半に、ある研究者がそれを開発し、使えるようにしていたが、このタイミングでは早い。 暴徒の一部が叫び、狂乱に満ちた目でこちらを睨みつける。体には無数の傷があり、血を流しておかしくなっている者もいるようだ。「どうやら、まだ未完成で、欠陥品を使ったようだね」 だが、僕は冷静に彼らを見据える。 結婚式の襲撃など、予想の範囲内だ。「まったく、僕の式を邪魔するなんて、無粋にもほどがある」 僕はゆっくりと手を上げた。 同時に、暴徒たちが展開した巨大魔法陣が輝きを増し、上空に膨大な魔力が集束する。
《side フライ・エルトール》 青空がどこまでも綺麗に透き通って見える中で、結婚式の鐘が高らかに鳴り響く。 公国の大聖堂は壮麗な光に包まれ、天井から降り注ぐステンドグラスの光が、厳かでありながらも神聖な雰囲気を醸し出していた。 僕は、中央の祭壇の前に立ち、深呼吸をする。 左右には、帝国、王国、公国、そして異種族の王族や貴族たちが参列し、見守っている。その中にはブライド皇帝やアイス王の姿もある。 だが、今日の主役は彼らではない。 僕の視線の先には、式を執り行う聖女アリスティアがいた。 銀色の髪が柔らかく揺れ、清廉な雰囲気を纏った彼女は、どこか神秘的な存在感を持っていた。 彼女の青い瞳が僕を見つめ、柔らかな微笑みを浮かべる。「フライ・エルトール公爵殿、本日は、あなたの大切な日ですね」「ええ、まさに人生の大きな節目です」 彼女は静かに頷き、両手を組んで神に祈りを捧げるような仕草を見せた。「このような日に、私を指名していただきありがとうございます。では、新婦を迎え入れましょう」 大聖堂の扉が静かに開かれる。 光が差し込み、三人の美しい花嫁たちがゆっくりと歩みを進めてくる。 最初に目に入ったのは、ピンク色の髪をしたセシリアだった。 公国の姫として、優雅で可憐なウェディングドレスを身に纏い、天使のように輝いている。 次に、金色の髪を揺らすエリザベート。 気品と威厳を併せ持つ彼女は、堂々とした姿勢で歩いてくる。 最後に、茶色い髪をなびかせるアイリーン。 彼女は妹であるエリザベートとは違い、どこか甘えたような、それでいて熱を帯びた瞳で僕を見つめていた。 彼女たちは、それぞれ違った美しさを持ちながらも、共通していたのは、今日という日を心から待ち望んでくれていたことだ。 祭壇の前で彼女たちが並び、僕は一歩踏み出す。 まずは、セシリアが僕の前に立った。「フライ様…&helli
結婚式の朝が来た。 公国の大聖堂で執り行われるこの式には、帝国、王国、さらには異種族の要人たちまでもが参列する。 さらに教国から聖女を招き、結婚の祝福を授かる。 実際に聖女がどのような人物なのか、僕も文章でしか知らないが、会えるのが楽しみな人物の一人だ。 当然、平穏無事に終わるはずがない。 これだけ各国の重鎮が集まっているということは、革命軍にとっても標的が大集結しているようなものだ。 だからこそ、絶対に革命軍には仕事をさせてはいけない。 すでに、僕とセシリアが結婚することは本来あるべき歴史とは異なっている。ならば、歴史を元に戻そうとする力や悪巧みを働く者たちにとって、これほど好条件の揃った機会はない。 僕はこの場で何が起こるか、ある程度の予測は立てている。 だからこそ、万全の態勢を整える必要があった。 式が始まる前の早朝、僕は信頼する四人を集めた。 ノクス、バクザン、フェル爺さん、そしてミミ。 それぞれが、この式の安全を守るために不可欠な存在だ。「みんなおはよう。バクザン、警備の全面指揮を引き受けてくれてありがとう」 僕が声をかけると、鬼人族の戦士であり、傭兵団のリーダーであるバクザンが腕を組んで頷いた。今では、エルトール領の将軍として活躍してくれている。「おうよ。警備を任せてくれりゃあ、徹底的にやってやるぜ」 彼は式場周辺の警備を担当することになっている。 鬼人族は戦闘能力が極めて高く、並の兵士や刺客が太刀打ちできる相手ではない。「フライの兄貴の晴れ舞台だ。鬼人族傭兵隊総出で警備させてもらうぜ。空はフリーダムの奴が張り切って、竜騎士たちを警備に回してやがる。地上も上空も穴はねぇよ」「頼もしいよ、バクザン。君が将軍として指揮をしてくれれば、少なくとも正面からの襲撃は防げる」 バクザンはニヤリと笑い、「当然だ」と自信満々に胸を叩く。 次に僕はフェル爺さんを見た。「フェル爺さん、本当は式に参列してほし
《side アイス・ミルディ・ディフェ》 公国の夜は静かだった。 帝国と王国、さらには異種族の要人までもが集うこの場は、さながら火薬庫のようだと私は思う。 ちょっとしたきっかけで、世界の均衡が崩れるだろう。 だが、それを仕掛けるのは、他ならぬこの私だ。「兄上、見てください。あの建物、とても素敵ですわ」 妹のソフトが、馬車の窓から身を乗り出すように外を眺めていた。 彼女は青いドレスに身を包み、上品な仕草で私の隣に座っている。その白髪は月の光を浴び、淡く輝いていた。幼さの残る顔立ちだが、いずれ成長すれば、世界随一の美姫となるだろう。 その美貌をフライ・エルトールに差し出すことで、私の計画はさらに盤石なものとなる。 この世界は現在、私とブライドによって二分されていると言ってもいい。 異種族や未開の蛮族たちは、ただ二つの勢力のどちらにつくのか静観を決め込んでいるに過ぎない。 だが、その鍵を握る人物。それがフライ・エルトールだ。 妹の純粋な瞳を見つめながら、私は静かに微笑んだ。「ソフト、フライ殿と会うのは楽しみか?」「ええ、とても。兄上がこれほど推挙される方ですもの、きっと素敵な方なのでしょう?」 妹は無邪気に微笑んだ。その無垢な笑顔を見ながら、私は心の中でほくそ笑む。 そう、フライ・エルトールは私の計画において、最も重要な駒となる。 彼の力、彼の知略、そして彼の影響力。 それを手に入れるために、私はあらゆる手を尽くすつもりだ。「兄上……私はちゃんとフライ殿に気に入ってもらえるでしょうか?」「もちろんだよ、ソフト。お前は王家の誇りだ。フライ殿も、お前の価値を理解するはずだ」 私は優しく妹の髪を撫でた。彼女は少し頬を染めながらも、私の手に甘えるように目を閉じる。 愛らしい妹だ。 だからこそ、私は彼女の未来を捧げることで、フライを手に入れる。 それが