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第4話:見なかったことにはならない

作者: 霜月風炉
last update 公開日: 2026-10-26 17:18:02

「この世界の人間は魔法を知らないと聞いていたがガセだったか?」

 男は眉間に皺を寄せながら、新たに下僕を召喚する。

 奏多、志乃、リファはそれぞれ構え、迎撃の体制をとる。

 一方、秋雨は自然体のまま、ジッと男へと視線を向けていた。

「ま、アンタの言う通り、一般的に魔法は存在していない。世の中には表舞台には上がらない存在ってのもあるんだよ」

「そうか。だが、先ほどの魔法の攻撃。それなりの準備が必要だったはずだ。そう連発できるものでもないだろう?」

 男は更に下僕の数を増やす。

 それに奏多、志乃、リファが焦ったように口を開く。

「これだけの数、俺たちだけじゃ対処できないぞ!」

「このままだと、周りの人たちも危ないわ!」

「どうすれば……」

 一見すれば圧倒的な物量さだ。

 普通ならば勝ち目は薄いと言わざるを得ない。

 奇襲などが可能であれば何とかなるのだろうが、この状況では作戦も何もない。

 奏多たちの表情が歪む。

「あのさ。確かに下僕コイツらは頂点捕食者エルダーワンの力の一端だ。だけど、この程度で勝ち誇られても困惑なんだが?」

「アンタ、何言ってんの⁉」

 ゲンナリとした表情を浮かべ、空気を読まない発言をする秋雨。

 志乃が思わず叫ぶように突っ込む。

「信奉者として一部の権能を利用しているみたいだけど、随分と格が落ちている。何だっけ異世界の神と同格って言ってたか? にしては弱過ぎないか?」

 背伸びをしながら秋雨は言う。

「それは強がりか?」

 そんな秋雨の様子に、男は嘲笑うかのように言う。

「さあ? とりあえずアンタらの仲間はどれだけ来ている?」

「答えると思っているのか?」

「いや、正直そこまでは求めていない。こちらとしてはちょっかい出してる奴を何とかすることが仕事オーダーだからな」

 秋雨が右手を高く上げる。

「それじゃ、ちゃちゃっと終わらせるか」

 水之業すいのごう・陽型ようけい――水天球すいてんきゅう。

 秋雨の頭上に直径二メートル程度の水の球体が顕現する。

 球体の中では水が渦を巻く。

 誰もがその光景に視線を逸らさない。

「それで周囲丸ごと巻き込むつもりか?」

「そんな脳みそ筋肉なワケないだろ。確かに本来の使い方はそうなんだが――」

 水天球・変形――水串みなぐし。

 秋雨の頭上に浮かぶ水天球からあまたの槍が伸び、周囲の下僕を貫いていく。

 その間、僅か一秒。

 圧倒的物量だったはずの下僕は、秋雨の手によってすべて片付けられた。

 伸びた槍は水天球に戻り、再び球体として秋雨の頭上で浮遊する。

「あり得ない。これはルクシャ・ハーナ様の力なのだぞ!」

「知らねぇよ。こちとら下僕の相手はそれなりにやってんだよ。つーか、自然発生した奴よりも弱いって

何だ。これなら俺が出張る必要なかったじゃないか」

 眉間を摘まみながら秋雨は溜め息交じり言う。

 そんな秋雨の様子に、奏多が口を開く。

「玉水、お前何者なんだ?」

「いや、名乗った通りだよ。それよりも異世界でそれなりの修羅場を経験してるっぽいが、思った以上に弱過ぎない? この感じだと黄の上層くらいで赤はないか」

 再び男に視線を向け、秋雨は問う。

「で?」

 短い秋雨の言葉に、男は顔を真っ赤にし怒りを顕わにする。

「舐めるなよ、小僧!」

 再び下僕を召喚する。

 だが、下僕が動き出すよりも先に水天球から槍が伸び、貫かれる。

「悪いね。水串コレ、自動照準オートエイムなんだわ」

 頭上に浮かぶ水天球を指さしながら、秋雨は告げる。

「あり得ません! 仮にそれが可能なら途方もない魔力が必要になります。そもそも魔法が残り続けている状況も異常です!」

「リファ、どういうこと?」

 リファの驚き交じりの言葉に、志乃が問う。

「本来、魔法は放出するものです。魔力を流し続け、放出し続ければ残り続けます。ですが、玉水さんのように魔力を注ぎ続けている訳でもない。それどころか形を保ち、残り続けていることがあまりにも異常でしかありません。それこそ神の所業です」

 リファの言葉に奏多と志乃が目を見開く中、秋雨は「そんな大袈裟な……」と困り顔を浮かべる。

「とにかくこれ以上は無意味なんで大人しく退いてくれると助かる。流石に一般人の前で流血沙汰は勘弁だからな」

 秋雨としては周囲に一般人がいなければ、無慈悲に一瞬で終わらせていた。

 元々、秘密裏に探し出して処理するつもりだった。

 しかし、何を思ったのか相手が意気揚々と仕掛けて来たのだから困惑でしかない。

 恐らく邪魔となる英雄パーティを仕留めて、今後の計画を楽に進めたかったのだろう。

「これ、SNSで絶対拡散されるよな? うわぁ、正式に表舞台に上がる前なのにどうするか……」

 玲香はともかく、他の五行神家の当主から小言を言われるだろう。

 それを想像すると秋雨の気持ちは当然盛り下がってしまう。

「ほれ、逃げるなら今のうちだが、どうする?」

 しっし、と手で「早く何処へ行け」とジェスチャーする秋雨。

 が、当然男としてはプライドを傷つけられたワケで、怒りが爆発してしまう。

「舐めるなよ小僧! ならば、この我が身諸共吹き飛ばして――」

「あ、それは流石にダメだ」

 水之業・陰型いんけい――水鏡渡みかがみわたり。

 秋雨は正面に現れた水の鏡に突っ込む。

 バシャン、という音と共に水の鏡が消失。しかし、同時に男の背後に水の鏡が現れ、その中から秋雨が現れる。

「とりあえず眠っとけ」

 秋雨は男の頭を掴み、そのまま思いっきり地に顔面を叩きつける。

 一撃。

 鈍い音が場に響くと同時に、男は白目を向いて動かなくなった。

「はあ、手間かけさせんなよ」

 パンパンと両手を叩きながらボヤく。

「さて、と――」

 秋雨は周囲を見回す。

 野次馬たちは秋雨に向け、スマートフォンのカメラを向けている。

 奏多たちも唖然とした様子で視線を向けている。

「見なかったことにならない?」

 秋雨は奏多、志乃、リファへと聞いてみる。

「ならない」

「なるはずないでしょ」

「なりません」

 それは息の合った返答だった。

「だよなぁ」

 秋雨はガックリと項垂れた。

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