ログイン「流石は天災の愛弟子やね。師匠にてやる事も人騒がせやないの」
「別に騒がしくしたかったワケじゃないんですけどね。それよりもご足労いただきありがとうございます、遥さん」 たおやかな足取りで和服に身を包んで現れた
「まったく政府との話し合いの前に勘弁してしかったわ。お陰様で天災が意気揚々と政府を脅しとったよ。ま、これで予定よりも早く大手を振って動けるのだから、結果オーライってやつやね」
扇子を口元に当てながら、含み笑いを浮かべる遥。
その妙な色っぽさに周囲の警察官は勿論、マスコミに野次馬の男女問わずに視線を一身に集めてしまう。 そんな様子と遥の言葉に秋雨は何とも言えない表情を浮かべざる得なかった。「なあ、玉水。彼女は誰なんだ?」
秋雨と遥のやり取りを見ていた奏多が痺れを切らして口を開く。
遥か到着まで奏多たちの追及をのらりくらりと交わし続けていたこともあり、とにかく情報を引き出したいのだろう。「あー、彼は俺と同じ五行神家の一角である神土守家の当主、神土守遥さんだよ」
秋雨は奏多、志乃、リファへ、遥の紹介を簡単に行う。
が、秋雨の言葉を聞いた三人は「え?」という表情を浮かべて、遥の顔を見ていた。「ちょっと玉水? 彼女のことを彼って言った⁉」
志乃が秋雨に詰め寄ってくる。
「やめろ。肩を掴んで揺らすんじゃない。気持ちはわかるがやめてくれ」
グワングワンと肩を掴んで揺らす志乃に、秋雨は顔を顰めて両手で突き放す。
「えーっと、玉水さん? 神土守さんって女性ですよね?」
リファが困惑した顔つきで恐る恐る言う。
いつの間にかバタバタしていた警察官もその足を止めており、規制線の向こうにいる人たちもシーンとなっている。 秋雨は額に手を当つつ、一度宙を仰ぐ。そして、クスクスと笑いを堪えている遥へと視線を向けると、パチンとウインクしてくる。「…………残念ながら遥さんはこんな装いだけど、男だよ」
この時、この場に静かな衝撃が迸った。
現場にいた清き青少年たちの性癖は破壊され、女性たちは何故か地団太を踏んで負けを認め、野郎どもは新しい扉を開きかけた。「とりあえず遥さんの性別が男とか女とか、ぶっちゃけどうでもいい」
溜め息交じりに言い放つ秋雨。
なお、この言葉に対して周囲の人々は「どうでもよくねぇよ!」と同じことを思っていた。「この俺の足元で白目向いている奴。庄司含めて何か知らないか?」
手足は手錠で拘束しているため、意識を取り戻したとしても易々と動くことはできない。
ただ、魔法を行使される可能性を拭えないため警戒は怠れない。「ルクシャ・ハーナ。五行神家ですら知らない封印している
秋雨は三人をゆっくりと眺めながら告げる。
「ちょっとアンタは何も話さないのに、アタシたちには情報を吐けって? それはあまりにも身勝手過ぎないかしら!」
秋雨の態度に志乃が怒りを顕わにする。
が、そんな怒りに怯むことも、真に受けることもなく、秋雨は「はぁ~」と大きな溜め息を吐く。「悪いけど、これはお願いじゃなくて命令なんだわ。玲香さんが政府と話し合いをしたってことは、当初の予定通りに進んだってことですよね?」
秋雨は遥へと視線を向ける。
「そうやね。五行神家の要求は全て飲ませたようやね。ま、私たちの上――やんごとなき御方も噛んでる以上、政府も受けるしかないからね」
この会話を聞いていた奏多が口を挟む。
「待ってくれ。そもそも五行神家って何なんだ? それに玉水が使っていた魔法は何だ?」
「あー、厳密に言うと魔法じゃないんだよな。この世界で魔法を使うのは海外に拠点を置いている
「あらあら、
秋雨は眉間を抑えながら項垂れる。
「何勝手に話題を変えてんのよ!」
「はいはい。そう喚かないでくれ。ぶっちゃけコチラとしては情報を聞き出すことはしても、話すことは何もないんだよ」 「何でよ!」今にでも飛び掛かってきそうな志乃をリファが宥めている中、奏多が口を開いた。
「なぜ話せないんだ?」
「いや、大した理由じゃないぞ」面倒臭そうに秋雨は言う。
それに奏多は怪訝そうな表情を浮かべた。「なら話してくれてもいいじゃないか?」
「いや、話したら異世界の英雄。
その正義感と力を持っている自分がやらなければならないという意識。 異世界で苦戦はあっただろうが上手く事が進み、帰還を果たした自信があるからこその台詞だろうか。 聖剣と魔法、そして共に戦った仲間たちの存在もあるかも知れない。 だが――と、秋雨は深い溜め息を吐く。「はぁ……無視する気はない、か」
周囲の温度が一瞬にして数度下がった。
これは体感ではなく事実として気温が下がっている。「な、なんだ? 急に寒く……」
「異世界で上手くいった程度で、こちら側に首を突っ込んでくるなよ愚か者」目を細め、秋雨は奏多を見下すように睨む。
「あの程度の下僕に手間取るような奴に首を突っ込まれても迷惑なんだよ」
「アンタ、何様よ!」秋雨の言葉に、志乃が噛みつく。
「はあ、どういった手段でそうなったのかは知らないが、正直視たらわかる。異世界で与えられた力程度で強くなったつもりか?
そんな秋雨の言い草に、再び志乃が噛みつこうとしたのだが――、
「ひっ⁉」
志乃は悲鳴を無理やり飲み込んだ。
奏多も、リファも、顔を青くしている。「本当に大した理由じゃないんだ。正直、
「流石は天災の愛弟子やね。師匠にてやる事も人騒がせやないの」 「別に騒がしくしたかったワケじゃないんですけどね。それよりもご足労いただきありがとうございます、遥さん」 たおやかな足取りで和服に身を包んで現れた神土守遥に秋雨は困り顔を浮かべつつ、お礼を述べた。 現在、小倉駅は封鎖され、警察官が慌ただしく動いている。 規制線の向こう側にはカメラを構えたマスコミや野次馬たちがガヤガヤしていた。「まったく政府との話し合いの前に勘弁してしかったわ。お陰様で天災が意気揚々と政府を脅しとったよ。ま、これで予定よりも早く大手を振って動けるのだから、結果オーライってやつやね」 扇子を口元に当てながら、含み笑いを浮かべる遥。 その妙な色っぽさに周囲の警察官は勿論、マスコミに野次馬の男女問わずに視線を一身に集めてしまう。 そんな様子と遥の言葉に秋雨は何とも言えない表情を浮かべざる得なかった。「なあ、玉水。彼女は誰なんだ?」 秋雨と遥のやり取りを見ていた奏多が痺れを切らして口を開く。 遥か到着まで奏多たちの追及をのらりくらりと交わし続けていたこともあり、とにかく情報を引き出したいのだろう。「あー、彼は俺と同じ五行神家の一角である神土守家の当主、神土守遥さんだよ」 秋雨は奏多、志乃、リファへ、遥の紹介を簡単に行う。 が、秋雨の言葉を聞いた三人は「え?」という表情を浮かべて、遥の顔を見ていた。「ちょっと玉水? 彼女のことを彼って言った⁉」 志乃が秋雨に詰め寄ってくる。「やめろ。肩を掴んで揺らすんじゃない。気持ちはわかるがやめてくれ」 グワングワンと肩を掴んで揺らす志乃に、秋雨は顔を顰めて両手で突き放す。「えーっと、玉水さん? 神土守さんって女性ですよね?」 リファが困惑した顔つきで恐る恐る言う。 いつの間にかバタバタしていた警察官もその足を止めており、規制線の向こうにいる人たちもシーンとなっている。 秋雨は額に手を当つつ、一度宙を仰ぐ。そして
「この世界の人間は魔法を知らないと聞いていたがガセだったか?」 男は眉間に皺を寄せながら、新たに下僕を召喚する。 奏多、志乃、リファはそれぞれ構え、迎撃の体制をとる。 一方、秋雨は自然体のまま、ジッと男へと視線を向けていた。「ま、アンタの言う通り、一般的に魔法は存在していない。世の中には表舞台には上がらない存在ってのもあるんだよ」「そうか。だが、先ほどの魔法の攻撃。それなりの準備が必要だったはずだ。そう連発できるものでもないだろう?」 男は更に下僕の数を増やす。 それに奏多、志乃、リファが焦ったように口を開く。「これだけの数、俺たちだけじゃ対処できないぞ!」「このままだと、周りの人たちも危ないわ!」「どうすれば……」 一見すれば圧倒的な物量さだ。 普通ならば勝ち目は薄いと言わざるを得ない。 奇襲などが可能であれば何とかなるのだろうが、この状況では作戦も何もない。 奏多たちの表情が歪む。「あのさ。確かに下僕らは頂点捕食者の力の一端だ。だけど、この程度で勝ち誇られても困惑なんだが?」「アンタ、何言ってんの⁉」 ゲンナリとした表情を浮かべ、空気を読まない発言をする秋雨。 志乃が思わず叫ぶように突っ込む。「信奉者として一部の権能を利用しているみたいだけど、随分と格が落ちている。何だっけ異世界の神と同格って言ってたか? にしては弱過ぎないか?」 背伸びをしながら秋雨は言う。「それは強がりか?」 そんな秋雨の様子に、男は嘲笑うかのように言う。「さあ? とりあえずアンタらの仲間はどれだけ来ている?」「答えると思っているのか?」「いや、正直そこまでは求めていない。こちらとしてはちょっかい出してる奴を何とかすることが仕事だからな」 秋雨が右手を高く上げる。「それじゃ、ちゃちゃっと終わらせるか」 水之業・陽型――水天球。 秋雨の頭上に直径二メートル程度の水の球体が顕現する。 球体の中では水が渦を巻く。 誰もがその光景に視線を逸らさない。「それで周囲丸ごと巻き込むつもりか?」「そんな脳みそ筋肉なワケないだろ。確かに本来の使い方はそうなんだが――」 水天球・変形――水串。 秋雨の頭上に浮かぶ水天球からあまたの槍が
「貴方は、玉水さん?」「……どうも、メルクストーリアさん」 玲香に押し付けられた依頼の為、電車に乗って北九州市小倉区にやって来た秋雨は改札を抜けたところでバッタリとリファと遭遇していた。 なぜ彼女が此処に? 秋雨は脳内で思考を巡らせていた。「どうして此処に?」「奏多たちと一緒に漫画ミュージアムを訪れに来ました。今は個別で行動中で、私は食べ歩きです」 今日はイベントで改札を抜けた広場に飲食店が出店されており、彼女はそれが目当てだったのだろう。 リファの両手には唐揚げやケバブなどが入ったビニール袋が握られている。「それ、全部食べるのか?」「はい! 外にあるベンチで楽しもうかと思っています」 一人で食べるには多過ぎる量を全て食べると言い切るリファに、若干引きつつ「へ、へぇ……」と秋雨は声を溢す。「玉水さんは今日は何をされるのですか?」「ちょっとした観光だよ。ま、遊びに来たって感じだ」「そうですか! なら、一緒にこれ食べませんか?」 リファは手に持つビニールを持ち上げながら言う。 秋雨は頭を悩ませる。 断るのは容易い。 だが――と、秋雨に視線を泳がせる。 周囲の注目が集中している。 要因は間違いなく目の前にいるリファ。テレビでも連日取り上げられているだけあり、全国的にも有名人の仲間入りをしている。 ただ、遠目から見ているに収まり近寄ってこないのは、いつかの事件が原因かも知れない。「あー、この後ちょっと予定が……がぁ……」「ダメでしょうか?」 秋雨が断ろうすると、どうしてかリファがシュンと落ち込む様子を見せる。 同時に何故か周囲からの殺意が増幅する。 チッ、と内心で舌打ちしながら、秋雨は頭を痛める。(一応、多少は警戒はされている。だが、一緒に食べたいということに嘘はなさそうだ。さて、どうしたもんか) 秋雨の本心としてはさっさと仕事を終えて帰りたい。 だが、情報収集にある程度の時間を有する以上、今日一日で何とかなるものでもない。 それに――、(異世界で頂点捕食者を信奉する者の有無を聞き出すのも手か?) 思考を巡らせた結果、秋雨はリファの申し出を受けることにした。「はぁ、オーケー。一緒に食べよう。ただ、お金は出すよ」 なお、このお金はすべて経費で落とす気満々の秋雨だ。「お金は大丈夫ですよ。ほ
政府との会談を一週間後に控え、高校も夏休みに突入。 連日、朝から晩まで骨董品屋に入り浸りながら、秋雨はレジテーブルに突っ伏していた。 閑古鳥の鳴く店内。 そもそも立地も非常に分かりづらい。「玲香さん、くっそ暇なんですが?」 「まあ、骨董品屋としてはほぼ機能していないからね。来客なんて見込んでないし、来たとしても普通の客じゃないわよ」 カラカラと笑いながら玲香は煙草に火を点け、「ぷはぁー」と豪快に一服する。 そんな玲香の加える煙草の先端から燻る紫煙に視線を向け、秋雨は口を開く。「そう言えば、最近異世界組に目をつけられているっぽいんですよね」 「あら、もしかしてバレた?」 「いや、バレてはないとは思います。ただ、違和感を認識されたかも知れないです。あ、一応ここに来る時は、適当に撒いて来ているので心配は不要です」 とは言え、秋雨としては鬱陶しいことは間違いない。 厄介なことに監視が使い魔らしきもので行っているらしく下手に手を出すワケにもいかない。 使い魔を消したら、それはそれで怪しまれる可能性があるからだ。「もう、諦めてさらけ出してしまえばいいんじゃない?」 「……嫌ですよ。絶対に面倒な事になるじゃないですか。下手に首を突っ込まれても厄介ですし、彼らもそれなりに修羅場を経験しているみたいですけど、正直足りないです」 秋雨は溜め息混じりに言う。「秋雨が言うのなら、足りてないことは間違いなさそうね。あー、ちょっとした面倒事を押し付けてやろうと思ってたけど、死なれたら目覚め悪いか」 吸い終えた煙草を灰皿に擦り付けながら、玲香は「使えないわね」とゲンナリとした表情を浮かべる。 そして、玲香は一枚の資料を秋雨に突き出す。「……何です?」 「やんごとなき御方からのご依頼よ」 「あぁ、なるほど」 資料を受け取り、秋雨はその中身にサラッと目を通す。「異世界人の流入?」 「そうね。異世界との境界が拓かれて、魔法のある向こう側の奴らが徐々に流入してきている。身元の判明している奴は良いのだけど、問題は身元不明の異世界人ね」 「要は不法入国ってことですか」 「ええ。この場合は不法入界かな? まあ、この際異世界人なんて、ぶっちゃけ犬の糞程度にはどうでもいいのよ。問題は頂点捕食者
神隠し事件の被害者が一年後に帰還した。 それから二ヶ月の時が経ち、今は七月。 もうすぐ訪れる夏休みに教室内が連日浮足立つ、とある日の昼休み。 玉水秋雨はスマートフォンを片手に掲載されているSNSで拡散されている話題、それに関連するウェブニュースに顔を顰めていた。 話題の大枠は『異世界の実在』であり、嘗てのクラスメイトが異世界人を引き連れて帰って来た。 その事実は日本だけに留まらず、世界中で既存の国際秩序が根底から覆される。 この二ヶ月で異世界と魔法は現実となり、もはや単なる空想ではなくなった。 数多くの専門家、コメンテーターが異世界についての私見を述べ、各国の政府はこれからの付き合い方を模索しているはずだ。 そして、その異世界とのパイプを有する者たちが、嘗てのクラスメイトたちと担任だ。 秋雨は教室から窓の外を見る。 視界に映るのは取材を申し込もうとしている記者と異世界人を一目見ようと集まっている野次馬の波。 平穏な高校生活は瞬く間に崩れ去ったのだった。「なあなあ、異世界人のリファちゃんだっけ? めっちゃ可愛いよな!」 とある男子生徒の声が耳に届く。「ノヴァク様ってイケメンだよね~」「わかる~」 女子生徒たちの会話も異世界人のもの。 現在、この高校に異世界人が数名在籍している。 高校側としては面倒事を避ける為に本来は在籍を断る予定だった。 しかし、異世界帰還者のクラスメイトたちの威圧と政府からの圧力により渋々受け入れざるを得なくなったらしい。 これは秋雨の現在の担任がHR中にボヤいていたので間違いないだろう。 異世界を巡る情勢については日本が一歩リードしているが、他国も何とか異世界人との接点を得るために現在各国から留学話が多々舞い込んでいるようだ。「……先生たちには強く生きてもらいたいもんだ」「確かに。それには俺も同感だな」 ボソッと呟いた秋雨の独り言に、答えを返したのは一人の男子生徒。「宗助か。昼飯は買えたのかよ?」「おう! 今や異世界組と仲良くした奴らが食堂に殺到するお陰で、売店の混み具合は前ほどじゃない。ほれ、これで二ヶ月連続で一番人気のメロンパンが食べられるぜ」 秋雨の前の席に座りながら宗助は言う。「……むしろ二ヶ月連続で飽きないのかよ?」「美味いものは飽きないん







