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第2話
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かつて秘めた恋心 第23話
ドアが乱暴に開け放たれ、数人の看護師がなだれ込み、二人を力ずくで押さえつけた。「押さえつけろ、拘束だ！この男は精神疾患の既往歴の疑いあり、身体拘束を強化し、治療を行う！」和己は押さえつけられ、そして、麻美と同じように、拘束帯で縛り上げられた。鎮静剤を注射され、彼は、すぐに意識を失った。次に目を覚ました時も、彼は、まだ縛られたままだった。頭上のライトがひどく眩しく、目が眩みそうだ。彼は一瞬、意識が朦朧とし、それから、もがき始めた。「僕たちを離せ！何をする！？」彼の怒りの咆哮は、凄まじかった。「僕は速水家の人間だぞ！速水家だ！」職員の一人が、冷ややかにそばに立ち、言い放った。「患者は重度の妄想症を発症。電気ショック療法を推奨します」骨の髄まで突き刺すような痛みと痺れが走り、和己の視線は、一瞬で、固まった。そして、死んだ魚のように白目を剥くと、ベッドの上で、ぐったりと弛緩した。一方、麻美は、もう一つのベッドに横たわり、「ククク」と、笑い声を漏らしていた。「まだ知らないの、速水家は終わりよ！ハハハハハハハハ！あんたも私とここで一緒に朽ち果てるのよ！」「電流をさらに上げろ！」電流が瞬間的に体を貫き、二人は同時に悲鳴を上げた。和己の目から涙が溢れ落ちた。彼は虚空を見つめ、呟いた。「絵里奈……」だが目の前の幻は一瞬で消え去り、彼はもう幻さえも掴めなくなっていた。——「速水家の御曹司が精神病になって、精神病院に送られたそうだね？」絵里奈は契約書にサインをしながらその言葉を耳にしたが、わずかに動きを止めただけですぐに自然な様子に戻った。まるで知らない他人の話を聞いたかのように、全く気にかけていない。手放したものならもうどうでもいいのだ。彼女は過去を振り返るような人間ではなかった。一年後、精神病院のチャリティーイベントの日。絵里奈は主要な寄付者としてテープカットの式典に参加し、院長から治療センターの見学を熱心に勧められた。彼女は断らず、落ち着いた態度でそれに応じた。この一年で、彼女は破産した旧速水グループを買収し、奏大と共に、沢城グループと周防グループを国内トップクラスの企業へと成長させた。彼女はもはや新進気鋭の実業家であり、数え切れないほどの人が彼女と関係を築くことを求
かつて秘めた恋心 第22話
奏大はビシッと決めたスーツに身を包み、その眼差しは鋭かった。彼はもはや見るに堪えない和己には目もくれず、絵里奈に近づき、ごく自然に彼女の口元にキスを落とした。「すまない、会議が終わったばかりで、遅くなってしまった」絵里奈は微笑みながらキスを返した。「遅くないわ、ちょうど私を家に連れて帰ってくれるのにいい時間よ」二人はどちらも地面にひざまずく和己を再び見ることはなく、肩を並べて去っていった。他の仲睦まじい夫婦と同じように。和己の目の前にはぼやけた光と影が広がる。彼は必死に手を伸ばし、何かを掴もうとしたが、握りしめたとき、その手には何もなかった。彼はアルコールに溺れ始め、束の間の酔いの中でのみ、心の苦しみをわずかに和らげることができた。和己はついに、徹底的に悟った。彼は絵里奈を失い、もう二度と取り戻すことはできないのだと。過ちの中には、決して償うことのできないものがある。彼はゴミ箱のそばで、内臓をすべて吐き出すかのように嘔吐した。スーツは元の色もわからなくなり、しわくちゃになって彼の体に張り付いていた。突然、目に突き刺さるような白い光が猛烈に差し込み、一台の車が制御を失ったかのようなスピードで彼にまっすぐ突っ込んできた！キーッ――ドン！彼はまるで糸の切れた凧のように、そのまま撥ね飛ばされた。最後の瞬間、彼ははっきりと運転席で狂気に満ちた顔をした麻美を見た。彼女はいつ精神病院から抜け出したんだ！その直後、和己は意識を失った。ピッ、ピッ――「血圧が低すぎます、患者は危険な状態です！」「粉砕骨折だ、この両足は……家族と連絡は取れるか？」「患者の携帯で緊急連絡先を見つけました！沢城絵里奈という人に電話をかけています！」和己は暗闇の中で無数の声を聞いていた。その瞬間、彼は息を飲んだ。絵里奈……絵里奈は来てくれるだろうか？「ええと、秘書の方が出たようです。その女性は、来ない、と」その言葉は鋭いナイフのように、和己の心臓に深く突き刺さった。彼は血の涙を流しているように感じた。これでいい。絵里奈のいない日々は、死と何ら変わりはない。彼は暗闇に沈んでいたが、ある夢に包まれた。夢の中で、彼はかつて起こった出来事を見た。チンピラに路地裏で囲まれたとき、絵
かつて秘めた恋心 第21話
和己の眼差しが震えた。彼は砕けた腕輪を見つめ、途切れ途切れの声で言った。「絵理奈……これは、僕があの名匠の元へ一ヶ月も通い詰めて、ようやく譲ってもらったんだ……」「それが何か？」絵理奈の視線は穏やかだった。「それは、あなたが私にしたことの当然の報い。そして、私たちはこの腕輪と同じ、もう元には戻らないんです」そう言うと、彼女は背を向けた。和己は引き止めず、ただ、捨てられた子供のように破片の中に膝から崩れ落ちた。三日後、絵理奈が会社から出てきた時、遠くから騒ぎが聞こえてきた。そちらに目をやると、和己が数人の男に囲まれて殴られているのが見えた。絵理奈の表情がわずかにこわばり、手を少しだけ握りしめた。その光景は、ふと昔のことを思い出させた。しかし、彼女が呆然としたのは一瞬だけで、すぐに無表情になって前へ進み続けた。その日の夕方、絵理奈は傷だらけの和己に行く手を阻まれた。彼の姿はみすぼらしく、両目はひどく充血していた。「絵理奈……昔は、僕がほんのかすり傷を負っただけで、君はひどく心配してくれた……今日、君は見ていたはずだ」しかし、絵理奈は鼻で笑った。「速水さん、人を雇って自分を殴らせるなんて、面白い趣味ですね？いつになったら分かるのですか。あなたと私はもう、何の関係もありません。たとえあなたが殴り殺されようと、私は気にしません」和己の体が一瞬、ぐらりと揺れた。彼は黙り込んだ。絵理奈が彼を避けて通り過ぎようとした時、彼はなんと、ゆっくりと膝をついた。その声は、砕けたガラスのようだった。「では、おじい様のことは。あの方のことも、もうどうでもいいのか？」絵理奈の表情がわずかに変わった。速水家の中で、おじい様は彼女に最も優しくしてくれた人だった。幼い頃、彼はよく自分の面倒を見てくれた。絵理奈は恩知らずな人間ではない。「どういう意味ですか」和己はナイフを取り出し、自分の首筋に突きつけた。その笑みは、泣くよりも痛々しかった。「君は僕が死のうが生きようが気にしない。だが、おじい様が悲しむのを見るのは、耐えられるのか？」絵理奈は顔色を変え、息を呑んだ。「気でも狂ったの？」「ああ、とっくに狂っているさ！」和己の声はかすれていた。「君がいない毎日は、生き地獄
かつて秘めた恋心 第20話
和己の顔は険しかった。彼は手を振り、冷たい口調で言った。「しっかり治療してやれ！」麻美は激しくもがき始め、鋭い声で叫んだ。「いや！私は病気じゃない！速水和己！この狂人が！」しかし、彼女が数人の大の男の力から逃れられるはずもなかった。彼女は最初もがいていたが、やがて許しを請い始めた。しかし、和己が無感動なのを見ると、今度は怒りに満ちた罵詈雑言と呪いの言葉を浴びせ始めた。彼女は狂ったように大声で叫んだ。「こんなことをして、沢城絵理奈を取り戻せると思っているの？もう手遅れよ！彼女はもう結婚したの。あなたを憎んでいるわ！いいえ……憎んですらいない！彼女はもうあなたのことなんてどうでもいいのよ。彼女は、永遠にあなたを許さない！」和己は鬼のような形相で、手を振り上げ、彼女の頬を激しく平手打ちした。麻美の顔が横を向き、口の端から血が滲んだ。「この狂った女に鎮静剤を注射せよ！連れて行け！」麻美は白衣の男たちに引きずられていった。周りが静かになると、和己はその場に立ち尽くし、彼と絵理奈のかつての新居を見つめた……そこはもう、見る影もなかった。突然、目の前がくらみ、彼は地面に膝から崩れ落ちた。胃の中のものが逆流し、彼はうつ伏せになって吐いた。最後には、咳とともに血が飛び散った。彼は震える手でスマートフォンを取り出した。画面には、一枚の写真が表示されていた。写真の中の絵理奈は、満面の笑みを浮かべていた。その目は三日月のように細められ、中には星が瞬いているかのようだ。これほどまでに明るく美しい人が、彼の肩に寄りかかり、指でハートを作っていた。一粒の涙が画面に落ちた。和己は画面に顔を近づけ、子犬のように嗚咽した。スマートフォンに、祖父からのメッセージが届いた。【今日中にM国に行け。反省するまで戻ってくるな】――わずか二年で、和己は急速に痩せこけた。彼の目は落ちくぼみ、まるで枯れ木のような老人に見えた。空港を出た後、彼は道中ずっと黙って後部座席に座り、人に頼んで盗み撮りさせたスマートフォンの写真を見つめていた。絵理奈が、明るい表情で壇上に立っている。髪はずいぶんと伸び、その装いは洗練されて美しく、口元には自信に満ちた笑みを浮かべていた。彼女は周防グループと沢城
かつて秘めた恋心 第19話
和己は祖父に多くを語る時間さえなく、慌ただしくその場を後にした。アシスタントが言っていた場所に到着すると、縛り上げられた数人の男たちが、隅の方で震えながら縮こまっていた。アシスタントが前に進み出て、冷たく言った。「話してもらおうか。誰の指示で南条さんを誘拐した？」この男たちは、明らかにすでに痛い目にあっていた。彼らは震えながら和己を一瞥し、すぐにまた俯いた。「そ……それは、南条さん本人です……」和己は、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。彼は話していた男を掴み上げ、鋭い声で言った。「何だと！？」「南条さんが……彼女が我々に二百万円を渡し、一芝居打って、その罪をあの沢城さんになすりつけてほしいと……」「彼女は、あなた様は、きっと深くは追及しないと。我々が言えばすぐに信じるから、簡単なことだと……」和己は、頭の中で「ゴーン」という音が鳴るのを感じた。彼はぱっと手を離し、よろめきながら数歩後ずさった。頭の中は、混沌としていた。めそめそと泣いていた麻美。必死に弁解していた絵理奈。そして、自分の怒り……すべてが、なんて滑稽だったことか！彼は足の力が抜け、立っているのもやっとだった。彼はふと、昨日の絵理奈の眼差しを思い出した。あれほど穏やかで、冷淡で、愛もなければ、憎しみもなかった……なぜなら、彼女はもう、気にも留めていなかったのだ！彼は、自分の恋人を失った。自分の、愚かさによって！……和己は、麻美の部屋のドアを蹴破った。彼の目は血走り、目の下には深い隈ができていた。麻美が慌てて部屋から出てきた。彼のその姿を見て、驚いて言った。「和己さん、あなた……」「黙れ」和己は冷たく彼女の言葉を遮った。彼の視線は、まるで刃物のように麻美の体を寸刻みに切り裂き、彼女を恐怖で震え上がらせた。「和己さん……」写真の束が床に叩きつけられた。散らばった写真を見た瞬間、麻美の表情は固まり、顔からさっと血の気が引いた。和己は彼女をじっと見つめていた。彼女が混乱と驚きから徐々に冷静さを取り戻し、その目にみるみる涙が溜まっていくのを。「違う……全部、嘘よ。これは……」「それに、君はわざと絵理奈を陥れた。階段から落ちたのも、誘拐されたのも、すべて
かつて秘めた恋心 第18話
部屋の中、絵理奈は奏大によって優しくベッドに横たえられた。アルコールのせいで彼女の頬はわずかに赤みを帯びていた。奏大は彼女の腰を抱き、耳元でそっと囁いた。「疲れたかい？」目の前で、とろんとした目をした彼女を見つめ、彼の眼差しは深みを増し、心の中で何かが不意に動いた。絵理奈は静かに首を横に振った。彼女の視線が窓の外へ向かう。奏大はその視線を追ったが、そこにはただ暗闇が広がっているだけだった。彼は唇を引き結んだ。「もし君が望まないのなら、無理強いはしません」しかし、絵理奈は笑みを浮かべ、自ら手を伸ばして奏大の首に回した。その声は少しかすれていた。「何を考えていらっしゃるの、周防さん」彼女は彼に近づき、甘い息を吹きかけながら言った。「春の夜は、一刻が千金に値すると申しますし……」その言葉が終わるや否や、奏大の眼差しが急に深くなった。彼は絵理奈の力に導かれるように体を倒し、そして容赦なく彼女の唇を塞いだ。キスは次第に深くなり、拒絶を許さない力強さを帯びていた。「では……遠慮なく……」艶めかしい声が、小さいものから大きいものへと変わり、律動的な揺れが光を明滅させ、そして二人は共に溺れていった。――和己は外に放り出された。全身がひどく痛んだが、胸を締め付ける激痛には及ばなかった。彼はふと、少し前に、絵理奈が目を赤くして自分を見つめ、「私を信じないの？」と尋ねたことを思い出した。あの時、彼は絵理奈を信じなかった。自分の手で、絵理奈を突き放したのだ。宴会場の明かりが一つ、また一つと消えていく。和己には分かっていた。今この時、どこかの豪華なスイートルームで、彼の絵理奈が別の男の腕の中にいることを。その認識は、彼を窒息しそうなほどの苦痛に陥れた！「ごめん……」彼は乾いた目を見開き、まだ温かい光が灯るあの部屋を見つめながら、苦痛に顔を歪めた。「絵理奈、ごめん……」和己は道端で気を失い、通りかかった人に病院へ運ばれた。目を覚ました後、彼の頭は一瞬ぼんやりとしたが、ふと絵理奈が言ったあの言葉を思い出した。調べろ……麻美を？麻美が何をしたというんだ？以前の彼なら、断じて信じなかっただろう。しかし、絵理奈に、今さら自分を騙す必要がどこにある？
