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第315話

Author: ルーシー
夜風が吹き抜ける草原に、ふたりきり。

玲奈は拓海の問いかけを聞き、彼を見返した。

その声は掠れ、震えていた。

「......ただ、自分が情けないの。

こんな男に、自分の人生の何年も捧げてしまったことが――悔しいのよ」

季節はすでに初冬。

薄手のイブニングドレスを着た玲奈の身体は、冷え切って感覚が麻痺しそうだった。

拓海はその言葉に、胸をぎゅっと掴まれたような痛みを覚えた。

彼は一歩踏み出すと、自分の体温が残るジャケットをそっと彼女の肩にかけ、そのまま彼女を腕の中に抱き寄せた。

彼は強く、まるでそのまま彼女を自分の骨の中に溶かし込んでしまいたいかのように抱きしめ、その頬を彼女の首筋に寄せながら、かすれるような声で囁いた。

「......もう、あいつのことで泣くのはやめてくれ」

その瞬間、玲奈の全身は拓海の体温に包まれた。

彼の体も、ジャケットも、すべてが温かかった。

彼女は彼を突き放すことができなかった。

むしろ、そのぬくもりを逃したくないと、自然と身体を預けてしまった。

生まれてから今まで――

家族以外の誰かから、こんな温もりをもらったことなど一度もなかった。

もう少しだけ、このままでいたい――そう思ってしまった。

拓海は、彼女がそっと寄り添ってきたのを感じ、反射的に腕に力を込めた。

玲奈はその胸の中で顔を上げ、小さく頷いて答えた。

「......うん。

もう泣かないわ」

その言葉が、まるで電流のように拓海の身体を貫いた。

彼の指先が震え、思わず彼女を少し離すと、驚いたように見つめた。

「......本当か?

俺にそう約束してくれるのか?」

玲奈は穏やかに微笑み、短く頷いた。

「ええ、約束する」

その顔には、淡い光沢を帯びた化粧が柔らかく映え、立体的な輪郭と長いまつ毛が夜の光を受けてきらめいていた。

黒のドレスは彼女の白い肌を際立たせ、より一層妖艶に見せていた。

拓海は夜の中に立つその姿に、思わず息を呑んだ。

――理性など、どこかへ消えてしまいそうだった。

彼は分かっていた。

彼女はまだ離婚していない。

自分がこれ以上踏み込むべきではないことも。

それでも、心よりも身体の方が先に動いた。

彼は玲奈の腰を抱き寄せ、ゆっくりと顔を近づけた。

ただ、唇を重ねたかった。

ほんの少し、それだけでよかっ
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