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第361話

Author: ルーシー
拓海の言葉を聞いた瞬間、玲奈の胸の奥で、ひとつ小さく音がした。

――何かが沈んだような、あるいは引き攣れたような。

彼の優しさの裏に、目的があるのではないか。

玲奈はずっとそう感じていた。

けれど時折見せる、彼の真摯で飾らない表情を見ると――

本当に打算だけの人間が、ここまでできるものだろうかと、心が揺らぐ。

見返りを求めて、ここまで人に尽くすことができる?

そう自問しても、答えは出なかった。

だから、考えるのをやめた。

「もう......気にしても仕方ないの」

玲奈は穏やかにそう言った。

その声音から、もう怒りや恨みは感じられなかった。

拓海はその落ち着いた様子に、一瞬、まぶしそうな目をした。

「......そう思えるなら、きっとこれからは大丈夫だ。

やり直すのに、遅いなんてことはない。

――男なんて、いくらでも試せばいいさ」

玲奈はベッドの背にもたれ、わずかに眉を寄せた。

疲労で体が重く、声に力もなかった。

「......私、こんな状態なのに。

あなた、よくそんな冗談言えるわね」

だが拓海は笑わなかった。

むしろ真剣そのものの眼差しで言った。

「冗談じゃない。

本気だ」

玲奈はすぐに理解した。

試せばいい男――その中に、彼自身が含まれていることを。

それ以上、話を続けるのは無意味だと悟り、玲奈は別の話題を探した。

窓の外の光が少し強くなっている。

時計を見ると、もう昼近くだった。

「......須賀君、海老が食べたいわ」

彼女は心からそう思った。

そして同時に――これ以上、感情の話をしたくなかった。

拓海は一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうに笑った。

「いいよ、すぐ頼む」

玲奈の口から久しぶりに出た食べたいという言葉が、彼には何よりも嬉しかった。

だが玲奈はすぐに思い出したように言い添えた。

「......おばさまに作ってもらうのは、やめて」

その言葉に、拓海は顔を上げ、いたずらっぽく笑った。

そして携帯の画面を彼女に向けて見せた。

「遅いよ。

もう送っちゃった」

画面には、彼の母からの返信が表示されていた。

【いいわよ。

あの子が食べたいなら、毎日でも作ってあげるわ】

その上にある拓海のメッセージには、はっきりと書かれていた。

【母さん、玲奈が海老を食べたいって】

玲奈は目を
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