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第362話

Author: ルーシー
宮下は家の使用人として、智也の言葉に逆らうことなどできなかった。

智也が病院を離れ、会社に戻ったのは昼過ぎ。

午後はそのまま仕事に追われ、電話が鳴ることもなく時間が過ぎていった。

気づけば、すでに夜の七時を回っていた。

智也は一日の疲れを引きずりながら再び病院へ向かった。

だが――病室に玲奈の姿はなかった。

「......玲奈は?

一日中来なかったのか?

電話も?」

そう尋ねる智也の声には、怒りと焦りが滲んでいた。

宮下はそれを察しながらも、正直に答えるしかなかった。

「はい......一度もいらしていません」

智也はそれ以上何も言わなかった。

黙ったまま先生のところへ向かう。

医師の説明では、愛莉の容体は安定しており、今夜一晩は集中治療室で経過を見て、問題がなければ翌日には一般病棟へ移れるという。

ようやく胸をなでおろした智也だったが、それでも胸の奥に残る重苦しさは消えなかった。

病棟を出たあと、彼は思わずポケットから煙草を取り出した。

しばらく吸っていなかったが、今はどうしても一本が必要だった。

夜の空気は湿っていて、煙がゆっくりと宙に溶けていく。

彼が長椅子に腰を下ろしていたそのとき――

視界の先、小道を歩いてくる二人の姿があった。

綾乃と、陽葵。

綾乃は片手に陽葵の小さな手を握り、もう片方の手には果物の袋を提げていた。

二人は談笑しながら入院棟の方へ向かっている。

まだこちらに気づいてはいない。

智也は一瞬ためらったが、結局立ち上がった。

大股で二人の背後に歩み寄り、声をかけた。

「......綾乃さん」

突然背後から声をかけられ、綾乃はびくりと肩を震わせた。

振り向いて智也の顔を見て、ようやく安堵の息を吐く。

「......びっくりした。

どうしたの?」

智也は一切の遠回しもせず、まっすぐに尋ねた。

「玲奈を見ていませんか?」

綾乃は少し眉をひそめた。

「どうかしたの?」

智也は低く答えた。

「愛莉が今日、高熱で倒れて救急治療室に運ばれたんです。

何度も玲奈に電話したけど、出なくて。

普段玲奈がこんなふうに連絡つかないことはないから......事故でもあったのかと思いまして」

綾乃は一瞬、言葉を飲み込んだ。

――玲奈が、同じ病院に入院していることを、彼に伝えるべきか。

けれ
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