LOGIN光に目が慣れてから、心晴はようやくゆっくりと目を開けた。ベッド脇に立つ冴子の姿が見えた、その次の瞬間――冴子は自分の服のボタンを外し、さらにズボンまで脱いでいく。そして最後には、彼女は文字どおり一糸まとわぬ姿になった。それを見た玲奈は、慌てた声を上げる。「冴子さん、なにを......!」服を取って冴子を隠そうとしたが、冴子は手を上げて制した。「いいの。必要ないわ」玲奈はその場で立ち尽くし、目に涙がにじんでいく。心晴は冴子の姿を見て、堪えきれずに嗚咽した。赤く腫れた目から涙がぼろぼろと落ち、まるで糸の切れた真珠のようだった。冴子は両腕を上げ、堂々と光の下に立ったまま、心晴の真っ赤な瞳をまっすぐ見据える。「見なさい。女なんて、服を脱げば......背の高い低い、太ってる痩せてる、その違いくらいで、結局たいして変わらないのよ。所詮、皮一枚。あなたにもある、私にもある、玲奈にもあるし、世の中の女はみんな持ってる。なのに、あのクズ男があなたの恥を握って脅してくるからって、折れるつもり?」冴子は言い切るように続けた。「だめよ。折れちゃだめよ。女は誰だって、そういうことを経験する。あなたも、私も、玲奈だって同じ。大人なら、みんなそれくらいのことはあるでしょう。仮にあいつがそれをばらまいたとしても、だから何?恥じるべきなのはあなたじゃなくて、見る側の下品さ。気持ち悪いのも、あなたじゃなくてあいつよ。こういうときは、怖がっちゃいけない。引いたら負け。脅してくるなら、こっちは反撃を覚えるの。何があっても、あいつに思い知らせなさい。あなたは、好き勝手に握り潰せる人間なんかじゃないって」冴子の言葉は一つ一つが切実で、心晴の胸を強く揺さぶった。玲奈もまた、胸の奥が熱くなった。冴子の言っていることは事実だった。この件は結局、どちらがより腹をくくれるかの勝負なのだ。心晴さえ心の壁を越えられれば、あとは決して難しい話ではない。心晴の表情が揺らいだのを見て、玲奈も自分の服に手をかけ、脱ごうとした。すると心晴が慌てて声を上げる。「玲奈、そこまでしなくていい。もう......分かったから」その言葉を聞いた瞬間、玲奈は目の縁が赤くなった。心晴は
拓海が車を出し、玲奈と冴子を乗せた。二人は後部座席に座り、道中ずっと、冴子は玲奈と話し込んでいた。好きな食べ物は何か。スカートとパンツならどちらが好きか。好きな色は何か。欲しいものはあるか。普段よく行く場所はあるか――とにかく質問が多かった。玲奈は心晴のことが気がかりで、内心焦っていたが、冴子に尋ねられるたび、きちんと一つずつ答えた。やがて車は、心晴のマンションの下に停まった。一行は階段を上がるときも足音を殺し、心晴の邪魔をしないよう気を配った。颯真はまだソファに座っていた。玄関の気配に振り向き、冴子がいるのを確認すると立ち上がり、小声で挨拶した。「冴子さん、来てくださったんですね」冴子は笑って言う。「ええ。お嫁さんの厄介事、片づけに来たのよ」颯真は頷き、薄く笑って脇へ退いた。明は心晴の寝室の前に立っていた。皆が戻ってきたのを見ると、ゆっくり近づいてくる。「冴子さん」冴子は、彼の目に浮かぶ不安を見て取ったのか、微笑んで宥めた。「大丈夫、心配しないで。私が入って見てくるから」それを聞いて、明はようやく目を赤くして言った。「......はい。ありがとうございます、冴子さん」寝室に入る前、冴子は振り返り、玲奈に声をかけた。「玲奈、あなたも一緒に入って」玲奈は迷わず頷く。「はい」そう言うと、玲奈は冴子の腕を支え、二人で心晴の寝室へ向かった。部屋は小さな灯りだけがついていて、心晴はベッドの上で体を丸め、ぴくりとも動かない。本当に眠っているのか、それとも眠ったふりをしているのか、わからなかった。だが冴子は入るなり、迷いなく大きな照明のスイッチを入れた。薄暗かった部屋は、たちまち明るくなる。ベッドで動かなかった心晴は、眩しい光に包まれた瞬間、反射的に布団を引き寄せて体にかぶせた。しかし冴子が歩み寄り、布団を乱暴に引き剥がした。再び光に晒された心晴は、顔を手で覆う。体を震わせ、苦しげな嗚咽まで漏らしていた。玲奈は胸が痛んだ。けれど冴子の怒りを滲ませた様子に、何も言えなかった。冴子はベッドの脇に立ち、怒りをぶつけるように問い詰めた。「一生ここに閉じこもって、暗闇の中で生きるつもり?あなたを傷つけた人間を、のうの
エレベーターが来ると、玲奈たちは揃って乗り込んだ。玲奈は冴子の隣に立ちながらも、視線はエレベーターの壁に映る姿へ吸い寄せられていた。映り込む影の中で、拓海は笑い、冴子もまた笑っている。笑っていないのは玲奈だけで、胸の中は疑問と戸惑いでいっぱいだった。拓海はあれほど恵まれた家柄で、冴子も上流の奥さま方の世界で生きている人だ。そんな二人が、どうして自分のような人間を――本気で受け入れようとするのだろう。だが考え込む間もなく、エレベーターは一階に着いた。扉が開いた瞬間、玲奈の視界に、智也と沙羅の二人が飛び込んできた。並んで立ってはいるが、手は繋いでいない。それなのに玲奈を見た途端、沙羅はさっと智也の手を握った。無言で送りつける合図――智也は私の男だ、と。その様子を見ても、玲奈は腹を立てるどころか、鼻で笑うだけだった。一方の智也は、玲奈を見つめていた。眉をひそめ、瞳の光は熱く、そして危ういほど鋭い。玲奈はその怒りを感じ取ったが、彼を見返さず、顔を背けて別の方向へ視線を逃がした。拓海も智也の視線に気づき、嫉妬が走ったのか、黙って玲奈の前に立ちはだかった。玲奈の姿が隠れると、智也は拓海へ視線を移す。音もなく、静かに二人は何度もやり合っている。智也は冷え切った顔で、人を射抜くような眼差しを向けていた。対する拓海は、口元に勝ち誇ったような悪い笑みを浮かべ、隠そうともしない――堂々としている。冴子も空気の異様さを察し、間の悪さを消すように、わざと明るい声で言った。「あらまぁ、うちの息子のお嫁さんったら本当にいい子ねえ。私が病気だっていうのに、毎日こうしてあちこち走り回って顔を見に来てくれて。今日は気晴らしに外へ連れていってあげるなんて言うのよ。もう、私ったら幸せ者すぎて......たまらないわぁ」その言葉に沙羅は露骨に白い目をむいた。智也はというと、黙ったまま指をきつく握りしめていた。――玲奈はもう、拓海の家の人間に会っている。しかも冴子は玲奈を気に入っているらしい。それを理解した瞬間、智也の胸の奥が詰まった。言いたいことは山ほどあるのに、言葉が一つも出てこない。そうして両陣営は数分、無言で向き合ったあと、それぞれ別の方向へ去っていった。玲奈がエレベーターか
病院に着くと、冴子がフェイスパックをしていた。ベッドに仰向けになり、入院着を着ているのに、ぱっと目を引く華やかさがある。足音に気づくと、冴子は慌ててパックを剥がした。身を起こしてベッド柵にもたれ、顔を向けて玲奈をじっと見つめる。玲奈がひどく疲れた顔をしているのを見て、冴子は心配そうに眉を寄せた。「痩せたわね......。ずいぶんやつれた」玲奈は気に留めず、首を横に振る。「大丈夫です。冴子さんは?この数日、ちゃんと休めてますか?」玲奈が自分を気遣ったのが嬉しかったのか、冴子は口元を上げて答えた。「ええ。よく休めてるわ」そう言いながら手を伸ばし、もう一度促す。「おいで。私に、ちゃんと顔を見せて」玲奈は少し困ったようにしながら、近づいた。冴子は玲奈の頬を軽く撫で、にこやかに尋ねる。「そんな疲れた顔して......何か大変なことがあったのね?」思いがけない問いに玲奈は一瞬言葉を失ったが、結局小さく頷いた。「......はい」冴子はどこか親しみやすい。常に険しい空気をまとった美由紀とは違い、話しかけやすい温度があった。冴子はふわりと笑みを広げ、玲奈に言う。「よかったら、聞かせてくれる?」少し迷った末、玲奈はなぜか――自分でも不思議なほど自然に、心晴の件を冴子に話してしまった。話し終えてから、玲奈は遅れて不安になった。もし自分のせいで、心晴のことが外へ漏れたら――けれど玲奈が考え込む間もなく、冴子は満面の笑みで言った。「できるなら、そのお友だちに会わせてもらえない?」心晴のことが漏れる怖さは残っていた。それでも冴子が改めてそう提案すると、玲奈は断れなかった。「冴子さんが嫌でなければ......いいですよ」冴子は微笑む。「じゃあ、今から行きましょうか?」玲奈は心配になって言いかけた。「でも、冴子さんは体を休めないと......」言い終える前に、冴子はすでに布団をめくって靴を履こうとしていた。玲奈がまだ迷っていると、冴子は姿勢を正し、まっすぐ彼女を見る。「玲奈。あなたが元気じゃないと拓海も元気になれない。拓海が元気じゃないと、私も元気になれない。言い方が悪いかもしれないけど、拓海が選んだ人のことに、私は口を出さな
颯真は頷いた。「ああ」玲奈はそのまま寝室へ入った。すると心晴はベッドの縁にうつ伏せになり、胸が裂けるように泣いていた。玲奈は彼女の横にしゃがみ、そっと肩を叩いて尋ねる。「......どうしたの?」心晴は上体を起こした。両目は血が滲んだみたいに真っ赤で、見ているだけでぞっとするほどだ。そして玲奈に言った。「和真は畜生だよ......。ベッドの動画、盗撮されてた。あいつ、それで脅してくる。警察に行くなって......」その言葉に、玲奈は息を呑んだ。けれど考えた末、玲奈は悔しさを抑えきれずに言う。「心晴......それで、全部なかったことにするの?」心晴は玲奈にしがみつき、泣きながら訴えた。「少し......考えさせて。考えさせて......」玲奈は無理に結論を迫らなかった。ただ黙って、心晴のそばにいた。けれど最終的にどうなるか――玲奈には薄々見えていた。心晴の両親は体面を何より気にする。もし動画が出回れば、心晴を心配するより先に、責め立てる可能性が高い。心晴がここ数年ずっと動画投稿で稼いできたのも、両親に「自分だって立派にやれている」と示したかったからだ。だが両親にとって、自メディアの仕事はまともな職ではない。どれだけ稼いでも、どれほど良い服を買ってあげても、結局は「不健全」だと見なされる。家庭は元々ぎくしゃくしている。そこへ動画がばらまかれたら、両親はますます心晴を嫌うだろう。だから心晴には、どうしても拭えない恐れがある。心晴は長いこと泣き続け、やがて泣き疲れると、玲奈の肩にもたれて眠ってしまった。玲奈はしばらくそのまま座っていたが、心晴の寝息が深くなったのを確かめてから、そっと彼女の頭をベッドへ寝かせる。起きないことを確認し、静かに寝室を出た。外へ出ると、明たちは心配そうな視線で玲奈を見つめていた。玲奈は喉が渇き、水を一杯注いで飲んでから、明に言った。「......もう少し、心晴に考えさせてあげよう」明は不安げに尋ねる。「心晴は......大丈夫?」玲奈は首を横に振り、それ以上は何も言わなかった。それだけで、心晴が良い状態ではないことは十分伝わる。明も心配ではあるが、どう慰めればいいのか分からない。拓海は
玲奈は心晴のそばに立っていて、彼女の震えが手に取るように伝わってきた。あの夜の細部を口にすることは、まだ塞がっていない傷口を再びこじ開け、そこへ塩を塗り込むようなものだ。颯真は弁護士だ。ねじれた事情も、さまざまな依頼人も、数え切れないほど見てきた。心晴の境遇に胸は痛んだが――起きてしまったことは、誰にも取り消せない。心晴が話し終えるのをじっと聞き終えたあと、颯真は静かに口を開いた。「警察に届け出よう。俺が最初から最後まで、あなたの代理人になる」心晴は小さく頷く。「......うん」この二日間、玲奈と明がずっとそばにいてくれた。心晴は思った。強くならなければならない。本当に自分を心配してくれる人たちを、これ以上不安にさせてはいけない。だから決めた。警察へ行く、と。颯真が言い終えると、心晴はスマホを取り出して電源を入れた。事件のあと、怖くて画面を見ることすらできなかった。それでも今は勇気を振り絞り、もう一度やり直そうとしたのだ。起動すると通知が次々に飛び出してくる。動画への「いいね」やコメント、ブラウザのニュース、SNSのトレンド......そしてそれらの中に、和真からのメッセージが混じっていた。心晴は反射的に開き、最初に目に入ったのは、狂ったような謝罪の連投だった。【心晴、ごめん。本当にごめん。許してくれ。あの日は俺がどうかしてた。だからあんなことを......でも俺たち何年も一緒だったし、ああいうことだって今までだってしてきたじゃないか。......なあ、怒らないでくれよ】【心晴、なんで返事しない?今夜のこと、誰にも言わないでくれないか?】【ごめん、ほんとに反省してる。許してくれ。約束する、もう二度としない。必ず約束する、これからはお前だけだ。他の女なんていらない】【心晴?返信してくれ】だが、次第に文面は一変する。【心晴、調子に乗るな。お前のあれなんて、俺は見たことも弄んだこともある。何を今さら可哀想ぶってんだ?】【俺と別れて、お前を欲しがる男が何人いる?】【心晴、死んだのか?口もきけないのか?】そして最後の一通は、脅しだった。【いいか、絶対に警察に行くな。もし行ったら、ベッド