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さよならの後で、あなたと恋を
さよならの後で、あなたと恋を
Author: やまかぜ

第1話

Author: やまかぜ
「水落以外は、全員指を一本倒して!」

依由は申し訳なさそうな顔をしたあと、ふと私に目を向け、うれしそうに声を上げた。

「梨瑚、まだ残ってるの、もう私たち二人だけだね」

私は最後の一本を立てたまま、口元に苦い思いをにじませ、ひと言も発することができなかった。

向かいの席から声が上がる。

「瑛斗も、まだ一本残ってるぞ!」

同級生の一人が瑛斗を呼び戻しに行った。

瑛斗は座る前に一瞬動きを止め、依由のほうへ視線を向けたようだった。

依由は顔を上げ、優しくほほ笑んだ。

「ネギを取り除いてくれてありがとう。こんなに年月が経っても、私のネギアレルギーを覚えててくれたんだね」

「ほら、早く座れよ!まだ話してないの、お前だけだぞ!」

瑛斗は無理やり席に座らされた。

「俺は......」

語尾を引き延ばす瑛斗を、みんなが期待のこもった目で見つめていた。

私だけが、ネギを半分ほど取り除いた帆立の雑炊をじっと見つめ、もう片方の手でテーブルクロスをきつく握りしめていた。

「20年間、ずっと好きでいる女の子がいる」

個室中に、一斉にはやし立てる声が響き渡った。

期待に浮き上がっていた心が、重く沈む。私はそっと目を閉じた。

依由と瑛斗が小学生の頃からの幼なじみだということは、クラスの全員が知っている。

これでは、遠回しに告白しているようなものだった。

「ほかにいる人は?いないなら指を折って!」

私は右手を握り込んだ。

目を開けると、なぜか瑛斗と視線がぶつかった。

彼はわずかに唇を引き結んでいた。その目は、余計なことを言うなと私に釘を刺しているように見えた。

でも、そんな心配は要らない。

私はもう負けたのだ。余計なことを口にする資格さえ、残っていなかった。

「榎並も水落も指を折ったから、今回は大西の勝ちだな!大西以外は、全員罰として三杯飲むこと!」

みんなは「さすが秀才だな」と笑い合いながら、それぞれ酒を注いだ。

私も自分のグラスに一杯注ぎ、飲もうとした。そのとき、依由のためらいがちな声が聞こえた。

「でも私、お酒はあまり飲めなくて......飲まなくてもいい?」

瑛斗はそれを聞くと、「ああ」とうなずいた。

「女子はみんな飲まなくていいよ。代わりに水を飲んで」

みんなが訳知り顔で目配せを交わす。隣に座っていた、学生時代に同じ寮の部屋だった友人が、小声で言った。

「まただよ、また。一人を助けるために、女子全員を免除するやつ」

――そう。また、これだ。

前にクラスみんなで集まったのは、大学の卒業写真を撮ったときだった。

いつも落ち着いている瑛斗が、突然「みんなと離れるのが寂しい」と言い出し、一人ずつハグをして別れを惜しんだ。

7年間、彼に片思いをしていた私は、その言葉を聞いただけで手のひらに汗をかいていた。

けれど、男子とのハグを終えた彼が女子のほうへ来るのを待っていると、不意に友人に行く手を遮られた。

友人は、呆れたように言った。

「あなた、本気で行くつもり?あいつが私たちとハグしたいとでも思ってるの?水落を抱きしめたくて、私たちを口実にしてるだけだって!」

そちらを見ると、依由が一番前に立ち、彼に向かって両腕を広げていた。

瑛斗の口元には笑みが浮かんでいた。その瞳に宿る期待が、私の胸を刺した。

あの日、私は逃げるようにその場を去った。

校舎の裏に隠れ、彼に宛てて書いた告白の手紙を、粉々に破り捨てた。

そして今日も、私はまた一人で期待してしまったのだ。

自嘲の笑みを漏らし、グラスを持ち上げて一気に飲み干した。

普段、酒はほとんど飲まない。

久しぶりに口にした酒は、やはりひどく苦かった。

同窓会が終わると、みんなは二、三人ずつ話しながら店を出ていった。遠方から来た同級生の何人かは、そのまま上階にあるホテルへ向かった。

瑛斗は、依由に呼び止められた。

「瑛斗、話したいことがあるの。少し付き合ってくれない?」

離れていたので彼の表情は見えなかったが、断る素振りはなかった。

元学級委員たちは、興味津々の顔をしていた。

「水落、最近このホテルに泊まってるんだって。こりゃ、大西は今夜帰れそうにないな」

「帰ったって面白くないだろ。20年も好きだった相手が離婚したんだ。あいつだって、泊まっていきたくて仕方ないはずさ。よりを戻すチャンスだしな」

私は唇をかんだ。

みんなが帰ったあとも、私だけがホテルの入り口に立っていた。

昨夜、洗面所の照明が切れ、スマホの明かりを頼りに歩いていたら転んでしまった。

膝には青あざができ、スマホも見るも無残に壊れた。

瑛斗は今夜、新しいスマホを買いに連れていき、そのあと家で照明を直してくれると言っていた。

照明の交換くらい、大したことではない。スマホだって明日買えば済む。

それなのに、酔いが回ってきたせいか、妙に意地を張ってしまった。

スマホが壊れてアプリも使えず、代行もタクシーも呼べない。

私たちは3年間、夫婦として互いに礼を尽くしてきたと思う。

たとえ愛されていなくても、置き去りにはされないはずだった。

けれど夜は更け、冷たい風が身にしみた。

午前5時になっても、彼がその入り口から姿を現すことはなかった。

私は自嘲するように笑った。

結婚した日、瑛斗と約束したことがある。

結婚3周年を迎えた日に、二人とも離婚したいと思っていなければ、そのまま一生一緒にいよう、と。

明日は、3度目の結婚記念日だ。

今までずっと、何事にも気を遣い、慎重に振る舞ってきた。

それでも、私たちの結末はこうなってしまった。

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