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さよならの後で、あなたと恋を

さよならの後で、あなたと恋を

Por:  やまかぜCompletado
Idioma: Japanese
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同窓会で、元学級委員が「自分だけが経験したこと」を言い合うゲームを始めた。 クラスの人気者はそっと目を伏せた。 「......結婚式に、私を奪いに来た人がいたの。私は断ったけど」 そう言って、料理からネギを取り除いている大西瑛斗(おおにし えいと)に目を向け、目を赤くした。 たちまち、みんながはやし立てる。 「どうりで、水落が離婚した途端、大西がどうしても同窓会を開こうって言い出したわけだ!よりを戻したかったんだな!」 瑛斗は顔を上げたが、口を開く間もなく、別のテーブルの同級生たちに乾杯しようと連れていかれた。 水落依由(みずおち いより)は、彼がネギを取り除いた白身魚の蒸し焼きの鉢を自分のほうへ引き寄せ、懐かしそうに言った。 「あの日私が断ったら、彼、すごく悲しそうに泣いたの。それでも、私の肉うどんからネギを取り除くのは忘れなかった。私、ネギアレルギーだから......」 みんながしみじみとため息を漏らす中、誰かが私に尋ねた。 「梨瑚、依由の結婚式では、ブライズメイドをしてたよね?その場面、見てなかったの?」 私は首を横に振った。 そして、私たちが結婚した翌日、瑛斗が一つの指輪を見つめながら涙を流していたことを思い出した。 彼の深い愛情が、すべて過去に捧げられているのなら。 3年もの間、無理に居場所を作ろうとしてきたこの結婚から、私もそろそろ身を引くべきなのだろう。

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Capítulo 1

第1話

「水落以外は、全員指を一本倒して!」

依由は申し訳なさそうな顔をしたあと、ふと私に目を向け、うれしそうに声を上げた。

「梨瑚、まだ残ってるの、もう私たち二人だけだね」

私は最後の一本を立てたまま、口元に苦い思いをにじませ、ひと言も発することができなかった。

向かいの席から声が上がる。

「瑛斗も、まだ一本残ってるぞ!」

同級生の一人が瑛斗を呼び戻しに行った。

瑛斗は座る前に一瞬動きを止め、依由のほうへ視線を向けたようだった。

依由は顔を上げ、優しくほほ笑んだ。

「ネギを取り除いてくれてありがとう。こんなに年月が経っても、私のネギアレルギーを覚えててくれたんだね」

「ほら、早く座れよ!まだ話してないの、お前だけだぞ!」

瑛斗は無理やり席に座らされた。

「俺は......」

語尾を引き延ばす瑛斗を、みんなが期待のこもった目で見つめていた。

私だけが、ネギを半分ほど取り除いた帆立の雑炊をじっと見つめ、もう片方の手でテーブルクロスをきつく握りしめていた。

「20年間、ずっと好きでいる女の子がいる」

個室中に、一斉にはやし立てる声が響き渡った。

期待に浮き上がっていた心が、重く沈む。私はそっと目を閉じた。

依由と瑛斗が小学生の頃からの幼なじみだということは、クラスの全員が知っている。

これでは、遠回しに告白しているようなものだった。

「ほかにいる人は?いないなら指を折って!」

私は右手を握り込んだ。

目を開けると、なぜか瑛斗と視線がぶつかった。

彼はわずかに唇を引き結んでいた。その目は、余計なことを言うなと私に釘を刺しているように見えた。

でも、そんな心配は要らない。

私はもう負けたのだ。余計なことを口にする資格さえ、残っていなかった。

「榎並も水落も指を折ったから、今回は大西の勝ちだな!大西以外は、全員罰として三杯飲むこと!」

みんなは「さすが秀才だな」と笑い合いながら、それぞれ酒を注いだ。

私も自分のグラスに一杯注ぎ、飲もうとした。そのとき、依由のためらいがちな声が聞こえた。

「でも私、お酒はあまり飲めなくて......飲まなくてもいい?」

瑛斗はそれを聞くと、「ああ」とうなずいた。

「女子はみんな飲まなくていいよ。代わりに水を飲んで」

みんなが訳知り顔で目配せを交わす。隣に座っていた、学生時代に同じ寮の部屋だった友人が、小声で言った。

「まただよ、また。一人を助けるために、女子全員を免除するやつ」

――そう。また、これだ。

前にクラスみんなで集まったのは、大学の卒業写真を撮ったときだった。

いつも落ち着いている瑛斗が、突然「みんなと離れるのが寂しい」と言い出し、一人ずつハグをして別れを惜しんだ。

7年間、彼に片思いをしていた私は、その言葉を聞いただけで手のひらに汗をかいていた。

けれど、男子とのハグを終えた彼が女子のほうへ来るのを待っていると、不意に友人に行く手を遮られた。

友人は、呆れたように言った。

「あなた、本気で行くつもり?あいつが私たちとハグしたいとでも思ってるの?水落を抱きしめたくて、私たちを口実にしてるだけだって!」

そちらを見ると、依由が一番前に立ち、彼に向かって両腕を広げていた。

瑛斗の口元には笑みが浮かんでいた。その瞳に宿る期待が、私の胸を刺した。

あの日、私は逃げるようにその場を去った。

校舎の裏に隠れ、彼に宛てて書いた告白の手紙を、粉々に破り捨てた。

そして今日も、私はまた一人で期待してしまったのだ。

自嘲の笑みを漏らし、グラスを持ち上げて一気に飲み干した。

普段、酒はほとんど飲まない。

久しぶりに口にした酒は、やはりひどく苦かった。

同窓会が終わると、みんなは二、三人ずつ話しながら店を出ていった。遠方から来た同級生の何人かは、そのまま上階にあるホテルへ向かった。

瑛斗は、依由に呼び止められた。

「瑛斗、話したいことがあるの。少し付き合ってくれない?」

離れていたので彼の表情は見えなかったが、断る素振りはなかった。

元学級委員たちは、興味津々の顔をしていた。

「水落、最近このホテルに泊まってるんだって。こりゃ、大西は今夜帰れそうにないな」

「帰ったって面白くないだろ。20年も好きだった相手が離婚したんだ。あいつだって、泊まっていきたくて仕方ないはずさ。よりを戻すチャンスだしな」

私は唇をかんだ。

みんなが帰ったあとも、私だけがホテルの入り口に立っていた。

昨夜、洗面所の照明が切れ、スマホの明かりを頼りに歩いていたら転んでしまった。

膝には青あざができ、スマホも見るも無残に壊れた。

瑛斗は今夜、新しいスマホを買いに連れていき、そのあと家で照明を直してくれると言っていた。

照明の交換くらい、大したことではない。スマホだって明日買えば済む。

それなのに、酔いが回ってきたせいか、妙に意地を張ってしまった。

スマホが壊れてアプリも使えず、代行もタクシーも呼べない。

私たちは3年間、夫婦として互いに礼を尽くしてきたと思う。

たとえ愛されていなくても、置き去りにはされないはずだった。

けれど夜は更け、冷たい風が身にしみた。

午前5時になっても、彼がその入り口から姿を現すことはなかった。

私は自嘲するように笑った。

結婚した日、瑛斗と約束したことがある。

結婚3周年を迎えた日に、二人とも離婚したいと思っていなければ、そのまま一生一緒にいよう、と。

明日は、3度目の結婚記念日だ。

今までずっと、何事にも気を遣い、慎重に振る舞ってきた。

それでも、私たちの結末はこうなってしまった。

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reseñas

松坂 美枝
松坂 美枝
このふたりこれからは大丈夫なのか心配になった(笑)
2026-11-02 09:57:36
4
0
ちふゆ
ちふゆ
すれ違いすぎてて笑った
2026-11-02 09:28:14
6
0
9 Capítulos
第1話
「水落以外は、全員指を一本倒して!」依由は申し訳なさそうな顔をしたあと、ふと私に目を向け、うれしそうに声を上げた。「梨瑚、まだ残ってるの、もう私たち二人だけだね」私は最後の一本を立てたまま、口元に苦い思いをにじませ、ひと言も発することができなかった。向かいの席から声が上がる。「瑛斗も、まだ一本残ってるぞ!」同級生の一人が瑛斗を呼び戻しに行った。瑛斗は座る前に一瞬動きを止め、依由のほうへ視線を向けたようだった。依由は顔を上げ、優しくほほ笑んだ。「ネギを取り除いてくれてありがとう。こんなに年月が経っても、私のネギアレルギーを覚えててくれたんだね」「ほら、早く座れよ!まだ話してないの、お前だけだぞ!」瑛斗は無理やり席に座らされた。「俺は......」語尾を引き延ばす瑛斗を、みんなが期待のこもった目で見つめていた。私だけが、ネギを半分ほど取り除いた帆立の雑炊をじっと見つめ、もう片方の手でテーブルクロスをきつく握りしめていた。「20年間、ずっと好きでいる女の子がいる」個室中に、一斉にはやし立てる声が響き渡った。期待に浮き上がっていた心が、重く沈む。私はそっと目を閉じた。依由と瑛斗が小学生の頃からの幼なじみだということは、クラスの全員が知っている。これでは、遠回しに告白しているようなものだった。「ほかにいる人は?いないなら指を折って!」私は右手を握り込んだ。目を開けると、なぜか瑛斗と視線がぶつかった。彼はわずかに唇を引き結んでいた。その目は、余計なことを言うなと私に釘を刺しているように見えた。でも、そんな心配は要らない。私はもう負けたのだ。余計なことを口にする資格さえ、残っていなかった。「榎並も水落も指を折ったから、今回は大西の勝ちだな!大西以外は、全員罰として三杯飲むこと!」みんなは「さすが秀才だな」と笑い合いながら、それぞれ酒を注いだ。私も自分のグラスに一杯注ぎ、飲もうとした。そのとき、依由のためらいがちな声が聞こえた。「でも私、お酒はあまり飲めなくて......飲まなくてもいい?」瑛斗はそれを聞くと、「ああ」とうなずいた。「女子はみんな飲まなくていいよ。代わりに水を飲んで」みんなが訳知り顔で目配せを交わす。隣に座っていた、学生時代に同じ寮の部屋だ
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第2話
私はショッピングモールが開くのを待ち、新しいスマホを買った。帰宅してLINEにログインすると、元学級委員がグループに何枚も集合写真を送っていた。【瑛斗を見てみろよ。笑いっぱなしじゃないか】【そりゃそうだろ。行政案件の契約をまとめたばかりで、長年の片思いもようやく実りそうなんだ。仕事も恋愛も順調なら、うれしくないわけがないじゃないか】【瑛斗、結婚するときは絶対に呼べよ!】次々と名前を挙げられた瑛斗は、短く返事をした。【変なこと言わないでくれ】すぐあとに、依由が頬を赤らめたスタンプを送った。グループは一気に盛り上がった。私はそれ以上読まず、ベッドに丸まると、うとうと眠りに落ちた。眠っている間、いくつもの夢を見た。高校の入学式の日。壇上でスピーチをしているのが、幼稚園に上がる前まで隣に住んでいた男の子だと気づいた。それが、恋の始まりだった。休み時間のたび、私はこっそり彼の後ろ姿を眺めに行った。彼に合わせて理系を選び、同じ大学の同じ学科に入ろうと、必死に勉強した。次に見たのは、大学3年生の頃の夢だった。クラスで一番きれいな女の子が、私に相談を持ちかけてきた。瑛斗から熱心にアプローチされていて、どう断ればいいのか分からない、と。不意に目の前が濃い霧に覆われた。霧が晴れると、依由が結婚した日の午後になっていた。瑛斗は私の家の前で待っていた。声には力がなかった。「梨瑚、祖父の容体が悪化したんだ。最期に、俺が家庭を持つところを見たいって......だからさ、力を貸してくれないか?」私ははっと目を開けた。もう午前11時だった。急いでシャワーを浴び、清潔な服に着替えた。寝室を出ると、テーブルの上に見慣れない弁当用のバッグが置かれていた。瑛斗がキッチンから出てきた。自然と口元がほころび、声にも笑みがにじんでいる。「起きたか。こっちに来て、少し食べなよ。膝の調子は?スマホは買えた?」写真の中の彼と、まったく同じ顔だった。依由が離婚したことが、本当にうれしいのだ。私は、器に盛られた料理に目をやった。弁当用のバッグの中にも、同じものが入っているのだろう。彼がいつ帰ってきたのかは知らない。けれど、依由の昼食を作るために戻ったのだろうとは察しがついた。ここにあ
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第3話
ペンはテーブルの上を何度か転がり、床に落ちた。依由の後ろにいた同級生たちが、ぷっと吹き出す。「あれ?まだ知らなかったの?依由のおじさん、桐和の人事部にいるんだよ。あんたを入社させるために、依由はずいぶん骨を折ったんだから」依由が私の手を軽くたたいた。「気にしないで。瑛斗も、あなたに何か打ち込めることがあればと思っただけだから」同級生の一人が、笑いながら口を挟んだ。「そうそう。仕事があれば、瑛斗に付きまとう暇もなくなるもんね」私はとっさに手を引いた。心を無数のアリにかじられているようだった。株式会社桐和の仕事は、3度の面接と、グループディスカッションを経て、ようやく手に入れたものだ。あの頃、私たちは大学を卒業したばかりだった。依由はまだ電撃結婚していなかったし、私もまだ瑛斗と再会していなかった。自分の実力で勝ち取ったのだと思っていた。けれど本当は、瑛斗が依由に頼んで、私に与えてくれたものだったのだろうか。――この片思いは、私だけが知っている秘密のつもりだった。瑛斗とのやり取りも、年末年始や季節の挨拶を数言交わす程度でしかなかった。いつ、みんなに知られてしまったのだろう。いつ、瑛斗を困らせてしまったのだろう。私から逃れるために、依由に仕事を世話させるほどに。「榎並さん、私はね、自分では何の力もないくせに、コネに頼ろうとする人間が一番嫌いなんです」先方は席を立ち、そのまま出ていった。私は慌ててあとを追おうとした。「鈴木さん、違うんです......!私が頼んだわけではありません。企画書はすべて自分で作ったもので――」ところが依由が、体を半分割り込ませるようにして私を遮った。顔には笑みを浮かべている。「梨瑚、そんなに焦らないで。案件が流れたなら、それでいいじゃない。おじさんに頼んで、これからはもっと楽な部署に異動させてもらうから。安心して」彼女は、たったひと言ふた言で、私の案件を台無しにした。そして今度は、苦労して手に入れた仕事まで、ひと言ふた言で奪おうとしている。胸いっぱいに重い石が詰まったようだった。私は振り返り、いかにも私を気遣っているようなその顔を見つめた。「......わざとやってるの?」依由は目をぱちぱちさせた。「何のこと?」これ以上話し
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第4話
私は彼を押しのけ、店を飛び出した。家に戻ると、弁当用のバッグはまだテーブルの上にあった。側面には、付箋が一枚貼られていた。【これからは酒を控えるように。胃に悪いから。――瑛斗】明らかに、依由に宛てたものだった。帰り道、ずっとこらえていた涙が、とうとう頬を伝い落ちた。私はその場にしゃがみ込み、声を押し殺して泣いた。依由の結婚式の日、瑛斗は突然、花嫁の控室に入ってきた。二人はドアを閉めて10分ほど話し、そのあと瑛斗はうつむいて出ていった。控室のテーブルには、ネギを取り除いた肉うどんが一杯残され、依由は複雑な表情を浮かべていた。彼女は私だけを呼び寄せて尋ねた。「梨瑚、瑛斗に一緒に来てほしいって言われたの。私、どうしたらいいの......?」一瞬で、全身がこわばった。去っていく瑛斗の手に、確かに指輪があったことを思い出した。彼は大学の4年間、ずっと彼女を追いかけていた。彼女が電撃結婚することになっても、まだ諦められなかったのだ。私は涙を見られないように、慌ててうつむき、ひと言だけ答えた。「......あなたの人生に関わることだから、よく考えて決めたほうがいいと思う」自分で決めてほしいという意味だった。それなのに彼女の口から語られると、私が二人の幸せを邪魔したことになっていた。瑛斗も、そう思っているのだろうか。だから私たちの結婚には、式も指輪もなかった。だから婚姻届を出した翌日、彼はあの指輪を見つめて泣いていた。この3年間、彼はずっと気を張り、私と他人行儀に接してきた。冷たい言葉を浴びせることはない。けれど、私を愛してもいない。それが、彼から私への罰なのだ。スマホが何度か鳴った。依由からメッセージが届いていた。【梨瑚、明日の夜、瑛斗が私のために集まりを開いてくれるんだって。サプライズを用意してるらしいの。あなたも来てくれる?そこで私たち二人にきちんと謝ってくれたら、結婚式の一件は水に流すから。これからも、みんな友達でいようね】明日の夜、彼はもう一度プロポーズするのだ。それなら、私も去るべきだろう。涙を拭いて立ち上がると、玄関で暗証番号を入力する音が聞こえた。瑛斗が息を切らしながら入ってきた。「どうして急に帰ったんだ......梨瑚、泣いて
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第5話
朝、スーツケースを持って家を出るときには、瑛斗はもういなかった。よほど急いでいたのだろう。書斎の簡易ベッドも散らかったままだった。普段から仕事で朝早く出て、夜遅く帰ってくることはあった。そんなときは、たいてい私が片づけていた。けれど、これからは彼の暮らしに手を出すこともなくなるのだろう。私は視線を戻し、家を出てタクシーを拾った。昨夜、友人に頼んで、すぐに入居できる小さな家具付きの部屋を借りてもらっていた。移動中、LINEで元学級委員に今日の創立記念行事には行かないと伝えようとした。そのとき、同級生から電話がかかってきた。昨日カフェで、私をののしった人だった。電話に出るなり、彼女は頭ごなしに問い詰めてきた。「あんた、どういうつもり?依由が集まりに誘ってくれたのに、どうして無視するの?」私はうつむき、こめかみをもんだ。確かに昨日、依由のメッセージには返事をしなかった。「行く時間がないの」「時間がない?後ろめたいだけでしょ!」彼女は依由のために憤慨しているといった口調で、勢いよくまくし立てた。「昨日、逃げ出したのはまだいいとして、わざと大西さんにぶつかってから出ていったでしょ!おかげで大西さんは依由とひと言も話せないまま、あんたを追いかけていったんだから!あのさ、やっぱり陰で彼を誘惑したんじゃないの?言っとくけど、大西さんは20年も依由を好きだったの。依由だって、とっくに彼を好きだったんだから。あんたが邪魔しなければ、二人はとっくに結婚してたのよ!今、やっと一緒になれるチャンスが来たんだから、余計な真似はしないでよね!」ひどい言葉を浴びせられ、耳鳴りがした。答える声も、知らず知らず硬くなる。「二人の邪魔なんてしてない。誘惑したこともないし、あなたが言うようなひどい人間でもない」彼女はさらに声を張り上げた。「邪魔してない?だったら、どうして結婚式で大西さんについていかないように、依由を止めたの?!あんたって本当に本性を隠すのがうまいのね。大学の頃は黙ってて、何かを欲しがることも、人と張り合うこともなかったから、みんな、何をされても言い返せない子だと思ってたのに......同窓会の夜、酔った依由が私たちに打ち明けてくれなかったら、あんたが大学の頃から大西さんを好きだったことも、
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第6話
私はメッセージの入力欄に、何度も文字を打っては消した。【瑛斗、あの日のことを説明させてほしい。あなたが水落さんの結婚式に彼女を迎えに行ったとき、私は彼女があなたについていくのを止めたわけじゃない。よく考えて決めたほうがいいって言っただけで......】「着きましたよ。スーツケース、運びましょうか?」運転手の声が、不意に響いた。私の指が止まった。彼は今夜、依由にプロポーズする準備で忙しい。私は苦笑し、瑛斗の連絡先を離婚の手続きを依頼した弁護士に送ってから、彼への連絡手段をすべてブロックした。もう、何もかもうまくいくようにと願いを伝えた。これ以上、邪魔をする必要はない。――一方、瑛斗の耳には、電話がつながらなかったことを知らせる音声が流れていた。LINEも、メッセージを送信しても、一向に既読が表示されなかった。彼は呆然とし、振り向いてもう一度尋ねた。「梨瑚は?見た人はいるか?」同級生たちは、顔を見合わせた。依由も一瞬固まったが、前に出て彼の手に触れようとした。「瑛斗、梨瑚に何か用なの?よかったら私に話して。伝えておくから」瑛斗は眉をひそめて一歩下がり、諦めきれずに梨瑚へ電話をかけ続けた。それを見た元学級委員が、不満げに口を開いた。「瑛斗、もうそのくらいにしとけよ。榎並が嫌いなのは分かるけど、こんな場所で何度も名前を出すことないだろ。今朝、本人から連絡があったよ。今日は来ないってさ。自分が悪いと自覚して、二人に合わせる顔がないんじゃないか?どうしてもみんなの前で謝らせたいなら、夜の集まりでやればいいだろ。今はほかの人も大勢いるんだから、お前――」瑛斗は、ますます眉間のしわを深くした。「俺がいつ、梨瑚を嫌いだと言った?彼女が何をしたっていうんだ?それに、今夜の集まりって何のことだ?同窓会はもう終わっただろ?」みんなは、ますます訳が分からないという顔をした。ところが依由は、不意に落ち着きを失い、その場を取り繕うように口を挟んだ。「もういいじゃない。みんなは今日、大学の創立記念行事に来たんでしょ。昔の話をするためじゃないんだから。ほら、向こうでスタンプラリーをやってるみたい。みんなを案内してあげて」元学級委員はまだ事情をのみ込めず、瑛斗の肩を軽くたたいた。「おい、
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第7話
瑛斗が車で桐和へ向かう前に、依由はひそかに姿を消していた。元学級委員からの電話にも出ず、同級生たちのグループからもすべて退会していた。瑛斗には、彼女を気にかける余裕などなかった。アクセルを踏み込み、桐和のプロジェクト部門へ駆けつけた。けれど、梨瑚はいなかった。ちょうど通りかかった人事部の知人が、不思議そうに声をかけてきた。「榎並に会いに来たのか?彼女なら、もう退職したぞ」瑛斗は、勢いよく彼の腕をつかんだ。「いつのことだ!?」相手は肩をすくめた。「昨日だよ。知らなかったのか?お前が紹介してきた子だろ。それにしても、もったいないよな。最初は紹介を当てにして、ろくに働かないんじゃないかって心配で、わざわざ追加の面接まで受けてもらったんだ。でも、能力があったから採用したよな。この数年も、同期の誰より必死に頑張ってたよ。急に辞めたりしなければ、これからも間違いなく出世してただろうに......」――そうだ。彼女の仕事は、ずっとうまくいっていた。なぜ辞めたのだろう。瑛斗は、唾をのみ込んだ。「辞めた理由は言ったか」「何も言ってないよ。もう続けたくないとだけ......ただ、入社が決まったのは、お前と関係があるのかって、聞かれたよ。確かに履歴書を回してきたのはお前だって答えたら、そのまま帰っていった」瑛斗はテーブルに手をつき、そっと目を閉じた。――知られてしまったのだ。梨瑚は劣等感を抱えていて、自分に自信がない。けれど、自尊心はとても強い。だからこそ、あのとき知人にそっと履歴書を渡した際も、必ず採用してほしいわけではないと念を押した。ただ、面接の機会を得られるようにしてやりたかっただけなのだ。今になって知った彼女は、もっと早く教えてくれなかったことを責めているのだろうか。「そうだ、瑛斗。榎並が一人で担当してた案件、あれはどういうことなんだ?先方から、彼女がコネを使って契約を取ろうとしたって苦情の電話があったんだ。でも、あの案件は彼女が一人で進めたものだ。誰も便宜なんて図ってないのに」瑛斗は、同級生たちの言葉を思い出した。何があったのか、おおよその見当はついた。「コネなんて使ってない。あれは本当に、彼女が一人で手がけた案件だ。俺もデータをまとめるくらいは手伝おうと思ったんだ
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第8話
電話の向こうで、両親が驚きの声を上げた。「誰なの?もしかして瑛斗?結婚してもう3年になるのに、どうしてまだ......」私はすぐに電話を切った。目の前の瑛斗は、走ってきたのか、頬を真っ赤にし、額にびっしょり汗をかいていた。彼は何も言わせず、私の薬指に指輪をはめようとした。私はぎょっとして、何歩も後ずさった。「これはどういうつもり?また彼女に断られたの?私は彼女に会ってない。断られても私には関係ないから」瑛斗は乾いてひび割れた唇で荒い息をつきながら、首を横に振った。「彼女を好きになったことも、プロポーズしたこともない。全部、誤解なんだ。梨瑚、聞いてくれ。あいつがあんなに嘘をついてたことは、俺も大学の創立記念行事の日に初めて知ったんだ。大学の4年間、彼女にアプローチしたことなんて一度もない。俺が好きだったのは、ずっと梨瑚だけだ。卒業の日にみんなとハグしたのも、梨瑚を抱きしめたかったからだ。同窓会を開いたのは、みんなと連絡を取れるようにしておきたかったから。3回目の結婚記念日を過ぎたら、俺たちの関係を公表できると思ってたから......それに......結婚式で彼女を奪おうとしたこともない!あいつが梨瑚のために用意した指輪を盗んだから、取り返しに行っただけなんだ!全部彼女のでたらめだ!離婚したばかりで、みんなに見下されたくなくて、俺を利用したんだよ!」私はスマホを握ったまま、必死に頭を働かせた。この数日、何も耳に入ってこなかったわけではない。ただ、同級生のほとんどはブロックし、グループからも抜けていたので、依由が孤立しているという話を、ぽつぽつと聞いた程度だった。虚栄心から、みんなをすっかりだましていたのだという。何か別のことがばれたのだと思い、今回の件と結びつけて考えたことはなかった。依由がこれほど多くの嘘をついていたなんて、思いもしなかった。瑛斗は一歩踏み出し、そのまま部屋に入ってきた。「梨瑚、頼むから信じてくれ......!あの日は、俺たちの結婚記念日だっただろ。3年の間にどちらも離婚を切り出さなければ、そのまま一生一緒にいるって約束したじゃないか......やっと3年待ったんだ。あの日の夜、できなかったプロポーズをして、みんなにも俺たちがとっくに夫婦だと伝えるつもりだった。最後
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第9話
私の顔色が変わったのを見て、瑛斗は慌てて言った。「必ず梨瑚に任せてくれと言ったわけじゃない。履歴書のときと同じで、企画書を渡しただけなんだ。梨瑚が自分の力でやりたいと思ってることは分かってる。だから言わなかった......傷つくと思ったから」私は口元をゆがめた。子どもの頃から、私はいつも輪の外にいる、ごく平凡な人間だった。成績は悪くなかったが、特別よくもなかった。容姿も人並みで、美人とは言えない。親しい同級生も、頼れるつながりもなく、何でも自分の力でやってきた。それなのに二十代になって、一番うまくいき、何より誇りに思っていた仕事が、実は瑛斗のおかげだったなんて。「教えてくれていれば、関わっているところを避けることもできたのに。成功まであと少しというところで知った今のほうが、ずっとつらい」私はドアを指さした。「帰って。一人にさせて。離婚協議書の方も、忘れずに署名して」瑛斗は、その場から動かなかった。「どうしても離婚したいのは、俺を愛してないからか?それとも、黙っていたことに腹を立ててるからか?」答えに詰まった。言葉が喉元まで出かかっているのに、どう答えればいいのか分からなかった。彼はうなずいた。「分かった。離婚協議書には署名する。でも、梨瑚。幼稚園の頃から今まで、20年も好きだったんだ。こんなことで俺は諦めないから」そう言い残して、瑛斗は帰っていった。その夜、署名済みの離婚協議書が私のもとに届いた。離婚が成立した日、私は新しい仕事を見つけた。勤務地は、今の家の近くだった。今度こそ、誰の力も借りず、自分の実力だけで勝ち取った内定だ。それを知った両親は、もどかしそうに私を責め、瑛斗の心遣いを無駄にしたと言い張った。けれど、二人には分からないのだ。一度こんなわだかまりを抱えてしまったら、これから先、毎日自分の能力を疑い続けることになる。入社して1週間が過ぎた頃、私はまた瑛斗に会った。もっとも、離婚協議書に署名してからというもの、彼は毎日のように私の前に現れていた。家まで送ってくれたり、贈り物をくれたり、暇さえあれば掃除を手伝いに来たりする。暗証番号をどうやって割り出したのか、私が帰る前に、食卓に料理が並んでいることさえあった。外へ食事に誘えば、店員にわざわ
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