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Auteur: 仲原
last update Date de publication: 2026-07-18 06:33:41

「お酒を楽しむのは構わないわよ。でも、酔った勢いで行動するのは良くない場合もあるわ」

 水琴の言葉通り、酒の楽しみ方にも限度はあるのだと言うことは、星奈自身分かってはいる。それでも彼女は成人したばかりでまだまだ未熟。付き合いも気の合う仲間同士のものが多いため、酒の席で失敗したという経験自体が乏しい。

「でも、お母さん以外には迷惑掛けてないんだし、反省してるからいいじゃない」

 反省しているというのは言葉だけなのだろうか。胸の前で両手を合わせてそう訴えた星奈の態度から薄れるしおらしさ。一見すると、謝ればこの場を逃れられると軽く考えている様に見え、それが益々水琴を不機嫌にさせる。

「あなたねぇ」

 小さく舌を出して許して欲しいと訴える彼女に、どう叱って良いのかと悩む水琴は、海亜の目にはしっかりとした母親の姿として映る。水琴自身はというと言っても聞こうとしない娘に対し、次の言葉を探しながら眉間を押さえ瞼を伏せる。

「まさか……普段から外で、そんな風にしてるんじゃないでしょうね

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  • さよならは、笑顔の後で   17

    「お酒を楽しむのは構わないわよ。でも、酔った勢いで行動するのは良くない場合もあるわ」 水琴の言葉通り、酒の楽しみ方にも限度はあるのだと言うことは、星奈自身分かってはいる。それでも彼女は成人したばかりでまだまだ未熟。付き合いも気の合う仲間同士のものが多いため、酒の席で失敗したという経験自体が乏しい。「でも、お母さん以外には迷惑掛けてないんだし、反省してるからいいじゃない」 反省しているというのは言葉だけなのだろうか。胸の前で両手を合わせてそう訴えた星奈の態度から薄れるしおらしさ。一見すると、謝ればこの場を逃れられると軽く考えている様に見え、それが益々水琴を不機嫌にさせる。「あなたねぇ」 小さく舌を出して許して欲しいと訴える彼女に、どう叱って良いのかと悩む水琴は、海亜の目にはしっかりとした母親の姿として映る。水琴自身はというと言っても聞こうとしない娘に対し、次の言葉を探しながら眉間を押さえ瞼を伏せる。「まさか……普段から外で、そんな風にしてるんじゃないでしょうね?」 ふと過ぎったのは良くない考え。迷惑を掛けるような子に育てたつもりはないのだが、子育てについては正解なんてものは無い。何人産み育てたとしても、子供自体は一人一人性格が違い、接し方も異なってくる。だからこそ常に手探りで、出来なかったことも多いと自覚しているからこそ、考えすぎた最悪に不安を強く感じてしまう。 それなりに我が子がまっとうな人間になるよう努力してきた。 それでも、娘は自分とは異なる人間なのだ。 だからこそ、予想しなかった言葉を吐き、行動を起こしてしまうこともしばしばある。 羽目を外しすぎなければ多めに見るつもりではあったが、自分の預かり知らぬところで娘が大きな失敗をするかもしれない。そんな思いから聞いた質問は、娘を疑うような一言で。「そんなんだったらお母さん、どうしたら良いのか……」 星奈が本当の意味で親の手を離れるまではもう少し時間が掛かる以上、親の責任は非常に重く水琴の肩にのしかかる。「そ、そんなわけ無いじゃん!」

  • さよならは、笑顔の後で   16

     情けない。みっともない。 でも、それ以上に嬉しくて仕方ない。 強い力を込めれば直ぐにでも折れてしまいそうなほど細い腕なのに、とても強く大きく感じる安心感。忘れていた温もりに縋るように身を預ければ、水琴がそれに応えるようにして海亜の頬を撫でた。「大丈夫よ。あなたのことは、私が守ってあげるわ」 意識しなければ聞こえない程の小さな音。それは海亜の耳に届くこと無く、空気に混ざり静かに消えていった。◆ どれくらいの時間が経ったのだろうか。「…………あれぇ?」 間の抜けたような声が耳に届いたことで引き戻された現実。慌てて身を起こし水琴と距離を取ると、直ぐ隣に座る星奈が不思議そうに首を傾げながらこちらを見ている事に気が付き驚いてしまう。「海亜さん、泣いてる?」「え? いや、その……」 泣いていない。と、言うには群れた頬を誤魔化す事が難しい状況。見られたくないと顔を逸らすのに、お酒が入り酔っている星奈は遠慮を知らず、感じた疑問を追求しようと距離を詰めてくる。「もしかして、お母さんに泣かされちゃった?」 自らの言葉に勝手に納得をしてしまったのだろうか。見当違いの正義感で己の意見を正当かさせようと動く星奈は、鋭い視線で母親である水琴の事を睨み付ける。「な、何を言ってるの! 星奈!」 当然、その言葉を真っ向から否定するのは水琴だ。「私が海亜ちゃんを泣かせたなんて誤解よ!」 そんな事実は存在しない。相必死に訴えるのだが、いまいち噛み合わない会話は平行線を辿るばかり。「でも、お母さん。海亜さんは泣いてるじゃない。誤解って言っても説得力なんて無いわよ」 何があったのかの経緯を知らない星奈からしてみれば、今ある結果だけが全てである。星奈の言葉通り、海亜の目は赤く腫れ、ずっと潤んだ状態のまま。時折啜る鼻の音も手伝い、全ての要素が彼女が泣いていることを指し示しているのだから、勘違いするなというのが無理な話である。 このままでは、水琴の立場は益々悪くなってしまうだろう。それだけは何としても回避したいと。水琴の名誉の為に動いた海亜が慌てて口に出だす言葉。「私が泣いてしまったのは、水琴さんから私のお母さんの話を聞いたからなのよ!」一瞬だけ固まった空気。何とも言えない気不味さが場を満たす。「どういう……こと……?」何を言われたか分からず面食らった星奈が見せ

  • さよならは、笑顔の後で   15

    「考えてみれば、あの頃からあなたは昴のことを好きで居てくれたのよね」 改めてそう言われると、恥ずかしくてむず痒いと感じ真っ赤に染まる海亜の顔。 水琴が言うとおり、海亜の初恋は昴だ。それは彼女自身もしっかり自覚している。 仕事の付き合いで一条家の人間と初めて顔を合わせた時、海亜が真っ先に興味を持ったのが歳が近い幼馴染みの存在だった。 あの頃の一条に居た子供は二人の息子のみだったのだが、上の昇はと言うと既に学校に通っており歳が離れていることもあって、少しばかり距離を感じる事が多かった。そのため、彼に対しては兄のような存在以上の印象を持ったことがない。 逆に、昴に対してはというと、友達よりも少しだけ近い距離。初対面の相手に人見知りをしてしまう海亜に対しても始めからフランクに話しかけ、彼女の手を取り率先して行動を起こす。紳士的な態度と少年特有の活発さはとても輝いて見え、無意識に抱くのは強い憧れで。それが大きくなるにつれ、昴に対して少しずつ別の感情を覚え始める。そうやって幾度となく互いの時間を共有していくと、段々、兄以上の存在として意識をすることも多くなった。始めは気が付かなかった小さな小さな感情の芽。いつしかそれは、淡い恋心へと緩やかに育っていく。「海亜ちゃんはよく、慈乃さんにこう言っていたのよ。大きくなったら絶対に、昴と結婚するのって」「え!?」「昴も満更でもなかったみたいでね。いつの間にか二人とも、左手の薬指にお花で作ったお揃いの指輪をはめていたりしてね」「あっ……」「それどうしたの? って聞いたら昴ったら、海亜ちゃんに作って貰ったのって嬉しそうにはしゃいじゃって。海亜ちゃんのは僕が作ったんだってほっぺたにキスなんかしちゃって。二人ともとっても可愛かったわ」 小さなカップルが見せたのは将来のヴィジョン。それが今、確かに現実のものとなった。それを喜んでいるのは自分だけだと思い込んでいたのは海亜の勘違いで、どうやら水琴も海亜と家族になれたことを嬉しいと感じてくれていたらしい。「それを見たときに思ったわ。将来、絶対に海亜ちゃんを昴のお嫁さんに欲しいって。だから慈乃さんにお願いしたのよ。大人になったら海亜ちゃんを私の娘として迎えてもいいかしらってね」 水琴はすっかり過去の記憶を辿ることに夢中になってしまっている。ただ、海亜にしてみたら自分の

  • さよならは、笑顔の後で   14

     その言葉から分かる事とは、水琴も一条の家にとっては他人に近い立ち位置にあると言うこと。「結局の所、嫁に来た人間というものは、血の繋がった家族にはなり得ないのよね」「お義母さん……?」「だって、育ってきた環境が異なるでしょう? 価値観や常識というものは、周りの環境で変わっていくものよ。よく見てご覧なさい」 息子や孫たちから持ち上げられて上機嫌となった喜代子は、すっかり自分の話に夢中なようだ。先程までの不機嫌は何処へやら。上機嫌に語る自分語りは実に饒舌で、今までの苦労や人生観を事細かく言葉にし相手に伝えることで悦に浸る。それを冷ややかに見ている者が居ることなど彼女はきっと気が付かないだろう。「一条の家の人間には、喜代子さんという君主の言葉が絶対なの。勿論、それが悪いと言うことでは無いわ。でも、私たちのように外部から来た人間にとって喜代子さんの考え方は、全てが素直に受け入れられるようなものではないのよ」「……それは……何となく理解出来る気がします」「ええ」 この場に居る人間のうち、酒で気分が高揚しているのは亨や昇、昴といった男性陣と星奈の四人。彼等は耳障りの良い言葉に酔い、場の空気に流されるように喜代子の言葉に耳を傾けている。そこに冷静さは皆無で、まるで精神を支配されているかのように絶対的君主の言葉を信じて疑わない。「子供……ああ……。お祖母さんの場合は曾孫になるんだったわね。あの人があなたたちの子供を早く抱きたいと思うのは、実に自然なことだとは思うわ。海亜さんには悪いんだけれど、私だって、あなたたちの子供を楽しみにしている一人には違いないの。でもね、子供を作る事を催促したって、それが思った通りの結果に繋がる訳ではない事も理解しているつもりよ。私だって、昇を妊娠するまで色々と苦労はしたし、お婆さまに結構言われて、悔しくて泣いたことも多いの」 隣に座る義母の顔に浮かぶ疲れに、彼女の言葉が決して嘘ではないと感じ取る。海亜が引きこもるようになってから薄れてしまった付き合いのせいで、一度真っ新になった関係性。今は姑と嫁の立場になったのだが、この三年間、彼女とどう向き合えば良いのかが分からず考えがまとまることは無かった。それでもこの姑は不甲斐ない嫁に寄り添おうと手を差し伸べてくれる。きっかけはあまり気分の良い話では無かったが、こうやって理解してくれる人が居る

  • さよならは、笑顔の後で   13

    「今度来るときは、良い報告が出来る様に心がけますから」 体裁を保つ為に呈示した、叶うかどうかも分からない口約束。昴はいつになったら、このことについて真剣に向き合ってくれるのだろう。そんな不安が頭を過ぎる。 幾ら互いに納得して決めたこととは言え、それに関して他人に口を出されることを好ましいと思っている訳では決して無い。会う度に繰り返される催促は、常に此方のペースを掻き乱すだけ。それを回避しようと気持ちが焦れば焦るほど、必死さが表に立ち大きくなっていく温度差。今でも肌を重ねる事は度々あるが、新婚の時に比べて頻度は確かに減っている。だからこそ余計に耳の痛いこの話題が、海亜は本当に嫌で仕方が無い。 初年度は期待に応えたいと純粋に思っていた。二年目になるとその期待に押しつぶされそうになり辛さを覚える。そして三年目。相手からしてみたら純粋に孫の誕生を切望しているだけなのかも知れない。それでも、海亜にとってはこの話題を持ち出される度に憂鬱になり、余計に義理の祖母の事が苦手になってしまう。「昇はまだ結婚する気配はないし、星奈も学生だ」 優雅にお茶を啜りながら零した喜代子の言葉。そこに含まれる棘は、いつでも海亜の心を深く抉り続けている。「まぁ、早いところ昇が良い嫁さんを見つけてくれるなら、私もここまで言いやしないんだがねぇ」 突然話題の矛先を向けられたことで昇はグラスを傾けていた手を止める。「え? 俺?」 まさか自分に飛び火するとは思っていなかったのだろうか。「何でいきなり俺の話が出るんだよ」 のんびりと楽しく酒を楽しむつもりだった昇だが、自分の名前が挙がると顔を引き攣らせて苦い笑みを浮かべる。「本来ならば、お前の方が昴よりも先に結婚すべきだろう?」 年功序列とでも言いたいのだろうか。あくまでこれは喜代子の意見であって、昇の人生を定めるものではない。「そのことなら、もう随分前に話合って納得してくれたじゃないか」「ふん」 昇が家ではなく夢を追うことと選択したとき、頑固な祖母と正面から衝突することが多かった。「あの時はあの時。私は一切納得はしていないよ」 家に縛られ敷かれたレール。長男という肩書きの重さは昇にとって息苦しく逃げたしたい足枷のようなもので、優等生を演じていたことに限界を感じた瞬間、遅れてやってきた反抗期という形で爆発を起こした。『俺は

  • さよならは、笑顔の後で   12

     久藤の家に居る頃は、自分の居場所があの家だと感じられたことがない。母親が亡くなり父親との距離ができ、新しい家族が増えた時に海亜はあの家の中でたった一人の他人になった。家族という枠組みから外れた異物は新しい形に馴染めず、ずっと感じている疎外感を払拭することは不可能で。だからこそ外部に強く求めたのは自分だけの居場所である。 一人暮らしの家。気軽に付き合える友人。必要とされている職場や常連となった行きつけの店など。久藤のお嬢様というフィルターを通してではなく、海亜という一人の人間そのものを認めてくれる環境。それが、海亜のずっと探していた居場所という概念である。しかし、そういった場所に自分という存在を置いたからといって、どうやっても埋まらない欠落した部分があることは確かで。 海亜が最も欲しいと願ってやまない最後のピース。 その答えは久藤の家を出て、一条の家に入ったことで漸く形になる。だからこそ、海亜は小さな不満から目を背けることを選ぶ。そうやってしがみつく醜い自分を情けないと思うことはあっても、それを後悔することはあり得なかった。「突然のご連絡に驚いたのは確かですが、準備に手間取ってしまったのは此方の不手際です。お婆さまには大変不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」 角を立てず、適当に受け流すこと。これは海亜が生きていく上で身につけた防御術。「そんなこと無いわ。だから、そんな風に言わないで頂戴」 しかし、それを良しとしなかったのは水琴の方だった。言葉を窘められ謝罪を否定されたことで浮かんだ動揺はほんの僅かな間のもの。それでもそんな小さな変化を水琴が見逃すことは無かったようで、困ったように笑いながらも海亜の右腕を軽く叩きながらこう続ける。「不安にさせてしまってごめんなさい。でもね、昴。海亜さん。お婆ちゃんは不器用なだけで、本当にみんなに会うことを楽しみにしていたのよ。昇と星奈が着いたときは、早く迎えに行きなさいって私を急かしたくらいなんだから」 そう言いながらゆっくりと離れていく白い手は、ほんの少し前の記憶を辿るように宙を彷徨う。「昴たちの到着が遅いことを誰よりも心配していたのもお婆ちゃん。連絡が全然来ないから、お父さんに電話しろ、電話しろって強請ってたの。昴が着いたって聞いたときは、誰よりも先に会いたいって気持ちが焦っちゃって、思わ

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