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第5話

작가: 水瀬
乃愛は冷笑して言った。「私は当然、変な考えなんてしてない。どうせ私たち、もう離婚するんだから。行きましょう。役所へ。

たとえあなたが、悠斗があなたの子だって言っても、私はどうでもいい」

「.......お前」

卓也の表情は、凍りつくほど冷え切った。

「この話は、お前が落ち着いてからだ」

卓也は大股で出て行き、扉が乱暴に閉まる音が響いた。彼が去ったあと、乃愛は壁の写真を一枚見て、手を伸ばして引き剝がし、床へ叩きつけた。

ガラスが砕ける。写真の中の彼女と卓也は、真っ二つになった。

叩きつけた直後、スマホが鳴った。母からの電話だった。

「乃愛、今日は何の日か、忘れてないわよね?」

乃愛はスマホのカレンダーを見て、ようやく思い出した。

今日は父の誕生日だ。「もちろん覚えてるよ。パパの誕生日でしょ。プレゼントももう用意してるし、ちょうど帰るところだったわ」

無理に笑って言った。

鹿島詩織(かしま しおり)は優しい声で続ける。

「そうよね。絶対忘れないと思ってた。帰るときは気をつけてね。家で待ってるから」

「うん。分かった」

電話を切ると、乃愛は簡単に身支度を整えた。

鏡の中の自分は、目が腫れて赤く、顔色も悪い。まるでじゃじゃ馬みたいだった。

鹿島家のお嬢様が、こんな姿でいるはずがない。乃愛はメイクをして、口紅も塗った。身支度を終えるまでに、二時間近くかかった。

――そのとき、またスマホが鳴った。今度も詩織から。

「乃愛、パパがね。今年の誕生日会はやめるって。面倒だって言うの。だから、あなたも無理しなくていいわよ」

やめる?さっきまで、忘れてないか気にしていたのに。

その瞬間、乃愛の中で何かが繋がった。視線が、少しずつ冷えていく。

「分かった。プレゼントは人に届けさせるわ。ちょうど体調も良くないし、今日は行かないでおくね」

「ええ。ゆっくり休んで」

詩織はそう言って、電話を切った。

乃愛は薄化粧で、惨めなくらいに青白い顔を隠し、少しだけ血色を取り戻した。けれど、眼差しだけは異様に冷たい。

車の鍵を強く握りしめる。乃愛は外へ出て、車を走らせ、鹿島家へ向かった。

空は晴れていた。敷地に入った途端、リビングから楽しげな笑い声が聞こえてきた。

そばにいた使用人が彼女を見るなり、顔色を変える。

「は、晴香様」

「呼び方が違うわ。減給ね」

乃愛は車を降り、プレゼントを手にしたまま言った。

「私は乃愛よ。分かった?」

使用人は震えながら頷いた。

乃愛はそのまま家に入る。玄関を抜け、目に入ったのは――温かな光景だった。

父の鹿島明夫(かしま あきお)は誕生日の帽子をかぶり、膝の上には小さな男の子が座っている。

詩織は隣で、おもちゃを手にして男の子をあやしていた。

晴香はスマホを構え、写真を撮っている。

「パパ、ママ、悠斗。こっち向いて。私が撮るわ.....ああ、残念。彼がいないから、家族写真が撮れないわ」

その言葉に、数人が一斉に顔を上げた。そして同時に、入口に立つ乃愛の姿も目に入った。

「乃愛......どうして帰ってきたの?」

詩織の手から、おもちゃが床に落ちた。顔には焦りと驚きが滲む。立ち上がって近づきながら言った。

「具合が悪いって......」

乃愛は冷たい目でその光景を見渡し、整った小さな顔に嘲りを浮かべた。

「私が来なかったら、あなたたちが家族そろって楽しく誕生日を祝ってるって、知りようがないものね」
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