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5話

Auteur: 東雲桃矢
last update Date de publication: 2026-04-12 22:17:25

 沙綾は悪態をつく。

 和子と和人は、彼女を美魔女と思い込んでいるが、そうは思わない。というより、思えない。

 美魔女というのは、年齢よりも若く美しい女性のことだ。

 だが、和子はどうだ。厚化粧でシミを隠し、6,7年前に若者の間で流行した服やブランドを身に着けているだけの勘違いおばさんだ。

 化粧を覚えたばかりの高校生のほうが、まだ上手い。

「荷物、まとめとかないと」

 沙綾は物置小屋からキャリーケースを引っ張り出すと、服、自分の食器、日用品。そして、金庫に入っている大事な書類と自分で購入した金のコインを詰め込む。コインは1枚1枚ケースに入っているため、神経質にならずにキャリーケースに入れられた。

 一度ホテルに戻って荷物を置くと、スマホを持って近くのカフェに行く。

 テラス席でカフェラテを飲みながら、スマホで近くのマンスリーマンションを調べていると、気配を感じて顔を上げる。

「えー、沙綾ちゃん!? めっちゃ久しぶりー! 座っていい? てか、座るね」

 ショートウェーブの茶髪に、男ウケしそうなあざといワンピースを着たたぬき顔の女性が、沙綾の許可もなしに勝手に座る。

(げ、松永星羅……)

 げんなりして眼の前の女性を見る。彼女は松永星羅。高校時代の同級生だ。沙綾はあまり星羅のことが好きではない。というより、嫌っていた。

 いつも甘ったるい猫なで声で、男子と男性教師に話しかけていたし、人の彼氏を奪ったりもしていた。自分の思い通りにならないと、近くの女子に濡れ衣を着せて泣いてるふりをして注目を集めたがる。

 一言で言えば女の敵。

 彼女と話したことなどほとんどなく、話しかけられた時に必要最低限の返しをする程度だった。

「えー、なんか暗い顔してない? どーしたの?」

「実はね……」

 沙綾は夫が義母と不倫していたことや、今までのふたりの仕打ちについて、思いつく限りすべてを星羅に話した。彼女のことは嫌いだが、話してスッキリしてしまいたかった。

 沙綾が話せば話すほど、星羅の表情は徐々に曇っていった。それでも彼女は適度に相槌を打つから、ずっと話し続けた。

 結婚式にウエディングドレスを着られそうになったこと、新婚旅行についていったこと、日頃の嫌味や夫のマザコンっぷり、自分が旅行に誘っても断るのに、義母とは行くこと……。

 話している途中は思い出して惨めな気持ちになったり、怒りが再燃したりしたが、話し終えると少しスッキリした。

「旦那さん、最低すぎない? そんなの、別れたほうがいいよ」

「やっぱり、そう思う? というか、別れるために証拠集めてるところなんだけど」

「嫌かもだけど、家に戻るといいよ」

「えー、なんで?」

「証拠、ほしいんでしょ?」

 星羅は真剣な顔で乗り出し、いつものキャピキャピした声ではなく、落ち着いた声で言った。初めて見る星羅の真顔に、沙綾は言葉に詰まる。

「だったら、私が悪かったって、反省したふりをして戻るの。それで、できるだけ完璧な妻になるように心がけて」

「あんなのに尽くせって言うの?」

「気持ちは分かるけど、証拠欲しいでしょ? だったら、油断させるのが1番だって。きっと旦那さんは調子に乗って、色々ダメ出しとかしてくるから、全部書いたり録音したりするの。証拠は多ければ多いほどいいでしょ?」

 不思議な気持ちで星羅を見る。彼女がどうしてここまで親身になってくれるのか、理解できない。不倫されてると知ったら、「不倫されるほうが悪くない?」と言いそうなタイプなのに。「なんでそんなに親切にしてくれるの?」

「実は私、昔から沙綾ちゃんに憧れてたんだよね。だから、役に立ちたくて」

 思い切って聞いてみると、星羅は照れながら答えた。

 意外だった。彼女に憧れられていたなんて。沙綾ははっきりものを言うタイプだから、ぶりっ子の星羅とは分かり合うことなどないし、お互い毛嫌いしているものだと思っていた。

「それより、作戦会議、しよ」

 星羅は誤魔化すように言うと、スマホで不倫について調べ始めた。

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