INICIAR SESIÓN午前9時30分。
初心者向けヨガ体験に来た。
連休4日目。
昨日は甘いものを食べすぎた。
だから今日は少し健康的なことをしよう。
そう思った。
開始10分で後悔した。
「では、右足を左腕の外側へ」
先生は簡単そうに言う。
無理。
足がそこまで行かない。
隣の女性を見る。
同じく止まっている。
目が合う。
彼女が小声で言った。
「これ、人間の関節でできます?」
吹き出しそうになった。
先生がこっちを見る。
「無理しなくて大丈夫ですよ」
40代くらいの女性インストラクター。
細い。
柔らかい。
何をしても優雅。
同じ生物とは思えない。
次はバランスポーズ。
片足で立つ。
腕を上げる。
私は3秒でぐらついた。
隣の女性もぐらつく。
2人同時に床へ足をつく。
「今、合わせました?」
彼女が言う。
「たまたま」
「チームワークいいですね」
何のチームだ。
先生が笑う。
「できるところまででいいですよ」
私はもう1回挑戦する。
2秒。
さっきより短い。
「退化してる」
隣の女性が言う。
「そっちも」
「私は1秒」
「勝った」
こんな低レベルな勝負ある?
でも楽しい。
後半。
先生が言った。
「では、チャイルドポーズで休みましょう」
膝をついて、体を前へ倒す。
楽。
ものすごく楽。
「これ好き」
隣から声。
「私も」
先生が聞いていた。
「休むポーズも正式なヨガですからね」
私は顔を上げる。
「これもヨガ?」
「もちろん」
「じゃあ、ずっとこれでも?」
「今日はそれでもいいですよ」
隣の女性と目が合う。
「聞きました?」
「聞きました」
2人で堂々と休む。
先生が笑う。
「無理して難しいポーズするより、今の自分に必要なのを選ぶほうが大事です」
ちょっといいことを言った。
でも私たちは床に伏せたまま。
格好がつかない。
「先生」
「はい」
「これ寝てもいい?」
「寝たらヨガじゃなくなります」
「境界厳しい」
また笑う。
最後は仰向け。
目を閉じる。
照明が少し落ちる。
静かな音楽。
さっきまで必死に足を上げていたのが嘘みたい。
体が床に沈む。
隣の女性が小さく息を吐いた。
私も同じくらい長く吐く。
呼吸だけを気にしていると、さっきまで「できない」と思っていたことが急にどうでもよくなる。
先生が静かに言った。
「今、何もしない時間です。上手に休もうともしなくていいですよ」
上手に休む。
そんなところまで頑張ろうとしていた気がして、少し笑いそうになった。
でも目は開けなかった。
今日は、何もしない練習までして帰ろう。
しばらくすると、先生の声も音楽も遠くなる。
寝てはいない。
でも、何かを考えている感じもしない。
たった数分なのに、朝からずっと頭の中にあった細かい予定が、少し薄くなっていた。
こういう時間を最初から予定に入れてもいいのかもしれない。
先生の声。
「今日はここまでで十分です」
その言葉が妙に気持ちいい。
ここまでで十分。
もっとやらなくていい。
終わったあと、
隣の女性とマットを片づける。
「健康になりました?」
彼女が聞く。
「たぶん」
「私は休むの上手になりました」
「それ大事」
「連休だしね」
そうだった。
今日は祝日。
急いで何かを達成しなくていい。
入口で靴を履く。
隣の女性が私の靴を見て言った。
「このあと何します?」
「決めてないです」
「私も」
「じゃあ成功ですね」
「何が?」
「休みの日に予定がない」
彼女が笑った。
「たしかに。それ、今日いちばん難しいポーズかも」
最後まで話がくだらない。
でも、そのくらいがいい。
先生が手を振る。
「また来てください」
「休むポーズだけでも?」
「もちろん」
「じゃあ来ます」
外へ出る。
体は少しだけ伸びた気がする。
でも、それ以上に、
今日は休んでもいい理由を1つもらった気がした。
午後の予定は空白。
埋めなくていい。
そのまま空白にしておこう。
****
休むのもちゃんと今日の予定に入れていいんだよ。
連休なんだから、何もしない時間まで堂々と楽しもう。午前8時40分。日曜の朝。私は港の朝市にいた。魚を買う予定はない。料理をする予定も、今のところない。ただ、朝早く目が覚めた。せっかくの日曜。二度寝に失敗したなら、いっそ外へ出よう。それだけ。市場は思ったより賑やかだった。干物。海苔。野菜。卵焼き。焼き魚の匂い。朝から全部おいしそう。私は小さな屋台の前で止まった。炭火で焼かれているのは、さば。皮がぱりぱり。脂が落ちるたび、煙が上がる。「食べる?」声をかけてきたのは、60代くらいの女性。頭に紺色の手ぬぐい。エプロン。「朝からさば?」「朝だからさば」最近、この言い方に弱い。「1つください」「ご飯いる?」「あります?」「あるよ」「じゃあ少し」「味噌汁は?」「それも」気づけば完全な朝定食。店の横に小さなテーブルがある。座る。目の前に海。いい。女性が焼きたてのさばを皿に乗せる。「熱いからね」「はい」ご飯。味噌汁。大根おろし。豪華。箸でさばをほぐす。湯気。一口。「おいしい」思わず声が出る。女性が遠くから、「でしょう」と返す。聞こえていた。隣のテーブルには、70代くらいの男性が1人。新聞を読みながら同じ定食。「ここのさばはうまいよ」突然言う。「常連さん?」「毎週」女性がすぐ言う。「毎週じゃない。月2回」「同じようなもんだ」「全然違う」夫婦ではないらしい。でも会話は夫婦みたい。「知り合い?」私が聞くと、女性が言う。「魚買いに来る人」男性は、「40年くらい」と補足。長い。「それもう友達では?」「違う」2人同時。息ぴったり。私は笑う。味噌汁を飲む。わかめ。豆腐。少し濃い。海の近くで飲むと、なんとなく正しい味がする。女性が別の客に魚を渡す。「焼きたてあと2枚!」声がよく通る。男性が新聞を畳む。「若い人、朝から来るの珍しいね」「眠れなかったので」「じゃあ得したね」「何が?」「焼きたて食えた」単純。でも本当だ。二度寝できなかった朝が、急に得した感じになる。「日曜は寝たいじゃないですか」「寝たけりゃ昼寝すればいい」また単純。「昼寝すると夜眠れない」「そのとき考えればいい」この市場、みんな先のことを考えない。羨ましい。さばを半分くらい食べたとこ
午前9時10分。土曜の朝。海沿いの小さな灯台へ来た。観光地というほど大きくない。でも、週末だけ朝から中へ入れるらしい。入口でチケットを買う。「上まで147段です」係の人に言われる。147。聞いただけで少し後悔した。「エレベーターは?」「ありません」笑顔。逃げ道なし。仕方なく階段へ。細い。らせん状。最初の30段までは平気だった。50段。少し息が上がる。80段。「誰が灯台行こうって言ったの」自分。100段。後ろから足音。少し速い。私は壁際へ寄った。「先どうぞ」声をかける。上がってきたのは30代前半くらいの男性。薄いグレーのパーカー。首から小さなカメラ。「大丈夫です。僕も休憩したかったので」隣で止まる。息が少し上がっている。「余裕そうに見えた」「見栄です」正直。2人で狭い踊り場に立つ。小さな窓。外に海。「あと何段?」私が聞く。彼が壁の数字を見る。「43」「数えるんだ」「終わり見えたほうが楽なので」「私は聞いて余計疲れた」彼が笑う。「じゃああと10段ってことにします?」「それは嘘」「難しい」少し休んで、また上る。なぜか並ぶ形になる。階段が狭いので、前後。最初は彼が前。「ペース速かったら言ってください」「今は大丈夫」20段。彼が少し振り返る。
午前7時20分。金曜の朝。私は高速バスの待合室で、紙コップのコーヒーを飲んでいた。今日は少し遠くまで出かける。旅行というほどではない。午前中だけ用事を済ませて、夕方には戻る予定。バスの出発まであと15分。私はコーヒーにミルクを2つ入れた。その瞬間。「まだ2個なんだ」聞き覚えのある声。顔を上げる。30代前半くらいの男性。カーキ色のコート。黒いリュック。一瞬、誰か分からない。でも彼が笑った。「忘れた?」「あ……直樹?」大学時代、同じカフェでバイトしていた人。1学年上。シフトがよく重なった。閉店作業も何度も一緒にした。卒業してからは、2回くらい大人数で会っただけ。それももう何年も前。「久しぶり」「何でここにいるの?」「バス乗るから」「それは見れば分かる」昔と同じ返し。思わず笑う。彼が私の紙コップを見る。「ミルク2個」「何で覚えてるの?」「賄いのコーヒー、毎回それだった」「そんなこと覚えてる?」「君、砂糖入れないくせにミルクだけ2個だったから」「変?」「ちょっと」失礼。「そっちはブラックだったよね」「今も」彼が持っているカップを見せる。本当にブラック。「変わらないね」「そっちも」朝から10年前に戻ったみたい。待合室には何人かいる。アナウンス。スーツケースの音。でも私たちは少し端へ寄り、立ったまま話した。「どこ行くの?」聞く。
午前7時50分。駅前の小さなスパイス専門店に入った。理由は、店先に並んだ瓶がきれいだったから。赤。黄色。茶色。緑。朝からカレーを作る気はない。でも、見ているだけで少し楽しい。「何か探してます?」声をかけてきたのは30代前半くらいの男性店員。白いシャツ。黒いエプロン。腕まくり。手元には小さな木のスプーン。「見てるだけです」「一番難しいお客さんですね」「買わないかもしれないから?」「何を勧めればいいか分からないから」正直。「じゃあ朝に合う香り」私が言う。「スパイスで?」「うん」彼は少し考えて、3つの瓶を出した。カルダモン。シナモン。クローブ。「朝ならこの辺」「コーヒーみたい」「コーヒーにも使えます」最初はカルダモン。彼が小さなさやを1つ割る。ふわっと香る。「近くで嗅いでみて」言われて顔を寄せる。爽やか。少し柑橘みたい。「思ったより軽い」「でしょう」彼も同じ瓶へ顔を寄せる。一瞬、距離が近い。同じ香りを同時に嗅いでいるだけ。でも、朝の小さな店で顔が近づくと、少し意識する。「これ好き」「顔に出てます」最近よく言われる。次はシナモン。「これは分かる」「じゃあ説明なし」「雑」「知ってる香りを僕が説明しても」彼が笑う。3つ目。クローブ。強い。「これはちょっと苦手」「じゃあやめましょう」
午前7時55分。図書館の返却ポストの前で、私は1冊の本を持ったまま立っていた。返却期限は今日。返せばいい。それだけなのに、少し惜しい。短いエッセイ集。全部読んだ。気に入ったページには付箋まで貼った。もちろん、付箋は全部外した。借りた本だから。「返さないんですか?」後ろから声がした。振り向く。60代くらいの女性。布のトートバッグに本が3冊。「返します」「今、かなり迷ってた」「気に入って」「じゃあまた借りればいいじゃない」簡単に言われる。「でも、次いつ借りられるか」「予約すれば?」「そこまででもない気もして」自分でも面倒だと思う。女性が笑う。「好きなのに、そこまででもないの?」「買うほどではないけど、返すとちょっと寂しい」「分かる」意外と分かってくれた。彼女もポストへ1冊ずつ入れる。すとん。すとん。最後の1冊だけ止まる。「あれ?」今度は私が見る。「そちらも?」「これは途中までしか読んでないの」「延長すれば?」「予約入ってるみたい」「じゃあ返さないと」「分かってる」お互い様だった。2人で本を持ったまま立つ。朝から何をしているんだろう。図書館はまだ開館前。返却ポストだけ使える。女性が本の表紙を撫でる。「昔はね、読み終わらないと返すの悔しかったの」「今は?」「途中でも返す」「もったいなくない?」「読みたいところまで読んだなら、それでいい本もあるよ」少し驚
午前7時35分。駅前のジューススタンドで、私はバナナジュースを待っていた。火曜の朝。特別な理由はない。家を出るのが少し早かっただけ。カウンターの向こうでミキサーが回る。その音をぼんやり聞いていたら、隣から声がした。「まだそれ飲むんだ」振り向く。一瞬、誰か分からなかった。白いシャツ。ネイビーのジャケット。大学時代より髪は短い。でも、笑ったときに片方の口角だけ少し上がる。「あ……健太?」同じゼミだった男。大学4年の1年間、よく一緒にいた。恋人ではない。でも、飲み会の帰りに2人になることは多かった。卒業してからは、最初の数年だけ年賀メッセージ。そのあと自然に途切れた。「久しぶり」「何年?」「10年くらい?」「そんなに?」「たぶん」朝から急に時間が巻き戻る。店員さんが聞く。「ご注文は?」彼がメニューを見る。「バナナで」私は彼を見る。「そっちもまだそれ?」「昔、君が毎回飲んでたから思い出した」「真似?」「今日は」その言い方が少し懐かしい。大学の近くにも小さなジュース店があった。私はいつもバナナ。彼はオレンジ。「昔はオレンジだったでしょ」「覚えてるんだ」「そっちこそ」2人とも少し笑う。私のジュースが先に出る。冷たいカップ。ストローを差す。彼が横から見る。「朝から冷たいの平気になった?」止まる。「何でそれ覚えてるの?」「冬、毎回『寒い』って言いな







