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82.

Author: 美桜
last update Last Updated: 2025-08-04 19:34:58

「どこに連絡すれば、いいですか?」

雪乃は、彼女が決心してくれたことに安堵して、微笑んだ。

「不自然にならないように、今度お使いを頼まれた時でいいわ。よく聞いてね。那須川グループの本社…検索したら出てくるから。そこに電話して、秘書のマキっていう人に連絡して。藤堂雪乃の件で、て言えばいいわ」

「私なんかが電話して、相手にしてもらえますか?」

琴音は不安だった。

自分はただの女子高生なのだ。そんな自分が連絡して、万が一いたずらだと思われたら…。

雪乃は不安そうに瞳を揺らす琴音に、優しく言った。

「いたずらを疑われたら、〝ボディーガードの名前は田中だ〟て言ってみて?」

見返すと、少し楽しげに、雪乃が瞳を煌めかせた。

「ね?いかにも偽名でしょう?でも、本名なんだって。名乗っても偽名だと思われるから、名乗っても平気なんだって!ふふっ」

彼女は本当に面白そうにそう言って、微笑った。

琴音も思わず一緒に笑ってしまって、緊張していたのが緩んだ。

素敵な人…。

きっとこの人は、自分を気にしてこんな風に言ってくれたに違いない。

琴音はそう思って、よしっ…と気合を入れた。

「やってみます」

「うん」

雪乃は頷きながらも、真剣な目をして言った。

「無理はしないで。あなたの安全を優先させてね。私は大丈夫だから」

「でもー」

「本当に。私の婚約者はすごいの。時間はかかっても絶対に助けてくれる。だから、あなたは無理をしないで。ね?」

そう重ねて言われて、琴音もようやく頷いた。

それに、それはたぶん本当のことなんだろう…と彼女は思った。

この人…雪乃さんの婚約者さんは、きっとすごい人なんだろう。自分には全く縁のない世界の人たちなんだろうけど、こんなに素敵な人の婚約者なんだから、その人も素敵な人に違いない。

琴音はそう納得して、〝大企業に電話をする〟というミッションに挑む勇気を出した。

真木は、省吾の秘書の杉田と一緒に、何人かの若者と対面していた。

彼らは皆一様に派手な身なりをし、始めはチャラチャラした雰囲気でこちらをジロジロと見て、一言で言って不愉快な連中だった。

誰もがスーツを着た自分たちを〝おっさん〟と呼び、ニヤニヤしながら「なんの用だよ?」と見下した口調で言うのに真木の額には青筋が浮かび、今にも怒鳴りつけてしまいそうだった。

真木は、雪乃が攫われてしまったことに焦っていた。

確かに彼女の買
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    「どこに連絡すれば、いいですか?」雪乃は、彼女が決心してくれたことに安堵して、微笑んだ。「不自然にならないように、今度お使いを頼まれた時でいいわ。よく聞いてね。那須川グループの本社…検索したら出てくるから。そこに電話して、秘書のマキっていう人に連絡して。藤堂雪乃の件で、て言えばいいわ」「私なんかが電話して、相手にしてもらえますか?」琴音は不安だった。自分はただの女子高生なのだ。そんな自分が連絡して、万が一いたずらだと思われたら…。雪乃は不安そうに瞳を揺らす琴音に、優しく言った。「いたずらを疑われたら、〝ボディーガードの名前は田中だ〟て言ってみて?」見返すと、少し楽しげに、雪乃が瞳を煌めかせた。「ね?いかにも偽名でしょう?でも、本名なんだって。名乗っても偽名だと思われるから、名乗っても平気なんだって!ふふっ」彼女は本当に面白そうにそう言って、微笑った。琴音も思わず一緒に笑ってしまって、緊張していたのが緩んだ。素敵な人…。きっとこの人は、自分を気にしてこんな風に言ってくれたに違いない。琴音はそう思って、よしっ…と気合を入れた。「やってみます」「うん」雪乃は頷きながらも、真剣な目をして言った。「無理はしないで。あなたの安全を優先させてね。私は大丈夫だから」「でもー」「本当に。私の婚約者はすごいの。時間はかかっても絶対に助けてくれる。だから、あなたは無理をしないで。ね?」そう重ねて言われて、琴音もようやく頷いた。それに、それはたぶん本当のことなんだろう…と彼女は思った。この人…雪乃さんの婚約者さんは、きっとすごい人なんだろう。自分には全く縁のない世界の人たちなんだろうけど、こんなに素敵な人の婚約者なんだから、その人も素敵な人に違いない。琴音はそう納得して、〝大企業に電話をする〟というミッションに挑む勇気を出した。真木は、省吾の秘書の杉田と一緒に、何人かの若者と対面していた。彼らは皆一様に派手な身なりをし、始めはチャラチャラした雰囲気でこちらをジロジロと見て、一言で言って不愉快な連中だった。誰もがスーツを着た自分たちを〝おっさん〟と呼び、ニヤニヤしながら「なんの用だよ?」と見下した口調で言うのに真木の額には青筋が浮かび、今にも怒鳴りつけてしまいそうだった。真木は、雪乃が攫われてしまったことに焦っていた。確かに彼女の買

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