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第4話

Author: 昔の昔
車が止まり、遥は真っ先に降りて歩き出す。

怜司は沙羅を気遣いながら、ゆっくりと後ろから続く。二人が並んで歩く姿は、VIPルームに向かう途中でたくさんの視線を集めている。

「わあ、あの男の人、めちゃくちゃイケメンだし優しい。ずっと妊婦さんを支えてる」

「奥さんは正直、そんなに美人じゃないよね。その前にいるサングラスの子のほうが、どう見てもトップレベルの美人!」

「でも、いくら綺麗でも意味ないじゃん?どうせ一人ぼっちで誰かに愛されてるわけでもないし」

沙羅は道行く人たちの噂話を聞いて、得意げに一瞥し、胸を張ってまるでセレブ妻のような態度をとる。

その言葉は一言も漏れず、すべて遥の耳に届いていた。

怜司は沙羅を座らせると、今度は遥の隣に腰かける。

「遥、沙羅にあんまりきつくしないでやってくれ。田舎育ちだから、何もかもが珍しくて仕方ないんだ」

遥は怜司を無視した。怜司は気まずそうに、そっと彼女に毛布をかけてやる。

「痛っ!」

後ろから沙羅の悲鳴が聞こえる。お腹を押さえ、青ざめた顔で席に寄りかかっている。

「毛布を取りに立とうとしたら、足をひねっちゃって……すごく痛くて……」

怜司は一瞬で顔色を変え、遥を押しのけて沙羅のもとに駆け寄る。

怜司はしゃがんで沙羅の足首を優しくマッサージする。その手つきは、まるで壊れやすい芸術品を扱うみたいに繊細だった。

遥の胸の奥に、冷たい痛みが広がる。去年、自分がブランコから落ちて手首を捻挫したとき、怜司は涙を流してずっとそばを離れなかった。その思い出がよみがえる。

このとき遥はやっと気づく。愛は死なない。ただ、居場所を変えるだけなんだ。

その後の十数時間、怜司はずっと沙羅のそばから離れない。

「怜司、赤ちゃんに絵本読んであげて。すごく喜ぶから」

「いいよ。よし、赤ちゃんに、今日は『星の王子さま』の話をしてあげよう。

遠い星に、小さな王子さまが住んでいました……そして最後は、一番大切なバラのもとへ帰ることにしました」

手の甲に涙が落ちて、遥はそのとき初めて、自分がもう泣きじゃくっていたことに気づく。

イヤホンを耳に差し込み、睡眠薬を何錠も飲んで、無理やり眠りに落ちる。

どれくらい眠ったのか、喉が焼けるように乾いて目が覚める。

水を入れようと立ち上がると、後部座席から二人の会話と笑い声が聞こえてくる。

「怜司さん、お腹の子はどっちに似てるのかな?できれば怜司さんに似て、かっこよくなってほしいな……私なんて田舎くさいし」

沙羅の声は、とろけそうに甘い。

怜司は眉を上げて微笑む。「俺は沙羅みたいな子に生まれてほしいけどな。素直で、優しくて、純粋で……」

遥は横目で二人を見る。沙羅は赤くなった顔を怜司の肩に寄せる。

まるで本物の夫婦。新しい命を心から待ち望んでいる家族にしか見えない。

遥の手からコップがカランと落ちて、床で粉々に割れた。

遥はしゃがんで破片を拾おうとしたが、目の前が真っ暗になり、そのまま倒れ込んだ。

手のひらにガラスの破片が突き刺さり、鮮血が滴る。激しい痛みに全身が震える。

「遥、大丈夫か?」

怜司がすぐに駆け寄り、彼女を抱きかかえてソファに座らせる。

沙羅はすかさず、わざとらしい声で口を開く。「全部私のせいです。でも、遥さんだって怪我をしてまで怜司さんの気を引こうとしなくても……」

その言葉に、怜司の目に迷いが浮かぶ。

怜司はティッシュを取り、遥の傷口を押さえながら、どこか責めるような口調になる。

「欲しいものがあるなら言ってくれればいいだろ。なんでこんなことまでするんだ?

リュミエールのファッションショーにも付き合ったし、お前の好きなジュエリーも全部プレゼントした。それでも、まだ足りないのか?」

遥は怜司の肩越しに沙羅を見る。彼女は冷たい目で遥を見返してくる。田舎娘の素朴さなんて、そこにはかけらもない。

怜司は遥の視線を追い、沙羅の方を見る。沙羅はすぐに無邪気で無垢な顔を作る。

怜司は眉をひそめて言う。「自分で転んでケガしたくせに、それまで沙羅のせいにするのか?」

遥は血のにじむ手のひらを引っ込め、言葉が喉で詰まる。

「怜司、あなたの中で私はそんなにも卑しい人間なの?」
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