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命の対価⑧

last update Last Updated: 2025-02-12 17:00:50

数年前魔族や黄金の旅団はこの世界に飛ばされてきた。

数が少ない魔族が反撃に出るのはリスクでしかない。

その為魔神は考えた。

異世界へと戻る方法を。

どれだけ考えても思いつかなかったが、1つの名案が浮かんだ。

この世界に存在する天才と呼ばれるに値する人間に、滅びの夢を見せ信じさせる。

そうして、その者に異世界へと帰る手段を見つけさせ、元の世界へと帰るもしくは配下を引き連れて戻りこの世界を支配する。

そのターゲットとなった僕は簡単に騙されてしまい、知力を駆使して異世界ゲートを創り上げてしまった。

全ては魔神の思うがままに。

――――――

「感謝するぞ。我々では成し得なかった異世界ゲートを創り出したお前は本物の天才だと記憶に刻んでおくとしよう」

言い終わるか否か、何処からかデカい両刃の剣を生み出し僕に剣先を向けてくる。

「この世界はお前のお陰で滅びの道を歩むだろう。この世界に存在する全ての人類よ、我に従え!さすれば痛みなく死を与えてやろう」

拡声器でも持っていたのかと思うほどに大きな声が会場中に広がる。

ざわめきが広がると同時に悲鳴も上がった。

「いやぁぁ!やめて!」

「痛いいいぃ!!」

ゲートから無数に出てくる魔物に襲われている記者や各国の著名人。

僕はただ眺めることしか出来ない。

「いい声で鳴くじゃないか。ではそろそろお前の命も終わりとしよう」

一歩踏み出した魔神を止めるかのようにアカリも構える。

一触即発の雰囲気の中、僕はアレンさんを会場の何処にいるか目線だけで探す。

遠くに居たのを見つけたが、高位魔族に阻まれてこちらに来ることができなそうだ。

いやまだ居る。

フェリスさんと春斗が僕の護衛になっていた。

春斗は見当たらずフェリスさんを探すと、魔神の後ろにレイピアを構えてアカリと挟む形で陣取っていた。

「雑魚が群れようと、我に傷をつけることは叶わぬ!」

大剣を振るうとその剣圧でアカリとフェリスさんは吹き飛んだ。

「ぐっ!!」

4m程度離れただけだ

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    部屋全体がとても暑く、何もしていないのに服には汗が滲んでくるほどだった。ペトロさんとアンデレさんを見ればとても涼しい顔をしており、二人は暑さが平気のようだった。数歩進むと更に熱気は凄く、僕の額には大粒の汗が浮かぶ。使徒の特殊な力か知らないが僕だってペトロさん達みたいに涼しい顔でいたいものだが、あまりの暑さにそうは言ってられない。「ん?あ、もしかしてこの部屋暑いかい?」ペトロさんが僕の様子に気づいてくれたようで声を掛けてくれた。それに僕は頷き返すと、ペトロさんはおもむろに指を弾いた。その瞬間、暑く感じていたはずなのに一気に涼しくなった。何か結界のようなものを張ってくれたのだろうか。「悪いね。人間はこの暑さだと辛いというのを忘れていたよ」「結界ですか?」「そう。私達は呼吸をするかのように身体を覆っているけど君達人間はわざわざ発動手順を踏まなければならないのを忘れていたよ。それに君は魔法があまり得意ではないだろう?」その通りだ。得意か否かではなく赤眼のせいであまり魔法が扱えない。ペトロさんはこの短い時間でその事にも気づいていたらしい。「それにしても趣味悪いよね~ヤコブの部屋って」アンデレさんは首を横に振り嫌そうな顔をする。まあ僕も趣味がいいかと問われれば首を振らざるを得ないしな。「あ、来たみたいだよ」ペトロさんが指差す方向を見ると溶岩が盛り上がりその中から白い服を着た男が出てきた。髪は短髪で赤く目も吊り上がっていて不良みたいな見た目だ。少なくとも僕がプライベートだったら話し掛けはしないタイプの見た目だった。「おいおいおい!なんだって二人が俺の所にきたんだ?それにそこの人間はなんだ?」「まあいいじゃん。とりあえずさ、この子が世界樹に行きたいらしいから許可ちょーだい」何の説明もしてないけどいいのだろうか?アンデレさんの問いかけにヤコブさんは数秒無言になると頷いた。「お?まあいいけどよ。って説明の一

  • もしもあの日に戻れたのなら   神域へ⑦

    扉をくぐった先はまた別の光景が広がっていた。周りは宝石のように光り輝く巨大な水晶が散乱している。ペトロさんの部屋とは大違いだ。「ここは私達使徒の求めるものが表現されているんだ。私の場合は果てしなく広がる平穏を望む。だから草原が広がっていただろう?ここの使徒は違うのさ」「水晶……輝かしい生を歩みたい、とかそんなところでしょうか?」「おお、察しがいいね。君、頭いいって言われないかい?」どうやら当てずっぽうが正解だったようだ。輝かしい生を歩みたい、か。言ってはみたけど実際よく分かっていない言葉だ。何をもって輝かしい生といえるのか。「その使徒様はどこにいるんですか?」「私が来たことは気づいているはずだからもうすぐ来るよ」ペトロさんがそう言ったタイミングで目の前の水晶が激しく砕け散った。「ふぅ~お待たせ!」現れたのはペトロさんと同じく白い服を着た女性だった。煌びやかな恰好をしてるのかと思いきや、まさか同じ白い服だとは思わなかった。「来たねアンデレ。ちょっと今日は紹介したい人がいてね」「何かしらペトロ。貴方が紹介したいだなんて珍しい事もあったものね~」ペトロさんは僕の方を見た。挨拶しろって事かな。「初めまして城ケ崎彼方です」「城ケ崎?えらく変わった名前ね~。で?ペトロが紹介したって事は普通の人間ではないのでしょう?」「はい。僕は別世界から来た人間でして――」もう何度目かも分からな自己紹介をするとアンデレさんの目が輝きだした。ペトロさんと同じく僕は興味深い対象であったらしい。話し終えるとアンデレさんは期待に満ちた表情に変わっていた。まるで初めて見た生物を観察するかのように。「へぇ~面白いね~!ペトロ、なかなか面白い子を連れてきたね!」「そうだろう?別世界となれば我々の手が届かない場所だ。だからこそ面白い」「うんうん!それでこの子がどうしたの?」ペトロさん

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