「さ、みんな挨拶は終わったかな?せっかくだしお寿司でも頼もうか」
「ピザもー!」誰だ、欲望に忠実な奴は。僕だってどちらも食べたい。そういえばお昼御飯は食べてなかったからお腹が空いているな。
「カナタくんも遠慮しないで食べてくれよ」
「ありがとうございます」皆が各々喋りつつ席に着いていく中、漣が近付いてきた。「カナタくん、久しぶりだな」「漣さんもここに住んでいたんですね」「ああ、あれから皆と一緒にいるほうが何かと都合がいいと言われてな。私もここに住むことにしたんだ」漣さんは機械音痴だからな。皆と一緒にいないとまた連絡がつかないなんて事になったらとても厄介な事になる。何より貴重な剣聖という戦力でもある。「そういえば、アレン団長と漣さんってどっちが強いんですか?」
「ふむ、よく聞かれる事でもあるがそうだな……恐らく本気で戦えば私が負けるだろう」ええ!?アレンさんあんな成りして漣さんより強いのか!?「アレン団長はあれでも殲滅王なんて呼ばれているのよ」僕と漣さんの会話を聞いていたのか、レイさんが追加の説明をしてくれた。「アレン団長はここにいるメンバー、いや異世界でも最強と呼ばれる3人の英雄がいるんだけれど、その内の1人だから多分誰も勝てないわ」あんな見た目だけどね。と少しディスられつつも戦闘能力は誰もが認めるほどらしい。殲滅王と呼ばれるくらいだからな、多分とんでもない魔法とか使うんだろうな。「お寿司が届いたよー」気の抜けたアレンさんの声で皆が玄関まで取りに行く。僕も手伝おうと席を立とうとしたがレイさんに止められた。「貴方はお客様よ、ここに居なさい」
そう言われると何も言えず、ハイと返事をして座ったまま準備が出来るまでレイさんと雑談することにした。「そういえば聞いてみたいことがあったんですが」「なにかしら?私でわかる範囲で答えさせてもらうわよ」「僕も魔法って使えるようになりますか?」<ザラエルを葬った後はまた前線の戦いを眺める。今頃遥か前方では何人も死んでいるだろう。魔族や魔物の数も減ってはいるが、遠くから見ている限り人間側も多少数を減らしているように見えた。「だいぶ苦戦しているのかな」「そうでもなさそう。団長の姿は見えないけど他の冒険者達はなんとか戦えてる」アカリ曰くアレンさんを筆頭に三人の主力はどこに行ったか分からないらしい。できる限り力を温存したいって言ってたし多分隠れて魔神が出てくるのを待っているんだろう。「僕ももう少し前に行ったらだめかな」「だめ。混戦になればいくら私でも守り切れない」アカリに強く服の裾を捕まれ拒否される。傍観者でいるのもなんだか卑怯者みたいで嫌なんだけどな。「む……小賢しい真似を……」突然リヴァルさんが振り向いて僕らの後ろを凝視しながら呟く。どうしたんだろうか。僕の目では土煙が上がっているくらいしか見えないけど。アカリもハッとした表情で振り返ると土煙をジッと見つめていた。「何かあった?」「……あの土煙は自然発生したものじゃない」「というと?」「何かがこっちに向かって爆走してきてる」もしそうだとするならかなりの数がこちらに向かってきている事になる。僕の目でも見えるほどの土煙だ。数人程度が走ったところで上がる土煙じゃない。「チッ。前に行くぞ。ここにいれば飲み込まれる」「それがいい。カナタ絶対に私から離れないで」「え?な、何が来ているんですかリヴァルさん」おおよその予想はつく。ここは魔族国だ、魔物か魔族しか考えられないが
アカリの言葉にザラエルは吹き出すように笑い出した。「ブハッ!おいおい、嬢ちゃん。冗談が下手だぜ?」「…………」アカリは何も答えない。それどころかアカリが放つ魔力の波は少しずつ大きくなっていく。「ほう……?人間にしては割と魔力量が多いな。だからといって簡単にはやられてやらんがなぁ!?」段々とザラエルの口調が腹立ってきた。「ほら、掛かってこいよ。人間が魔族に逆らうとどうなるか、その身に刻み込んでやる」「……そう。じゃあ、遠慮なく」その言葉を最後にアカリがその場から姿を消した。「なっ!?」「神速絶刀・一閃」アカリの声が聞こえたかと思うといつの間にかザラエルの背後で刀を逆手に持ち首元へと刃を沿わせていた。ザラエルは背後に回り込んだ事に気づいたようだったが、ワンテンポ遅い。アカリの斬撃がザラエルの首を捉えるとそのまま刀を振り抜いた。また姿が消えたかと思うと突然僕の目の前に現れる。「うわぁ!?」「……驚きすぎ」「いや……驚くだろ」瞬間移動じゃない、な。多分とてつもない速度で動いただけだ。その証拠に僕の目の前へと現れた時、アカリの髪が揺れていた。圧倒的な速さ、それこそが神速と呼ばれるに至った所以なのだろう。首を斬り裂かれたザラエルは口から水の音のようなコポコポと水泡が割れる、そんな音を響かせながらその隙間に挟み込まれる掠れた声を絞り出す。
「リヴァル!」業火の熱波に包まれたリヴァルさんを心配してか姉さんが声を荒げた。ザラエルの顔付きは嫌な笑みを浮かべている。「……リヴァルはこの程度では死なない。伯爵位魔族はこの程度で倒せるはずがない」アカリがぼそっと呟くと同時に業火はかき消え、その中心には無傷のリヴァルさんが立っていた。「この程度かザラエル。所詮は子爵位のお前では俺に傷一つつけられん」「それはどうかなぁ!?ブラストカノン!」「ッッ貴様!」今度は掌を僕らに向けたかと思うと先ほどの魔法を放ってきた。リヴァルさんは相殺するように僕らの方へ向けて魔法を放ったが、それは当然隙となる。「かかったなぁ!?リヴァル!シャドウスラッシュ!」ザラエルが隙をついてリヴァルさんへと黒い斬撃を飛ばした。僕らを守るため結界を張っていたリヴァルさんは対処に遅れ、斬撃はリヴァルさんの肩を掠った。鮮血が舞いリヴァルさんの顔は険しい表情へと変わる。「卑怯な真似を……」「これが魔族ってやつだろうがリヴァル!お前の弱さはそれだ!侯爵位に迫るほどの力を持ちながらも伯爵の地位から脱却できねぇのはそれさ!」リヴァルさん、侯爵位に近しい力を持ってるのか?とんでもないな……。なにげに強いんだリヴァルさん。それにしてもあのザラエルってやつ、ムカつくな。卑怯な手といい口調も苛立ってくる。「アカリ、僕らはいい。リヴァルさんに手を貸してやってくれ」「それは無理。多分私が離れたらアイツは即座にカナタ達を狙う」アカリが手を貸せば楽かと思ったけどそういうわけにもいかないのか。確かにあんな卑怯な手を使うザラエ
「チッ、俺の力を見せてやる」アカリの自慢げな顔がムカついたのかリヴァルさんは苛立った様子で両手を空に掲げた。「近づく有象無象など、俺の敵ではないと知れ!メテオフォール!」空から真っ赤な隕石がいくつも降ってくると、僕らに近づこうとする魔物を直撃する。当たった瞬間派手に砂埃を巻き上げ、至る所にクレーターを作っていく。「うわっ!」砂埃が僕のところにまで飛んでくる始末。隕石が当たった魔物はひとたまりもないだろう。「人間に負けてはおれん」リヴァルさんはそれだけ言うとチラッと姉さんを見た。なるほど……いいところを見せたかったんだな。案外魔族も人間と変わらないな……。「へー!凄い魔法だね!私も使えたらなぁ」「紫音には無理だ。魔力量があまりになさすぎる」「残念……瞬間移動とか夢なのになぁ」確かにそれはそう。瞬間移動できたら通勤とか楽だろうな、なんて考えしまうのは日本人のさがだろうか。そんな事を考えている時だった。突如熱風を感じ振り向くとそこには一人の魔族が手をこちらに翳して突っ立っている。青白い膜が僕を覆っているけど、これはなんだろうか。「嗅ぎつけるのがうまいやつめ……何の用だザラエル」「ククク……人間に味方している魔族がいると思えばお前だったかリヴァル。今その人間を守ったな?これは明確な裏切り行為……オレがこの手で縊り殺してやる」熱風を感じただけで済んだのは、咄嗟にリヴァルさんが僕を守るよ
「さて、始めようか」アレンさんが掌を空に掲げると七色の光が天高くどこまでも伸びていく。戦闘開始の合図だ。ポジションについたみんなが雄叫びを上げながら古城目指して駆け出した。「僕はどうすればいいんだろう」「カナタはここで待機」側にはアカリと姉さん、そして護衛であるリヴァルさんがいる。僕が前に出ても大して役に立たないのは理解しているが、ずっと後方で守られているのはどうにももどかしくなる。クロウリーさんから教えてもらった邪法は寿命と引き換えに莫大な力を得られる。だからあまり多用はできないが、少しくらいなら使っても大丈夫だ。ちょっとだけでもみんなの力になりたいんだけど、僕が一歩前に進むとアカリが服の裾を掴んで引っ張る。無言の圧で僕はまた元いた場所に戻る。それを数回繰り返していると、いよいよ戦闘が激化し始めた。遥か前方では魔法が飛び交っているのか火柱があがったり、氷の壁が出現したりと派手な様子だった。「ほう……なかなか粘るものだな」不意にリヴァルさんが口を開く。「子爵位の魔族相手に善戦している冒険者もいる」「それって凄いことなんですか?」「爵位を持つ時点で魔力量は有象無象の魔族を上回っている。そもそも魔族と人間では魔力量に差があるが、あそこまで対等に戦えるのは技術あってのものだろう」リヴァルさんは感心しているようで、食い入るように前方での戦いを見ていた。分析までしているし、余裕がある。「ねぇリヴァル。リヴァルならあの討伐隊の人とも対等に戦えるの?」「数人を除いて俺が負けることはあり得ん。それだけ伯爵位の魔族と人間では隔絶した力の差がある」数人、というのは恐らくアレンさん達の事だろう。リヴァルさんのような伯爵位魔族にも怖れられるアレンさん達がおかしいのであって、普通は高位魔族と戦っても勝てるはずがないのだ。「あ、凄い魔法……」唐突に空が光ったと思うと無数の稲妻が落ちてくる
「ゾラ、やつらは動き始めたか?」「はい。数はおよそ三百人、中にはあの殲滅王や剣聖もいるようです」「ふん……かなり待たせてくれたものだ。来るならすぐにこれば良いものを」魔神ヴァリオクルス・リンドールは苛立たった様子で部下の一人ゾラ・マグダインから報告を受けた。その内容に顔を顰める。殲滅王と剣聖は魔神にとっても無視できない相手であり、他の人間と一緒だといえる強さではないと理解していた。「もう一つ報告がございますリンドール様」ゾラと同じく傅いたもう一人の四天王であるロック・ノックが口を開く。魔神が顎で合図をするとロックは続きを話し始めた。「討伐隊の中にはあの魔導王の姿も見受けられました。ここは是非とも吾輩にお任せください」「魔導王……クロウリーだったか。あの死に損ないめ、まだ生きていたのか」魔導王の名は魔族国の中でも有名であった。人間の身で魔族に匹敵するどころか優に超える魔力量で、魔法への深い知識。気にならないはずがない。今までにも何度か魔導王とやらを確認すべく魔族がクロウリーの元へと向かったが、誰一人として生きて帰ってくることはなかった。それも一人や二人ではない。何十何百という魔族が全て亡き者にされている。魔神にとっては殲滅王と同じく警戒せざるを得ない相手であった。「あれらが相手ではお前達では勝てん」「大変申し訳ありません。我々にもう少し力があれば……」四天王は既に二人もいなくなっている。彼らとて弱いわけではない。人間の強者があまりに強すぎたのだ。「それともう一つ……報告し