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忍び寄る悪意⑦

last update Last Updated: 2025-01-30 18:00:35

「すごい!!ここまでの練度で魔法行使ができるなんて、これは教えがいがあるぞー」

攻撃を受けたにも関わらずとても嬉しそうな表情を浮かべるアレンさん。

僕にも変化はあった。

それは疲労感。

全力疾走した後に起こる脱力感と足に力が入らない疲労感が一気に襲いかかってくる。

「おっとっと」

まっすぐ立つことも容易ではないほどに疲れた……これはなんなんだろうか。

「それは、魔力枯渇だね。慣れない魔法を一気に使ったもんだから体内の魔力が無くなっただけさ」

少し休めば治るらしいが、これは結構しんどいぞ。

魔法を使うときは考えて使わないといけないな。

「安心していいよ、魔法を使えば使うほど魔力は増えるから訓練すればその疲労感もなくなってくるからね」

そんなアレンさんの助言も途中から耳に入らなくなっていき、次第に目の前が真っ暗になるようにして、僕は意識を手放した。

意識がなくなる直前にアレンさんの独り言が聞こえてくる。

「これは、レイに怒られるかもしれないなぁ……」

――――――

目を覚ますと、見慣れない天井。

ベットに寝かされているようだが、ここは拠点内の部屋なのだろうか。

多分アレンさんが運んでくれたのだろう。

身体を起こしリビングへと足を向けるが、何やら話し声が聞こえてきた。

「何を考えているんですか!団長!カナタくんにもしもの事があったら私達は一生帰ることができないんですよ!」

「ご、ごめん……思った以上に飲み込みが早いから中級魔法まで教えちゃったら出来ちゃったんだよ」

「たった1日で中級魔法まで覚えるなんてカナタすげぇじゃねぇか。これは負けてられねぇな!」

誰が何を話しているか口調で分かるな。

レイさんに怒られるアレンさんと、意味の分からない勝ち負けにこだわるゼンってところか。

リビングの扉を開けると室内にいた全員が一斉に僕に目線を向ける。

「すみません、倒れてしまったようで……
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    僕を含めた四人で次に向かったのは第二使徒トマスと呼ばれる人の所だ。使徒は全部で十二人。今の所許可をもらえたのは第三使徒ペトロさん、第五使徒アンデレさん、第七使徒ヤコブさんだけだ。後三人もの使徒に許可をもらわなければならないのはなかなか骨が折れる。それに次に会うトマスという方はそれほど懇意にしている使徒ではないらしく、扉でひとっ飛びという訳にもいかないらしい。その為街に繰り出し塔へと向かう転移門へと足を運んだのだが、なかなか辛かった。使徒は他の神族にとって敬うべき存在。つまり、街を歩けば目につく神族がみな膝を突いて頭を垂れるのだ。なかなか経験できない光景だった。それに使徒が三人も一緒にいればあの人間は何者なんだと、声には出してなかったが神族達の表情が物語っていた。「ここだよここ」ペトロさんの案内されたのは転移門と言わんばかりの巨大な門だった。想像していたのは魔法陣の上に立って転移する的なものだったのだが、まさしく門であった。「これが転移門ですか」「そう、ここをくぐる前に行先だけ登録するんだよ。少し待っててくれるかな」そう言ってペトロさんは門のすぐそばまで行き水晶玉みたいな物に手を翳す。「よし、これで大丈夫だ。さあ行こうか」僕は恐る恐る門をくぐる。当然くぐる瞬間は目を瞑ってしまった。目を開けるとこれまた雰囲気がガラッと変わって白を基調としながらも三階建て以上の建物ばかりが目立つ。治めてる使徒ごとに街の雰囲気は変わるようだ。「あの塔に彼はいるよ」ペトロさんが指差す方向には代わり映えのしない巨塔があった。雰囲気が変わるのは街だけで塔の外観は全て同じ造りになっているようだった。「簡単に許可をもらえますかね?」「うーんどうだろうね。トマスは良くも悪くも真面目だから」真面目な使徒なのか。それなら僕と相性はいいかもしれない。一応こう見えて僕は研究者タイプなんだ。真面目

  • もしもあの日に戻れたのなら   神域へ⑧

    部屋全体がとても暑く、何もしていないのに服には汗が滲んでくるほどだった。ペトロさんとアンデレさんを見ればとても涼しい顔をしており、二人は暑さが平気のようだった。数歩進むと更に熱気は凄く、僕の額には大粒の汗が浮かぶ。使徒の特殊な力か知らないが僕だってペトロさん達みたいに涼しい顔でいたいものだが、あまりの暑さにそうは言ってられない。「ん?あ、もしかしてこの部屋暑いかい?」ペトロさんが僕の様子に気づいてくれたようで声を掛けてくれた。それに僕は頷き返すと、ペトロさんはおもむろに指を弾いた。その瞬間、暑く感じていたはずなのに一気に涼しくなった。何か結界のようなものを張ってくれたのだろうか。「悪いね。人間はこの暑さだと辛いというのを忘れていたよ」「結界ですか?」「そう。私達は呼吸をするかのように身体を覆っているけど君達人間はわざわざ発動手順を踏まなければならないのを忘れていたよ。それに君は魔法があまり得意ではないだろう?」その通りだ。得意か否かではなく赤眼のせいであまり魔法が扱えない。ペトロさんはこの短い時間でその事にも気づいていたらしい。「それにしても趣味悪いよね~ヤコブの部屋って」アンデレさんは首を横に振り嫌そうな顔をする。まあ僕も趣味がいいかと問われれば首を振らざるを得ないしな。「あ、来たみたいだよ」ペトロさんが指差す方向を見ると溶岩が盛り上がりその中から白い服を着た男が出てきた。髪は短髪で赤く目も吊り上がっていて不良みたいな見た目だ。少なくとも僕がプライベートだったら話し掛けはしないタイプの見た目だった。「おいおいおい!なんだって二人が俺の所にきたんだ?それにそこの人間はなんだ?」「まあいいじゃん。とりあえずさ、この子が世界樹に行きたいらしいから許可ちょーだい」何の説明もしてないけどいいのだろうか?アンデレさんの問いかけにヤコブさんは数秒無言になると頷いた。「お?まあいいけどよ。って説明の一

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