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神域へ⑩

last update Last Updated: 2025-04-30 18:00:12

トマスさんの巨塔に入ると内装はこれまでと少し変わり、至る所に本棚が置かれてあった。

真面目だと聞いてはいるがやはり勤勉タイプのようだ。

上階に来ると、いよいよトマスさんの部屋だ。

僕は緊張しながら扉の前に立った。

「入るよトマス」

ペトロさんが両手で扉を開くと、そこは図書館だった。

いや、正確には図書館に来たかと錯覚するほどに本棚で囲まれた部屋だ。

「うえぇ、いつ来ても相変わらずの本の数だな」

「ほんと、これだけの本をよく集めたものよね~」

アンデレさんもヤコブさんも大量の本を見て嫌そうに顔を背ける。

まあこの二人は本とは無縁そうな雰囲気があるし、当然の反応か。

僕としてはどんな本があるのか興味が尽きない。

洋風の図書館というのか螺旋階段まであって上階にも本棚が所狭しと並べられていた。

しばらく本棚を眺めていると、眼鏡をかけた白い服の男性が螺旋階段から降りてきた。

「騒がしいと思ったら……貴方達でしたか」

とても理知的な見た目をしているトマスさんは僕らを一瞥しフンと鼻で笑った。

それが癇に障ったのかヤコブさんが一歩前に出た。

「ああ?来てやったのになんだぁその態度は!」

来てやったという表現はちょっとおかしくないかな?

どちらかといえば僕らが頼みに来たって感じなんだけど。

「来てやった?私は貴方達を呼んだ覚えはありませんがね」

まあそうだろうね。

だって勝手に来たんだから。

しかもアポなんて取ってないし。

「まあまあヤコブ、落ち着きたまえよ。トマス、君に用事があってね」

「ペトロさん、貴方が用事というとあまりいい思い出がないのですが」

過去に何があったんだろう。

トマスさんの表情が本当に嫌そうな顔になっているし、凄く気になってきた。

「まあまあまあ、それは置いといて。トマス、別世界の人間に興味はないかい?」

「置いておくというそのセリフは私の方です。&helli
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    Last Updated : 2025-04-30
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