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使徒と世界樹①

last update Last Updated: 2025-04-30 18:30:56

トマスさんの出した条件は案外緩く僕は快諾した。

話すだけだなんてそんな緩い条件を出してくるとは思わなかったのか、ペトロさんも苦笑いしていた。

「話をするだけで許可をくれるというのかい?」

「それはそうでしょう。別世界の話など望んでも聞けるものではないですから」

想像していたより別世界の情報は価値が高いようだ。

これなら案外他の使徒の許可を貰うのも楽かもしれないな。

ペトロさん達はまた明日迎えに来ると言い残し塔から出て行った。

僕はというとトマスさんの部屋で椅子に腰かけ話をすることに。

「ふむ、なかなか興味深いものです。動く鉄の馬車に空飛ぶ乗り物ですか。確かにこちらの世界にはない技術です」

トマスさんが特に興味を持ったのは自動車や飛行機といった科学の分野だった。

こっちの世界は魔法という概念が存在している為科学というものは発展していない。

恐らくこっちの世界で飛行機を作ろうと思うと膨大な時間が必要になるだろう。

「それに魔法というものが存在しない世界ですか……不便で仕方ないでしょう」

「いえ、それが意外とそうでもないんです。さっきも言った通り科学があるので遠く離れた人と顔を見て話す事ができたり新幹線っていう凄く速い地上の乗り物もあるので」

「それは是非とも見てみたいものです。カナタと言いましたね、君がこの世界でそれを再現する事はできますか?」

原理は理解しているが再現するにはまず部品を作るところから始めなければならない。

当然そうなれば精錬技術も遥かに高度な技術が必要となり、まずはそこから始めるとなれば膨大な時間がかかってしまう。

やはり知識だけあっても実現には程遠い。

「すみません、僕も作り方とか原理は分かるのですがそもそもの前提知識や技

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    Last Updated : 2025-04-30
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    僕を含めた四人で次に向かったのは第二使徒トマスと呼ばれる人の所だ。使徒は全部で十二人。今の所許可をもらえたのは第三使徒ペトロさん、第五使徒アンデレさん、第七使徒ヤコブさんだけだ。後三人もの使徒に許可をもらわなければならないのはなかなか骨が折れる。それに次に会うトマスという方はそれほど懇意にしている使徒ではないらしく、扉でひとっ飛びという訳にもいかないらしい。その為街に繰り出し塔へと向かう転移門へと足を運んだのだが、なかなか辛かった。使徒は他の神族にとって敬うべき存在。つまり、街を歩けば目につく神族がみな膝を突いて頭を垂れるのだ。なかなか経験できない光景だった。それに使徒が三人も一緒にいればあの人間は何者なんだと、声には出してなかったが神族達の表情が物語っていた。「ここだよここ」ペトロさんの案内されたのは転移門と言わんばかりの巨大な門だった。想像していたのは魔法陣の上に立って転移する的なものだったのだが、まさしく門であった。「これが転移門ですか」「そう、ここをくぐる前に行先だけ登録するんだよ。少し待っててくれるかな」そう言ってペトロさんは門のすぐそばまで行き水晶玉みたいな物に手を翳す。「よし、これで大丈夫だ。さあ行こうか」僕は恐る恐る門をくぐる。当然くぐる瞬間は目を瞑ってしまった。目を開けるとこれまた雰囲気がガラッと変わって白を基調としながらも三階建て以上の建物ばかりが目立つ。治めてる使徒ごとに街の雰囲気は変わるようだ。「あの塔に彼はいるよ」ペトロさんが指差す方向には代わり映えのしない巨塔があった。雰囲気が変わるのは街だけで塔の外観は全て同じ造りになっているようだった。「簡単に許可をもらえますかね?」「うーんどうだろうね。トマスは良くも悪くも真面目だから」真面目な使徒なのか。それなら僕と相性はいいかもしれない。一応こう見えて僕は研究者タイプなんだ。真面目

  • もしもあの日に戻れたのなら   神域へ⑧

    部屋全体がとても暑く、何もしていないのに服には汗が滲んでくるほどだった。ペトロさんとアンデレさんを見ればとても涼しい顔をしており、二人は暑さが平気のようだった。数歩進むと更に熱気は凄く、僕の額には大粒の汗が浮かぶ。使徒の特殊な力か知らないが僕だってペトロさん達みたいに涼しい顔でいたいものだが、あまりの暑さにそうは言ってられない。「ん?あ、もしかしてこの部屋暑いかい?」ペトロさんが僕の様子に気づいてくれたようで声を掛けてくれた。それに僕は頷き返すと、ペトロさんはおもむろに指を弾いた。その瞬間、暑く感じていたはずなのに一気に涼しくなった。何か結界のようなものを張ってくれたのだろうか。「悪いね。人間はこの暑さだと辛いというのを忘れていたよ」「結界ですか?」「そう。私達は呼吸をするかのように身体を覆っているけど君達人間はわざわざ発動手順を踏まなければならないのを忘れていたよ。それに君は魔法があまり得意ではないだろう?」その通りだ。得意か否かではなく赤眼のせいであまり魔法が扱えない。ペトロさんはこの短い時間でその事にも気づいていたらしい。「それにしても趣味悪いよね~ヤコブの部屋って」アンデレさんは首を横に振り嫌そうな顔をする。まあ僕も趣味がいいかと問われれば首を振らざるを得ないしな。「あ、来たみたいだよ」ペトロさんが指差す方向を見ると溶岩が盛り上がりその中から白い服を着た男が出てきた。髪は短髪で赤く目も吊り上がっていて不良みたいな見た目だ。少なくとも僕がプライベートだったら話し掛けはしないタイプの見た目だった。「おいおいおい!なんだって二人が俺の所にきたんだ?それにそこの人間はなんだ?」「まあいいじゃん。とりあえずさ、この子が世界樹に行きたいらしいから許可ちょーだい」何の説明もしてないけどいいのだろうか?アンデレさんの問いかけにヤコブさんは数秒無言になると頷いた。「お?まあいいけどよ。って説明の一

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