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紫音の冒険⑨

last update Last Updated: 2025-06-03 17:00:40

それは突然だった。

いつものように紫音が町をぶらついていると、一人の魔族が紫音の目の前へと降り立った。

「貴様、人間か?」

「えっ……ち、違います」

咄嗟に紫音は首を振ったが、目の前の魔族は紫音を睨む。

そう、これが本来人間を見つけた時の魔族の反応なのだ。

魔族はジッと紫音を見つめると掌を彼女へと向けた。

「な、なに?」

「人間だな。なぜこんな所に人間が……まさか貴様討伐隊の人間か!」

討伐隊という言葉はリヴァルから聞いていた紫音はほんの少しだけ狼狽えてしまった。

討伐隊という言葉に反応してしまったのだ。

「ッ!やはり……貴様はここで殺す」

「や、やめて!」

紫音が両腕で顔を覆うと、その声を聞きつけた住民が数人家から出てきた。

「おい!何してる!」

「その子はリヴァル様のお気に入りよ!」

「お前町の外から来たやつだな!?」

みな口々に魔族へと啖呵を切りながら、紫音を守るように並んで壁を作った。

「何をやっている……お前達、そいつが何者か理解しているのか?」

「分かっている!この子は討伐隊の人間ではない!」

「討伐隊の人間でなくても、人間であることには変わりない。違うか?」

「人間の中にもいい子はいるんだ!」

魔族は溜息をつくと、啖呵を切った一番若い魔族に掌を向けた。

「デビルレーザー」

紫色の光線が目にも留まらぬ速さで若い魔族の心臓を貫いた。

「ゴフッ――」

若い魔族は口から血を吐きその場に倒れ込んだ。

「お前ッ!おい、やるぞみんな

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