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21食目・転生者、服を買わされる。

Author: 柊雪鐘
last update Last Updated: 2025-12-08 08:00:00

『ねえねえ、これはいくら?』『銅貨50枚だよ』

『この服の素材は何を使ってるんだ?』『これはドゥルマの魔毛を使ってますよ』

『この服素敵!試着してもいい?』『羽織る程度ならいいわよ』

 出店を一軒通るたびに店員と客の会話が聞こえる。

 馴染みのある会話もあれば馴染みのない会話もあって、なんだか不思議な気分。

 お店に並んだもの、お客さんが手に持ってる物を見ても知ってるものや知らないもの、様々だ。

 さっきの『ドゥルマ』ってなんだろう。これは絶対この世界特有のものだと思う。

「ねえエリザさん、今のお店から聞こえたんだけど、『ドゥルマ』ってなんですか?」

「ん?悪魔羊ドゥルマはね、出会った相手を眠らせてしまう羊型の魔物の事よ。形はまんまるで、角もぐるぐると巻いていて、とても可愛いの」

「まんまるで、角もぐるぐる……」

「毛もモコモコで厚みがあるから荷物の緩衝材に使われたりもするけど、とても温かいの。だからお洋服の防寒着によく使われているのよ」

「なるほど、それで……」

 どうやら毛糸の原料に魔物が使われているようだ。

 前の世界では動物だけど、こっちはモンスターが活躍してるみたい。

「こんにちは!お嬢さん見ない格好ね。もしかして転生者?」

「え?あ、はい……!」

 再び商店街を見回していると、声をかけられた。

 振り向いて条件反射に返事をすれば、先程ドゥルマと答えた店員さんだった。

「すごく可愛い!ねえねえ、いいお洋服があるんだけど、見てみない?」

「えっ、え??」

 どうやらお姉さんに捕まってしまったようだ。

 でもエリザさんがいるし、と困っていると、私に気付いたエリザさんがこちらに来てくれた。

「ルシーちゃんどうしたの?」

「あ、もしかしてお母さんですか?娘さん可愛らしいですね!もしお洋服をお探しならいいものがありますよ!」

「あら本当?見せてもらえるかしら」

「こちらなんですけど――」

 お姉さんはにこりと微笑むと屋台の裏側から一着のワンピースを取り出して広げた。

 大きな襟にパフスリーブの袖口、胸から膝丈まで一枚で作られたAラインワンピースだ。

 胸元で切り返しが入って、黒いデコルテや袖口、襟やワンピース部の深緑のコントラストがとても綺麗。

「――あら、とても良いじゃない!こちらの素材は?」

「襟とワンピース部は綿蚕の糸、袖側の方はワタリグモの糸を使用しており伸縮性がいいですよ」

「結構いい素材を使ってるのね……それだとちょっと値が張るんじゃない?」

 私には分からないけど、エリザさんは素材を聞いて表情を曇らせる。

 どうやらかなりいい素材を使ってるみたい。

 すると店員さんも表情を曇らせて、エリザさんの耳元で囁く。

「それが、これ……――」

「――えっ、そうなの?そんなものを貰って良いのかしら?」

「寧ろこちらからお願いしたいんです。どうせなら可愛くて、これから人生を楽しむようなキラキラした子に着せたくないですか?」

「それは同意するわね。……で。お値段はどうなのかしら?」

「本来金1枚でお願いするんですけど、先程の事情も含めまして、銀2枚でいかがでしょう?」

「待って、それは流石に安すぎません!?」

 心配そうな表情をするエリザさんに、あまりにも店員さんがキリっと答えるものだからついツッコミが口から出てしまった。

「さっきの事情を考えると乗らざるを得ないわね。買うわ」

「ええっ!?」

 エリザさんはまさかの即決。

 デザインは確かに可愛いのだけど、どんな事情があっても1/5の値段で売るのはおかしいだろう。

 しかし私の意見などないように、「ルシーちゃん、早速着替えてきて!」とエリザさんに背中を押されてしまった。

 「こちらですよ」とお姉さんに案内されたのは屋台に隠れていた背後の建物、ガラスで内装も見える立派な扉を開けた先だ。

「こちらの試着室を使って下さいね。終わりましたらそのまま出てきてくださいねー」

 屋台は元々このお店のものみたいで、表に並んでいた服と似たような服が店内で並べられていた。

 店員さんに試着室に案内されて、購入する服を早速着ることになってしまった……。

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  • ようこそ万来堂へ!〜先輩から教わった接客技術で看板娘、がんばります!〜   27食目・それはきっと切なる願い

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