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夜を駆ける愛の使者

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-16 15:18:21
修道院を出てから三時間ほど歩いただろうか。

私とソフィアは、月明かりだけを頼りに山道を進んでいた。

「大丈夫ですか?」

ソフィアが心配そうに声をかけてくれる。

「大丈夫」

でも、実際は足が痛くて仕方がなかった。

修道院での生活に慣れて、長距離を歩くことに慣れていない。

でも、カイルのことを思えば、この程度の痛みなんて。

「少し休みませんか?」

ソフィアが提案してくれた。

「あそこに、大きな岩があります」

確かに、道端に腰を下ろせそうな岩があった。

「そうですね」

私たちは岩に座って、持参した水を飲んだ。

夜風が冷たくて、身体を震わせる。

「寒いですね」

「ええ」

でも、心は熱かった。

カイルを救いたい気持ちで燃えている。

「リア様」

ソフィアが私を見つめた。

「本当に、魔法が使えるのですね」

「まだ完全ではありませんが」

私は指輪を見つめた。

「母が教えてくれました」

「お母様が……」

ソフィアが感慨深そうに言った。

「きっと、あなたを守ろうとしてくださっているのですね」

「そうだと思います」

私も同じように感じていた。

母の愛が、この指輪を通して私を支えてくれている。

「私も、母を見習わなければ」

「母を?」

「はい」

ソフィアが微笑んだ。

「私の母も、愛のために戦った人でした」

「どのような?」

「貧しい家の生まれでしたが、貴族の男性と恋に落ちました」

ソフィアの過去話。初めて聞く。

「でも、身分の違いで反対されて……」

「それで?」

「母は諦めませんでした」

ソフィアの瞳が、決意に満ちている。

「駆け落ちしたのです」

「駆け落ち……」

「はい。そして、私が生まれました」

ソフィアの出生の秘密。

「でも、幸せは長く続きませんでした」

「何があったのですか?」

「父が病気で亡くなったのです」

ソフィアの声が悲しみに染まった。

「それからは、母と二人で苦労の連続でした」

「大変でしたね」

「でも、母は後悔していませんでした」

ソフィアが強く言った。

「愛のために戦ったことを、誇りに思っていました」

愛のために戦う……そうね、私たちも同じ。

「だから、私もあなたのお手伝いがしたいのです」

「ありがとう」

私は心から感謝した。

「あなたがいてくれて、本
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