Accueil / ファンタジー / アスイェ•Asyeh / 第三十六話:少女と炎

Partager

第三十六話:少女と炎

Auteur: 新城凪
last update Date de publication: 2026-07-03 12:00:00

朝の庭は静かで、平和だった。

露《つゆ》はまた花びらの上に残っていた。日の光はまたやさしく、芝生《しばふ》を照らしていた。

いつもなら、セラフィナは芝生の上に寝転んでいるのだが、

まるで何かの儀式の前の準備のようだった。

アスイェは手に本を持っていた。

「準備はいいか?目標は一直線だ」

「でも、ここはアスイェの庭でしょう?」

「お前の庭でもある」

「燃やしちゃだめだよ!」

「昨日の夜、一度燃えただろう。気にしていない」

「あ、あれは!」

「燃やしたくないなら、石だけに火をつければいい」

アスイェは石を一直線に並べていて、それが今回のセラフィナの目標だった。

セラフィナは手を挙げて、しばらくそのままだった。

「……今回こそ一直線に燃やしてみせる」

そう言って、彼女の指先から小さな炎が灯った。

「できた!」

興奮した瞬間、その炎はセラフィナの指先から逃げ出すように広がり、芝生の上に焼け跡の線を残した。

それは「直線」と言いがたいものだった。<
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • アスイェ•Asyeh   第四十二話:神様の愛は不滅なもの

    光は白い神殿の床に広がり、毎日変わらなかった。彼女の仕事は毎日神様の側に立つことだった。神の手は暖かく、マントも大きく、毎日神様の隣にいるだけで、幸せだった。セラフィナは幼く、神の責任や信者たちの願いは、彼女にとって遠いものだった。セラフィナはずっと、幼いのままだった。時間はセラフィナの前では止まったように、彼女はまるで神の庭から、外の世界を眺めていたようだった。自分は神の庭から一歩も出なかった。セラフィナは離れようと、一度も思わなかった。神の庭にいれば幸せで、神様のそばで、いろんなものを見てきた。彼女は、新しい名前が生まれる瞬間も、古い名前が消えていくところも見届けていた。他の神々にも会える機会があった。セラフィナはずっと、幼いのままだった。髪すらあんまり伸びてなかった。彼女は神のそばで、静かで、大人しく、愛らしいお人形さんになっていた。セラフィナにとってこれは決して悪くなかった。神様が彼女に大きくなってほしくなかったから、時の流れがひどく遅かったのだ。「神様の愛は不滅なものだ」と信者が言った。セラフィナは信じていた。しかし、やがて異変は訪れた。まるで蝋燭の火が消える前の揺らぎのようだった。今でも彼女は覚えている。その日、神様が階段の上に立ち、身をかがめ、セラフィナの服についた埃を払っていた。神様の服は相変わらず白く美しい。汚れた場所から戻ったことを、その時のセラフィナは知らなかった。神様は神様のままだった。異変はそのすぐあとだった。セラフィナには聞こえた。遠くから届いてくる雷雲の音が、だが、ここに雨はないはずだった。見えない雷雲が、神様の背後まで追いついていた。空は微かに割れて、金色の光が神様の背後から差し込んだ。その光は眩しすぎて、神様は闇の中に閉じ込められたと見えた。セラフィナは聞きたかったが、神様はもう立ち上がっていた。「部屋で待っていて」神様は帰る約束をしなかった。ただ、彼女の髪を撫でただけだった。セラフィナは何かを感じたが、やがて何

  • アスイェ•Asyeh   第四十一話:名を授かった者

    いつもと同じ夜。アスイェはいつものように本を手にして窓辺に座っていた。いつもならセラフィナは彼と一緒に座っていたが、今夜は床に座ると少女が言い出した。そしてアスイェは問うた。「自分の名前の意味は知っているか?」部屋の中の灯りは薄く、アスイェの影はそのまま少女を覆った。少女は彼の影の中に座り、小さな声で答えた。「知らない」と。アスイェは笑った。その笑みには、いつもの気だるさも、からかうような気配もなかった。あるのは優しさだけだった。しばらく言葉を続けなかった彼は、優しい眼差しはセラフィナを通り越し、その先の過去を見つめていた。再び語り始めた彼の声は、あまりにも優しくて、まるで一雫の水が枯れた湖に落ちたようだった。***アスイェは神だった。セラフィナがよく知っている黒いマントを羽織り、、夜の中に歩き続けたアスイェではなかった。その時、彼は白い衣をまとい、その姿は太陽のように金色だった。その目は晴れた空のように青く、翼は雲のように白かった。彼は名を授ける者《もの》だ。彼の使命は戦うことでもなく、裁くことでもない。 ただ、まだ名を持たぬものに名を授けることだった。 風を「風《かぜ》」とし、光を「光《ひかり》」と呼ばせるために。その日、彼は白い神殿で彼女を見つけた。幼子はまだ天真爛漫で、小さな翼と白い身体が神殿の色に溶け込み、彼女の姿はまるで雪のようだった。幼子――小さな天使を導くのは、彼の仕事だった。その澄んだ目を見つめて問いかけた。「名前、あげようか?」小さな天使は答えず、彼を見つめた。「あなたの名前はセラフィナだ」***「セラフィナ」――六翼天使に連なる名だ。神座の第一層を守る、炎と純潔の化身。光の侍者であり、神の

  • アスイェ•Asyeh   第四十話:目に映した影

    セラフィナはまた、アスイェの状態を無意識に感じ取った。アスイェの体調が優れないと、セラフィナも気分が悪くなる。その糸は深く体の中に埋まっていた。痛みは感じないが、体がその糸に引っぱられているような感覚に、セラフィナは思わず息を殺した。アスイェのそばにいると安心する、その感覚に駆られて、またアスイェを探しに行った。セラフィナは本当は文句を言いたかったが、毎回アスイェを見るたび、やめてしまった。彼を探すのは簡単なことだ。セラフィナには今、アスイェのことがしっかり「見えていた」。アスイェは体を椅子に預け、黒髪が視線を遮り、アスイェは疲れ果てたようだ。彼の呼吸、仕草、眠りに落ちた気配。そして、もっと深い吸血鬼の鼓動……「おやすみしてるの?」彼女は寝ていたアスイェに近づき、名前を呼んだ。「アスイェ?」アスイェは動かなかったが、影は先に動いた。吸血鬼に影はない。それは影のようなものだった。静かに動いて、人が気づく前に呑み込む。ただ、その影はそのまま消えてしまった。まるで日の光に焼かれたもののように。アスイェが目を開けたのはその時だった。「……怖いのか?」「影はアスイェの能力なの?」「そうだ。言ってなかったか?」「初めて知った……」「……言い忘れた」セラフィナが彼に近づくと、何か別のものが、水のように頭の中へ流れ込んだ。最初は一雫だった。その雫は、まるで鏡のように何かを映し出した。夜行、殺戮、炎、風。その黒い影はいつもそこにいたが、楽しんだことはなく、ただ仕事をこなすだけだった。これはアスイェの記憶だった。しかし、セラフィナは自分の姿も目にした。ただ彼の後ろについて歩き、親しみを込めた眼差しでアスイェを見つめていた。静かで、若く、白かった。「それ。セラなの?」いつの間にかアスイェはもう立ち上がっていて、少女に聞いた。「また、目眩がするのか?」その答えを待たず、彼の手はセラフィナの目を覆っていた。初めて、セラフィナは彼を避けた。

  • アスイェ•Asyeh   第三十九話:共感

    セラフィナは、自分はもう成長したのだと思っていた。そのせいか、以前ほどアスイェの部屋を訪れなくなっていた。夜,彼と一緒に散歩に行くことがあっても、奇妙なことが起きた時や、血が騒いで助けを求める時でさえ、セラフィナはアスイェと距離を取った。セラフィナは他の吸血鬼と会ったことがないし、アスイェの居場所を奪うつもりもなかった。だが、なんとなくわかる。アスイェが自分をこの屋敷に置いていること自体、普通ならありえない。吸血鬼はなんとなくわかることが多い。例えば今日、一度もアスイェに会っていないことに違和感を覚えた。そして、少女の調子もよくなかった。最初はただの立ちくらみだと思った。はっきりと感じたのはそのすぐあとだった。少女は歩くことすら難しい状態に陥った。壁に手をつき、せめてこの状況をアスイェに伝えようと思い、重い足を引きずるように進んだ。屋敷の中に、一つだけ鍵がかかっていない部屋があった。アスイェが彼女を一人にする時のために用意した部屋で、普段なら、セラフィナが立ち寄るべきではない場所だったが、今日、セラフィナは初めてそこを訪れた。彼女はノックせず、少しだけ部屋の扉を開けた。カーテンは閉めきられておらず、部屋の中にはワインの香りが漂っていた。この時だった。この目眩も疲れも自分のものではなく、アスイェのものだと、ふと気づいた。アスイェは疲れて、髪が頬ににかかり、その顔は普段よりも白く見えた。アスイェがこんなにも静かな姿を見せたことは、セラフィナは扉の外に立ち止まり、入っていいかと躊躇っていた。セラフィナは近づくたび、確信したことがあった。これは、逆らえない血の繋がりだった。別に血の繋がりに逆らうつもりはないが、アスイェが寝込んだ姿を見ると、どこか痛々しく感じた。その時だった。椅子の上に横になっていたアスイェは目を開け、躊躇している少女を見つめた。「……来たか……どうした?」「ごめんなさい……アスイェが疲れているって感じたから……」「感じた……共感したのか?」「「そうだと思う。さっきセラ、目眩したから……

  • アスイェ•Asyeh   第三十八話:少女への料理

    料理をするのはアスイェの数少ない趣味の一つだった。セラフィナは今、アスイェが料理する姿を見ていた。キッチンは灯りをつけていない。あるのは、暖炉のまだ消えていない火の光だけだった。吸血鬼は寒さを恐れない。セラフィナはまだ成長中だが、人類と比べて寒さを耐えられるほうだった。セラフィナは以前、なぜ暖炉の火がずっと消えないのかと聞いたことがあった。「そのうち消える」とアスイェは言った。暖炉の前でアスイェと並んで立ったことを覚えていた。時々アスイェに抱き上げられたこともあった。その頃から、暖炉の火はいつも燃えていた。アスイェはマントを脱ぎ、袖をまくり上げ、すでに起こされていた火の前に立った。狩りはもう終わって落ち着いた少女は、目を輝かせながら蒼い炎を見つめた。「……ちゃんと座ってろ。お前は食べ物を待っているんだ。狩りに出るわけじゃない。」「だって、蒼い炎が綺麗だもん!」少女は少し身を乗り出し、両手で椅子の端をぎゅっと掴んでいた。楽しそうに見た。アスイェの包丁捌きはきれいで無駄がなかった。肉をきれいに切り、鍋に入れて、音と共に肉の香りが鼻をくすぐる。その香りは吸血鬼の本能を煽られるものではなかったが、セラフィナは確かに空腹の感覚の感覚を覚えた。「……何を焼いてるの?」「セラが好きな肉だ。ちゃんと座ってないと野菜しかあげない」セラフィナは唇を一回舐めて、やっとしっかりと座った。「……わかった。待ってる」それからしばらく、焼ける肉の香りと火の音だけが響いていた。時々、油が弾けて火が大きくなるたびに、セラフィナは頑張って本能を抑えていた。アスイェは背をセラフィナに向けたまま、セラフィナが我慢しているのを知っているかのように言った。「足りなければ、後で血もあげる」「ううん、大丈夫」「そうか」彼女はそのまま座っていて、ただでさえ機嫌のいい少女は、肉の焼ける音を聞きながらずっとにやけていた。「アスイェ、真剣に肉を焼いているね」「うん。毎回ではない」「セラのため、、でしょう?」「…

  • アスイェ•Asyeh   第三十七話:少女の狩り

    森の風は止まらなかった。彼は静かに森の端に立っていた。手は腰につけていた剣に添えられていたが、その剣は鞘に収まっていたままいた。一瞬で、セラフィナの気配は消えた。森は眠りについたように静かだった。彼はセラフィナを追っていない。しばらくして、森はざわついた。そのざわつきは蟲のせいではなく、少女の狩りが始まったからだ。アスイェは高いところを見ていた。セラフィナは足音を殺していないから、アスイェはすぐに少女を見つけた。少女はまっすぐ蟲の群れの中へ突っ込んだ。短剣を鞘から抜き、一瞬で蟲の群れに道を切り裂いた。アスイェはたくさんの吸血鬼の狩り姿を見た。狂った野獣のように狩を楽しんでいた者があれば、優雅に殺していた者もいた。彼はセラフィナに剣の使い方と狩りの仕方を教えていたが、だが、「正しいやり方」が何かまでは、あえて教えていなかった。それでも、少女の狩り姿は自分によく似ていると、アスイェは思った。――静かで、余計な音を立てない。速く、殺意をしっかり隠し、蟲が鳴く前に声を失わせていた。しばらくして、焼けた後の匂いがした。アスイェは微かに笑った。「覚えるのが早いな」吸血鬼はだいたい炎を恐れ嫌っているが、アスイェは好きだった。夜の中に咲いた炎の花は蟲を殻ごと焼き尽くし、その炎は、彼が教えた通りに獲物を狩っていた。アスイェは目を離さなかった。その止まることを知らない炎は、微かな薔薇の香りを纏っていた。上から見ていたアスイェにとって、それは絶景だった。まだ制御できていない力の美しさを、アスイェはしばらく見ていなかった。セラフィナは自分の炎にむせて、咳が止まらなくなっていた。それはあまり良くないものだが、叱るべきではない。アスイェは少女の炎の扱い方を気に入っていたが、正しく導かなければ、あとで苦しむのはセラフィナだろう。それでも、今言うべきことではない。セラフィナは自分で気付き、自分でコントロールできるようになるしかない。彼は狩りを教えた時のように導くこともできるが、彼は待つことを選んだ。

  • アスイェ•Asyeh   第二十三話:彼女はルビーを見えた

    セラフィナが自ら言い出した。――その特別な夜に現れる、血のように赤い、吸血鬼の目のような月を「見たい」と。「『ダメ』って言うのはなし!今夜は、血の月の夜でしょう?セラは見たい!」若い子は朝からそう宣言していた。「危険だって、セラはまだ見てないからわかんないもん!」そのあとも何度か同じことを言い、まるで決定事項のように準備を始めた。準備する物の中に、自分の気に入りのマントも持ち出し、「これがあれば寒くない」と、自分に言い聞かせるように」アスイェは「いい」も「ダメ」も言わず。ただ聞いていただけだった。

  • アスイェ•Asyeh   第十八話:「シロップ 」と灯り

    セラフィナは名を持ってからというもの、成長が驚くほど早かった。 今では、人間でいえば二、三歳ほどの年頃に達している。 もっと上かもしれないが、アスイェは人間の時間概念はよく理解していない。 吸血鬼にとって歳はそんなに重要ではない、 セラフィナもいつれ同じように思うようになるだろう。 体格はまだ小さいものの、「ひとりで留守番ができる」ほどには成長した。 アスイェは部屋

  • アスイェ•Asyeh   第六話:鐘声の審判

    執事は、あの赤子が気に入らなかった。
理解できないわけではない。ただの嫌悪《けんお》でもなかった。彼はこの収容場で長く仕《つか》えている。育児の失敗例など、幾度となく目にしてきた。泣き叫び、噛みつき、殺した幼い吸血鬼たち。老《お》いた血奴《サーバント》の手には無数の傷跡《きずあと》が刻《きざ》まれ、ときに掌《てのひら》の肉《にく》や指ごと噛み千切《ちぎり》られたこともあった。牙《きば》すら生えていない幼体《ようたい》が、だ。彼は、この施設が聖堂として廃され、実験の場となる以前から、ここにいた。
三人の長老《ちょうろう》に仕《つか》え、数え切れぬ失敗作を処理して

  • アスイェ•Asyeh   第五話:視線

    赤子は、目を開けたまま動かなかった。
まるで、何かを確かめているように――ひとつの答えを、静かに待っているようだった。アスイェは、いつものように黙《だま》って赤子の前に立ち、しばらくその目を見つめた。そして、ゆっくりと――本当にゆっくりと、子を抱き上げた。その身は、最初まるで反応《はんのう》を示《しめ》さなかった。まるで、自分が揺籃《ゆりかご》から離れたことさえ、まだ気づいていないかのように。子の目は、ずっとアスイェの顔にとらわれたまま動かず、やがて、その小さな手を伸ばし、アスイェを抱きしめた。その手は、まだ小さすぎて、アスイェの首にさえ届かなかった。
「抱きしめる」というよりも――た

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status