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作者: 琉斗六
last update 最終更新日: 2026-02-10 11:09:56

 ステージで引き剥がされた腰巻きを返してもらったパーシヴァルは、再び檻に入れられた。

 オークションは〝目玉〟と言っていただけあって、パーシヴァルの落札が決まったところで終了となったらしい。

 さほども待たされずに、顔を仮面で隠した男を連れて、奴隷商人が戻ってきた。

「こちらが、ブラックパールでございます」

「金貨だ」

 金を渡されると、奴隷商人は恭しくそれを受け取った。

「では……」

 長い棒状の魔道具を取り出し、商人はそれをパーシヴァルに向けようとしたが──。

「必要ない」

「ですが、暴れると厄介ですよ?」

「手負いで、枷もついている。ここで暴れるほど、彼は愚かではない」

 それは、牛追い棒のようなショックを与える魔道具だったらしい。

 商人は、パーシヴァルが苦痛に顔を歪めることを期待していたのを遮られた……とでも言いたげに不快の念を顔に浮かべたが──。

 既に所有権が買い手に移っていることも理解していたので、それ以上は何も言わなかった。

「鍵を」

「へえ……」

 商人が、檻の鍵を開く。

 仮面の男は、自ら檻の中に進み出ると、パーシヴァルの肩にローブを掛けた。

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  • オメガ騎士は王の閨に囚われる   §

     仮面の男は、パーシヴァルを黒尽くめの立派な|馬車《キャリッジ》へと案内した。  窓は小さく、紋章もないが、内装は豪華で座席は革張りだ。  向かい合って座ったところで、男は仮面を外した。「私めのことは、レイヴンとお呼びください」 「僕は……今はオメガ隷奴だ。へりくだる必要はないのでは?」 「いえ、あなた様をお買い上げになったのは、私の主人。主人の持ち物を蔑ろに扱うわけにはまいりません」 「その……、あなたの主人とは、誰なんですか?」 「私の|主《あるじ》は、あなた様もご存知の、アルトゥール・コンスタンティン・カレドヴール陛下でございます」 その名に、パーシヴァルは飛び上がるほど驚いた。「あ……アルトゥール陛下? 陛下が、僕を買ったのか?! そんな、まさか……」 パーシヴァルは混乱した。  アルトゥールは、カレドヴール帝国の皇帝であり、パーシヴァルが護衛をしていた|主《あるじ》である。「陛下は、オメガ隷奴の刑罰を廃止にするために、奔走されていたはずだ。その陛下が、隷奴を横流ししている闇オークションで、僕を買った?!」 「左様でございます。陛下は、先の裁判であなた様に〝高貴なアルファを慰問する社会奉仕の刑〟、すなわちオメガ隷奴へ貶められたことを知り、なんとか刑罰の執行を引き伸ばして、あなた様の無実を証明しようとしておられました」 「だが、僕の傷が癒えて、僕の刑は執行されそうになってたはずだ」 「いえ、陛下はそれでもなんとか、あなた様への執行を引き延ばそうとしていらっしゃいました。ですが、あなた様は脱獄をしてしまった」 その指摘に、パーシヴァルは言葉に詰まる。「陛下はあなた様の脱獄の報を聞き、行く先を探すように私に指示を出しました。ですが、一歩遅くあなた様は奴隷商人に捕まり、今夜のオークションに出されてしまったのです」 「僕の感覚だと、脱獄したのは2〜3時間前なんだが」 「既に、2日経っております。おかげで、あなた様が出品される闇オークションの開催場所を調べることが出来、陛下に言付かって私があなた様を落札いたしました」 レ

  • オメガ騎士は王の閨に囚われる   §

     ステージで引き剥がされた腰巻きを返してもらったパーシヴァルは、再び檻に入れられた。  オークションは〝目玉〟と言っていただけあって、パーシヴァルの落札が決まったところで終了となったらしい。  さほども待たされずに、顔を仮面で隠した男を連れて、奴隷商人が戻ってきた。「こちらが、ブラックパールでございます」 「金貨だ」 金を渡されると、奴隷商人は恭しくそれを受け取った。「では……」 長い棒状の魔道具を取り出し、商人はそれをパーシヴァルに向けようとしたが──。「必要ない」 「ですが、暴れると厄介ですよ?」 「手負いで、枷もついている。ここで暴れるほど、彼は愚かではない」 それは、牛追い棒のようなショックを与える魔道具だったらしい。  商人は、パーシヴァルが苦痛に顔を歪めることを期待していたのを遮られた……とでも言いたげに不快の念を顔に浮かべたが──。  既に所有権が買い手に移っていることも理解していたので、それ以上は何も言わなかった。「鍵を」 「へえ……」 商人が、檻の鍵を開く。  仮面の男は、自ら檻の中に進み出ると、パーシヴァルの肩にローブを掛けた。「では、行きましょう」 未だ、手足と首に枷がついたまま。  相手の正体もわからない。  だが、仮面の男の言う通り、ここで暴れたからといって、表には商人の護衛や使用人などもいるだろう。  パーシヴァルは、ここは大人しくするべきと判断し、仮面の男に従った。

  • オメガ騎士は王の閨に囚われる   §

    「開始価格は、金貨500枚から!」 ざわめきが大きくなり、暗闇の中に白い札がパタパタと上がった。「600、700! はい、千が出ました」 競りが白熱し、客は札ではなく直に値段を口にし始める。「二千!」 「三千!」 声が、次々に上がる。──こいつら……、僕を金で取引しようとしてるのか? ようやく、意識がはっきりしてきて、パーシヴァルは状況が飲み込めた。「五千!」──よせ……っ! やめろっ!「一万」 白熱して叫ぶ客に混じって、いやに冷静な声が上がった。「一万! 一万が出ました!」 「一万五千だ!」 会場の反対側から、感情的な声が上がる。「二万」 「二万五千!」 さすがに桁が変わってきたせいか、他の者たちは押し黙った。「……五万」 冷静な声が、一段と高値をつけて、城内は一瞬、静寂に包まれた。「……っ、七万だ!」 舌打ちのあと、さらなる高額が提示される。  会場は、行方を固唾をのんで見守っていた。「十万」 その一言に、会場内にどよめきが起きる。「十万が、出ました!」 司会が促すが、反対側からは声が上がらない。「カレドヴールの至宝、ブラックパールは十万にて304番様に落札です!」──金貨十万枚? なにが? 意味がわからず、パーシヴァルの心の中はひたすら混乱している。  だが、スポットライトが消えると、再び鎖が引かれ、舞台裏へと引っ張り込まれた。「さあ、御主人様が決まったぞ、ブラックパール。たっぷり、可愛がってもらうといい」 奴隷商人は、ニヤニヤしながら言った。──誰が……僕を……? その問いは、轡によって問うことも許されない。  分かっているのは、自分はもう、誰かの所有物──つまりヒトではなく、モノになったということだけだった。

  • オメガ騎士は王の閨に囚われる   2:オークション

     パーシヴァルは、檻の中で気を失って倒れていた。  焚き火で嗅がされたヒートの香の影響で、意識を失っていたのだ。  どれだけ時間が経ったのか分からない。  ツンと鼻を突く匂いに、意識が引き戻された。「……うっ……」 「ようやくお目覚めか?」 先程の男たちとは違って、妙に身なりの綺麗な男が覗き込んでいる。  パーシヴァルが意識を取り戻したことを確認したところで、男は轡を噛ましてきた。「さて、お楽しみの競りだ。頑張れよ」 男が持っている鎖を引くと、気を失っている間に加えられたらしい首枷が引っ張られる。  ヒートの香は、嗅げば嗅ぐほど効果が増すが、どうやら少し嗅がされただけだったらしい。  パーシヴァルの体は、ただ力が入らないだけでヒートを起こしてはいなかった。  引かれるままに、パーシヴァルは男の意のままに歩かされる。「ほら、しっかりしな。近衛の黒真珠……、いや、今は奴隷のブラックパールちゃんだったか」──頭が、クラクラする……。 ゲラゲラ笑う男の声が、頭の中でガンガン響く。  香の匂いが鼻の奥に残っているような気がする。  長い通路を歩かされたような気がするが、実際は数歩しか歩いていないような気もした。 ぐいと両手の鎖が引かれ、両手を頭の上にまとめられる。「……つぅ……っ!」 引き攣れた背中の傷に響き、パーシヴァルは思わず声を漏らした。  だが、そんなことに微塵も気を払ってもらえることはなく、上に釣られた腕が前方へと引っ張られる。  つま先立ちで引かれるままに前に出ると、暗闇の中に沢山の人間がいるような気配を感じる。「おまたせを致しました! 本日の目玉商品! 金茶の瞳にオリーブの肌、異国情緒溢れる、商品名〝ブラックパール〟でございます!」 場にそぐわぬ明るい声が響いたかと思ったところで、パーシヴァルはスポットライを当てられた。  眩しくて、目を眇める。  数秒して少し目が慣れてくると、自分がどこかのステージの上に立たされていることが分かった。  腕の鎖は、頭上のレールに繋がれている。「ほら、もっと皆さんに全部よく見てもらうんだよ」 司会の男は、つかつかとパーシヴァルに近づくと、腰巻きに手を掛けた。「う……うっ!」 抗議の声は、轡に阻まれ、何の抵抗もできないままに腰巻きが取り去られる。  手枷で吊るされ、

  • オメガ騎士は王の閨に囚われる   §

     しばらく騎竜を走らせると、木陰の向こうにチラチラと灯りが見えてきた。 速度を落とし、パーシヴァルは騎竜を降りる。 横乗りの姿勢からの下馬は、さほどの衝撃もなかろうと思っていたが、意外にも背中の傷に響く。──じくじくと……いつまでも……。 パーシヴァルの刑が即座に執行されなかったのは、この傷が理由だった。 だが、身動きが可能と判断されて、近々石牢を出される情報を得たモルドレッドが、満月の今日を選んで脱獄の手引をしてくれた。 とはいえ、その弱った体に手枷足枷の重みも加わって、気力も体力もじわじわと削られている。 ローブの下、腰巻き一枚の肌に夜気が沁みる。──ここで、これを外すことが出来れば……。 はやる心を抑えつつ、パーシヴァルは手綱を引いて徒歩でそちらに向かった。「誰だ?」「……僕は……、噂を聞いてきた。ここに来れば、枷の鍵を外す方法がある……と」 目を引いたのは、妙に大きな幌付きの荷車。 それが数台、焚き火を囲むように停められている。 汚れた服を着た男たちは、顔もやたら汚れていた。 なにより奇妙なのは、彼らは森から唐突に現れたパーシヴァルを、少しも訝しむ気配がなかったことだ。「あんた、逃亡オメガかい?」 まるで確認するかのように、にやりと笑って男が言った。「僕の素性を打ち明けなきゃ、枷は外せないのか?」「いや。交渉次第だな」 焚き火の傍に来るように招かれたが、パーシヴァルは途中で足を止める。──これは……ヒートの香……?! 気付いた時は、足の力が抜けている。「ようこそ、パーシヴァル護衛隊長」「貴様……ら……、僕の……素性を

  • オメガ騎士は王の閨に囚われる   §

     パーシヴァル・シャヒーンは、カレドヴール帝国の近衛騎士だった。 金髪に大理石の肌の者が多いカレドヴールだが。 パーシヴァルは、黒髪にオリーブの肌、そして金茶の瞳と異国の佇まいを持つ。 それは彼が、砂漠の民・アルカディールの血を持っているからだ。──街道の分かれ道を森へ……。 騎竜を走らせながら、パーシヴァルは決意も新たに手綱を握る。 今のパーシヴァルは、牢破りの大罪を犯している。 だが、あのまま牢に囚われていては、自分は〝オメガ隷奴〟にされてしまった。──アルファの性欲処理に使い潰されてしまっては、冤罪は晴らせない。 自身が、本当に罪を犯し、その結果下された裁定ならば、パーシヴァルは内容がなんであっても受け入れただろう。──僕は、卑怯者じゃない。 近衛騎士として、守るべき主人を戦場から逃すために、パーシヴァルは|殿《しんがり》を買って出た。──あの時……、僕を後ろから斬った奴を見つけ出さなきゃ。 味方がほぼ敵地を抜け、自身の隊の者たちも各々撤退させた時。 最後の最後まで残っていたパーシヴァルは、鬼神の如く敵を蹴散らし、自身もまた退こうとした、その瞬間──。 突如、何者かに後ろから斬られた。──気配に、全く気が付かなかった。 悔しさが、込み上げてくる。 ハッとした時には、背中に熱い衝撃を感じていた。 驚きで振り返ろうとしたが、力が入らず膝から崩れ──。 視界に映ったのは、逆光で顔が黒い影に覆われた男。 振りかぶった剣が打ち下ろされた時、利き手に鋭い痛みが走った。──あの黒い影の顔を……僕は見たはずだ……。 健を断たれた右手は、今も手綱をまともに握っていない。 足枷で、騎竜への騎乗も横乗りだ。 しかし、どんな困難があろうとも、自身の冤罪を晴らさねばならない。──僕を信じて、罪を犯してまで脱出を手

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