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第四十七話「重版決定!」

Author: 辻野幸枝
last update publish date: 2026-09-05 07:23:57

発売から一週間。

朝早くから、出版社の編集部は慌ただしい空気に包まれていた。

「三浦さん!」

営業部の若手社員が、資料を片手に編集部へ駆け込んでくる。

「各書店から、また追加注文です!」

「また?」

担当編集者の三浦は驚いた表情で資料を受け取る。

発売初日から好調だった相沢ひまりの絵本は、一週間経った今も勢いが衰えるどころか、さらに注文が増え続けていた。

全国の大型書店。

街の小さな書店。

オンライン書店。

どこでも売れ行きは好調だった。

「在庫が足りません!」

営業担当が声を上げる。

「このままだと来週には初版がなくなります!」

編集長も資料を見つめながら大きく頷いた。

「これは予想以上だな」

会議室には次々と関係者が集まってくる。

印刷会社への確認。

流通会社との調整。

書店への連絡。

編集部全体が慌ただしく動き始めた。

その様子を見ながら、三浦は思わず笑みを浮かべる。

「やっぱり届いたんだ」

誰よりも信じていた作品だった。

その思いが形になり始めていた。

***

午後。

緊急の編集会議が開かれる。

編集長が資料を机へ置いた。

「結論から言います」

部屋の空気が引き締まる。

「重
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    発売から一週間。朝早くから、出版社の編集部は慌ただしい空気に包まれていた。「三浦さん!」営業部の若手社員が、資料を片手に編集部へ駆け込んでくる。「各書店から、また追加注文です!」「また?」担当編集者の三浦は驚いた表情で資料を受け取る。発売初日から好調だった相沢ひまりの絵本は、一週間経った今も勢いが衰えるどころか、さらに注文が増え続けていた。全国の大型書店。街の小さな書店。オンライン書店。どこでも売れ行きは好調だった。「在庫が足りません!」営業担当が声を上げる。「このままだと来週には初版がなくなります!」編集長も資料を見つめながら大きく頷いた。「これは予想以上だな」会議室には次々と関係者が集まってくる。印刷会社への確認。流通会社との調整。書店への連絡。編集部全体が慌ただしく動き始めた。その様子を見ながら、三浦は思わず笑みを浮かべる。「やっぱり届いたんだ」誰よりも信じていた作品だった。その思いが形になり始めていた。***午後。緊急の編集会議が開かれる。編集長が資料を机へ置いた。「結論から言います」部屋の空気が引き締まる。「重版を決定します」その一言と同時に、編集部から拍手が起こった。「おめでとうございます!」「これはすごい!」「発売一週間ですよ!」「ここまで早い重版は久しぶりです!」三浦も思わず立ち上がる。「ありがとうございます!」編集長は笑顔で頷いた。「作者にも早く知らせてあげてください」「はい!」三浦は急いでスマートフォンを取り出した。***その頃。ひまりは自宅で次回作のラフスケッチを描いていた。以前のような焦りはない。好きだから描く。その気持ちを忘れないように、一筆ずつ丁寧に線を重ねていた。スマートフォンが震える。画面には三浦の名前が表示されていた。「こんにちは、三浦です!」電話の向こうの声は、いつも以上に弾んでいた。「こんにちは」「おめでとうございます!」「え?」「重版が決まりました!」「……え?」ひまりは言葉を失う。「今、何とおっしゃいましたか?」「重版です!」「発売一週間で重版が決定しました!」しばらく沈黙が続く。「相沢さん?」「……本当ですか?」「もちろんです!」「書店さんから追加注文が相次いでいます!」「たくさんのお子

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    翌日の朝。 相沢ひまりは窓を開け、ゆっくりと深呼吸をする。春の風が頬を優しく撫でた。机の上には、昨日描いた子猫のイラストが置かれている。仕事でもない。誰かに見せるためでもない。ただ、好きだから描いた一枚。その絵を見つめていると、不思議と胸が温かくなった。「……もう一度、描いてみようかな」自然とそんな言葉がこぼれる。ペンタブレットの電源を入れる。真っ白なキャンバスが映る。以前のような恐怖は、まだ少し残っていた。それでも、昨日とは違う。ペンを持つ手は震えていなかった。一本。また一本。ゆっくりと線を重ねていく。完璧じゃなくていい。上手じゃなくてもいい。好きだから描く。その気持ちだけを大切にしながら、ひまりは久しぶりに一枚のイラストを描き上げた。画面の中で、小さなうさぎと子猫が並んで花畑を歩いている。「描けた……」思わず笑みがこぼれた。その瞬間、スマートフォンが震える。神崎蒼からだった。『どう?』短いメッセージ。ひまりは描き上がったイラストの写真を送り返す。数秒後。『笑ってる絵だ』その一文を見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。「ありがとうございます、神崎さん」小さく呟き、スマートフォンをそっと置いた。***午後。ひまりはパソコンの前へ座る。今日は配信予定の日だった。休止のお知らせを出してから、初めての配信になる。配信画面を開く。開始時刻までは、あと三十分。 相沢ひまりは、マイクの位置を何度も直しては、深呼吸を繰り返す。「……大丈夫」そう呟いてみる。けれど、胸の鼓動は少し早かった。配信を休止してから初めて、みんなの前へ戻る日。「待っていてくれるかな」期待よりも、不安の方が少しだけ大きい。机の上には、昨日描いた子猫のイラストが置かれていた。その絵を見つめると、自然と肩の力が抜ける。「よし」ひまりは小さく頷き、配信画面を開いた。 待機画面には、すでに多くのコメントが流れていた。『今日かな?』『無理しないでね!』『配信があったら嬉しいな』『待機!』『ひまり先生、おかえり!』まだ始まっていないのに、「おかえり」という言葉が並んでいる。ひまりは目を潤ませた。「まだ始めてもいないのに……」待っていてくれた人がいる。それだけで十分だった。深呼吸をする

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    朝。今日も柔らかな陽射しが窓から差し込み、部屋の中を優しく照らしていた。相沢ひまりは、ゆっくりと目を覚ます。ここ数日続いていた胸の重苦しさは、少しだけ軽くなっていた。昨日、公園で神崎蒼から言われた言葉が何度も頭に浮かぶ。「休むのも仕事」その一言に救われた気がした。とはいえ、机の上にあるペンタブレットを見ると、まだ胸が少しだけ締めつけられる。「今日は……描かなくてもいい」自分にそう言い聞かせ、部屋を出た。***昼前。ひまりは近所のスーパーへ買い物に出かけた。牛乳やパンを買い、帰ろうとした時だった。近くの小さな公園から、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。自然と足が止まった。「少しだけ……」そう呟き、公園へ入る。休日ということもあり、多くの親子が遊んでいた。鬼ごっこをする子。砂場で山を作る子。ベンチでは、お母さん同士が楽しそうに話している。ひまりは少し離れたベンチへ腰を下ろした。その時だった。「できたー!」元気な声が響く。五歳くらいの男の子が、大きな画用紙を高く掲げていた。近くにいた保育士らしき女性が笑顔で尋ねる。「何を描いたの?」「ぼく!」得意げに見せる絵には、大きな丸い顔。体は棒のような一本線。腕も足も長さが違う。空には紫色の太陽。木には赤い葉っぱ。犬は水色だった。ひまりは思わず見つめる。「すごいね!」保育士が笑う。「どうして太陽が紫なの?」男の子は胸を張った。「好きだから!」「犬はどうして水色なの?」「かっこいいから!」「木が赤いのは?」「きれいだから!」どの答えにも迷いがない。周りの子どもたちも次々と画用紙を見せ始める。「わたしは虹をいっぱい描いた!」「ぼくは恐竜!」「これはママ!」どの絵も自由だった。上手い下手なんて誰も気にしていない。ただ、描きたいものを思いきり描いている。ひまりは、その光景から目が離せなかった。「……そうだった」小さく呟く。子どもの頃。自分もそうだった。空をピンクに塗ったことがある。猫に羽を描いたこともある。先生に「自由に描いていいよ」と言われるだけで、胸が躍った。誰かに評価されるためじゃない。賞を取るためでもない。ただ、描くことが楽しかった。「私……」いつから忘れてしまったんだろう。ーーー帰宅したひまりは

  • クズ事務所に捨てられましたが、私の絵の才能を信じてくれた最古参ニートの正体は石油王でした   第四十二話「休んでもいい」

    朝。カーテンの隙間から差し込む柔らかな光が、静かな部屋を照らしていた。相沢ひまりは、ベッドの上でぼんやりと天井を見つめていた。机の上には、描きかけですらない真っ白なキャンバス。ペンタブレットも、スケッチブックも、ここ数日はほとんど触れていない。「……今日も描けないのかな」小さく呟いてみる。返事をする人はいない。ため息をつき、スマートフォンを手に取る。配信を休止してから数日。ファンからは毎日のように温かいメッセージが届いていた。『ゆっくり休んでください』『待っています』『ひまり先生の笑顔が一番です』どの言葉も優しかった。それなのに、その優しささえ今は胸を締めつける。「待ってくれているのに……」申し訳なさが募るばかりだった。その時、スマートフォンが震えた。神崎蒼からだった。『散歩しよう』たった5文字。いつもの蒼らしい短いメッセージだった。ひまりは思わず苦笑する。『私、何も話せないかもしれません』送ると、すぐに返事が届いた。『話さなくていい』その一文を見て、ひまりは少しだけ肩の力が抜けた。「……行こうかな」***三十分後。近所の公園。青々とした芝生の上では、小さな子どもたちが元気いっぱいに走り回っていた。ブランコからは笑い声が聞こえ、滑り台の前には順番を待つ列ができている。蒼はベンチへ腰を下ろした。「座ろう」「はい」ひまりも隣へ座る。二人とも、しばらく何も話さなかった。風が木々を優しく揺らす。葉の擦れる音が心地よく耳に届いた。「いい天気ですね」ひまりがぽつりと呟く。「うん」また静かな時間が流れる。その沈黙は、不思議と気まずくなかった。子どもたちの笑い声だけが、公園中へ響いていた。「見て」蒼が視線を向ける。そこでは、小さな女の子が転んで泣いていた。母親が慌てて駆け寄る。膝についた砂を払いながら、優しく抱きしめる。泣いていた女の子は、少しするとまた笑顔で走り出していった。ひまりは、その様子を静かに見つめていた。「強いですね」「うん」「私だったら、あんなふうにすぐ立ち直れません」蒼は首を横に振る。「違う」「え?」「泣いた」「……」「ちゃんと泣いたから、また笑えた」その言葉に、ひまりは目を見開く。「泣くのは悪いことじゃない」穏やかな声だった。「休む

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