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第237話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第240話
「今いちばん大事なのは上高月興業とのプロジェクトです。技術部はいまバラバラで、誰も仕切れていません。このままでは......」大介はすぐに話題を切り替えた。夫婦喧嘩よりも、優先すべきは会社のプロジェクトだ。「遥斗がきっと技術部を抑えられるから」静雄は淡々と答えたが、すぐに口調を荒げた。「それにしても深雪、病院にいながら男をたぶらかすとは！まったく落ち着かん女だ！」再び怒りに火がついた静雄を見て、大介は心の中で嘆いた。これはもうどうにもならない。井戸に落ちた子供と同じ、救いようがない。苦笑いを浮かべ、これ以上無駄に怒りを浴びるのも御免だと背を向けた。「毎日一番いい食事を深雪に届けろ！うちに、あの女に食わせる飯がないと思われてたまるか！」静雄は捨てセリフのように命じた。大介にはわかっていた。これは単なる男のプライドでしかない。だが余計なことは言わず、すぐに高級弁当の店をいくつも選んで注文を入れた。一方その頃、陽翔はようやく目を覚ました。瞼を開けた瞬間、恐怖で息を荒げたが、傍らに母の姿を見てようやく安堵した。「母さん、いっ......痛ぇ......」「この出来損ない！お前に深雪をきっちり懲らしめろと頼んだのに、相手は無傷で、お前が半殺し？役立たずにもほどがある！」芽衣の最初の言葉は容赦ない叱責だった。この弟は昔から足手まといで、何ひとつ期待に応えてくれなかった。静雄の心が日に日に自分から離れていく今、わずかな仕事すら任せられないとは苛立ちと絶望で芽衣は胸が詰まった。「生きる意味がある？むしろ死んでくれたほうがマシ！」「この子が苦しんでいるのに、よくそんなことが言えるね！」母は娘を怒鳴りつけ、泣きながら陽翔の手を握った。「陽翔、どうしてこんな目に遭ったの？痛いだろう、かわいそうに......」母は弟の心配ばかり。芽衣は堪えきれず声を荒げた。「今どういう状況か分かってるの！？静雄はもう私から離れていこうとしてる。深雪を潰さなければ、私たちは一家まとめて破滅するのよ！」なぜ家の重荷を全部私ひとりが背負わなければならないの？誰も助けないくせに。その言葉に母の怒りが爆発し、勢いよく頬を打った。「結局はお前が不出来だからだ！子供を産めないでしょう。静雄の心が離れて当然だ！」
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第239話
延浩は、深雪が理性的に振る舞うその姿を見て、怒りを覚えると同時に胸が締めつけられた。彼は学生時代の彼女の姿を覚えている。今の深雪がこうなってしまったのは、長年静雄に虐げられ、自分らしさを奪われてきたからに違いない。てんてんへの恐怖を必死に抑え、延浩は歩み寄ると深雪を抱きしめ、囁いた。「妥協する必要なんてない。君がやりたいことを、やればいいんだ」深雪は戸惑いながらも、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。彼の肩を軽く叩き、静かに答えた。「分かってるわ。解決策の概要はもうまとめてある。帰れば見られるはずよ」「君が僕に話したいのは、それだけなのか？」延浩はどこか拗ねたように視線を落とした。「今、僕に伝えたいのは仕事の話だけか？」その言葉に、深雪は彼の意図を悟った。再会した瞬間から、自分の心に彼がいることを自覚していた。でも、何をすることができる？彼女は静雄の妻であり、亡き寧々の母なのだ。すでに二人は過去に取り残されている。彼の視線が熱を帯びるほど、深雪は顔を伏せた。「......ごめんなさい。私には資格がないの」「資格？」延浩は彼女の手を掴み、強く言い切った。「君は最高だ。永遠にそうだ！」その言葉は静雄が一度も与えなかった肯定だった。深雪が長年、心の底から求めてきた言葉だった。だが目の前に差し出された美しいものを、彼女は掴むことができない。「お願い......追い詰めないで」深雪は小さな声で懇願した。「分かった。無理はしない。待つよ」延浩は微笑み、そっと彼女の頬に触れた。「君の心に僕がいるのは分かってる」そう言い残し、彼は去っていった。その背中を見送る深雪の胸は、裂けるように痛んだ。彼女も感情がないはずがない。幼い頃好きな人がいま目の前で彼女を守り、助け続けている。この状況に心が揺れないわけがない。だが彼女には告げられない秘密がある。寧々の検査のとき、医師ははっきり告げていた。寧々の病気は遺伝によるものだ。つまり、深雪自身にも大きなリスクがあるということ。やがて同じように苦しみ、同じように死ぬ可能性が高い。寧々が逝った時点で、深雪はすでに死生を超えていた。むしろ早く娘のもとへ行けるなら、それで救われると思っていた。だ
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第238話
「てんてん！会いたくてたまらなかったの！」深雪が抱きしめると、てんてんも大喜びで彼女の周りをすり寄りながら回り、ニャアニャアと鳴き続けた。延浩は動物から距離を取り、遠くから情けない顔で見ている。「......酢豚は今食べるか？」その声に、深雪は延浩が動物を怖がることをようやく思い出した。彼女はてんてんを抱えたまま微笑みかけた。「少し撫でてみてよ。本当にいい子なの」この数日、中子がよく世話してくれたのが一目で分かる。引き取ったときは皺だらけで小さな塊だったのに、今ではつやつやしたまん丸の子猫になっていた。延浩はできるだけ距離を保ちつつ、ため息まじりに弁当箱を深雪の前に置いた。「......本当に俺は動物が苦手なんだ」「そう......」深雪は少し残念そうに目を伏せ、てんてんの頭を撫でた。そして自分の用意したUSBを取り出し、延浩に渡した。「あの不具合は解決したわ。でも、もっと大きな問題を見つけたの。確かにこのソフトは完璧に見えるけど、コスト管理とアフターサービスまで考えたの？」深雪は弁当を開け、酢豚を食べながら説明を続けた。彼らのソフトは確かに最先端で立派だ。だが、研究開発やメンテナンスのコストを度外視しているのは大きなリスクだった。延浩は一瞬固まり、眉をひそめて言った。「コストは計算したさ。だが、この完成度を出すには金をかけるしかない」「......その金はあるの？」深雪は肉をかじりながら首を傾げて言った。「聞いた話なんだけど。おじいさまは君が会社で大口の投資をするのを嫌ってる。援助どころか、むしろ潰してでも家業を継がせたいと思ってるんじゃない？足を引っ張らないだけマシで、助けてくれるなんてまずない。超日グループに頼るのも無理でしょ。健治だって、簡単に出資するとは限らない」数年間は主婦として生活していたが、深雪は業界の事情もよく理解している。資本家たちの利害関係は見れば分かる。結局、己が強くなければ話にならない。「おいおい......心配してくれてるのか？」延浩はにやけながら問いかけた。こんな時にまだ冗談を言う余裕があることに、深雪は呆れてしまった。「当然でしょ。私の先輩で、しかもパートナーなんだから。もし第一ラウンドで静雄にKOされたら、私まで巻き込まれて終わり
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第237話
こんな時に、嫁を迎えると言うべきか？星男は延浩の元気のない顔を見て、思わず絶句した。そんな彼をよそに延浩は得意げに笑い、胸を張って言った。「心配するな、俺には考えがある。実はこの件、もう深雪に任せてある。今夜、飯を届けに行った時には、きっといい知らせが聞けるさ」「......はあ！？」星男は耳を疑った。「正気ですか？相手は松原商事ですよ！いまの行動は、競合相手にわざわざ情報を漏らしてるようなものです！会社の機密情報の横流しですよ！」延浩は彼の怒声を軽く受け流し、逆に声を上げて笑った。「心配いらん。あの人は絶対に俺を裏切らない。確かに会社同士は競合関係だ。だが俺と深雪は協力関係なんだよ。その違いが分からないのか？」お前は俺のことを思って言ってくれてるし、深雪のことを気に入らないのも知ってる。だがな、彼女の能力は間違いなく一流だ。お前も先入観を仕事に持ち込むな。プロジェクトの進行が最優先だろ？」延浩はまるで伝道師のように熱弁を振るった。星男は目の前の男の自己正当化ぶりに、顔を真っ赤にして震えた。一体誰が私情で仕事を危うくしてると思ってる！？「本当に彼女を信じるんですか？」星男は真剣な眼差しで問いただした。彼から見れば、深雪と静雄は正式な夫婦、利害を共有する存在だ。だから、延浩の無条件の信頼は、愚かとしか思えなかった。だが延浩の答えは、迷いがなかった。「信じる。彼女は絶対に俺を裏切られないと思うよ」星男は悟った。何を言っても無駄、この男は完全に救いようがない。「......いずれ必ず後悔しますよ！」彼は椅子を蹴るように立ち上がり、怒りに歯を食いしばって延浩を睨みつけた。だが延浩はただ静かに、そしてしみじみと呟いた。「俺がいま一番後悔してるのは戻るのが遅すぎたことだ」もし、もっと早く戻っていれば、あの頃そばにいれば。寧々は死なずに済んだのかもしれない。だが、取り返しのつかない傷だけが残った。星男は呆れ果て、言葉が一言も出てこなかった。最後はドアを乱暴に閉め、怒りを示すしかなかった。それでも延浩は気にしない。机を片づけると、意気揚々と外へ出た。酢豚は、じっくり煮込むほど旨くなるからだ。その頃、病院。深雪は休んでいたが、頭の中は仕事で冴え渡り、指先も自然に動い
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第236話
「芽衣様は私のことを犬呼ばわりしました。なのに社長は止めもせず、逆に私を叱りつけたのです」大介は話せば話すほど悔しさが募った。大介は名門大学を出て、何年も静雄の側近として尽くしてきた。それなのに受けるのは屈辱ばかりで、挙げ句の果てには庇ってももらえない。「......何それ？」深雪は思わず呆気に取られた。想像の埒外だったからだ。静雄は芽衣に心を奪われ、理性を失っている。自分の最も近い部下を平気で踏みつけるようになったのだ。あの男の頭はもうおかしくなっている。「安心して。この借りは必ず返すから。それより、会社の過去五年分の核心データが必要なんだけど。入手できるの？」すでに協力関係を結んだ以上、遠慮する必要はない。「できます。少し時間がいりますが、明日の夜には必ず......」大介は即答した。そして立ち上がり、しばらく逡巡してから口を開いた。「深雪様に付くということは、社長を裏切るということです。裏切り者は誰からも軽蔑されますので、最終的には私を切り捨てるでしょう。だから、逃げるための金を用意していただきたいのですが......」深雪はこうして正直に欲を口にする人間のほうが、裏でこそこそする人間よりずっと好感が持てた。「20億円。全て片付いたら渡すわ。遠くに行って、二度と苦労しないで暮らせる額よ」「ありがとうございます！」大介の目が輝いた。まさかいきなり数十億円を提示されるとは思わなかった。こんなことなら、もっと早く彼女に付いていればよかった。静雄の下で過ごした年月は、遠回りに過ぎなかった。大介を見送り、深雪の顔に笑みが浮かんだ。そしてすぐに延浩へ電話をかけた。延浩はちょうど会議中で、彼女の名前を画面に見てわざと出なかった。まだ怒っていたからだ。だが通話が切れると、逆に胸の奥がざわざわして落ち着かない。結局、我慢できずに折り返した。「......何の用だ？」わざと高飛車に出た。「前作ってくれた酢豚が食べたいの」柔らかな声が耳に届いた瞬間、延浩の苛立ちは半分以上消え失せた。「そうか......今夜、持っていくよ」嬉しさを隠せず、情けないほどすぐに笑ってしまった。その様子を目の当たりにした星男は、信じられない思いで目を剥いた。この人がこんなに早く態度を変えるなんて！
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第235話
芽衣は馬鹿ではない。大介の皮肉を聞き取れないはずがなかった。彼女は勢いよく立ち上がり、奥歯を噛みしめて言い放った。「お前なんか静雄のそばにいる犬にすぎないくせに！よくも私に牙を剥けるわね。クビになりたいの！？」「失礼ですが、芽衣様。私は社長の犬ではありません。ただの助手です」大介は表情ひとつ変えず、冷静に言い返した。芽衣は今や彼が自分にここまで口答えするようになったことに衝撃を受けた。怒りにまかせて立ち上がり、そのまま平手打ちをしようと手を振り上げるが、すぐさま大介が彼女の手首を掴み取り、冷たく言った。「芽衣様、お元気で」ちょうどそこへ静雄が駆けつけ、この場面を目撃した。「何をしている！」彼は大股で近づき、大介の前に立ちはだかり、不快をあらわに睨みつけた。「社長、芽衣様が私を叩こうとしたのですが......」大介は淡々と答え、芽衣の手首を放した。「私は身を守っただけで、攻撃する意図はありません」芽衣はその言葉にさらに逆上し、すぐに静雄に抱きついてわんわん泣き出した。「静雄、ごめんなさい！私、叩くつもりじゃなかったの。でもこの人、ずっと私を悪者扱いして......静雄、どうして皆して私を責めるの？」大介はそんな芽衣の泣く、喚く、騒ぐ演技にはすっかり慣れていた。だからこそ淡々と告げた。「病院の監視カメラは音声も拾います。映像を確認すればすぐに分かりますよ」その一言に芽衣の口はぴたりと閉じられ、あとは静雄の胸に顔を埋めてしゃくり上げるだけだった。静雄は愚かではない。事の真相を理解していた。だが、相手は幼なじみ、もう一方は長年支えてきた助手だ。どちらも失いたくはない。「もういい。芽衣は今、気が立っている。多少のことは大目に見ろ。東山、先に会社へ戻れ」「......はい」大介はそれ以上逆らわず会社へ帰った。社長は芽衣のために冷静さを失い、公私の判断を誤り始めている。そう見えた瞬間、大介は心中で決意を固めた。会社に戻る代わりに、彼は足を転じて深雪の病室へ向かった。彼女は驚いたように顔を上げた。「どうしてこの時間に？静雄に頼まれて来たの？また何か仕掛けるつもり？」「社長はいま芽衣様のそばにいます......何も仕掛けはしていませんので。社長はもう狂っています....
