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第161話

Author: レイシ大好き
「はい。最近、会長はプロジェクトの打ち合わせで忙しくて、お昼にはもう会社を出ました。たぶん近くのレストランで食事してるんじゃないかと」

受付の人は、京弥に対して知っていることをすべて話してくれた。

京弥は軽く頷いて感謝の意を示すと、そのまま会社を後にした。

彼は、相変わらず音沙汰のないスマホの画面を見つめながら、胸の奥に不安を覚え始めていた。

どうやら、紗雪はまだ怒っているようだ。

京弥は向きを変えて、外のレストランをいくつか見て回った。

周囲の人々が自分に視線を送ってくるのを感じ、仕方なくマスクをつけ、車を走らせて周辺を一通り巡った。

最初は、ただ偶然会えたらラッキーくらいにしか思っていなかった。

ところが、ガラス張りのレストランの中で、紗雪の笑顔を見つけてしまった。

最初は距離があって、彼女かどうか確信が持てなかった。

というのも、彼女の向かいには男性と小さな女の子が座っていたからだ。

だが、窓を少し下ろした瞬間、京弥は確信した。

あの中にいるのは、確かに紗雪だ。

彼女の向かいには、明るい色の髪の男性がいて、その隣に小さな女の子もいた。

昨日はあんなに言い争いをしていたのに、今日はこんなにも笑顔を見せている。

特に、その女の子と話しているときの表情は、とても柔らかくて楽しそうだった。

京弥はハンドルを握る手に、思わず力を込めてしまう。

ついこの間まで怒っていたはずなのに?

あの男は何者?

まさか、わざと自分を嫉妬させようとしている?

京弥の脳内では、すでに一つの恋愛ドラマが始まっていた。

しかも、その男はそこそこ整った顔立ちをしていた。

そして、あの女の子......

彼らとの関係はいったい?

「さっちゃん......俺を裏切るつもりなのか?」

彼の車が道端に止まったまま、どれほどの時間が過ぎたのだろう。

やがて、紗雪も何となく気づいた。

誰かの視線をずっと感じているような気がしたのだ。

その違和感に日向が気づき、千桜の口元についたご飯粒を拭き取りながら尋ねた。

「どうした?さっきから顔色があまり良くないけど」

「ううん、なんでもない。考え過ぎたかも」

紗雪はすぐに表情を整え、さっきの違和感について日向には何も言わなかった。

ただの勘違いかもしれないし、万が一間違っていたら、余計な心配をかけることに
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