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第373話

Author: レイシ大好き
美月は最初、病院に行くのを嫌がっていた。

手を振って断ろうとしたその瞬間、目の前が真っ暗になり、そのまま意識を失った。

体が完全に力を失い、椅子にもたれかかるように崩れ落ち、唇はわずかに開いたままだった。

この光景を見た秘書は、心底驚いて叫び声を上げた。

「会長!どうしたんですか!」

「しっかりしてください、会長!」

彼は慌てて駆け寄り、美月の容態を確認した。

しかし確認してみると、美月はまったく意識がなかった。

まるで命の気配すら失われたかのようだった。

秘書は紗雪がまだドアの外に立っていると思い、とっさに外に向かって叫んだ。

「誰か!会長!早く来てください、会長が倒れました!」

だが、いくら待っても外から何の反応も聞こえてこなかった。

秘書はその時、何かがおかしいと感じた。

あれほど大声で呼んだのに、もし紗雪がそこにいたなら、すぐに駆けつけてくるはずだ。

彼は美月を椅子にしっかりと寝かせ、すぐさま他の幹部たちに電話をかけた。

幹部たちが駆けつけて美月の様子を見たとき、誰もが驚きを隠せなかった。

「どういうことだ?」

「元気だったはずだろ。なぜ急に倒れた」

一部の人間は秘書を責め始めた。

普段どうやって会長の世話をしていたのかと。

秘書は悔しかったが、実際のところ自分にも詳しいことは分からなかった。

ただ、この場面で彼は頭を切り替えた。

「もうやめましょう。今は会長を病院に運ぶのが先決です」

秘書はよく分かっていた。

会長の病状が外部に漏れれば、二川グループの株価に大きな影響が出る。

美月の身に何かあれば、誰もが恐れている事態が起こるかもしれない。

その一言で場が静まり返り、誰もが秘書の言葉に頷いた。

結局のところ、会長に何かあれば、会社にも甚大な損害が出る。

株価や市場にまで影響が及ぶことは想像に難くない。

彼らにとって「儲けが減る」「利益が下がる」ということは命に関わるほどの問題だ。

そう考えると、やはり今は迷っている場合ではない。

すぐに病院に運ぶのが最優先だった。

なにしろこれは、今後の利益にも直結する問題なのだから。

会社の未来の発展と方向性は、優れたリーダーなしには成り立たない。

会社の利益を守るためには、リーダーが倒れるわけにはいかなかった。

だからこそ、二川グループは美月の病状を
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