Share

第381話

Author: レイシ大好き
京弥はその言葉を聞いて、少し驚いた。

このタイミングで、紗雪が美月のそばにいない?

別の場所に行ってる?

そうであるなら、結果はひとつしかない。

紗雪が美月の件を知らないか。

それとも、この件は彼女が原因で起こったことか。

京弥は暗く沈んだ瞳でスマホを見つめた。

どちらの可能性であったとしても、彼は今すぐに紗雪のもとへ向かいたかった。

今の紗雪には、自分が必要だ。

彼女一人に、こんなことを背負わせるわけにはいかない。

そう思うと、京弥はすぐに紗雪に電話をかけた。

だがしばらく待っても、相手は出なかった。

自動で切断された音を聞いた瞬間、京弥の心臓が一瞬、重く沈んだ。

これが何を意味するのか、彼はわかっていた。

京弥は立ち上がった。

「車を出せ、二川グループに行く」

「かしこまりました」

匠は突然立ち上がった京弥を一瞬だけ驚いたように見たが、すぐに状況を理解した。

彼を止められない。

いっそ従った方がいい。

その方が互いにとって得策だ。

余計な時間を無駄にせずに済む。

「社長、私も同行したほうがよろしいでしょうか?」

京弥はその場で一瞬立ち止まり、すぐに返事をした。

「いや。彼女は君のことを知ってる」

その言葉を聞いた匠は、同行するつもりを諦めるしかなかった。

「わかりました。社長もどうか、お気をつけて」

「ああ」

京弥は短く応え、そして大股でドアの方へと歩き出した。

今の彼は、紗雪が外に一人でいるということが、どうしても気がかりでならなかった。

彼女がどこにいるかわからない以上、まずは二川グループに行くのが最善だ。

万が一紗雪が既に事実を知っているなら、真っ先に戻ってくる場所はそこしかないはず。

なぜか、

京弥は、この推測に対して妙な自信があった。

一方その頃、紗雪が京弥の電話を取らなかったのには理由があった。

日向との電話を終えたばかりの彼女は、頭の中が真っ白で、どう反応していいかわからなかったのだ。

もしも......

本当にもしも、美月が自分のせいでショックを受けて入院したのだとしたら......

そう思っただけで、彼女は自分自身を許せなかった。

何がどうであれ、美月は自分の実の母親だ。

こんなことになるなんて、自分は人間以下だ。

そんな考えが頭をよぎり、紗雪はすぐに美月の秘書に
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第386話

    何せ、他の人たちにはそんな度胸はない。まさに京弥がいるからこそ、紗雪もこんなに強気でいられるのだ。日向は自然な流れで紗雪の隣に立ち、彼女に紹介を始めた。「さて、早く会社の中を見に行こう。何をしたいのか、考えがあるんだろう?」三人が中に入ると、すぐに笑顔で迎えてくれる受付の姿が目に入った。「こんにちは」受付の声は柔らかく、態度も丁寧そのものだった。そして視線が紗雪に向けられた瞬間、その瞳がぱっと明るく輝いた。紗雪は彼女に軽くうなずき、すぐに口元に微笑みを浮かべた。その様子を見て、京弥と日向は少し驚いたようだった。このふたり、ずいぶん親しそう......?案の定、すぐに受付は紗雪の服の裾をそっと引っ張り、彼女のそばに寄って、会社の最近のゴシップをひそひそと話し出した。「聞いて、昨日ね、財務部で大変なことが起きたの......それに、数日前には営業部の内野さんと足立さんが、案件の取り合いで大喧嘩しちゃって......」紗雪は楽しそうに最後まで話を聞いてから、わざと真面目な顔をして小さく咳払いをした。「はいはい。今は勤務中だし、他の人もいるんだから、ちょっと真面目にね」受付は素直にうなずいて、きちんとした態度で約束するように笑いながら言った。「次からは気をつけます〜」そんなやりとりを見て、日向は思わず笑いながら紗雪に尋ねた。「紗雪って、普段から社員とそんなに仲がいいの?」「うん。勤務中とプライベートは別モードだけど」その言葉を聞いた日向は、少し驚きを隠せなかった。まさか、あの几帳面な紗雪の口からそんなセリフが飛び出すとは思っていなかったのだ。紗雪は二人を自分のオフィスに連れて行こうとし、受付に向かって声をかけた。「じゃあ、またね。こっちも用事があるから、続きは今度」受付は真剣な顔でうなずき、彼女の後ろ姿を見送った。もともとはお互いに会えば軽く挨拶する程度の関係だったが、ある時ふと紗雪の意外な可愛らしさに気づいてから、徐々に距離が縮まっていった。今では、面白い話があればつい彼女に話したくなる。今日もその例に漏れなかった。紗雪は受付に別れを告げると、すぐに日向と京弥を連れてオフィスの方へと歩き出した。そんな彼女の姿を見て、日向は声をかけずにはいられなかった。「紗雪

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第385話

    「何せ妻がどれほど綺麗で優秀か、俺が一番よく知っていますから」京弥は口元の笑みをさらに深め、「他人がどう思おうと俺には関係ありませんが。まあ、今回はその言葉を信じてあげましょう」と言い放った。「ああ」日向は眉をひそめながらも、そう返してきた。その会話を隣で聞いていた紗雪は、思わず顔を赤らめた。こっそりと、日向の目を盗んで京弥の腕を指でつねる。「......」京弥が彼女を見ると、紗雪の目には明らかな警告の色が浮かんでいた。それを察すると、京弥の驚いた顔はすぐにへりくだるような表情に変わった。紗雪は小さく鼻を鳴らすと、ようやく機嫌を直した様子だった。綺麗って......そんなの聞いてる方が恥ずかしいよ......それも日向がいる目の前で。紗雪は心の中で京弥に対して「恥というものを知らないのか」とつぶやいた。「それより、あなたはなんでここに?」紗雪は疑問を口にした。二人は事前に約束してた?......とはどうしても思えない。この険悪な空気を見る限り、そんなはずがない。紗雪は顎に手を当てながら、二人を交互に見つめた。京弥と日向も互いに一瞬視線を交わし、紗雪の目を意識してか、少し気まずそうだった。京弥は咳払いを一つして、先に説明を始めた。「何を想像してるんだ」「電話をかけたけど出なかったから、心配になって会社に来たんだよ」そして、日向の方へ軽く顎をしゃくって示すと、不満そうに続けた。「そしたら来てみたら、この二人がいるってわけだ」京弥の少し責めるような口調に、紗雪は珍しく罪悪感を覚えた。急いでスマホを取り出して確認すると、電源が切れていた。「ほらね。出なかったのはわざとじゃないの」紗雪は申し訳なさそうに微笑んだ。自分を心配して、わざわざ会社に来てくれた。そう思うと、胸の中にほんのりとした甘さが広がる。京弥はそんな彼女の頭をくしゃっと撫で、「もういいよ。責めてるわけじゃない。さあ、中に入ろう」と優しく言った。そこでようやく日向も要件を思い出したように、「そうだ、紗雪。会長のところにはやっぱり君が直接行った方がいい。他の誰が行っても、君ほど安心できないだろうからね」と告げた。その一言に、紗雪は日向へ感謝の眼差しを向けた。日向という人は、本当に気配

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第384話

    彼はビジネスパートナーと言える存在なのだから、母を見舞いに行くのは当然のことだ。「そんなことはないよ」紗雪は微笑みながら言葉を取り繕った。「母さんの様子を見に行くのも、まったく問題ないわ」ちょうど緒莉も向こうにいるし、母の体に余計な負担をかけたくはなかった。二人で中に入ろうとしたその時だった。怒気を押し殺した声が響いた。「君たち、何をしてる」紗雪と日向は同時に振り向き、その声の主を確認する。そして、紗雪は京弥の姿を見て目を見開いた。彼が、どうしてここに?彼女はもう一人の男へも視線を移す。今日はどうなってるんだ、この二人が同じ場所に現れるなんて。普段なら絶対に顔を合わせないはずなのに。紗雪はただ黙って、京弥がこちらに向かって歩いてくるのを見つめていた。男の背は高く、全身から「近寄るな」という雰囲気を漂わせており、その様子を見ていると、紗雪の心臓が高鳴った。こんな京弥を見るのは、本当に珍しい。特にあの目。あんな目を、紗雪は初めて見た。京弥が彼女のすぐそばまで来ると、まるで自分の存在を主張するかのように彼女の隣に立ち、敵意むき出しの視線で日向を見た。男は日向を上から下まで品定めするように見てから、家族のような口ぶりで紗雪に尋ねた。「さっちゃん、俺に紹介してくれてなかったよね?この人は?」紗雪は深く息を吸い込んだ。ひどく気まずい気持ちでいっぱいだった。......これは修羅場ってやつ?まさか自分が本当に巻き込まれるなんて。「こ......この人は、うちのビジネスパートナー、神垣日向」紗雪は日向に視線を向け、京弥のことも紹介しようとした。「こちらは......」だが、紹介しようとしたところで彼女は躊躇した。京弥のことをどう説明するべきか分からなかったのだ。そんな彼女の迷いを見抜いた京弥は、ためらうことなく彼女の細い腰を引き寄せ、挑発的な目で日向を見ながら言った。「どうしたんだい、嫁さん」「この神垣さんに直接言えばいいのに、俺たちは夫婦だって」紗雪は腰に触れる彼の体温を感じ、頭の中で鐘が鳴るような居心地の悪さに襲われた。たしかにこのところ、自分はネット上で京弥の存在を公にしていた。だが、こうして京弥が公の場で自分との関係を認めたのは、これが初め

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第383話

    紗雪はまだ何も言えないうちに、「プープー」という通話終了の音を聞いた。これでもう確信した。緒莉は、わざとだったのだ。彼女は、自分が美月を見舞いに行くことを、最初から拒んでいるのだ。その裏で何を考えているのか、紗雪には手に取るように分かっていた。美月がこんなことになって、自分が会社でじっとしていられるわけがない。そんなの、絶対にあり得なかった。ほかのことはさておき、美月が入院したのが自分のせいじゃないかとさえ思えてきた。それなのに、こんなふうに一人でじっとしていられるなんて、到底できない。他人がどう思おうと関係ない。自分自身、そうしたままじゃ許せなかった。美月は、彼女にとっては今でもとても大切な存在だった。たとえ口論になったからといって、それを理由に彼女を見捨てるなんて、あり得ない。そう思えば思うほど、紗雪の胸は締めつけられるように痛んだ。もし最初から、あんな口論さえなければ......こんな事態には、ならなかったかもしれないのに。紗雪は目を伏せ、その手をぎゅっと握りしめた。いま自分がすべきことはただ一つ。美月を見つけることだ。それ以外は、何の意味も持たない。今は、他の誰がどうだとか、どんな話が進んでいるかなんて関係ない。一番大事なのは、美月の体のこと。紗雪は唇をきゅっと引き結び、心の中で「どうか無事でいて」と祈った。そうでなければ、自分のこの罪悪感は消えない。少し目が潤みかけた紗雪は、会社へ向かおうとした。状況を確認するために、秘書にもう一度話を聞かなければならない。ただ黙って待っているなんて、自分らしくないし、なにより、事の成り行きをただ見届けるだけなんて、自分に許せるはずがなかった。そのとき、日向が現れた。ちょうど紗雪が会社に入ろうとしているときだった。「紗雪!」その声に足を止め、紗雪が振り向くと、明るい色の髪を揺らして、爽やかな笑みを浮かべた日向が駆け寄ってきた。「なんでここに?」思わず、彼女は声を上げた。日向は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。「さっき君に電話したろ?ちょっと心配になってさ」紗雪はその電話のことを思い出し、日向が細かいところまで気を配ってくれていたことに少し感心した。「大したこ

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第382話

    お願いだから怒りに任せて自分のスマホを投げたりなんかしないでくれよ!このスマホ、彼がつい最近買ったばかりのもので、本人もすごく大事にしてるんだから!「あまり怒らないでください。もしよければ、私が外に出て紗雪さんときちんと話を......」「いいえ、紗雪のことは私が話すわ」緒莉は冷たく言い放ち、ハイヒールの音を響かせながら病室を出ていった。彼女は、病室に長く居れば母の休息を妨げてしまうのではと心配していた。正直言って、紗雪にはあまり良い感情を持っていないが、母親に対しては真剣だった。孝行心は確かにあった。秘書はスマホのことを心配していたが、何と言っても緒莉は彼の上司である。上司がスマホを使いたいと言っているのに、文句など言えるわけがない。そう思いながら、秘書は心の中で泣きそうになっていた。ただ祈るしかなかった。二人の姉妹の会話が穏やかに終わってくれること、そして彼のスマホが無事であることを。緒莉は廊下に出ると、そのまま通話ボタンを押して電話を取った。紗雪は電話がつながったのを確認すると、すぐに尋ねた。「会長は今どうなってるの?大丈夫そう?」しかし、いくら待っても秘書の声が聞こえてこない。「......どうしたの?そんなに深刻なの?なんで黙るの?」「紗雪、本当に笑えるね」冷たい声が返ってきた。「......緒莉?」紗雪はすぐに気づいた。「山口(やまくち)さんのスマホがどうしてあなたに?」「当たり前じゃない。今、お母さんのそばにいるのは私なんだから!」緒莉の声には勝ち誇った色がにじんでいた。「母さんを心配してるって口では言ってるけど、いざという時にあんたの姿なんてどこにもなかった。これで孝行だなんて、笑わせないで」紗雪はその言葉を聞きながら、拳をぎゅっと握りしめた。確かに、自分にも非はあったかもしれない。だが、それを緒莉に言われる筋合いはない。「あなたに関係ないわ」彼女も負けずに言い返す。「山口さんにスマホを返して。あなたとは話したくない」「話したくない?」緒莉は鼻で笑った。「今、お母さんのそばにいるのは私。来たければ来れば?」「場所を教えて」紗雪は一切のためらいなく答えた。母のそばに行けるなら、それは願ってもないことだった。

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第381話

    京弥はその言葉を聞いて、少し驚いた。このタイミングで、紗雪が美月のそばにいない?別の場所に行ってる?そうであるなら、結果はひとつしかない。紗雪が美月の件を知らないか。それとも、この件は彼女が原因で起こったことか。京弥は暗く沈んだ瞳でスマホを見つめた。どちらの可能性であったとしても、彼は今すぐに紗雪のもとへ向かいたかった。今の紗雪には、自分が必要だ。彼女一人に、こんなことを背負わせるわけにはいかない。そう思うと、京弥はすぐに紗雪に電話をかけた。だがしばらく待っても、相手は出なかった。自動で切断された音を聞いた瞬間、京弥の心臓が一瞬、重く沈んだ。これが何を意味するのか、彼はわかっていた。京弥は立ち上がった。「車を出せ、二川グループに行く」「かしこまりました」匠は突然立ち上がった京弥を一瞬だけ驚いたように見たが、すぐに状況を理解した。彼を止められない。いっそ従った方がいい。その方が互いにとって得策だ。余計な時間を無駄にせずに済む。「社長、私も同行したほうがよろしいでしょうか?」京弥はその場で一瞬立ち止まり、すぐに返事をした。「いや。彼女は君のことを知ってる」その言葉を聞いた匠は、同行するつもりを諦めるしかなかった。「わかりました。社長もどうか、お気をつけて」「ああ」京弥は短く応え、そして大股でドアの方へと歩き出した。今の彼は、紗雪が外に一人でいるということが、どうしても気がかりでならなかった。彼女がどこにいるかわからない以上、まずは二川グループに行くのが最善だ。万が一紗雪が既に事実を知っているなら、真っ先に戻ってくる場所はそこしかないはず。なぜか、京弥は、この推測に対して妙な自信があった。一方その頃、紗雪が京弥の電話を取らなかったのには理由があった。日向との電話を終えたばかりの彼女は、頭の中が真っ白で、どう反応していいかわからなかったのだ。もしも......本当にもしも、美月が自分のせいでショックを受けて入院したのだとしたら......そう思っただけで、彼女は自分自身を許せなかった。何がどうであれ、美月は自分の実の母親だ。こんなことになるなんて、自分は人間以下だ。そんな考えが頭をよぎり、紗雪はすぐに美月の秘書に

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status