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クズ男を捨て、傷顔の完璧な御曹司に溺愛
クズ男を捨て、傷顔の完璧な御曹司に溺愛
Auteur: 秋

第1話

Auteur:
椎名琴音(しいな ことね)は、今夜も親友の兄・藤城瑛介(ふじしろ えいすけ)と体を重ねていた。

瑛介の額には細かな汗がにじんでいるが、一向に達する気配はなかった。

「あの……違うやり方にする?」琴音は彼を気遣い、頬を染めながらそっと提案した。

瑛介は優しく琴音の髪を撫でて言った。「大丈夫だ。自分でなんとかするから、先にお風呂に入ってきな」

シャワーを浴びながら、ふと着替えを部屋に忘れてきたことに気がついた。

バスルームのドアを開けた途端、リビングから瑛介の気持ちよさそうな声が漏れてきた。「沙耶……」

琴音の頭が真っ白になった。ドアの隙間から、瑛介がソファにもたれかかり、入江沙耶(いりえ さや)の写真を唇に押し当てていたのが見えた。

瑛介は目を閉じ、喉を震わせながら、掠れた声で呟いていた。「沙耶……愛してる……」

自分との営みでは一度として満たされなかった彼が、今、沙耶の名前を呼び、写真を見つめるだけで、あっさりと達してしまった。

その光景を見た琴音は、全身の血の気が引いていくのを感じた。

次の瞬間、突然瑛介の電話が鳴り出した。瑛介は荒い息を整えてから、受話器を取った。

すると、電話越しに友人の佐野陸(さの りく)の怒りに満ちた声が聞こえてきた。

「瑛介、本当に入江さんを金で買うのか?

昔、あいつがお前をどうやって捨てたか忘れたのか?お前の会社が倒産した途端、あいつは校長の息子と付き合い始めたんだぞ。今お前が金持ちになったからって、また寄ってきて……そんな女を……」

瑛介は目を閉じ、静かに答えた。「沙耶が見栄っ張りで、他人の気持ちを考えないような人だってことは知ってる」

一呼吸置き、彼は自嘲気味に笑った。

「それでも、愛してるんだ。ここ数年、会いたくておかしくなりそうだよ」

陸は息を荒げた。「なら琴音さんはどうするんだ?今の彼女は琴音さんだろうが!彼女を何だと思ってるんだ!」

瑛介は眉間を揉んだ。「頑張ってみたさ。でも、どうしても好きになれなかった。

本気で誰かを好きになったら、他の人なんて代わりに過ぎないんだ。

琴音は良い女だよ。でも俺にとって、沙耶の代わりでしかなかったんだ」

陸はため息をついた。「お前……本当にバカな男だな!琴音さんにバレて振られたら、後悔しても遅いぞ!」

瑛介の声には疲れがにじんでいた。「その時は受け入れるよ。

あまりに長い付き合いだから、自分から別れを切り出せないんだ。

もし琴音のほうから別れたいと言ってくれるなら、俺も都合がいいよ」

電話を切った瑛介がこちらへ歩いてくるのを見て、琴音は震え出し、急いでバスルームへ戻った。

シャワーの水が冷え切った体を叩き、琴音は瑛介と出会った時のことを思い出した。

それは高校1年生の入学式、瑛介が生徒会長として壇上で挨拶をしている時だった。

瑛介は清潔感のある白いシャツに身を包み、黒いスラックスがその長い脚を際立たせていた。生まれながらに備わったような気品に加え、思わず目を奪われるほどの端正な顔立ちだった。彼が顔を上げた瞬間、講堂にいた女生徒たちが一斉に息を呑んだことは今でも覚えている。

琴音は人混みの中で、マイクの高さを調節する瑛介の骨ばった指と、言葉を発するたびに上下する喉仏を見つめていた。

その瞬間、琴音は心臓が飛び出しそうになっていたのだ。

「ねえ、見惚れてる?」親友の藤城小春(ふじしろ こはる)が肘で突いてきた。「あれ私のお兄ちゃん。かっこいいでしょ?」

後になって知ったのだが、校内にはこういう言葉が流行っていた。「課題を忘れることはあっても、瑛介の顔を忘れることはない」と。

瑛介は全校女子の憧れだったが、全ての告白を丁寧に断り続けていたため、恋愛に興味がないと思われていた。

そして琴音は、小春の家に遊びに行くたび、こっそりと瑛介を陰から見つめることしかできなかった。

すべては、沙耶が転校してきたあの日から変わったのだ。

沙耶は炎のような情熱で、強引に瑛介を追いかけた。

誰もが沙耶も他の女子たちと同じ結果になると思っていたが、3ヶ月後、瑛介はあっさりと彼女の告白を受け入れた。

琴音は一生忘れないだろう。廊下の曲がり角で、瑛介が沙耶を壁に押し当ててキスをしているのを見てしまったあの日のことを。

瑛介は長い指を沙耶の髪に絡め、その瞳にはいつもの冷静さなど欠片もなかった。

琴音はただ、瑛介が沙耶に注ぐ愛情を見つめることしかできなかった。

瑛介は沙耶のためならなんでもできた。彼女の陰口を言う生徒を殴り、彼女とデートするために授業をサボった。

高校を卒業して、大学3年生になった時、藤城家が倒産した。

沙耶はすぐさま瑛介を振って、校長の息子と共に海外へ渡った。そして最後に、「瑛介、あなたじゃ私を満足させられないわ」と言い捨てたのだ。

あんなに誇り高い瑛介が、沙耶が乗っていた車を追いかけて倒れるまで走り続けた。

いくら叫んでも、沙耶は彼を振り返ることはなかった。

その後、まともにご飯も口に入らなくなった瑛介を、琴音はただ心配して、彼の周りをうろうろしていた。

そしてある日、「俺に付き纏って何がしたい?」と、瑛介に問い詰められた。

琴音は答えられなかった。

「俺が好きなのか?だったら付き合ってあげる」と彼は突き放すように言った。

付き合い始めて、瑛介が自分を選んだのは、過去の傷を忘れるためだったということを理解した。

それでも琴音は嬉しくて、瑛介に尽くし、彼の冷え切った心を癒そうとした。

いつしか、瑛介も琴音を大切にしてくれるようになった。

琴音の誕生日を覚えるようになり、体調が悪い時に心配し、雷の夜には笑いながら抱きしめて、「怖くないぞ」と慰めてくれるようになった。

やがて瑛介が倒産した藤城グループを復活させ、琴音をさらに甘やかすようになった。

2週間前、会員制サロンで給仕として働く沙耶に再会するまでは。

沙耶が誤って琴音のスカートを汚してしまい、瑛介は即座に1億の賠償を要求した。

沙耶が目を潤ませ、恐る恐る返事した。「お金はないわ。でもまだ処女だから体は高く売れるわ。金が手に入ったらすぐに返す、それでいい?」

瑛介は沙耶の顎を掴み、冷ややかに言った。「いいだろう。全額きっちり返してもらうからな」

あの夜、瑛介は書斎に閉じこもって、琴音を一人寝室に残していた。彼が戻った時、きついタバコの匂いが琴音の鼻をついた。

そして瑛介は一晩眠れなかった。

この時すでに、瑛介は沙耶の体を買ってやることを決めていたのだ。

長年抱き続けてきた憎悪の裏に、荒々しい恋慕と愛着が隠れていた。

琴音と一緒にいて満足できなかったのは、彼女との関係がゴールではなく、ただの通過点だったからだ。

……

シャワーを浴びながら、琴音は突然笑い出した。笑いながら、涙が溢れ出た。

こっちにだってプライドはある。去り際ぐらい自分で決めてやる。

愛してないのなら、正直に言ってくれればよかった。

そうすれば諦めるのに。

琴音はシャワーを止めて、スマホを手にして、誰かにメッセージを送信した。

翌朝。瑛介が朝食を取り終えたばかりの時、琴音は身支度を整え終わっていた。

「そんなに早く起きて。もう少し寝ていればいいのに」

琴音は視線を落とした。「ちょっと、行かなきゃいけないところがあって」

瑛介は微笑んだ。「車で送ろうか」

車に乗り込み、琴音が行先を伝える前に瑛介のスマホが鳴り出した。

秘書・黒崎拓己(くろさき たくみ)の声が響く。「社長。入江さんの件ですが、今夜例の会員制サロンで行われる予定です。社長も直接お越しになりますか?」

瑛介は表情を曇らせて返事した。「ああ」

間を置いてから、また口を開いた。「今すぐ向かおう」

瑛介は通話を切って琴音のほうを見た。言い訳をする前に、琴音は全てを察した。

沙耶の初夜が他人の手に渡るのがそんなに嫌なのか?

琴音は瑛介が何かを言い出す前に彼を遮った。「用事があるのね。私はここから自分で行くわ」

瑛介は弁解もせず、今すぐにでもこの場を離れたい一心で頷いた。

「わかった。気をつけて」

琴音は返事を返さなかった。車を降りるとすぐ、タクシーを捕まえて小春が待つカフェへ向かった。

ドアを開けた途端、小春が駆け寄って琴音の両手を握った。そして目に涙を浮かべて言った。

「琴音、昨日のメッセージ……本気?本当に私の代わりに一ノ瀬家に嫁ぐっていうの!?」

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