椎名琴音(しいな ことね)は、今夜も親友の兄・藤城瑛介(ふじしろ えいすけ)と体を重ねていた。瑛介の額には細かな汗がにじんでいるが、一向に達する気配はなかった。「あの……違うやり方にする?」琴音は彼を気遣い、頬を染めながらそっと提案した。瑛介は優しく琴音の髪を撫でて言った。「大丈夫だ。自分でなんとかするから、先にお風呂に入ってきな」シャワーを浴びながら、ふと着替えを部屋に忘れてきたことに気がついた。バスルームのドアを開けた途端、リビングから瑛介の気持ちよさそうな声が漏れてきた。「沙耶……」琴音の頭が真っ白になった。ドアの隙間から、瑛介がソファにもたれかかり、入江沙耶(いりえ さや)の写真を唇に押し当てていたのが見えた。瑛介は目を閉じ、喉を震わせながら、掠れた声で呟いていた。「沙耶……愛してる……」自分との営みでは一度として満たされなかった彼が、今、沙耶の名前を呼び、写真を見つめるだけで、あっさりと達してしまった。その光景を見た琴音は、全身の血の気が引いていくのを感じた。次の瞬間、突然瑛介の電話が鳴り出した。瑛介は荒い息を整えてから、受話器を取った。すると、電話越しに友人の佐野陸(さの りく)の怒りに満ちた声が聞こえてきた。「瑛介、本当に入江さんを金で買うのか?昔、あいつがお前をどうやって捨てたか忘れたのか?お前の会社が倒産した途端、あいつは校長の息子と付き合い始めたんだぞ。今お前が金持ちになったからって、また寄ってきて……そんな女を……」瑛介は目を閉じ、静かに答えた。「沙耶が見栄っ張りで、他人の気持ちを考えないような人だってことは知ってる」一呼吸置き、彼は自嘲気味に笑った。「それでも、愛してるんだ。ここ数年、会いたくておかしくなりそうだよ」陸は息を荒げた。「なら琴音さんはどうするんだ?今の彼女は琴音さんだろうが!彼女を何だと思ってるんだ!」瑛介は眉間を揉んだ。「頑張ってみたさ。でも、どうしても好きになれなかった。本気で誰かを好きになったら、他の人なんて代わりに過ぎないんだ。琴音は良い女だよ。でも俺にとって、沙耶の代わりでしかなかったんだ」陸はため息をついた。「お前……本当にバカな男だな!琴音さんにバレて振られたら、後悔しても遅いぞ!」瑛介の声には疲れがにじんでいた。「その時は受け
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