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第5話

作者:
琴音が言い終えると、個室は一瞬で静寂に包まれた。

全員の視線が一斉に琴音に集まり、それからゆっくりと瑛介へと移っていった。

数秒の沈黙の後、個室の中に大きな歓声が沸き起こった。

「マジかよ!瑛介、もうプロポーズしたのか?それなら彼女じゃなくて、婚約者って呼ぶべきだな!」

「いやいや、奥さんって呼ぶべきだろ!」

周囲が賑やかに囃し立てる中、部屋の隅にいる沙耶だけがバッグをきつく握りしめ、目を真っ赤にしていた。

瑛介の視線が沙耶をかすめ、その瞳の奥に一瞬、躊躇いの色がよぎった。

彼はそっと目を伏せ、ゆっくりと指を一本折り、低い声で言った。「今のところ、その予定はないよ」

その声はとても静かだった。だが、その一言は、琴音の心を激しく揺さぶった。

みんなは当然のように、二人が結婚するものだと思っていた。

琴音が結婚すると言った直後に、瑛介はそれを否定した。

みんなの前で琴音を完全に無視し、結婚したくないと突き放したのと同じだった。

周囲も異変を察したようで、気まずそうにフォローを入れた。「おいおい、どうしたんだ?ちゃんと話し合ってないのか?」

琴音は口を開き、説明の言葉を考えた――

瑛介とはもう恋人じゃないと。

結婚する相手は瑛介じゃないと。

そう言おうとした瞬間、突然頭上からミシミシという音が鳴り響いた。

「危ない!」

誰かが悲鳴を上げた。

琴音が見上げると、巨大なシャンデリアが外れかけ、自分と沙耶の頭上へ向かって落ちてくるところだった。

そして次の瞬間、瑛介が凄まじい勢いでこちらへ駆け寄った。

しかし彼は真っ先に沙耶の体を抱き寄せ、きつく腕の中にかばった。

一方、置き去りにされた琴音の上には、重いシャンデリアが落ちてきた。

ガシャーン!

痛みが全身に走り、飛び散ったガラスが肌を裂いた。血が瞬く間に袖口を赤く染めた。

周囲はパニックになり、誰かが悲鳴混じりに琴音の名前を叫び、みんなが慌ててシャンデリアをどけようとした……

しかし、瑛介は沙耶の無事を何度も確認した後に、思い出したように琴音のことを振り返った。

彼は急いで琴音のそばに駆け寄り、気まずそうに言った。「琴音、本当にすまない。助ける人を間違えてしまって……」

琴音は瑛介の目を見つめ、笑いながら目を赤く潤ませた。

間違えた?

自分と沙耶は、髪型も着ている服も、背の高さも何もかも違うのに。

見間違えるはずなんてなかった。

ただ、命に関わる非常時に、瑛介の体が真っ先に選んだのが沙耶だったというだけのことだ。

「ううん、平気。痛くないよ」

傷つくことに慣れすぎてしまったのか、もう、本当に痛みすら感じなくなっていた。

瑛介はそれでも心配し、急いで病院に運ぼうとしたが、琴音は頑なに首を振った。「軽い傷だから大丈夫。自分で手当てするから、気にせずみんなと遊んで」

琴音が立ち去ろうと背中を向けた時、突然瑛介に体をすくい上げられ、横抱きにされた。

「こんなひどい怪我をしているのに、そのまま帰すわけにはいかないだろ?」瑛介は強い口調で言った。「俺が送る!」

車の中でも、瑛介は繰り返した。「琴音、本当に焦っていて人を見間違えたんだ。もう二度と危険な目には遭わせない。

結婚のこともそうだ。お前はまだ若いんだから、何もそんなに急がなくてもいい」

そんな矛盾だらけの言い訳を静かに聞きながら、琴音は何も答えず、ただ窓の外を眺めながら、雨の滴がガラスを叩くのをじっと見つめていた。

静寂を切り裂くように、瑛介のスマホが鳴った。沙耶からだ。

「瑛介、椎名さんをちゃんとお家まで送り届けられた?怪我は大丈夫?

あの、ちょっと困ったことがあって。サロンの入り口で男の人たちに呼び止められて連絡先を聞かれてるの、どうすればいい……」

その声を聞いた瞬間、瑛介の表情が一瞬で曇った。

顔色がみるみるうちに険しくなり、怒りに震えるように言った。「教えてみろ、ただじゃ済まさないからな!」

一方的に電話を切った後、瑛介は怒りを必死に抑えながら、再び琴音に言った。「琴音、急用が入ってしまったんだ。一人で家に帰ってもいいか?」

琴音の返事も待たず、彼は1本の傘を彼女の手に握らせた。

「外は雨だから、風邪をひかないようにな」

瑛介はそのまま車を発進させ、すぐにその場を離れた。

琴音は雨の中で立ち尽くした。そして、つい先ほど瑛介に言われた言葉を思い出す。「こんなひどい怪我をしているのに、そのまま帰すわけにはいかないだろ?」

琴音が、ふっと笑った。

自分のことを笑っているのか、それとも瑛介への皮肉なのか、琴音自身も分からなかった。

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