なんとか説明して、北村シニアマネに分かってもらった。
「すまなかったね。いやー、勘違い。ここに座るのはみんなそーなのかと思ってしまって」 そんなのは、北村シニアマネだけでしょう。バランスボール、座りたくなくなった。「なに聴いてたの?」 これですか?「三味線の音がもれてたから」 スピーカーON。「あれ? 片っ方のイヤホン、渡して聞かせてくれないの? よく公園のベンチで恋人同士がやってるじゃない」 どうしてあんたと恋人同士みたいなことしなきゃならない? 変な親近感持ってもらっちゃ困るんだよ。ぢー仲間じゃないからな。「これ、宮司の奥さんの声に似てるな。三味線も?」 北村シニアマネお知り合いなんですか? 実は、役場のカルチャーで……。「やっぱりそうなんだ。懐かしいな。あの時、千福オーナーのところで宮司の奥さんにもお稽古つけてもらった」「二人だけかと」「千福オーナー三味線弾けないからね」 そうなんだ。「宮司の奥さんも美しい人でね。お姉さんだけあって」「え? お姉さんなんですか?」「そうだよ。双子のね。美しいと思わないかい?」 それは認めます。物腰がおちついているからそれなりのお年だとは思うけど、「20代に見えるくらい若々しいです」 大げさなようだけど、実際あたしとタメに見えることある。「そう、僕の時も20代に見えたけど。美人は年を取らないものなんだね」 20年前から年を取らない?「あの頃は、二人は仲睦まじくてね。まるで恋人同士のようだったんだよ」 まるで恋人同士。「ひょっとしてですけど、お師匠さんて千福オーナーのこと人に話すとき」「9月30日22時。町長と千福オーナー倒してから2ヶ月か。車のスマートキーだけ持って、セイラにラインしてっと。[子ネコのママ友会 カリン(そろそろ出るよ)、セイラ(おk)]「ヒビキ、行くのか?」「はい、社長。納品日ですから」「そうか」「あの」 本当にいいんですか?「よろしく頼む」 更生室に寄ってから行こう。これ終わったらなくなるし。 最近は北村シニアマネが新事業立ち上げに奔走しててカイシャにいないから、変わって吉田クンが更生室を占拠してる。役場倒壊事故の責任取らされてヤオマン建設代表取締役から経営戦略室付き平取締役に降格になってから、社長の水平リーベ棒。ぶーらぶーらは黄緑のバランスボール使用。「お、ヒビキくん。よく来たね。こっちのに座りなさい」 いえ、紫のは遠慮しときます。それは北村シニアマネ専用で。「いよいよか。社長は何か言ってたかい?」「よろしくとだけ」「二人のことだから、僕も横から口は出せないが……」 お、何か言うつもりか? ぶーらぶーら、ぶーらぶーら、ぶーらぶーら、ぶーらぶーら。いつまでやってるの?「満太郎もビックリだ」 はあ? あんた二人の同期だろ。何かないのか?二人のなれ初めとか、愛情示すエピソードとか、社長の気持ち代弁するとか。そのためにここにいたんじゃねーの? ほれ。「そろそろ終わったころだな。さて、仕事、仕事っと」 出て行っちゃったよ。印刷室入っていった。あーそうね。そういうことですね。ただの印刷待ちじじーだったのね。
……。 (どうして裸足なのかって? ママとけんかして飛び出してきたんだ。一緒にいてくれる? ねえ、ココロってば、どうして逃げるの? どうして……。ごら、ウチら友だちだろが!) …………。 ………。 ……。 …。 静かだな。寒い。 ゴリゴリゴリゴリ。 「レイカ」 「レイカ。目を覚まして」 ウチ裸だ。で、ここは? 屋敷? 全部吹っ飛んでて。 あ、カリン。 ゴマすってんのはセイラっと。 どっかであったシチュだな。 ちがうのはナナミがいること。 「レイカ、これ着な」 「ありがと、これ辻沢の夏の制服。どしたの?」 「役場からがめってきた」 「わー、ぴったり。ナナミありがとー」 って、そんな目で見んな、カリン。 ウチは制服系のセーヘキ持ちじゃねーから。 「で、どうしたの? セイラ、ゴリゴリもうよくない?」 「あ、ごめん」 ゴリ。 「宮木野さんからはレイカに変化があったら、とにかく遠くに逃げろって言われててね」 カリンごと吹っ飛ばさなくてよかった。 「どこに逃げたの?」 「雪隠の隅の個室で小さくなってた。しばらくしたら」 「地響きがしだして」 「そう、お腹の底から響いてくるような。 地面から突き上げるような」 「車が跳ね上がるくらいの縦揺れ。 止んだら、今度は、屋敷の中から七色の彩光が射してきた」 「セイラ眩しすぎて目が開けられなかった」 「ドーーーーーーンって、すごい音がして」 「屋敷が吹っ飛んだ」 「爆風やらなんやらで、もみくちゃにされて」 「車、10回転くらいして、あそこで大破」 「廃車決定」 「新車だったのにね」 「ツライよ」 光? 「そう、地平線にお日様が出
カリンの紫キャベツで六道辻のミワちゃんのうちまで来た。 少し車酔いしたみたい。セイラとナナミも一緒。 でも二人は車で待っててね。玄関わきの垣根の花は、今はほとんどくたってる。やっぱ。ここは、 「「たのもー」」 って、返事ないよね。 「「御邪魔しまーす」」(小声)カゲゼンした部屋。いない。 ミワちゃんの部屋。誰もいない。 ずっとまっすぐ行って雪隠。いないな。 どこにいるんだろ。お出かけ? なら、タイミング悪スギしょ。 「ごきげんよう」 ヒッーーーーーーーッヒ。 「中村先生のお部屋を教えてもらおうか。辻王の娘と、そちらは、この間の修学旅行生」 やっぱ、あんただったのか。 見たことあると思ったら、与一さん。 「何をしに来たのだ?」 この人、線が細いのにすごい威圧感ある。 「宮木野さんから、ジョーロリの手ほどきしてもらえって言われまして」 「なに? 姉サアから? で、稽古は三味線でしてお貰いか?」 「はい、サワリの部分ですが」 「どれ、聞かせて御覧な」 「なげきのむちもあにぇはなおー。 いもとがしぇなを、なで、おろしー。 おーお、そなやにおもやるももっとも。 しかし。 そなたがちちははに、なごおそやったみのかほおー。 これこのあねをみやいのおー」 カリン、こんな芸があったんだ。 「ほう、よい声をしておるな。 しかし、やはりフシは語りがやらねばホンモノにはならぬの。 あたしがお稽古をつけてあげよう。 ささ、書院へ」 宮木野さんの言うとおりになった。 ホントに後ろ姿も女の人だよ。 キレイだねー。美しいねー。 ウチもあんなになれたらいいのにな。 ここ、カゲゼンした部屋だ。 「さ、もう一度、聞かせておくれな」 「なげきのむちもあにぇはなおー」(以下略) 与一さん、さっきまでの威圧
高倉さんが、ちょいちょいって手招きすると、ココロとシオネがゆっくり近づいてくる。 「この方たちの傷は、首筋に沿って穴が二つ」 高倉さんが、セイラとカリンに耳打ちした。 カリンは立ち上がって、駐車場の紫キャベツに向かって走って行って、座席からバスケのボールと水平リーベ棒とを持って戻ってきた。 「ありがとうございます。ヒビキさん、お願いします」 カリンが手にしたボールをオーバーヘッドパスで投げると、シオネが両手を上げてはっしとボールをつかんだ。 シオネをそのままにして、高倉さんが近づいて行ってカリンから水平リーベ棒を受け取ると、伸ばしたシオネの腋に押し当てて、そのままぐっと力を入れた。 びっくり。 水平リーベ棒が腋の下にずぶずぶと入っていく。 深さで言えば30センチくらい。 高倉さんはそれを引き抜いて、ウチらに水平リーベ棒を見せた。 半分くらいのところまで赤黒いものが絡みついている。 ウチはシオネのもとに行って腋の下を見ると、この間、柴草がついてると思った場所が傷口だった。 今度は、セイラがココロの傍に立って、左の腕を持ち上げる。高倉さんはシオネにしたのと同じように、水平リーベ棒をセーラー服の半袖のすき間から差し込んで、ぐっと力を入れて押し込んだ。 こっちも30センチは潜ってゆく。 引き抜いた痕を見ると、シオネのとおんなじ傷があった。 「二人の致命傷はこの傷の方です。 首にある傷は、おそらく六辻会議に対する目くらましでしょう」 どぃうこと? 「辻のヴァンパイアには、二種類います。 我々のような犬歯を牙とするもの。レイカ様もそうです。 もう一つは、前歯が牙となるもの。 前者は頸動脈に歯を立てて血をすすりますが、後者は牙を自在に操れるのでどこからでも吸血できます。 だから腋の下から心臓に直接牙を差し込むことも可能なのです。 その時傷はこのような鋭利な刃物で切り裂いたようなものになります。 いま辻沢にいるヴァンパイアでこの牙を持つのは、 与一だけです」 (「ぼく、とっとこネズたろーだお」(チ
どれくらい経っただろう。 ウチらは駐車場の端っこで、どんどん人が集まてくるのを眺めてた。 ただの野次馬かと思ったら、手に手になんか武器みたいの持ってる。 そっか、ゲームの人たちが最終ステージの「死霊の塔」に集まってきたんだ。 残念でした。制服聖女エリ様はもういません。 ヒマワリ、ミワちゃん。ホントーにゴメンね。 ウチのボケは死ぬまで治らない。 って、ヴァンパイア、死なないじゃん。 でも、なんでその中に職員さんがいっぱいいるのかな。 あれって、ひょっとしてショーン? 総出だな。 さらにしばらくして消防車や警察の車が駆けつけた。 遅すぎでしょ。 カリンとセイラとウチ、高倉さんのまわりに座ってる。 なんだか、高倉さんがコートの川田せんせーに見えてきた。 (「みんな、よく聞きなさい。 これはあんたたちのトール道だよ。 相手がどんなに強くっても、自分がどんなに傷ついてても、決して諦めちゃダメ。 メンタルを強く持って耐え抜いて、 頭を使って切り抜けるの。 そして勝利をもぎ取りなさい。 あんたたちならやれる。 挫けるな。 チームのみんながついてる」) ……川田せんせー、全部分かってたんだ。ココロとシオネは? 少しはなれた林のトコロに立ってる。 二人に支えられて白目むいてるあの男の子、誰? 「最後の仕上げの前にお話しておきましょうね」 高倉さんが話し出した。 「最初に辻沢に現れた二人のヴァンパイアは、宮木野と志野婦。 双子というのは、もう」 「知っています」 あ、ウチは。 「その宮木野というのが、私です。 そして、志野婦というのが、辻一、ミワさんの養祖父千福|一《はじめ》、本当の名前は与一といいます」 「お師匠さんが、宮木野さんなんですか?」 「じゃあ、あの銅像は高倉さん?」 「いいえ。あれは私の母です。母の名も宮木野といいます。遊女であったのは母なのです」 おかあさんの名前を引き継
ウチは必死になって炎のギジドーを探した。 ミワちゃんは? ミワちゃんどこ? 「ナナミ。ミワちゃんいない」 「きっと町長室だ。ヒマワリのとこ」もいちど階段上がって、ナナミと町長室の前へ。 扉に鍵が掛かっててあかない。 「ミワちゃん。ヒマワリ。一緒に逃げよ」 中からヒマワリの声。 「もう遅い、ウチらはここでさよならだ。ナナミそこにいるね」 「ああ」 「カリンとセイラにありがとうって」 「わかった」 「ミワちゃん!ヒマワリ!二人を置いてけないよ」 「バカ言ってないで、はやくしな。あたしらはレイカを売ったんだよ」 ミワちゃんの声。 「そんなの、あとで考えようよ。今は一緒に逃げなきゃだよ」 「じゃあ、本当のこと言ってやろうか?」 「ママを殺したっていうんでしょ」 長い沈黙。ウチとミワちゃんたちを隔てる距離のような。 「そんなのナンカの間違いだから。きっとウチが真相解明してみせからる」 〈何故なら、私は一流のミステリーを1000冊以上読んで……〉 「こんな時にゲップて」 「大変だな。レイカ」 「ナナミ。ウチ辛い」 「まあ、分からないでもないが、レイカ。ちなみに、ここ傾きだしてるぞ」 ホントだ、床が揺れてる。ふわふわした感じ。 「やっぱり、この円盤って飛んで脱出するヤツ?」 「ばっか。落ちんだよ。はやく。非常階段へ!」 「でも」 「ウチらだけでも下まで降りなきゃ。こいつに巻き込まれたら終わりだ」 「ミワちゃん! ヒマワリ!」 ナナミに手を引っ張られて階段へ。 「誰だ非常扉鍵かけたヤツ」 「展望エレベーターは?」 ボタン押すとドアが開いたから乗ってみる。 「動くみたい。ポチっとな」 ドアが閉まるより早く降り出した感じだった。気のせい? 「なんか、速くね?」 「うん。これ落ちてるっポイ」 「ウチら死ぬのか?」 「ナナミ、こっち来て」 「きめーな。レイカそ