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7ー3.ヒビキは仕事に戻る

last update Last Updated: 2025-04-22 18:00:16

 なんとか説明して、北村シニアマネに分かってもらった。

「すまなかったね。いやー、勘違い。ここに座るのはみんなそーなのかと思ってしまって」

 そんなのは、北村シニアマネだけでしょう。バランスボール、座りたくなくなった。

「なに聴いてたの?」

 これですか?

「三味線の音がもれてたから」

 スピーカーON。

「あれ? 片っ方のイヤホン、渡して聞かせてくれないの? よく公園のベンチで恋人同士がやってるじゃない」

 どうしてあんたと恋人同士みたいなことしなきゃならない? 変な親近感持ってもらっちゃ困るんだよ。ぢー仲間じゃないからな。

「これ、宮司の奥さんの声に似てるな。三味線も?」

 北村シニアマネお知り合いなんですか? 実は、役場のカルチャーで……。

「やっぱりそうなんだ。懐かしいな。あの時、千福オーナーのところで宮司の奥さんにもお稽古つけてもらった」

「二人だけかと」

「千福オーナー三味線弾けないからね」

 そうなんだ。

「宮司の奥さんも美しい人でね。お姉さんだけあって」

「え? お姉さんなんですか?」

「そうだよ。双子のね。美しいと思わないかい?」

 それは認めます。物腰がおちついているからそれなりのお年だとは思うけど、

「20代に見えるくらい若々しいです」

 大げさなようだけど、実際あたしとタメに見えることある。

「そう、僕の時も20代に見えたけど。美人は年を取らないものなんだね」

 20年前から年を取らない?

「あの頃は、二人は仲睦まじくてね。まるで恋人同士のようだったんだよ」

 まるで恋人同士。

「ひょっとしてですけど、お師匠さんて千福オーナーのこと人に話すとき」

「《《あの人》》って言うよ。弟だけどまるで彼氏みたいにね」

「じゃあ、志野婦神社の土地の所有者って、千福オーナー?」

「そうだよ。以前はもっとあったが今はあそこだけだよ」

 お師匠さんのターゲット間違ってた。宮司さんでなくって、千福オーナーだった。

なら、あの人がしてる危
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     エレベーター走んなくても普通に乗れたんだけど、何なの? 〈ゴリゴリーン。8階です〉 え? ナニナニ。なんのモヨーシ? ドヤドヤドヤって、人がいっぱい。押すなって、潰れるっての。レディーが一人乗ってますよー(無声)。  マジ? ホントにモー無理。またセーヘキ軍団と一緒になった。こいつらとエレベーターでギューギューって最悪。ショーンが言ってた変なのってのはこいつらのことか。分かってて避けやがったな、ショーンのやつ。  押すな。いてーよ。無理して乗ろうとするなよ。諦めて階段使えや。だからさ、後ろのヤツ。人の髪、クンカクンカしてんなっつーの。ミラーに映ってるからな。わかるの。それから誰だ? ボタン押しまくった奴。 〈締まります。ゴリゴリーン〉 「なんと、制服聖女エリ様がエレベーターホールでお見送りしてくれた」 「これはありえん現象のようだぞ」 「あー、そのようだな」 「しかし、エリ様はお美しかった」 「この世のものとは思えなかった」 〈7階です。ゴリゴリーン〉「……」〈締まります。ゴリゴリーン〉 「ラスボス倒してエリ様を助けたら、この記念にもらった制服、着てもらえるって言ってな」 「血の団結式前にゴリゴリカードのコンプしといてよかったということか」 「だが、すでに制服着ているエリ様がどうやって着るんだ」 〈6階です。ゴリゴリーン〉「……」〈締まります。ゴリゴリーン〉 「……生着替え」 「重ね着はちょっとな」 「ないだろう、それは」 「待て。入り口のヒト、今なんと?」 「生着替え」 〈5階です。ゴリゴリーン〉「「「ホントーか!」」」〈締まります。ゴリゴリーン〉 「やばい、今ホールに声が駄々洩れだった」 「守秘義務、守秘義務」 「秘匿事項、秘匿事項」 「幹事の義務と責任、幹事の義務と責任」 「アカウント・バン、アカウント・バン」 「強制退会、強制退会」 「情報源は?」 「妓鬼討伐ステージの友だちから」 「そんなレベルチのお知り合いが?」 「一応」 〈3階で

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     眠い。分かってたことだけど、やっぱりあんなことあると昼でも安心して寝てられないよ。これからどうしよう。みんなの所、泊まり歩くってのもな。あーあ。   バス来た。 「役場まで」 ゴリゴリーン。 バスの中、むさ苦しいのが充満してんですけど。宮木野神社前から大量に乗ってきた。例のセーヘキ持ちの同族なのはよっく分かるんだけど、どこ行くの? このバス役場行きだよ。 「血の団結式に呼ばれた我々は」 「課金レベルαのハイエリート」 「つまり上カモの集団」 「『V』まではな。『R』からは幹事だ」 「PT作れるのは幹事だけ」 「PTの人選も、武器の配置も」 「カメラの独占権はでかい」 「ミッションの成否は幹事にありってか」 「幹事でない奴らって」 「土地を持たない農民、網のない漁師」 「あわれだな」  ぐわー。結局役場まで一緒だったよ。3か月じっくりとろ火で煮込んだ汗臭に、シトラス系の消臭スプレーぶっかけたみたいなニオイが体にこびりついちゃった。 お風呂でゴッシゴシ洗ったけど、こびりついたセーヘキ臭は取れてない感じ。ズズー、ズズース。なになに、この書類を9階に届けよと。ごほーびはミワちゃん特製ヘビイチゴミルクセーキ。すでにいただいておりますが。ズズース。  西棟のエレベーター動いてるから、まだ上に人がいるってことだよね。じゃ、今のうちに行って来よ。 はじめて来たけど、フツーに役場してるんだね。ワンフロア全部が厚生課か。食餌係ってどっちかな。あっちの方か。でも、もう人がいない。お、奥の方だけ灯りついてる。人がいる。ひょっとして、ウチとおんなじ夜間窓口な人? 「あのー。特殊戸籍課の者ですが、この書類届けに来ました」 「あー、ありがとうございます。そこ置いといてください」 「遅くまで大変ですね。夜間窓口の方ですか?」 「まさか。頼まれてもそんな仕事しない……。あれ? ネズタロー? もとい、レイカ」 「そういうあなたは、ショーンくん?」  中学の同窓会以来だ。何年ぶりだろ。なんかちょっとイケメンになってない? ようや

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-10.ヒビキも祭りに酔う

     お偉い皆さん社長に尻を蹴られるように会議室出て行った。それから30分、まるで居残りシュート練習って感じだな。ずっと質問攻め。社長の聞きたいことは、それじゃないんじゃないですか?「あの社長。会長のことですけど」「そっちもあったね。どう?」「会長は町長と何かやってます」「何かって?」「まだ、はっきりとは分かりません」「分かりそう?」「会長の足取り追っていけば」「どうやって?」「会長は常時位置情報取られてて誰かに行動を監視されてるみたいで」「あー、それね。あいつにスマフォ当てがってやった時からずっとそうなんだけど、バカだから全部行動把握されてるのに気付いてなくてね」 だから会長って車乗るといっつもシガーソケットから電源とって繋いでたんだ。位置情報サービス使うせいで電源早くなくなって。「ヒビキんところに足しげく通ってたのも記録されてたな。3年前だけど」 いいえ、社長。通ってたんじゃないです。だって、あたしはですね、せっまい公団住宅に母親と同居ですから。「東京の本店がダメになって、カスをこっちに戻したけど置き所なくってね。新人のあんたを付けて閑職与えてやったら、あんたに手を出した」 社長、なんか誤解があるみたいです。「あんたには申し訳なかったね。すぐに引っ剥がしてあたしの手元にとりあえず置いたけど」 とりあえず? 聞いてない。「ところが、あんたは名前の通りよく響くっていうのか、勘所知ってるってのか、言われる前にいつの間にか結果出してる。気付けばなんでも頼めるようになってた」 で、そのなんでもというのは?「白いエクサス、欲しいだろ?」「はい」「夜勤の後、シャワー浴びたいだろ?」「もちろんです」「じゃあ、よろしくお願い」「期日は?」「変わらず」「7末と9末ですね」「報告は完了届だけでいいよ。しばらく会社出なくていい。専念して。で、これ持って行きな」 おー、プラチナゴリゴリカード。沿線8女高の夏服姿がプリントしてある。こ

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-9.ヒビキも祭りに酔う

     空気重い。コの字に並べた会議机に、3吉田、北村シニアマネ、伊礼バイプレまで。社長待ちの役員会議室。真ん中のパイプ椅子にあたし。この状態は入社の時の役員面接以来だけど、緊張はあの時ほどでない。 入口の扉が勢いよく開いて、「ヒビキ、やってくれたな。カイシャ潰れるぞ」 社長、ご来臨。怒り度、60パーセントに抑えてる。「すみません」「幸い、死人は出なかったが、けが人が両手出た。金と信用含めて、かなりの損失だ」 言いようがないです。どうして志野婦の神輿が宮城野の神輿にぶつかっていったのか? あれはあきらかな故意。誰かに命令されたような。なんてことはここでは口にしませんから、社長。「一番に現場に行って仕切ったことは褒めてやる。まあ、ヒビキ一人を攻めてもどうなるものじゃなし。言ってみれば、ここに雁首並べた連中みんなが責任を負うべきだ。なあ、北村」「へ、へい」「何が、へいだ。お前んちの屋号は『小房の粂八』か?」 北村シニアマネ、緊張しすぎ。「プレス集めて謝罪会見は吉田クンお願い。カス同席で土下座でもなんでもさせて。その後は懇意の記者連れて病院回って」 『クン』付けは吉田シニアマネ。社長とは高校の同期だから。当然会長とも同期で、かつ設立メンバー。「宮木野信用金庫からいろいろ言って来てます」「吉田さん、あんたのコネクションはこういう時のためだろ。フォローお願い」 『さん』付けは、吉田エグゼクティブ。社外から引っ張ってきたから。「役場はどうしましょう」「今、町長に一番近いのは伊礼だ。お前に任せる」 伊礼バイプレは社内一の切れ者だから、いつも一番やっかいな仕事を任される。「あとは、辻のうるさがただけど」 北村シニアマネと吉田ディレクタ下向いちゃってる。「これは、あたしがやる。北村、お前も同行しろ」「へい」 吉田ディレクタ安堵。ちなみに呼び方は、「吉田! 警察と消防な。上とはもう話しついてるから、お前は署員の皆様と茶飲み話でもして来い。手ぶらで行くなよ」「いくらぐらいの菓子折りがい

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   8-8.レイカは祭りに酔う

     ミワちゃんにタクシーで家まで送ってもらった。セイラに借りたハンカチ血だらけだ。洗っても落ちなさそうだから、買って返さなきゃだよ。疲れた。お風呂入って寝よ。 傷小さいのに、なかなか血が止まんない。アタマやると血止まんないっていうよね。お風呂入るのやめとけばよかったかな。ん? ニーニーの部屋のほうで音がした。やだな。大急ぎで部屋に帰ろ。ふー、全部鍵かけた。やっべ、ドライヤー持って来るの忘れた。急いでドア開けたからチェーンを外すの忘れてた。で、一回閉めようとしたんだけど、そん時すっごい力でドア引っ張られて、ギリギリチェーンが引っかかって止まって、向うはドアを開こうと揺さぶるものだからウチは弾き飛ばされそうになったけど、必死でしがみついて、めっちゃ怖いの我慢して、無我夢中でドア閉めてもっかい全部鍵掛けたんだけど、どうやってそれができたのか分かんなかった。 ドアの隙間からちらっと見えたのは小さな子供だった。不吉な色の目をこちらに向けて、銀色の牙から涎を滴らせてた。あの子供はニーニーだ。ウチと2段ベッドで寝起きしてた頃のままのニーニーだ。ニーニーもしかしてヴァンパイアだったの? あれじゃ学校にも行けない。だからずっと引き籠ってた? ウチ、これからあんなのと二人で生活すんの? 超怖いって。痛! ズキって。血が止まらない。この傷のせいでニーニー出てきた? 血に誘われて?  夜じゅーずっと、ドアの向こうに何かがいる気配がしてた。ムチューで布団かぶってたら、パパに教わった呪文を思い出した。スギコギの唄。寝れない夜、パパが教えてくれたやつ。どこからあさがあけましょおすぎこぎもって ごりごりごり すぎこぎもって ごりごりごり もうすぐあさがあけますよすぎこぎけずって ぎりぎりぎり すぎこぎけずって ぎりぎりぎり そうらあさがあけました繰り返し、繰り返し、ずっと、ずっと、何回も、何回も、朝が来るまで布団の中で歌い続けた。((ここを開けろ、中に入れろ))って声が頭の中でウルサいから、ワーって聞こ

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