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第12章 シャレコウベタケ、いつまでも傍にいるよ

last update Last Updated: 2025-07-24 06:25:12

何分歩いたか分からないが、左手に乾いた畑が並び、右手に瓦屋根の住居が立ち並ぶ通りに出た。

この道沿いに成子のアパートがある。

初めて成子のアパートへ向かった時にこの道を通った記憶を思い出す。

右手側が畑になり左手側が住宅になるように歩いた記憶がある。

ならば今向いている方向に進んでいれば、

成子のアパートとは逆方向に進んでいるのではないか。

ひたすら歩いていれば、

いつか大きな通りに出くわすはずだ。

成子も渋谷にやって来られるほどの場所に住んでいる。ここは一都三県内に違いない。

由樹の予想は当たった。

ひたすら歩いていると秩父駅に到着した。

駅前のバスロータリーにタクシーが三台停まっていた。

緊急なのでタクシーに乗り込んだ。

所持金など持っていない。

自宅に戻って金を支払えば良い。

今は一刻も早く、

成子の住居から離れることが大事だった。

先頭に停まっていた一台の窓をノックした。

ドアが開かれた。

「すみません、

窓を開けて走ってもらえますか」

乗車する前に運転手のオジサンに外から言っておいた。

自分の体が汚いことを自覚しているため、

運転手に迷惑をかけたくなかった。

運転手は振り返って由樹の状態を見た。

一瞬驚いた表情をしたが、

何か察したらしい。

DV夫から逃げ出した人妻とでも思ったのか、

面倒なことに巻き込まれたくないためか何も聞いて来なかった。

自宅の最寄り駅を行く先にした。

「結構かかりますが」

「大丈夫です」

戻ってから隆広に支払ってもらうように言おうと決めた。

走行中、

運転手は無口だった。

由樹は窓の外から吹いて来る風に当たりながら、

後部座席で眠りに就いた。

昨日までまともに眠れなかった。

成子の部屋に来てから、

最長でも四時間しか眠らせてくれなかった。

成子と男三人が交代で見回りをして、

四人の女のうち三人は必ず眠らせてくれなかった。

死ぬ前の清江は毎日起きていたようだった。

明美もほぼ寝ていなかったようだった。

由樹とアンジェラは一日おきに寝ていた。

由樹は成子のベッドで眠ることも多かった。

「着きましたよ」

運転手のオジサンの声で目を覚ました。

外は相変わらず真っ暗だが、

外灯や自動販売機の明かりがアスファルトを照らしていた。

運賃は二万円かからないくらいだった。

「自宅からお金を持って来るので少々待ってもらって良いですか」

今までよく耐え
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