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第6話

مؤلف: カノン
パソコンの画面に表示されたのは、涼の幼なじみの相馬健(そうま たける)とのLINEだった。

相馬家は雲城市で顔が利く医薬業界の名家。

【涼、お前もやるなあ。送ってきた綿棒のサンプル、星野家と照合したら本当に葵さんが星野家の二十五年前に失踪した娘だったよ。

星野グループの本当の令嬢か。お前のこの一手、さすがだよ。

優衣さんのために、葵さんが本当の家族と再会する機会を手放したなんて、俺も思わず感心したよ。ほんとに大した色男だな】

涼はすぐ返信した。

【このことは絶対、第三者に知られるな。葵は俺の妻で十分だし、優衣には星野家のお嬢様って肩書きが必要だ。

それに、優衣が葵のネックレスをつけていなければ、星野家に気付かれることもなかった。葵はそのままずっと、本当の家族と出会えなかったはずだ】

葵は心臓が氷の中に閉じ込められたみたいに、ひとつひとつの鼓動がズキズキと痛んだ。

思い出すのは、優衣が戻ってくる前夜のこと。いつも自分を遠ざけていた涼が、その夜だけはなぜか急に優しかった。

強く、激しくキスされて、最後には唇を噛まれた。

そのあと、何度も「ごめん」と言いながら、消毒液をつけた綿棒で口元の血を拭ってくれた。

あのときは、久しぶりの優しさに希望を持ちかけていた自分がいた。

けれど今なら分かる。あれは、葵のDNAサンプルを手に入れるための演技だったのだ。

涼は自分を愛してなんかなかった。だったら、せめてきれいに別れて、自分の人生を取り戻そうと思っていたのに。

今や、心の奥からわき上がる憎しみが、自分でも抑えきれないほど大きくなっていく。

さらにLINEのやりとりは続く。

【それにしても、お前は一度戸籍を抜いて、優衣と婚姻届を出したけど、星野家にバレたらどうするつもりだ?本物の娘が既婚だと知ったら、葵さんと別れさせられるかもよ?】

【優衣と籍を入れたのは、彼女が心臓の手術で家族のサインが必要だったからだ。

優衣とは離婚することになってる。あと一週間で元通りになる予定だ。この間、葵が離婚申請を出さなければ自動的に婚姻は復活する】

【……涼、お前、いったい誰を本当に愛してるんだ?】

【結婚してる相手を愛してるに決まってるだろ】

【?】

その瞬間、パソコンの画面が暗くなった。

涼は知らない。葵がすでに離婚申請を提出していた。

本当の家族に再会できる、そのチャンスを――

どうして彼は、「加賀家の妻」という名ばかりの肩書きさえあれば、葵が本当の家族を探すことを諦めるって、思い込んでいたんだろう?

どうして優衣は、何度も何度も、自分のものを奪っていくの?

今度はとうとう、自分の「本当の家族」まで奪おうとしているなんて。

もう、これ以上は黙って見ているつもりはなかった。

葵はすぐに伝手を頼って、星野家と連絡を取った。

事情を説明すると、先方はすぐに動いてくれて、DNA鑑定のためのサンプルも引き取りに来てくれた。三日以内に結果が出ると約束してくれた。

その頃、優衣のSNSには新しい投稿があがった。

載っていたのはモザイクがかかったDNA鑑定書の写真と、泣き顔や手を合わせるスタンプ。

【二十五年ぶりに家族が見つかったこの感動……

児童養護施設育ちから、ついに本物のお嬢様になれた。まさに人生の逆転だよね】

コメント欄の一番上には、涼のコメントが表示されていた。【おめでとう】

そのたった一言に、葵の心臓は何度も小さく裂かれた。

もしあのLINEを見ていなかったら、一生だまされたまま、家族を見つけるチャンスすら奪われていたかもしれない。

夢にまで見た本当の家族。今はきっと、優衣のことを娘として大切に抱きしめているかもしれない。そのことを考えたら、自然と目頭が熱くなった。

でも、星野家の人が電話口で言ったあの言葉「もし優衣が偽物なら、必ず責任を取らせます」それを思い出して、気持ちを落ち着かせる。

何度も私のものを奪ってきた優衣。

今度は、思い知らせてあげる。

この二日間、涼は一度も家に帰ってこなかった。

一方で優衣は、SNSに涼が自分の足に薬を塗ってくれる写真ばかり投稿していた。

【この人さえいれば、何だって乗り越えられる】

そんなコメントも添えられていたが、葵の心は何も動かなかった。

午後、葵は区役所で離婚届の受理証明を受け取った。胸の奥に重くのしかかっていたものが、ようやく消えた気がした。

家の前まで戻ると、まだ暗証番号も押していないのにドアが開いた。

そこにいたのは涼。

彼は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目を逸らし、包帯が巻かれた葵の腕と、手に持った書類に視線を落とす。

彼の瞳が一瞬で鋭くなった。「その手に持ってるのは、何だ?」
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